[7月3日18:47.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅]
夏場ということもあってか、この時間でも意外と明るい。
雲に反射してか、夕焼けが黄色く見えるからだろうか。
稲生は大学時代の友人とオフ会に参加する為、待ち合わせ場所に向かうところだった。
実家から駅に向かう道も、駅前の様子も、全く変わったことなど無かった。
〔まもなく1番線を、電車が通過致します。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕
集合場所は大宮駅である。
だから、たった一駅の距離であるのだが。
何気に北与野駅から大宮駅までは2キロ近くある。
暑い中を歩いて行くのもどうかと思い、たった一駅を電車で向かうことにした次第。
島式ホームの2番線が大宮方面であり、そこで電車を待っていると、反対側の新宿方面に背を向けることになる。
北与野駅は各駅停車しか止まらない。
埼京線は各駅停車だけでなく、快速や通勤快速が運転されている。
平日の夕方ラッシュから終電まで、快速は全てそれよりも更に停車駅の少ない通勤快速に変わる。
それが通過するのだろうと思っていた稲生は、接近してきた電車の音がいつもより違うことに気づいてバッと振り向いた。
稲生:(ウソぉ!?)
通過したのは205系(https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/0a/JRE_205_0_hae.JPG)だった。
つい数年前までは、現役で運転されていた旧型車両である。
今現在運用されている車両は静かなインバータ制御だが、この旧型車両はもっと音の大きいモーターだった為、すぐに気づいたのだった。
最後に1台だけ残されていたがそれも引退し、今ではJRからはE233系7000番台、乗り入れ先の東京臨海高速鉄道からは70-000形が今現在の運用車両のはずだった。
稲生:(まさか、まだ残っていたのか……?あ、でも、あの様子じゃ回送だな……。きっと、大宮の車両基地かどこかに留置されていたんだ。それをどこかに回送するってことか……)
たった数年前まで現役で運用されていた車両だから、ホームで待つ乗客達も訝し気な顔をする者は誰もいない。
稲生も含め、ここにいる乗客達の殆どがあの205系の世話にもなっただろう。
稲生:(廃車になったり、インドネシアに売られたりしてるみたいだけど、また乗ってみたいなぁ……)
もちろん、改造短編成化されたものなら、まだJR東日本管内でも運用されている。
近い所で言うなら、埼京線と直結している川越線の川越から西のエリアでは、4両編成で運転されており、中間車を先頭車に改造化したものが運用されている。
オリジナルの先頭車が良いというのなら、武蔵野線の5000番台だろう。
とにかく、更に旧式の103系や201系と違い、205系自体は他の線区に行けばまだ乗れる機会はある。
〔まもなく2番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕
接近放送が流れ、下りホームには最新型のE233系7000番台が入線してきた。
先ほどの205系と違い、HIDランプのヘッドライト眩しい。
〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕
夕方のラッシュで電車は混んでいると思うが、ここまで来ればそんなに混んでいない。
駅の周辺にもマンションが立ち並ぶようになったことで、ここで下車する乗客も何気に多い。
稲生は最後尾に乗り込むと、涼しいクーラーの風を浴びながら緑色のバケットシートに座った。
各駅停車しか止まらない小さな駅では、響く発車メロディも数秒だけだ。
〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕
件の205系には無いドアチャイムを鳴らしながら、乗降ドアが閉まった。
これが私鉄や地下鉄なら、更に車掌の発車合図のブザーが鳴るまでのブランクがあるのだが、それが無いJR東日本の通勤電車はそのまま発車する。
ブランクがあるのは、ホームドアのある駅だろうか。
車両のドアが閉まって、更にホームドアが閉まるのを確認してから発車するので、あれは数秒のブランクがある。
〔次は終点、大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、京浜東北線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注意ください。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
ドアの上にはモニタが2つある。
1つは停車駅の案内や路線図などを表示するもので、もう1つは広告やニュース、天気予報などを流すものである。
そのうちの1つからチャイムが流れて来て、運行情報が表示された。
どうやら他の線区で、ダイヤに乱れが発生したらしい。
埼京線には影響の無さそうな場所なので、そこは一安心。
尚、この時のチャイムが正に改造205系のドアチャイムにも使われている。
稲生:「ん……?」
電車が大宮駅に近づく度に、稲生は何か違和感を覚えた。
何というか、体がむず痒い感じだ。
この感じ、前にも感じたことがあるような気がした。
例えば貧血。
貧血の症状が起きる直前、稲生は体のむず痒さを感じたことがある。
稲生:(何だこれ……?まさか、今の僕に貧血なんて……)
あと、もう1つある。
それは何らかの強い妖気に晒された時。
霊気は冷気、妖気は陽気。
これは何も妖気が熱いのではなく、霊気と違って冷たい空気と感じるわけではないという意味。
威吹が妖気を解放している時に、こんな感じになったことがある。
この近くに強い妖怪でもいるのだろうか?
鬼族の蓬莱山鬼之助は大宮区在住の栗原江蓮の所によく出入りしていたが、それでも栗原に気を使ってか、威吹よりも更に若い人間の男らしい服装をしたり、妖力をだいぶ抑え込んでいた。
それに今は栗原を連れて、叫喚地獄の実家に帰っているはずである。
しばらくすると、それまで高架線を走っていた電車が降下し、地上に下りたかと思うと、そのまま地下へと潜り込んだ。
埼京線と川越線のホームは地下にある。
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、大宮、大宮です。地下ホーム19番線到着、お出口は左側です。ホーム進入の際、ポイント通過の為、電車が大きく揺れることがあります。お立ちのお客様は、お近くの吊り革、手すりにお掴まりください。今日もJR埼京線をご利用くださいまして、ありがとうございました」〕
稲生は立ち上がった。
立ちくらみは無かった為、恐らく貧血ではなく、やはり強い妖気に晒されたことによるものだろう。
『精気を奪われる』と、称されることがある。
この精気、魔道師にとってはMPと直結しているので、ほぼイコールと言って良いかもしれない。
稲生:「ん?」
その時、稲生のスマホがブーブーと震えた。
見ると、魔道師に対する緊急警報のようなものが受信されていた。
『最終電車に注意!』
稲生:(……終電に乗り遅れるなってか。分かってるよ、そんなもん)
稲生は電車を降りるのに頭がいっぱいで、画面の内容をよく読んでいなかった。
夏場ということもあってか、この時間でも意外と明るい。
雲に反射してか、夕焼けが黄色く見えるからだろうか。
稲生は大学時代の友人とオフ会に参加する為、待ち合わせ場所に向かうところだった。
実家から駅に向かう道も、駅前の様子も、全く変わったことなど無かった。
〔まもなく1番線を、電車が通過致します。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕
集合場所は大宮駅である。
だから、たった一駅の距離であるのだが。
何気に北与野駅から大宮駅までは2キロ近くある。
暑い中を歩いて行くのもどうかと思い、たった一駅を電車で向かうことにした次第。
島式ホームの2番線が大宮方面であり、そこで電車を待っていると、反対側の新宿方面に背を向けることになる。
北与野駅は各駅停車しか止まらない。
埼京線は各駅停車だけでなく、快速や通勤快速が運転されている。
平日の夕方ラッシュから終電まで、快速は全てそれよりも更に停車駅の少ない通勤快速に変わる。
それが通過するのだろうと思っていた稲生は、接近してきた電車の音がいつもより違うことに気づいてバッと振り向いた。
稲生:(ウソぉ!?)
通過したのは205系(https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/0a/JRE_205_0_hae.JPG)だった。
つい数年前までは、現役で運転されていた旧型車両である。
今現在運用されている車両は静かなインバータ制御だが、この旧型車両はもっと音の大きいモーターだった為、すぐに気づいたのだった。
最後に1台だけ残されていたがそれも引退し、今ではJRからはE233系7000番台、乗り入れ先の東京臨海高速鉄道からは70-000形が今現在の運用車両のはずだった。
稲生:(まさか、まだ残っていたのか……?あ、でも、あの様子じゃ回送だな……。きっと、大宮の車両基地かどこかに留置されていたんだ。それをどこかに回送するってことか……)
たった数年前まで現役で運用されていた車両だから、ホームで待つ乗客達も訝し気な顔をする者は誰もいない。
稲生も含め、ここにいる乗客達の殆どがあの205系の世話にもなっただろう。
稲生:(廃車になったり、インドネシアに売られたりしてるみたいだけど、また乗ってみたいなぁ……)
もちろん、改造短編成化されたものなら、まだJR東日本管内でも運用されている。
近い所で言うなら、埼京線と直結している川越線の川越から西のエリアでは、4両編成で運転されており、中間車を先頭車に改造化したものが運用されている。
オリジナルの先頭車が良いというのなら、武蔵野線の5000番台だろう。
とにかく、更に旧式の103系や201系と違い、205系自体は他の線区に行けばまだ乗れる機会はある。
〔まもなく2番線に、各駅停車、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕
接近放送が流れ、下りホームには最新型のE233系7000番台が入線してきた。
先ほどの205系と違い、HIDランプのヘッドライト眩しい。
〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕
夕方のラッシュで電車は混んでいると思うが、ここまで来ればそんなに混んでいない。
駅の周辺にもマンションが立ち並ぶようになったことで、ここで下車する乗客も何気に多い。
稲生は最後尾に乗り込むと、涼しいクーラーの風を浴びながら緑色のバケットシートに座った。
各駅停車しか止まらない小さな駅では、響く発車メロディも数秒だけだ。
〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕
件の205系には無いドアチャイムを鳴らしながら、乗降ドアが閉まった。
これが私鉄や地下鉄なら、更に車掌の発車合図のブザーが鳴るまでのブランクがあるのだが、それが無いJR東日本の通勤電車はそのまま発車する。
ブランクがあるのは、ホームドアのある駅だろうか。
車両のドアが閉まって、更にホームドアが閉まるのを確認してから発車するので、あれは数秒のブランクがある。
〔次は終点、大宮、大宮。お出口は、左側です。新幹線、高崎線、宇都宮線、京浜東北線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いている所がありますので、足元にご注意ください。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
ドアの上にはモニタが2つある。
1つは停車駅の案内や路線図などを表示するもので、もう1つは広告やニュース、天気予報などを流すものである。
そのうちの1つからチャイムが流れて来て、運行情報が表示された。
どうやら他の線区で、ダイヤに乱れが発生したらしい。
埼京線には影響の無さそうな場所なので、そこは一安心。
尚、この時のチャイムが正に改造205系のドアチャイムにも使われている。
稲生:「ん……?」
電車が大宮駅に近づく度に、稲生は何か違和感を覚えた。
何というか、体がむず痒い感じだ。
この感じ、前にも感じたことがあるような気がした。
例えば貧血。
貧血の症状が起きる直前、稲生は体のむず痒さを感じたことがある。
稲生:(何だこれ……?まさか、今の僕に貧血なんて……)
あと、もう1つある。
それは何らかの強い妖気に晒された時。
霊気は冷気、妖気は陽気。
これは何も妖気が熱いのではなく、霊気と違って冷たい空気と感じるわけではないという意味。
威吹が妖気を解放している時に、こんな感じになったことがある。
この近くに強い妖怪でもいるのだろうか?
鬼族の蓬莱山鬼之助は大宮区在住の栗原江蓮の所によく出入りしていたが、それでも栗原に気を使ってか、威吹よりも更に若い人間の男らしい服装をしたり、妖力をだいぶ抑え込んでいた。
それに今は栗原を連れて、叫喚地獄の実家に帰っているはずである。
しばらくすると、それまで高架線を走っていた電車が降下し、地上に下りたかと思うと、そのまま地下へと潜り込んだ。
埼京線と川越線のホームは地下にある。
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、大宮、大宮です。地下ホーム19番線到着、お出口は左側です。ホーム進入の際、ポイント通過の為、電車が大きく揺れることがあります。お立ちのお客様は、お近くの吊り革、手すりにお掴まりください。今日もJR埼京線をご利用くださいまして、ありがとうございました」〕
稲生は立ち上がった。
立ちくらみは無かった為、恐らく貧血ではなく、やはり強い妖気に晒されたことによるものだろう。
『精気を奪われる』と、称されることがある。
この精気、魔道師にとってはMPと直結しているので、ほぼイコールと言って良いかもしれない。
稲生:「ん?」
その時、稲生のスマホがブーブーと震えた。
見ると、魔道師に対する緊急警報のようなものが受信されていた。
『最終電車に注意!』
稲生:(……終電に乗り遅れるなってか。分かってるよ、そんなもん)
稲生は電車を降りるのに頭がいっぱいで、画面の内容をよく読んでいなかった。