[7月1日16:20.天候:雨 JR富士宮駅前→富士宮富士急ホテル]
雨が降る中、1台の路線バスが富士宮駅前のバスプールに到着した。
運転手:「ご乗車ありがとうございました。終点、富士宮駅前です」
稲生:「大人3人お願いします」
稲生は手持ちのSuicaを取り出すと、運転手に申し出た。
富士急静岡バスの一般路線バスは、後ろ乗り前降りの運賃後払い方式である。
運転手が機器を操作する。
運転手:「はい、どうぞ」
ピピッ!
〔チケットが付きました〕
運転手:「ありがとうございました」
稲生:「どうもです」
バスを降りた魔道師3人。
稲生:「バスに乗る時から急に曇って来ましたが、まさかこんなに降るとは……」
イリーナ:「山の天気は変わりやすいからねぇ……」
尚、新富士駅発着の大石寺登山バスのみ、前乗り後ろ降りの運賃前払い方式となる。
理由は不明だが、恐らく高速バス用の車両も共通して運用に入る為ではないかと思われる。
バスプール内はまだ屋根があるので、バス待ちや乗り降りの際には傘の必要は無いのだが、そこから先となると……。
イリーナ:「よいしょっと」
イリーナとマリアは魔道師のローブのフードを被った。
これには防寒・防熱の他、防水の効果もある。
魔界においては戦士の鎧代わりの防刃・防弾効果もあるほどだ。
マリア:「ユウタ、ホテルどこ?」
稲生:「あそこです」
マリア:「近っ!」
バスプールの目の前だった。
なのでローブが濡れるのはほんの僅か……というわけでもなく、通りを走るバスや車が規則正しくワイパーを動かす状態とあっては意外と濡れるものだった。
稲生:「これ、ゲリラ豪雨かなぁ……?」
イリーナ:「日本の雨期の雨だね」
マリア:「雷が鳴っていないから、これでフツーの雨だろう」
稲生:「傘持って来れば良かったなぁ……」
イリーナ:「ユウタ君、魔道師にとって傘は邪魔なだけさ。このローブで十分」
稲生:「ま、そうなんですけどね」
エントランスからホテルの中に入る。
フロントマン:「いらっしゃいませ」
稲生:「僕が行ってきます」
イリーナ:「あいよ、よろしく」
そう言ってイリーナは、自分のクレカを渡した。
稲生がフロントに行っている間、残る2人の魔女はロビーの椅子に座る。
イリーナ:「ふう……」
マリア:「世界……というか、時空を駆け抜けるクロック・ワーカーがこの程度でバテるとは……」
イリーナ:「最近はやはり一眠りしただけじゃ、MPが全回復しなくなったねぇ……」
マリア:「というより、『MP使用制限』の魔法を自分に掛けているでしょう?制限がキツいんじゃないですか?もう少し緩和した方が……」
イリーナ:「いいのいいの。日本は交通の便がいいし、ルゥ・ラは本来、交通の便の悪い所を行き来する為の魔法だと私は思っている。今は交通費くらい簡単に出せるくらい稼げているんだし、むしろ非常時の為にMPは温存しておいた方がいいよ」
もちろんMPとは『マジック・パワー』とか『マジック・ポイント』の略であって、憲兵(Military Police)ではない。
マリア:「なるほど」
経験の違いから、やはりベテランはMP0の恐怖を知っている為か、MPを温存したがるし、経験の浅い若い魔法使いはMPをどんどん使いたがる。
最近ではどこまで使ったら制限が掛かるかという話から、稲生辺りは、
「まるでスマホやタブレットのパケット制限みたい」
という話をしている。
稲生:「お待たせしました。それじゃ、部屋に行きましょう」
イリーナ:「あいよ」
マリア:「OK」
エレベーターに乗って、客室フロアに向かう。
マリア:「このホテルは温泉は無いのか?」
稲生:「いや、無いです。普通のビジネスホテルです。あ、先生方にはちゃんとデラックスツインを取っておきましたから」
イリーナ:「おやおや」
稲生:「温泉付きのホテル、取れなかったんです。何せ今日、土曜日ですし」
イリーナ:「あー、そういうことか」
7階でエレベーターを降りた。
イリーナ:「大石寺の信徒さんもいるとか?」
稲生:「いや、それは無いでしょう。(夏期講習会……)」
稲生はふと夏期講習会が頭に浮かんだ。
稲生:(いやいや……)
マリア:「夕食はどうする?このホテルで取れるのか?」
稲生:「あ、いや。ここのレストランは朝食専用みたいですね。どこかに食べに行きませんと」
イリーナ:「じゃあ、少し休んでから行こう。18時くらいになったら呼んでね」
稲生:「分かりました」
マリア:(絶対後で起きないパターン……)
マリアは小さく溜め息をついた。
稲生が部屋に入ると、富士山がよく見えた。
荷物を置いて、まずはお茶でもとポットに水を入れる。
稲生:(僕の杖がねぇ……)
ポットの電源を入れてから、稲生は今自分が使っている杖を出した。
警察官や警備員が使う警棒のような、3段階伸縮式の杖……というより棒。
イリーナやマリアが木製なのに対し、こちらは何の飾りっ気も無い金属製。
魔女っ娘のそれよりは長いのだろうが、一人前が使うそれよりはだいぶ短い。
因みに服装に関してだが、一人前になった暁には再びそれ用のローブを作りに行く必要がある。
恐らく、北海道札幌市の山田テーラーだろう。
エレーナが住み込みで働くビジネスホテルと同様、オーナーはれっきとした人間である。
それがどういった経緯で、魔道師達に便宜を図る側になったのかは定かでない。
稲生:「あ、そうだ」
このホテルはWi-Fiが利用できる。
稲生はタブレットを出すと、夕食の取れる場所を検索することにした。
稲生:「富士宮やきそばは……夕食ではちょっとな……。この前は築地で魚食べたから、今度は肉がいいだろう。えーと……」
飲食店を検索していくうちに、外の雨は弱まりつつあるようだった。
稲生:「……お、ここいいな。第一候補としてエントリーしておこう」
稲生はタブレットとは別にスマホも持っている。
おかげで水晶球を外で使うことはあまり無いのだが、その理由は正にスマホが水晶球の代わりをしてくれるからである。
そのスマホが、着信や緊急警報とは別のアラームを鳴らした。
稲生:「何だ何だ?……東京中央学園にて、魔界の穴に注意……って、またか。ま、今回は行かないし」
稲生はスマホを操作して画面を消した。
だが、他にも門内からは情報通が情報を発信していたのだったが、稲生はそれに気がつかなかったのである。
『冥鉄無制御列車に注意。関西地域において、最終電車を模した冥鉄電車が勝手に運行されました。関東圏内においても運行される恐れがあります。最終電車に注意してください』
雨が降る中、1台の路線バスが富士宮駅前のバスプールに到着した。
運転手:「ご乗車ありがとうございました。終点、富士宮駅前です」
稲生:「大人3人お願いします」
稲生は手持ちのSuicaを取り出すと、運転手に申し出た。
富士急静岡バスの一般路線バスは、後ろ乗り前降りの運賃後払い方式である。
運転手が機器を操作する。
運転手:「はい、どうぞ」
ピピッ!
〔チケットが付きました〕
運転手:「ありがとうございました」
稲生:「どうもです」
バスを降りた魔道師3人。
稲生:「バスに乗る時から急に曇って来ましたが、まさかこんなに降るとは……」
イリーナ:「山の天気は変わりやすいからねぇ……」
尚、新富士駅発着の大石寺登山バスのみ、前乗り後ろ降りの運賃前払い方式となる。
理由は不明だが、恐らく高速バス用の車両も共通して運用に入る為ではないかと思われる。
バスプール内はまだ屋根があるので、バス待ちや乗り降りの際には傘の必要は無いのだが、そこから先となると……。
イリーナ:「よいしょっと」
イリーナとマリアは魔道師のローブのフードを被った。
これには防寒・防熱の他、防水の効果もある。
魔界においては戦士の鎧代わりの防刃・防弾効果もあるほどだ。
マリア:「ユウタ、ホテルどこ?」
稲生:「あそこです」
マリア:「近っ!」
バスプールの目の前だった。
なのでローブが濡れるのはほんの僅か……というわけでもなく、通りを走るバスや車が規則正しくワイパーを動かす状態とあっては意外と濡れるものだった。
稲生:「これ、ゲリラ豪雨かなぁ……?」
イリーナ:「日本の雨期の雨だね」
マリア:「雷が鳴っていないから、これでフツーの雨だろう」
稲生:「傘持って来れば良かったなぁ……」
イリーナ:「ユウタ君、魔道師にとって傘は邪魔なだけさ。このローブで十分」
稲生:「ま、そうなんですけどね」
エントランスからホテルの中に入る。
フロントマン:「いらっしゃいませ」
稲生:「僕が行ってきます」
イリーナ:「あいよ、よろしく」
そう言ってイリーナは、自分のクレカを渡した。
稲生がフロントに行っている間、残る2人の魔女はロビーの椅子に座る。
イリーナ:「ふう……」
マリア:「世界……というか、時空を駆け抜けるクロック・ワーカーがこの程度でバテるとは……」
イリーナ:「最近はやはり一眠りしただけじゃ、MPが全回復しなくなったねぇ……」
マリア:「というより、『MP使用制限』の魔法を自分に掛けているでしょう?制限がキツいんじゃないですか?もう少し緩和した方が……」
イリーナ:「いいのいいの。日本は交通の便がいいし、ルゥ・ラは本来、交通の便の悪い所を行き来する為の魔法だと私は思っている。今は交通費くらい簡単に出せるくらい稼げているんだし、むしろ非常時の為にMPは温存しておいた方がいいよ」
もちろんMPとは『マジック・パワー』とか『マジック・ポイント』の略であって、憲兵(Military Police)ではない。
マリア:「なるほど」
経験の違いから、やはりベテランはMP0の恐怖を知っている為か、MPを温存したがるし、経験の浅い若い魔法使いはMPをどんどん使いたがる。
最近ではどこまで使ったら制限が掛かるかという話から、稲生辺りは、
「まるでスマホやタブレットのパケット制限みたい」
という話をしている。
稲生:「お待たせしました。それじゃ、部屋に行きましょう」
イリーナ:「あいよ」
マリア:「OK」
エレベーターに乗って、客室フロアに向かう。
マリア:「このホテルは温泉は無いのか?」
稲生:「いや、無いです。普通のビジネスホテルです。あ、先生方にはちゃんとデラックスツインを取っておきましたから」
イリーナ:「おやおや」
稲生:「温泉付きのホテル、取れなかったんです。何せ今日、土曜日ですし」
イリーナ:「あー、そういうことか」
7階でエレベーターを降りた。
イリーナ:「大石寺の信徒さんもいるとか?」
稲生:「いや、それは無いでしょう。(夏期講習会……)」
稲生はふと夏期講習会が頭に浮かんだ。
稲生:(いやいや……)
マリア:「夕食はどうする?このホテルで取れるのか?」
稲生:「あ、いや。ここのレストランは朝食専用みたいですね。どこかに食べに行きませんと」
イリーナ:「じゃあ、少し休んでから行こう。18時くらいになったら呼んでね」
稲生:「分かりました」
マリア:(絶対後で起きないパターン……)
マリアは小さく溜め息をついた。
稲生が部屋に入ると、富士山がよく見えた。
荷物を置いて、まずはお茶でもとポットに水を入れる。
稲生:(僕の杖がねぇ……)
ポットの電源を入れてから、稲生は今自分が使っている杖を出した。
警察官や警備員が使う警棒のような、3段階伸縮式の杖……というより棒。
イリーナやマリアが木製なのに対し、こちらは何の飾りっ気も無い金属製。
魔女っ娘のそれよりは長いのだろうが、一人前が使うそれよりはだいぶ短い。
因みに服装に関してだが、一人前になった暁には再びそれ用のローブを作りに行く必要がある。
恐らく、北海道札幌市の山田テーラーだろう。
エレーナが住み込みで働くビジネスホテルと同様、オーナーはれっきとした人間である。
それがどういった経緯で、魔道師達に便宜を図る側になったのかは定かでない。
稲生:「あ、そうだ」
このホテルはWi-Fiが利用できる。
稲生はタブレットを出すと、夕食の取れる場所を検索することにした。
稲生:「富士宮やきそばは……夕食ではちょっとな……。この前は築地で魚食べたから、今度は肉がいいだろう。えーと……」
飲食店を検索していくうちに、外の雨は弱まりつつあるようだった。
稲生:「……お、ここいいな。第一候補としてエントリーしておこう」
稲生はタブレットとは別にスマホも持っている。
おかげで水晶球を外で使うことはあまり無いのだが、その理由は正にスマホが水晶球の代わりをしてくれるからである。
そのスマホが、着信や緊急警報とは別のアラームを鳴らした。
稲生:「何だ何だ?……東京中央学園にて、魔界の穴に注意……って、またか。ま、今回は行かないし」
稲生はスマホを操作して画面を消した。
だが、他にも門内からは情報通が情報を発信していたのだったが、稲生はそれに気がつかなかったのである。
『冥鉄無制御列車に注意。関西地域において、最終電車を模した冥鉄電車が勝手に運行されました。関東圏内においても運行される恐れがあります。最終電車に注意してください』