報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「深夜のバトル」

2017-07-10 20:11:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月2日23:10.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 もうすっかり人通りも車通りも少なくなった与野中央通り。
 そこを1台の黒塗りタクシーが走行していた。
 大宮駅東西にあるタクシー乗り場で客待ちをしているタクシーの実に9割方は黒塗りである。
 『割増』の種別表示をして走るタクシーに乗っているのは、稲生の父親である宗一郎。
 ゴルフコンペと、その他もろもろの付き合いですっかり遅くなったクチであった。

 宗一郎:「あー、そこの信号を左に曲がってくれないか」
 運転手:「はい、左ですね」
 宗一郎:「左に曲がったら、最初に見えて来る駐禁の標識の所で止めてくれ」
 運転手:「分かりました」

 運転手が信号のある交差点を左折した時だった。

 運転手:「おうっ!?」

 何かがタクシーの前を横切り、運転手は慌てて急ブレーキを踏んだ。

 宗一郎:「ぅおっ!?何だ!?」
 運転手:「す、すいません!今、何かが横切り……」

 スーッとまたタクシーの周りを囲むようにして何かがやってきた。

 宗一郎:「な、何だ!?」
 運転手:「ひ、人魂!?」

 それは闇を漂う人魂のようなもの。
 しかし宗一郎には、ゴルフをやってきたからか、まるで白いゴルフボールがフワフワ漂っているように見えた。

 宗一郎:「と、とにかく出してくれ!このままではマズそうだ!」
 運転手:「は、はい!」

 運転手はすぐに車を発進させた。
 が、人魂のようなものはしっかり追い掛けて来る。
 で!

 運転手:「わあっ!?」

 それは車の前に先回りし、ゴルフボールくらいの大きさからバレーボールくらいの大きさに変わった。
 しかもそれが血走った目玉に変わった。
 あれは人魂でもボールでもなく、目玉だったのだ!
 某妖怪のオヤジさんは愛嬌のある目玉だが、こちらは愛嬌のカケラも感じなかった。

 宗一郎:「これは一体……!?」
 運転手:「ど、ドアが開かない!?」
 宗一郎:「待て!今外に出るのは逆に危険だ!車は動くんだろう!?だったら……」

 その時、家の方からオレンジ色の光の矢が飛んで来て目玉オバケに突き刺さった。
 目玉は破裂したが、その血しぶきがタクシーの窓ガラスや車体にビシャッと掛かった。

 宗一郎:「はっ!?」

 宗一郎が外を見ると、家の中からイリーナが出て来た。
 手には魔法の杖を持っている。

 宗一郎:「イリーナ先生!」
 イリーナ:「ったく……。悪魔達が騒がしいと思って来てみたら、こんなことになっていたとは……」
 ベルフェゴール:「ボク達もナメられたものだねぇ……」
 アスモデウス:「ウゼぇんだよ!消えろ、テメーラ!!」
 レヴィアタン:「イリーナさん、あとのザコ妖怪は私達が殺っときますから」
 イリーナ:「あー、悪いね。稲生専務、早くこっちへ!」
 宗一郎:「承知しました!キミ、釣銭は要らんから!キミも早いとこ避難した方がいい!」

 宗一郎は運転手に高額紙幣を渡した。

 運転手:「あ、ありがとうございました」

 宗一郎はイリーナの手引きで家の中に入った。
 両手にはゴルフバッグとボストンバッグを持っていたから、50代の身には辛かっただろう。
 だが、そこは火事場の馬鹿力というヤツかもしれない。

 宗一郎:「イリーナ先生、これは一体……!?」
 イリーナ:「申し訳無いですね。私達、魔道師絡みの事件ですよ。巻き込んでしまって、申し訳無い」
 宗一郎:「そ、そうなんですか」

 因みにレヴィアタンはイリーナと契約している七つの大罪の悪魔で、“嫉妬”を司る悪魔である。

 イリーナ:(“魔の者”め!“対岸”から『砲丸』投げてきやがった!)
 宗一郎:「先生、家の中は安全なのでしょうか?」
 イリーナ:「一応は安全を確保している状態です。ですので、今夜一晩は家の外に絶対出ないでください。窓も絶対に開けないで」
 宗一郎:「わ、分かりました!」
 イリーナ:「それにしても、よく車から降りませんでした。普通は恐怖に駆られて、車から飛び出してしまうところですが……」
 宗一郎:「私が乗っていた助手席後ろのドアは開いたのに、運転席のドアが開かなかったので、あることを思い出したんです」
 イリーナ:「あること?」
 宗一郎:「まだここに妖狐の威吹君ってコが居候していた時に、似たようなお化けに襲われたことがありまして。あの時、威吹君が同じことを言ったんです。車を降りたら罠が待ち受けているから絶対に降りるなと」
 イリーナ:「その通りですわ。よく覚えておいででしたね。正しくその通りなんです」

 もっとも、威吹自身が江戸時代、人喰い妖怪だった頃に同じ手口で人間を罠に嵌めて食い殺していたことがあったらしい。
 元・加害者が語っていたことだった。

 稲生:「父さん、大丈夫!?」
 宗一郎:「おー、勇太か。ああ、大丈夫だ」
 稲生:「先生、これは一体……!?」
 イリーナ:「“魔の者”の揺さぶりさね。向こうもそろそろ痺れを切らして、飛び道具飛ばしてきたって所かしら」
 稲生:「大丈夫なんですか?」
 イリーナ:「大丈夫。『当たらなければどうということはない』って言うでしょ?」
 稲生:「た、確かに……」
 イリーナ:「さぁさ。外のことは悪魔達に任せて、私達はもうそろそろ寝ましょ」
 稲生:「は、はあ……」

 稲生が窓の外を見ると、そこは悪魔達が妖怪達を虐殺する阿鼻叫喚の地獄と化していた。
 もっとも、普通の人間にはワケの分からぬ声や音がこだましているようにしか分からないだろう。
 メディアでは大ボスを張れるほどの契約悪魔達は、配下である下級悪魔達を召喚して“魔の者”に触発された妖怪や悪鬼達を惨殺させていた。
 人間が上級悪魔と契約すれば、搾取されるだけ搾取されて人生のバッドエンドを迎えて終了するが、しかるべき実力を持った魔道師が契約すれば色々な意味で頼もしいパートナーとなってくれるのだという。
 それをイリーナから教わった稲生は大体納得できたが……。

 稲生:(今でも時々、悪魔と契約している魔道師が敵キャラとして登場するゲームとかあるけど、多分それが僕達なんだろうなぁ……)
 イリーナ:「ま、次に日が昇る前にはほぼ全て片付いているだろうから、その時までの辛抱さね」
 稲生:「分かりました」

 稲生はどうしてイリーナ達が富士宮からここまで来たのか分からなかったが、もしかしたら、この騒動を見越していたのだろうと納得した。
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“大魔道師の弟子” 「勇太と愉快な仲間たち」

2017-07-10 12:15:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月2日22:40.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生は自室でノートPCに向かい、ネットをやっていた。
 友人のFacebookに『オフ会のお知らせ』があり、ちょうどそれが明日開催されるそうなので、参加を申し込んでみたという次第だ。
 どういう友人かというと、大学時代のものだ。
 稲生の場合、まだ卒業してから数年しか経っていないが、早くもオフ会が行われる見込みのようだ(因みに同窓会とはまた違う)。

 稲生:(場所も大宮で近いし、これならドタキャンならぬ、“ドタ参加”もOKかもしれない)

 稲生は参加希望の旨のコメントを投稿した。

 稲生:(まだ少し早いけど、今日は長旅で疲れたし、僕もそろそろ寝るか……)

 その前にトイレに行こうと、稲生は部屋の外に出た。

 (効果音。ドアが開く音が二重)

 稲生:「!!!」
 マリア:「!!!」

 (効果音。ドアが閉まる音が二重)

 稲生:(あ……ありのまま……今、起こったことを話すぜ。「僕がドアを開けたら、真っ裸のマリアさんが目の前にいた」な、何を言ってるのか分からねーと思うが……。うん、きっと疲れて幻覚が見えてるんだ。きっとそうだ)

 ①このまま寝る。
 ➁もう1度確認してみる。
 ③電話する。
 ④窓から緊急離脱する。

 (バッドエンド直行選択肢あり)

 尚、今回は物語最中なのでそのまま自動選択されます。

 稲生:「も、もう1度見てみよう」

 稲生はそっと部屋のドアを開けた。
 廊下の照明は消えているが、シャワールームの照明は点いていた。
 その廊下の照明を点ける。

 稲生:「そういうことか」

 稲生は納得した。
 マリアが2階のシャワールームに来ていたのだ。
 元々は洗面台があった所をシャワールームに改築した所である。
 どうしてわざわざそんなことをしたのかというと、説明するだけで長くなる。
 まだ威吹がこの家に同居していた際、威吹と敵対していたり、稲生の類稀な霊力を狙った妖怪達の攻撃が頻発していた時期があった。
 そのような背景があってあのようになった次第なのだが、やはり詳しい説明は長くなるので省略させて頂く。
 とにかく、敵対妖怪対策の一環として施された増改築がこの家には一部行われており、シャワールームもその一環だったのである。
 今でもそのシャワールームは使用可能で、前にもマリアが使用していた。
 このシャワールーム、即席で作ったということもあって、電話ボックスほどの大きさのシャワーブースしかない。
 つまり、脱衣所が無いのである。
 だからシャワー使用直前・直後は、真っ裸の状態で一瞬だけでも廊下にいることになる。
 稲生はそれを見てしまったのだ。

 稲生:「マリアさん、さっきはどうもすいませんでした」

 稲生がブース内にいるマリアに声を掛けると、シャワーの音が止んだ。
 そして中から、マリアの声がした。

 マリア:「あ、いや……。私の方こそ、勝手に使って申し訳ない。一言言うべきだった」
 稲生:「廊下が暗くて、よく見えなかったので安心してください」
 マリア:「ああ、分かった」

 シャワールームの照明が逆光となっていた感はある。
 とはいうものの……。

 稲生:(初めて会った時よりも体付きが良くなって、体の痣も少し消えたみたい)

 マリアが魔道師になったのは18歳。
 それから何年も経って、“魔の者”が拘っていた25歳も過ぎたわけだが、ほとんど体に変化は無いという。
 これは契約した悪魔の大体全てが慣習的に行う便宜の1つで、せっかく契約した魔道師に早死されては割りに合わず、また、なるべく長生きしてもらった方が都合が良い(悪魔的には元が取れる)ということで、ほぼ不老不死の状態にしてしまうというものである。
 人間に対してはこのような便宜は図らない。
 むしろ搾り取れるだけ搾り取って早死させた方が、その後で魔道師になってもらえるからである。
 それでもマリアは少しだけだが、体が成長して人間時代に受けた暴力による傷痕も消えて来たように見えた。

 稲生:「またお前か……」

 部屋に戻ると、部屋の片隅に三角座りしている妖艶な女性がいた。
 かつては黒ギャルの姿をしていたが、今は白ギャルの姿をしている。
 七つの大罪の悪魔の一柱、“色欲の悪魔”アスモデウスの化身に他ならなかった。
 化身なので、色々な姿に変化できるわけだ。
 もし稲生がマスターに認定されたら、契約悪魔の第一候補としてエントリーされている者である。
 仲が良いのか、マリアの契約悪魔である“怠惰の悪魔”ベルフェゴールと一緒に行動していることが多い。
 今回はベルフェゴールの姿は無かった。

 アスモデウス:「襲わないの?今ならあのコ、杖も持っていないし、真っ裸だから簡単にヤれるよ?」

 アスモデウスはからかうように笑った。
 キャミソールへそ出しにホットパンツの姿は、正に完璧な痴女である。

 稲生:「冗談言うな。わざわざ嫌われるようなことはしないさ」
 アスモデウス:「童貞さんはカタいねぇ……」
 稲生:「悪かったな!契約もしていない悪魔の囁きには乗らんよ」
 アスモデウス:「おっ、契約していたら聞くんだ?」
 稲生:「だから、色々と便宜を図ってくれるんだろ?分かってるよ。お前達の『信心』は」
 アスモデウス:「いいねぇ。色々と勉強してるんだねぇ。よーし。じゃ、しょうがないからそのホットになった下半身は、お姉さんが何とかしてあげようっ!」
 稲生:「いや、いいよ!絶対気がついたら、いつの間にか勝手に契約書にハンコが押されてるってオチだから!」
 アスモデウス:「ちっ!」
 稲生:「やはりか!……僕はもう寝る!」
 アスモデウス:「でもその下半身じゃ寝れないでしょ?」
 稲生:「自分で何とかするからいいよ」
 アスモデウス:「それならぁ……」

 アスモデウスはスーッと消えて、またスーッと現れた。

 アスモデウス:「これでも使って

 アスモデウスの手には使用済みのブラ・ショーツが握られていた。
 淡いピンク色の控え目なデザインである。

 稲生:「マリアさんのじゃないか!ダメだよ!早く戻してこい!」
 アスモデウス:「本当にカタいねぇ……。ま、私と契約したら、あのコと好きなだけヤれるよう『便宜』を図ってあげるねぇ……」
 稲生:「分かったから、早く!」
 アスモデウス:「はいはい」

 アスモデウスはマリアの下着を手に、シャワールームに戻った。

 マリア:「無いと思ったらオマエか!」
 ベルフェゴール:「全く。アスモのお茶目さん♪」
 アスモデウス:「いいじゃない。好きな人だったら、これくらい……」
 マリア:「アホか!」
 ベルフェゴール:「そういう問題じゃないよねぇ……」

 因みにベルフェゴールはタキシード姿のジェントルマンになっているが、マリアは気にしていなかった。
 どうせ悪魔だからというのがあるのだろう。

 マリア:「この悪魔め!」
 ベルフェゴール:「まあまあ。ボク達悪魔も、契約先を探すのに色々と苦労しているんだよ。察して察して」
 マリア:「うるさいな」
 アスモデウス:「ベルフェの契約手口も面白いけど、アタシはあんまそこまでしたくないなぁ……」
 ベルフェゴール:「まあ、やり方は悪魔それぞれだから。やっぱり『消耗品』の人間と契約するより、魔道師の方が利益率は高いよね」
 アスモデウス:「言えてる。そもそもこれって……」
 ベルフェゴール:「うん、そうだね。だからこの場合は……」
 マリア:(傍から見たら株投資家の話だな。こいつら……)

 マリアはノースリーブのワンピース型の夜着を羽織り、脱いだ服とタオルを持って1階に下りた。

 マリア:「まだ油断はできないから、ユウタの護衛頼むぞ。私も師匠に契約の口添えしてやるから」
 アスモデウス:「はーい
 ベルフェゴール:「じゃ、ボクは外を見張っておこう」
 マリア:「何かあるのか?」
 ベルフェゴール:「2ヶ月早い月見酒♪」
 マリア:「コラぁ!」
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