報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「最終電車」 序章

2017-07-11 18:53:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日18:47.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅]

 夏場ということもあってか、この時間でも意外と明るい。
 雲に反射してか、夕焼けが黄色く見えるからだろうか。
 稲生は大学時代の友人とオフ会に参加する為、待ち合わせ場所に向かうところだった。
 実家から駅に向かう道も、駅前の様子も、全く変わったことなど無かった。

〔まもなく1番線を、電車が通過致します。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 集合場所は大宮駅である。
 だから、たった一駅の距離であるのだが。
 何気に北与野駅から大宮駅までは2キロ近くある。
 暑い中を歩いて行くのもどうかと思い、たった一駅を電車で向かうことにした次第。
 島式ホームの2番線が大宮方面であり、そこで電車を待っていると、反対側の新宿方面に背を向けることになる。
 北与野駅は各駅停車しか止まらない。
 埼京線は各駅停車だけでなく、快速や通勤快速が運転されている。
 平日の夕方ラッシュから終電まで、快速は全てそれよりも更に停車駅の少ない通勤快速に変わる。
 それが通過するのだろうと思っていた稲生は、接近してきた電車の音がいつもより違うことに気づいてバッと振り向いた。

 稲生:(ウソぉ!?)

 通過したのは205系(https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/0a/JRE_205_0_hae.JPG)だった。
 つい数年前までは、現役で運転されていた旧型車両である。
 今現在運用されている車両は静かなインバータ制御だが、この旧型車両はもっと音の大きいモーターだった為、すぐに気づいたのだった。
 最後に1台だけ残されていたがそれも引退し、今ではJRからはE233系7000番台、乗り入れ先の東京臨海高速鉄道からは70-000形が今現在の運用車両のはずだった。

 稲生:(まさか、まだ残っていたのか……?あ、でも、あの様子じゃ回送だな……。きっと、大宮の車両基地かどこかに留置されていたんだ。それをどこかに回送するってことか……)

 たった数年前まで現役で運用されていた車両だから、ホームで待つ乗客達も訝し気な顔をする者は誰もいない。
 稲生も含め、ここにいる乗客達の殆どがあの205系の世話にもなっただろう。

 稲生:(廃車になったり、インドネシアに売られたりしてるみたいだけど、また乗ってみたいなぁ……)

 もちろん、改造短編成化されたものなら、まだJR東日本管内でも運用されている。
 近い所で言うなら、埼京線と直結している川越線の川越から西のエリアでは、4両編成で運転されており、中間車を先頭車に改造化したものが運用されている。
 オリジナルの先頭車が良いというのなら、武蔵野線の5000番台だろう。
 とにかく、更に旧式の103系や201系と違い、205系自体は他の線区に行けばまだ乗れる機会はある。

〔まもなく2番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 接近放送が流れ、下りホームには最新型のE233系7000番台が入線してきた。
 先ほどの205系と違い、HIDランプのヘッドライト眩しい。

〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕

 夕方のラッシュで電車は混んでいると思うが、ここまで来ればそんなに混んでいない。
 駅の周辺にもマンションが立ち並ぶようになったことで、ここで下車する乗客も何気に多い。
 稲生は最後尾に乗り込むと、涼しいクーラーの風を浴びながら緑色のバケットシートに座った。
 各駅停車しか止まらない小さな駅では、響く発車メロディも数秒だけだ。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 件の205系には無いドアチャイムを鳴らしながら、乗降ドアが閉まった。
 これが私鉄や地下鉄なら、更に車掌の発車合図のブザーが鳴るまでのブランクがあるのだが、それが無いJR東日本の通勤電車はそのまま発車する。
 ブランクがあるのは、ホームドアのある駅だろうか。
 車両のドアが閉まって、更にホームドアが閉まるのを確認してから発車するので、あれは数秒のブランクがある。

〔次は終点、大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、京浜東北線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注意ください。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 ドアの上にはモニタが2つある。
 1つは停車駅の案内や路線図などを表示するもので、もう1つは広告やニュース、天気予報などを流すものである。
 そのうちの1つからチャイムが流れて来て、運行情報が表示された。
 どうやら他の線区で、ダイヤに乱れが発生したらしい。
 埼京線には影響の無さそうな場所なので、そこは一安心。
 尚、この時のチャイムが正に改造205系のドアチャイムにも使われている。

 稲生:「ん……?」

 電車が大宮駅に近づく度に、稲生は何か違和感を覚えた。
 何というか、体がむず痒い感じだ。
 この感じ、前にも感じたことがあるような気がした。
 例えば貧血。
 貧血の症状が起きる直前、稲生は体のむず痒さを感じたことがある。

 稲生:(何だこれ……?まさか、今の僕に貧血なんて……)

 あと、もう1つある。
 それは何らかの強い妖気に晒された時。
 霊気は冷気、妖気は陽気。
 これは何も妖気が熱いのではなく、霊気と違って冷たい空気と感じるわけではないという意味。
 威吹が妖気を解放している時に、こんな感じになったことがある。
 この近くに強い妖怪でもいるのだろうか?
 鬼族の蓬莱山鬼之助は大宮区在住の栗原江蓮の所によく出入りしていたが、それでも栗原に気を使ってか、威吹よりも更に若い人間の男らしい服装をしたり、妖力をだいぶ抑え込んでいた。
 それに今は栗原を連れて、叫喚地獄の実家に帰っているはずである。

 しばらくすると、それまで高架線を走っていた電車が降下し、地上に下りたかと思うと、そのまま地下へと潜り込んだ。
 埼京線と川越線のホームは地下にある。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、大宮、大宮です。地下ホーム19番線到着、お出口は左側です。ホーム進入の際、ポイント通過の為、電車が大きく揺れることがあります。お立ちのお客様は、お近くの吊り革、手すりにお掴まりください。今日もJR埼京線をご利用くださいまして、ありがとうございました」〕

 稲生は立ち上がった。
 立ちくらみは無かった為、恐らく貧血ではなく、やはり強い妖気に晒されたことによるものだろう。
 『精気を奪われる』と、称されることがある。
 この精気、魔道師にとってはMPと直結しているので、ほぼイコールと言って良いかもしれない。

 稲生:「ん?」

 その時、稲生のスマホがブーブーと震えた。
 見ると、魔道師に対する緊急警報のようなものが受信されていた。

『最終電車に注意!』

 稲生:(……終電に乗り遅れるなってか。分かってるよ、そんなもん)

 稲生は電車を降りるのに頭がいっぱいで、画面の内容をよく読んでいなかった。
コメント (21)
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“大魔道師の弟子” 「一夜明けて……」

2017-07-11 14:32:36 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日08:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生:「おはよう……」

 稲生は眠い目を擦りながら降りて来た。

 佳子:「おはよう。朝ご飯できてるわよ」
 稲生:「うん……」
 宗一郎:「眠いか、勇太?」
 稲生:「あんまりよく眠れなかった……」
 佳子:「無理も無いわ。昨夜は大騒ぎだったもの」
 宗一郎:「そうだな。会社に行く前に、ちょっと家の周りを見て来る。お前達も家の中に異変が無いかどうか確認しておいてくれ」
 佳子:「分かったわ。ねぇ、覚えてる?まだ威吹君がいた頃、外の騒ぎが収まっても、まだ家の中にオバケが潜んでたんだから」
 宗一郎:「そうだな。幸い今は、世界的に高名な占い師の先生が泊まっておられる。昨晩の妖怪騒ぎも、先生が魔法を駆使して対処して下さったわけだ。やっぱりこういうのは、すぐに対応できるものでないとな」
 佳子:「そうね」
 稲生:「…………」

 暗に宗一郎は、日蓮仏法のダメさ加減を指摘した。
 すぐに功徳の現証が現れるものでないものこそ偽仏法であると。
 地道にコツコツが全否定されたバブル崩壊を経験しているだけに、功徳のコツコツ積み重ねを一切信用していなかったのである。
 あと、稲生の顕正会活動の方法のマズさもあった。
 街頭折伏と称し、妖術が得意な威吹を使って通行人を騙し、会館に連れて来て入信勤行させたくらいである。
 さすがの威吹もマズいと思ったのか、それを稲生に指摘したが、悩乱中の稲生には逆ギレするしか無かった。
 ついにはその後受誡することになる正証寺の法華講員を、それと知らずに催眠術を掛けさせて騙し、顕正会に強制入信させた(ブログ内では班長の藤谷のみが抗議に訪れた描写になっているが、ネタ帳には正証寺青年部員156名が大挙して顕正会本部を訪れたことになっている。もちろんそこで何が起きたかは【お察しください】)。

 稲生:「妖術って怖いから……」
 宗一郎:「ん?」

 誓願を達成または大きく突破する為に、妖狐の妖術を悪用させるという発想をした稲生の方が怖い。

[同日09:00.天候:晴 稲生家]

 それから1時間ほどしてマリアか起きて来た。

 マリア:「オハヨウ……デス」
 佳子:「おはよう」
 マリア:「ゴメンナサイ。寝坊シマシタ」
 佳子:「いいのよ。昨夜は大変だったもの……」
 稲生:「イリーナ先生は?」
 マリア:「師匠は『あと5分』を1時間以上繰り返していたので、放っておいた」
 稲生:「先生が1番大変でしたからね」

 マリアがダイニングテーブルの椅子に座る。
 白いブラウスの長袖を捲って、そこから白い腕が伸びている。
 首に緩く巻いているリボンが緑色だった。
 ダンテ一門では、契約悪魔のイメージカラーを服のどこかで使用するのが慣習的になっている。
 昔は色合いにも拘らなくてはならなかったようだが、今は緑だったらそれっぽい色でも良いことになっている(この場合、モス・グリーンでもダーク・グリーンでもOKということ)。
 契約悪魔が自発的に動いたからMPはサービスされるということはなく、しっかり後で請求してくるのが悪魔というものだ。
 マリアもベルフェゴールが怠惰の悪魔の割に、それなりの働きをしたということで、しっかりMPが吸い取られてしまった。
 ただの人間に無いのがこのMP(マジック・ポイントまたはマジック・パワー。つまり、数値化された魔力のこと)というもので、悪魔がそれが無い人間と契約するととんでもないものを請求してくることが多々あるが、魔道師の場合はこのMPで良い。
 因みにまだ稲生と正式な契約をしていないアスモデウスも戦ったわけだが、彼女はどうやって請求するのか?
 何気に、イリーナとマリアに上乗せして請求している。
 上級悪魔ほど契約をきっちり遂行するが、請求もきっちり行うのである。

 稲生:「後で先生に御飯持って行ってあげないと……」
 マリア:「いや、朝食は抜きでいいだろ」
 佳子:「はい、マリアさん。トースト」
 マリア:「アリガトウゴザイマス」
 稲生:「マリアさん、別に『自動通訳魔法』そのまま使用で良いのでは?」
 マリア:「私の魔法だと、何か失礼な言い回しになるんだろう?」
 稲生:「いや、そういうわけじゃないと思いますけど……」
 佳子:「イタダキマス」
 稲生:(ま、いいか……)

 因みにエレーナは稲生達に対し、『自動通訳魔法』は使用していない。
 本当に素で日本語や英語、ロシア語を喋っているのである。
 ポーリンに拾ってもらうまでストリートチルドレンだったという過去の割には、物凄いバイリンガルである為、エレーナの過去については疑問視する者が出始めている。

 マリア:「今日はどうする?」
 稲生:「マリアさんは何か予定あるんですか?」
 マリア:「いや、無い。私も師匠にくっついて来ただけだ」
 稲生:「まさか、昨夜の事を見越して来たんですかね?」
 マリア:「恐らくは……。ああ、分かった」
 稲生:「何です?」
 マリア:「昨夜のことを見越して来たというのは事実だろう。そして、どうしてそうなったかの調査を行うと思う」
 稲生:「あ、なるほど。……あ、じゃあ僕、オフ会に出てる場合じゃなかったですかね?」
 マリア:「それはいいんじゃないか。ユウタだって、たまたま今回帰らないと参加できないパーティーなんだろう?」
 稲生:「ええ、まあ……」

 ドタキャンならぬ、ドタ参加の希望だったが、今朝また友人のFacebookを見たら、稲生の参加を大歓迎する書き込みがされていた。

 マリア:「それならいいと思う。調査と言ったって、結局師匠1人でやっちゃうような内容だろうし」
 稲生:「そうですか。でも結局、オフ会は夜に行いますから、まだだいぶ時間はあるんですよ。今日は平日だから、みんな仕事帰りとかでないと参加できないんですよ」
 マリア:「それまでに師匠が起きて来るかどうかってところだな」
 稲生:「マリアさんが代わりに調査するとか?」
 マリア:「してもいいけど、恐らく今、核心に近い所にいるのは師匠の方だぞ?私は勝手に動き回らない方がいい」
 稲生:「そういうものですか」
 マリア:「“魔の者”が関わっているとなれば尚更さ。私や勇太が狙われる恐れが大だから、尚更ね」
 稲生:「じゃ、今日は1日、家に引きこもりですね」
 マリア:「師匠が起きてくれれば、指示を仰げるんだけどね」
 稲生:「マリアさんと歩きたかったなぁ……」
 マリア:「……まあ、しょうがない。師匠が何日間この町に滞在するつもりか知らないけど、今日や明日急に帰るということは無いだろう」
 稲生:「そうなんですか?」
 マリア:「だったらとっくに起きてくるさ」
 稲生:「あ、なるほど」

 稲生はポンと手を叩いた。
コメント (2)
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