報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「富士宮での一夜」

2017-07-01 19:09:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月1日16:20.天候:雨 JR富士宮駅前→富士宮富士急ホテル]

 雨が降る中、1台の路線バスが富士宮駅前のバスプールに到着した。

 運転手:「ご乗車ありがとうございました。終点、富士宮駅前です」
 稲生:「大人3人お願いします」

 稲生は手持ちのSuicaを取り出すと、運転手に申し出た。
 富士急静岡バスの一般路線バスは、後ろ乗り前降りの運賃後払い方式である。
 運転手が機器を操作する。

 運転手:「はい、どうぞ」

 ピピッ!

〔チケットが付きました〕

 運転手:「ありがとうございました」
 稲生:「どうもです」

 バスを降りた魔道師3人。

 稲生:「バスに乗る時から急に曇って来ましたが、まさかこんなに降るとは……」
 イリーナ:「山の天気は変わりやすいからねぇ……」

 尚、新富士駅発着の大石寺登山バスのみ、前乗り後ろ降りの運賃前払い方式となる。
 理由は不明だが、恐らく高速バス用の車両も共通して運用に入る為ではないかと思われる。
 バスプール内はまだ屋根があるので、バス待ちや乗り降りの際には傘の必要は無いのだが、そこから先となると……。

 イリーナ:「よいしょっと」

 イリーナとマリアは魔道師のローブのフードを被った。
 これには防寒・防熱の他、防水の効果もある。
 魔界においては戦士の鎧代わりの防刃・防弾効果もあるほどだ。

 マリア:「ユウタ、ホテルどこ?」
 稲生:「あそこです」
 マリア:「近っ!」

 バスプールの目の前だった。
 なのでローブが濡れるのはほんの僅か……というわけでもなく、通りを走るバスや車が規則正しくワイパーを動かす状態とあっては意外と濡れるものだった。

 稲生:「これ、ゲリラ豪雨かなぁ……?」
 イリーナ:「日本の雨期の雨だね」
 マリア:「雷が鳴っていないから、これでフツーの雨だろう」
 稲生:「傘持って来れば良かったなぁ……」
 イリーナ:「ユウタ君、魔道師にとって傘は邪魔なだけさ。このローブで十分」
 稲生:「ま、そうなんですけどね」

 エントランスからホテルの中に入る。

 フロントマン:「いらっしゃいませ」
 稲生:「僕が行ってきます」
 イリーナ:「あいよ、よろしく」

 そう言ってイリーナは、自分のクレカを渡した。
 稲生がフロントに行っている間、残る2人の魔女はロビーの椅子に座る。

 イリーナ:「ふう……」
 マリア:「世界……というか、時空を駆け抜けるクロック・ワーカーがこの程度でバテるとは……」
 イリーナ:「最近はやはり一眠りしただけじゃ、MPが全回復しなくなったねぇ……」
 マリア:「というより、『MP使用制限』の魔法を自分に掛けているでしょう?制限がキツいんじゃないですか?もう少し緩和した方が……」
 イリーナ:「いいのいいの。日本は交通の便がいいし、ルゥ・ラは本来、交通の便の悪い所を行き来する為の魔法だと私は思っている。今は交通費くらい簡単に出せるくらい稼げているんだし、むしろ非常時の為にMPは温存しておいた方がいいよ」

 もちろんMPとは『マジック・パワー』とか『マジック・ポイント』の略であって、憲兵(Military Police)ではない。

 マリア:「なるほど」

 経験の違いから、やはりベテランはMP0の恐怖を知っている為か、MPを温存したがるし、経験の浅い若い魔法使いはMPをどんどん使いたがる。
 最近ではどこまで使ったら制限が掛かるかという話から、稲生辺りは、
「まるでスマホやタブレットのパケット制限みたい」
 という話をしている。

 稲生:「お待たせしました。それじゃ、部屋に行きましょう」
 イリーナ:「あいよ」
 マリア:「OK」

 エレベーターに乗って、客室フロアに向かう。

 マリア:「このホテルは温泉は無いのか?」
 稲生:「いや、無いです。普通のビジネスホテルです。あ、先生方にはちゃんとデラックスツインを取っておきましたから」
 イリーナ:「おやおや」
 稲生:「温泉付きのホテル、取れなかったんです。何せ今日、土曜日ですし」
 イリーナ:「あー、そういうことか」

 7階でエレベーターを降りた。

 イリーナ:「大石寺の信徒さんもいるとか?」
 稲生:「いや、それは無いでしょう。(夏期講習会……)」

 稲生はふと夏期講習会が頭に浮かんだ。

 稲生:(いやいや……)
 マリア:「夕食はどうする?このホテルで取れるのか?」
 稲生:「あ、いや。ここのレストランは朝食専用みたいですね。どこかに食べに行きませんと」
 イリーナ:「じゃあ、少し休んでから行こう。18時くらいになったら呼んでね」
 稲生:「分かりました」
 マリア:(絶対後で起きないパターン……)

 マリアは小さく溜め息をついた。
 稲生が部屋に入ると、富士山がよく見えた。
 荷物を置いて、まずはお茶でもとポットに水を入れる。

 稲生:(僕の杖がねぇ……)

 ポットの電源を入れてから、稲生は今自分が使っている杖を出した。
 警察官や警備員が使う警棒のような、3段階伸縮式の杖……というより棒。
 イリーナやマリアが木製なのに対し、こちらは何の飾りっ気も無い金属製。
 魔女っ娘のそれよりは長いのだろうが、一人前が使うそれよりはだいぶ短い。
 因みに服装に関してだが、一人前になった暁には再びそれ用のローブを作りに行く必要がある。
 恐らく、北海道札幌市の山田テーラーだろう。
 エレーナが住み込みで働くビジネスホテルと同様、オーナーはれっきとした人間である。
 それがどういった経緯で、魔道師達に便宜を図る側になったのかは定かでない。

 稲生:「あ、そうだ」

 このホテルはWi-Fiが利用できる。
 稲生はタブレットを出すと、夕食の取れる場所を検索することにした。

 稲生:「富士宮やきそばは……夕食ではちょっとな……。この前は築地で魚食べたから、今度は肉がいいだろう。えーと……」

 飲食店を検索していくうちに、外の雨は弱まりつつあるようだった。

 稲生:「……お、ここいいな。第一候補としてエントリーしておこう」

 稲生はタブレットとは別にスマホも持っている。
 おかげで水晶球を外で使うことはあまり無いのだが、その理由は正にスマホが水晶球の代わりをしてくれるからである。
 そのスマホが、着信や緊急警報とは別のアラームを鳴らした。

 稲生:「何だ何だ?……東京中央学園にて、魔界の穴に注意……って、またか。ま、今回は行かないし」

 稲生はスマホを操作して画面を消した。
 だが、他にも門内からは情報通が情報を発信していたのだったが、稲生はそれに気がつかなかったのである。

『冥鉄無制御列車に注意。関西地域において、最終電車を模した冥鉄電車が勝手に運行されました。関東圏内においても運行される恐れがあります。最終電車に注意してください』
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“大魔道師の弟子” 「いま、再びの富士へ」

2017-07-01 10:00:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月1日13:00.天候:曇 静岡県富士宮市郊外山中]

 エルダー・ツリー:「うぬ?お前は、確かイリーナの所の新弟子ではないか?」
 稲生:「今度は僕がお世話になります」
 エルダー・ツリー:「ワシの独り言を早速聞きつけたか。さすがは地獄耳なBBAだ」
 稲生:「ハハハ……」
 エルダー・ツリー:「それで、そのBBAはどこだ?まさか、お前1人で来たわけではあるまいな?」
 稲生:「もちろん、イリーナ先生に連れて来てもらった次第なんですが……」

 稲生は苦笑して頭をかいた。

 エルダー・ツリー:「うぬ?」

 普段は富士山麓の大木の姿をしているが、出自は太古の時代に魔界から移植された木である。
 幹に老翁の顔が浮かび上がり、それで稲生と話をしているのである。

 マリア:「師匠、もうすぐ着きますから頑張ってください!」
 イリーナ:「ピンポイントで着くはずなんだけどねぇ……」
 稲生:「あの状態でして……」
 エルダー・ツリー:「おおかた、信州のアジトから魔法でここまで一っ飛びで来たのじゃろうが……。しかし、たかだかその距離を飛ぶだけでバテるとは……。お前さんもトシじゃの」
 イリーナ:「うるっさいわね……!1人で飛ぶのと……弟子2人プラスして抱えて飛ぶのとじゃ、キツさが違うんだから!」
 マリア:「だから私も魔力をカンパしましょうかと言ったじゃないですか!要らないの一点張りで……」
 エルダー・ツリー:「年寄りの冷や水というだけでもウザいのに、更にガンコは余計にウザいわい。最近はそれを老害と呼ぶらしいが……」
 イリーナ:「お黙んなさい!」
 エルダー・ツリー:「その体の使用期限も迫っておる。そろそろ次の体を探したらどうじゃ?」
 イリーナ:「いいのが見つかんないのよ」
 エルダー・ツリー:「地球の人口が今、何十億人かくらい知っておるじゃろう?例え可能性は低くても、パイ自体は大きいはずなんじゃがな……」
 イリーナ:「アタシにはアタシのやり方があるんだから……!いいから、早いとこ稲生君用の杖に使う材料を寄越しなさい!」
 エルダー・ツリー:「せっかちなBBAじゃの。あー、稲生君とやら」
 稲生:「は、はい!」
 エルダー・ツリー:「ワシの幹に手を当ててごらん」
 稲生:「は、はい!」

 稲生は言われた通り、エルダー・ツリーの顔の横に右手を当てた。

 エルダー・ツリー:「ふむ。こんなものか……。それなら……」

 木の上の一本の枝がポウッと光る。

 エルダー・ツリー:「この枝を持って行くが良い」
 稲生:「はい!ありがとうございます!」
 エルダー・ツリー:「…………」
 稲生:「…………」
 マリア:「…………」
 イリーナ:「…………」
 稲生:「……………………あのー?」
 エルダー・ツリー:「何をしておる?早いとこ切らんかい」
 稲生:「え?」
 マリア:「え?」
 エルダー・ツリー:「木が自分で自分の枝を切れるわけが無いじゃろう」
 稲生:「ええっ!?だって、高さ10メートル以上ありますよ!?」

 ピンポーン♪『稲生が木に登る努力をしています。少々お待ちください』

 稲生:「ひ〜!マリアさん、落ちる落ちる!」
 マリア:「ユウタっ、そこの枝に足掛けて!」

 ズリッ!(片足、滑らせる)

 稲生:「わー!わー!わー!」
 マリア:「落ち着け!今度は雲梯のように、左手を右に……!」

 ド♪ミ♪ソ♪ド〜♪『稲生がようやく目的の枝に辿り着けました。もう少しお待ちください』

 イリーナ:「いや〜、若いっていいねぇ……」

 どこから持って来たのか、ティーセットを持って来てアイスティーを飲むイリーナ。

 マリア:「ユウタ、もっと下!そこじゃ短すぎ!」
 稲生:「あ、はい!……この辺ですか!?」
 マリア:「それだと長過ぎ!」
 稲生:「うぎゃー!クモが!蜘蛛が!クモハが!」

 雲羽:「カット!カット!何で俺の名前呼ぶんだ!」
 多摩:「くそっ!また蚊に刺された!おい、ムヒ早く持ってこい!」
 AD:「はいはい」

[同日15:00.天候:晴 静岡県富士宮市富士見ヶ丘]

 スティーブン:「はい、こんにちは。……おおっ、イリーナ組の皆さん!」

 富士宮市の郊外と言えば郊外となるのだろうが、郊外過ぎる森の中よりはずっと街中の住宅街。
 その中に工房はあった。

 イリーナ:「ハーイ。早速、『仕事』をお願いね。このコの」
 スティーブン:「新しいお弟子さんです……か?」

 ヤケにボロボロの稲生。

 稲生:「よ……よろしくお願いします」
 スティーブン:「……エルダー・ツリーから、かなりの試練を下されたみたいだね」
 稲生:「そ、そうなんです……。ちょっと……枝打ちに関しては、何の勉強もしていなかったんで……」
 スティーブン:「あー……。ま、その甲斐はあったと思うよ」
 イリーナ:「あの老害大木のオススメだから、すぐにできるでしょ?」
 スティーブン:「今からやると、明日の夕方になりますぜ?」
 イリーナ:「だろうね。もちろんそんなことは想定済みだから、是非とも頼むわ」
 スティーブン:「了解でヤンス」

 何故かぐるぐる眼鏡を掛けるとヤンスキャラに変貌するスティーブン。
 眼鏡が無い時は、さわやかな白人男性といった感じなのだが。
 稲生以外の男嫌いのマリアは少し距離を置いている。
 因みにこの工房には女性もいて、マリアの杖は女性が作った。

 イリーナ:「報酬は後でいつもの銀行に振り込んでおくわ」
 スティーブン:「いつも悪いでヤンスねぇ……」
 稲生:「よろしくお願いします」

 稲生は工房の外へ、スティーブンは工房の奥へ行こうとした時だった。

 稲生:「あっ!」
 スティーブン:「あっ!」

 そして2人、顔を見合わせる。

 稲生:「もしかして、旧校舎で電話してくれた人!?」
 スティーブン:「ゾーイの幻影に捕われつつも、唯一生きて生還できた日本人でヤンスか!?」

 そして2人、ガシッと握手する。

 稲生:「あの時はありがとうございました!」
 スティーブン:「何の何の!ゾーイのヤンデレぶりには、元彼のアッシも手を焼いていたでヤンスからねぇ!」
 稲生:「元彼さんだったんですか!それで、よく知ってたんですね!」
 スティーブン:「そうでヤンス。ゾーイもなかなか強い魔力を持った魔女でやんしたから、そこから脱出できた人の杖を作れるなんて、とても光栄でヤンス!」
 稲生:「いつからここで工房を!?」
 スティーブン:「実はこう見えてまだ日は浅いんでヤンスよ。そもそものルーツは……」
 イリーナ:「あのー、男の友情はこのくらいにしてくんない?アタシも疲れたから、早くホテルで寝たいよ」
 稲生:「あ、そうでした!」

 思わぬ場所での再会に、稲生はエルダー・ツリーからの試練の疲れも消し飛んだという。
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