報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「最終電車」 7号車・8号車

2017-07-23 19:33:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7号車]

 電車はおよそ時速40キロくらいで走行している。
 血のように赤い空、そして荒野という表現がピッタリの原っぱの中にポツンと建つ小さな駅。
 電車はそこに差し掛かった。

 愛原:「窓にせよ、ドアにせよ、飛び降りるのは危険です!やめてください!!」
 高橋:「せ、先生……。すいませんでした……」
 敷島:「……ここは愛原さんに任せますよ」

 高橋は私の勢いに気圧されて窓を閉めた。
 敷島さんは肩を竦めた。
 そして、電車はホームを通過した。

 敷島:「何だ、あれ!?」

 ホームには乗客と駅員らしき者達の姿があった。
 だが、その様相は異様なものだった。
 ホームを歩く乗客達は、まるでバイオハザードのゾンビのようだった。
 電車の中だと聞こえないが、恐らく呻き声を上げながら歩いているのだろう。
 ホームに立っている乗客も、ボーッと立っているだけのゾンビに見えた。
 そして、駅員。
 制服は明らかにJR東日本のものではない。
 まるで、かつての旧・公共企業体国鉄の制服……よりももっと昔、詰襟の旧・運輸省直轄の国有鉄道の制服のようだった。
 昔、テレビで見たことがある。
 そしてその制服に身を包んでいるのは、ガイコツだった。

 愛原:「今の……何だ?」
 高橋:「霧生市の電車ですかね?」
 愛原:「んなわけないだろ!」
 敷島:「そ、そうだ。昔、見たことがある。“ゲゲゲの鬼太郎”の幽霊電車!あれだ!」
 山根:「ということは……」
 敷島:「やっぱりこの電車、あの世に行く電車だったんだ……」
 山根:「やだよ!死にたくないよ!勉強なんか嫌だとか、逃げたいとか思ったけど、あの世まで逃げる気は無いよ!」
 高橋:「先生と御一緒なら、地獄までもお供します!」
 愛原:「待て待て待て!確かに今、変な駅を通過したけど、まだあの世に行くと決まったわけじゃないでしょ!もしかしたら、まだこの世に引き返せる……あれ!?」

 私まで何を言ってるのやら。
 とにかく、この電車から飛び降りる選択をしなくて良かったと思う。
 やはり、冷静に対処するのが1番だ。
 と、電車が再びスピードを上げ始めた。
 そして、また漆黒の闇の中へと包まれた。
 山岳トンネルなのか地下トンネルなのかは分からない。

 愛原:「オホン!とにかくです。少なくとも、運転室には運転士がいるのでしょう。さっきの減速と、今の加速を見れば分かります。205系……でしたっけ?この電車、自動運転機能は付いていないんでしょ?」
 敷島:「聞いたこと無いですね。自動ブレーキを搭載した自動列車制御装置は搭載していますが、自動で加速する機能は付いていないはずですよ」
 愛原:「てことは、やっぱり運転室に運転士はいるってことです。私はやっぱりこのまま先頭車に行って、運転室を確認するべきだと思います」
 高橋:「先生の仰る通りだと思います」
 敷島:「分かりました。そうしましょう」
 山根:「僕もついてく……」
 愛原:「うん。そうと決まったら、早く行きましょう」

 私達は8号車へのドアを開けた。

 敷島:「8号車か。ここも誰もいないな……。あ」

 8号車は7号車と同様、無人だった。
 化け物が潜んでいる気配も無い。
 敷島氏が何かに反応した。
 それは、グリーンの7人掛けシートの上に置かれているメモ。

 敷島:「そうか。俺は8号車に乗ってたのか。このメモを書いている人を見ましたよ」
 愛原:「へえ……」

 メモを見ると『イ・ウォ・ナ・ズゥム』『ムェ・ガ・ンテ』『パル・プ・ンテェ』と書かれていた。
 何じゃこりゃ?

 敷島:「何かの暗号かな?」
 高橋:「魔法の呪文みたいっスね」
 山根:「僕にも見せてー」
 敷島:「あれ?この字……」
 愛原:「?」
 敷島:「愛原さん、さっきの酔っ払いのメモ、見せてくれませんか?」
 愛原:「はい」

 私は酔っ払いが落としたメモ帳を渡した。

 敷島:「やっぱり!ほら、筆跡がよく似ていますよ」
 愛原:「本当だ。じゃあ、敷島さんが見たのはあの酔っ払いですか?」
 敷島:「いや、もっと若い人でしたよ。そこの高橋君くらいの……」
 高橋:「あ?」
 敷島:「高橋君よりはもっと大人しい感じだったけど……」
 高橋:「ナメてんのか、コラ?」
 愛原:「やめろよ。どんな人だったんですか?」
 敷島:「うーん……あんまり特徴の無いコだったなぁ……。イケメンでもブサメンでもなく、でも、どことなくオタクっぽさはあって……?」
 愛原:「今は高橋みたいなヤツでも、平気でコミケに同人誌を買いに行く時代ですからね」
 敷島:「あ、そうそう。何か、杖みたいなものを持ってました」
 愛原:「杖?松葉杖か何か?」
 敷島:「いや……。何だろう?あー、“ハリー・ポッター”が持つようなヤツ!」
 愛原:「魔法の杖!?」
 高橋:「やっぱりこれは魔法の呪文ですか。ほお……」

 高橋がやけに興味を持つのは、仕事の無い時はゲームをよくやっているからだな。

 敷島:「『パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!嗚呼、神の復讐よ。嗚呼、何ということだ』と言ってから、これを言うのかな?」
 愛原:「何だかよく分かりませんねぇ……」

 とにかく、8号車にはメモ以外何も無かったようだ。

 敷島:「じゃあ、次は9号車ですな。このまま何も無く、10号車まで行ければいいんですが……」
 愛原:「そうですねぇ……」

 だが、世の中そんなに甘くは無かった。

 大男:「わあーっ!!」

 9号車から血相を変えた男が飛び込んできた。
 身長は180cmを超える大男だ。
 ガタイも良く、最近流行りのバケットシートに座ると、明らかにその窪みからはみ出るであろう体型である。
 肥満体というわけではなく、むしろ筋肉質のプロレスラーかと思うような男だった。
 その男が血相を変えてこっちの車両に飛び込んできたものだから、私達は立ち止まるしか無かった。
 男は急いで9号車側のドアを閉めると、それを押さえ込んだ。

 大男:「お、おい!何やってんだ!あんた達!早いとこ、押さえるの手伝ってくれ!このままじゃ、ヤツが来ちまう!!」
 愛原:「や、ヤツ!?」

 すると、ドアが向こうから大きくドンッ!と叩かれた。
 確かに、ドアの向こうに何かいる。
 だが、私達が目を凝らしてもよく見えないのだ。
 プロレスラーみたいな体格の男がドアを押さえても、向こうからドンッと叩かれる度、男の体がドアから弾き飛ばされそうになる。

 高橋:「た、タイラントでもいるんですか、先生!?」
 愛原:「か、かもしれんな……」

 そういえば、日本人版リサ・トレヴァーは元気にしているのだろうか?
 恐らく今は政府のモルモットにでもされているのだろうが……って、そんなこと考えてる場合じゃない!
 タイラントが相手なら、私達は全滅だぞ!
 どこかに、コルトパイソンかロケランは無いのか!?

 敷島:「ちょっと、あなた!一体、この向こうには何がいるんですか!?」
 大男:「鬼だよ!鬼!」
 敷島:「鬼!?」
 高橋:「先生、やっぱりタイラントかネメシスですかね?」
 愛原:「くそっ!やっぱあの駅で飛び降りた方が良かったか!?」

 ついにドアが破られた。

 大男:「うおっ!!」

 男はうつ伏せに倒れ、その上に破られたドアが覆い被さって来た。
 鬼は透明な姿をしていた。
 照明に反射して一瞬、牛頭(ごず)のような姿が見えた。
 牛頭と馬頭、どちらも地獄の獄卒として有名な者達だ。

 大男:「た、助けて……!」

 透明な牛頭はドアの上から男を踏み潰そうとしているかのようだった。
 しかし、プロレスラーみたいな男を足蹴にできるような相手だ。
 私達に何ができるというのだ!?
 せめて、ハンドガンやショットガンでもあれば……。
 そうだ!

 ①高橋のナイフを使おう!
 ➁幸太郎君の参考書を使おう!
 ③敷島さんのメモを使おう!
 ④後ろの車両に逃げるしかない!

(※この4つのうち、3つがバッドエンド直行の上級コースです)
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“私立探偵 愛原学” 「最終電車」 埼京線編 7号車

2017-07-23 16:09:57 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7号車]

 1つ分かったことがある。
 いや、それはもう既に予想していたことなのだが……。
 乗客は私達の他にもいた。
 それも、前の車両の方にだ。
 常識人達なら、少なくともとっくのとうにこの電車が異常だということに気づいているだろう。
 そして、何らのアクションを起こしたはずだ。
 たまたま最後尾に乗り込んだ私達が、車掌を訪ねて乗務員室に向かったのと同じように。
 敷島氏も似たようなことをしようしていたし、5号車のゾンビに食い殺された酔っ払いも、何かをしようとしていたのだろう。
 で、あるならばだ。
 先頭車にも乗客はいたはずで、彼らが運転室のドアを叩いたりはしなかったのだろうかということ。
 5号車の乗客達がどうして死んで、そしてゾンビ化したのかは分からない。
 しかし考えようによっては、1号車などの前方車両の乗客達はゾンビ化したとも考えられやしまいか?
 乗客だけではない。
 運転士もだ。
 それならブレーキ操作などできず、乗客達もアクションはできまい。
 だが、その考えはすぐに否定した。
 もしそうなら、逆に非常ブレーキが掛かっていないとおかしい。
 異常が起きたのが電車内だけで、外側は何とも無いというのなら、とっくにATCが作動して非常停止しているはずだ。
 埼京線はATSではなく、ATCである……と、敷島氏が言っていた。
 いずれにせよ、何事も無く走り続けているのだ。
 車掌は最初からいなかった。
 いないのに、どうしてドアが自動で開閉していたのか。
 車掌はドア開閉係でもあるからだ。

 そして、同じく常識人でありながら、全く話が嚙み合わない敷島氏。
 幸太郎君が言っていた別世界の人。
 いずれにせよ、この先に真相が隠されているような気がしてならない。

 高橋:「7号車は何も無いですよ。……うん、何も無い」

 さっきの酔っ払いの件があったからか、今度は高橋が私の前を歩いていた。

 敷島:「緩衝地帯か……」

 敷島氏はドカッと緑色の7人席に座った。

 敷島:「ちょっと休憩しよう」
 高橋:「おい、休んでる場合じゃ……」
 愛原:「まあまあ。幸太郎君も疲れてるみたいだし……」
 山根:「この先に……この先に行けば、家に帰れるんですよね?」
 愛原:「ああ、そうだよ」

 その確信は無い。
 だが、まだ小学生の彼にそんな不安を突き付けるのは酷だと思った。
 私は予め高橋に目配せをして、余計なことを言わないように釘を刺した。
 高橋はニヤッと笑って、それ以上何も言わなかった。

 愛原:「ちょっと待った。何か、少し明るくなってきたような……?」

 窓の外はずっと漆黒の闇であった。
 長いトンネル、照明も全く点いていないトンネルの中を走っているかのようだったが、それが何だか少し明るくなってきたような気がした。
 私達は窓の外に目を凝らした。

 高橋:「……何スか、ここ?」
 愛原:「どこだ……ここ……?」

 一瞬だけ見れば、川越線の沿線のような気がした。
 だだっ広い原っぱの中を電車が走っていた。
 空は赤いが草は枯れ、木も枯れている。

 敷島:「まるで地獄の入口だな……」

 座席に座っている敷島氏が呟いた。

 敷島:「もしかして……いや、そんなことは……」
 愛原:「何ですか?」
 敷島:「もしかしたらこの電車、本当にあの世に行く電車なのかもしれませんよ?」
 高橋:「なに!?」
 敷島:「そういえば俺、北海道のとある別荘地の地下を進んでいたんですが、意識を失う前に大きな爆発音を聞いた気がするんですよ。もしかして俺、その時に死んだのかなぁ……って」
 愛原:「バカなこと言わないでください。俺達は逆に死んだ記憶なんて無いですよ」
 敷島:「死者の中には、即死などして自分が死んだことに気がつかない者もいるそうです」
 愛原:「いやいやいや!私達はちゃんと仙台駅から新幹線に乗り込んで、その後、埼京線のホームにいたこの電車に乗り込んだんです。事故に遭っただとか、誰かに刺されただとか、そんな記憶はありません。な?高橋君」
 高橋:「全くです。あの世へはオッサン1人だけ行け!」
 愛原:「幸太郎君は?途中で事故に遭ったりとかの記憶は無い?」
 山根:「うん、無い」
 愛原:「ほら。敷島さんの考え過ぎですよ」
 敷島:「だとしたら今、電車はどこを走っているんでしょう?」

 そう言われると……。

 高橋:「先生、あれを!」

 高橋が窓の外を指さした。
 電車はスピードを落として、結構急なカーブを曲がっている。
 その先に駅のホームが見えた。

 愛原:「あの駅で降りれるかな?」

 カーブを曲がっているせいか、電車は時速40キロくらいにまで速度を落としている。
 先頭車の方から、警笛の音が聞こえて来た。

 高橋:「イザとなったら!」

 高橋は電車の窓を開けた。
 そう、窓は開いた。
 転落防止の為に上から下へ、半分ほどしか開かない窓だが。
 しかし、体が大きくない限りは身を乗り出せそうだ。

 敷島:「おい、まさかキミ!?」
 高橋:「先生、きっと俺達、乗る電車を間違えちゃったんですよ。この駅がチャンスかもしれません。もし通過するようだったら、このくらいのスピードなら飛び降りれます」
 愛原:「いやいやいや!それはダメだろ!」

 もしかしたら、ようやっと停車するのかもしれないし。

 敷島:「! そうだ!非常コック!」

 敷島氏は一瞬、ドアの上を見たがすぐに座席の下に目をやった。
 最近の新型車両はドアの上に非常コックが付いていることが多い為、作者のように低身長だと手が届かないことが多々ある。
 しかし205系は、昔ながらに座席の下に付いているタイプである。

 敷島:「もし駅を通過しそうな場合、こいつを引いてやったら電車は緊急停止しますよ。で、ついでにドアも開けられて一石二鳥!」
 愛原:「いや、それもそれで危険な気がします。やっぱり私は、先頭車に行くべきだと思います」
 高橋:「だったら俺だけでも窓から飛び降りて、サツに通報してやりますよ」
 愛原:「だから危ないからやめろって!」
 敷島:「非常コックを引くのが安全なやり方だよ」
 愛原:「敷島さん、あんなワケの分からない駅で降りる方が却って危険なんじゃないですか?無人駅だったらどうするんですか?」

 因みに私のスマホは相変わらず圏外のままで、尚且つ時計も止まったままだ。
 駅が近くなったのに圏外なんて、こんな所でヘタに降りない方がいいんじゃないか?

 敷島:「しかし、これの次の駅が分からないんですよ。ケータイが圏外でも、公衆電話くらいあるでしょう。幸い、私は会社や自宅の電話番号を覚えていますから」
 愛原:「いや、私は降りない方がいいと思います」
 高橋:「先生はこのまま乗っててください。俺が飛び降りて、助けを呼んできますよ」
 山根:「僕も降りれるんだったら降りたい!」
 愛原:「しかし……」

 どうする?
 もう駅が目前に迫って来ている。
 このまま乗り続けるか?それとも飛び降りるか?

 ①窓から飛び降りる。
 ➁非常コックを引いて飛び降りる。
 ③このまま乗り続ける。

(※当然バッドエンドありです。注意してください)
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