報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「最終電車」 東北新幹線編

2017-07-16 22:37:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月3日21:45.天候:晴 JR仙台駅・東北新幹線ホーム]

〔13番線に、21時47分発、“やまびこ”60号、東京行きが10両編成で参ります。この電車は途中、福島、郡山、宇都宮、大宮、上野に止まります。グリーン車は9号車、自由席は1号車から5号車です。まもなく13番線に、“やまびこ”60号、東京行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 夜の新幹線ホームに女声の自動放送が響き渡る。
 東海道新幹線と違うのは、日本語放送の後に、ちゃんと英語放送も入っていることである。

〔「13番線、ご注意ください。本日最終の東京行きが参ります。本日、東京行きの最終電車です。ご利用のお客様は、お乗り遅れの無いようご注意ください」〕

 下り方向から眩いヘッドライトが近づいてくる。
 東北新幹線では最古参となったE2系車両であり、そのヘッドライトも旧式の黄色っぽいものである。
 夜の上りということもあり、列車は殆どガラガラの状態で入線した。

〔「ご乗車ありがとうございました。仙台、仙台です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。13番線に到着の電車は21時47分発、“やまびこ”60号、東京行きです。次は、福島に止まります。本日、東京まで参ります最終電車です。ご利用のお客様は、お乗り遅れの無いようご注意ください」〕

 盛岡始発の列車である為、ここで下車する乗客もいる。
 発車メロディーは『青葉城恋唄』であり、仙台フィルハーモニー管弦楽団が演奏したものを録音して使用している。
 その壮大な発車メロディーが流れているホームへバタバタと階段を駆け登る2人の男がいた。

 愛原:「待て待て待て!最終電車!」
 高橋:「先生を置き去りにしようなどとは……ナメるなよ!」

〔「13番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 ピイーッ!ピッ!(立ち番駅員の笛)

 愛原:「よっしゃ!」
 高橋:「発車してよし!」

 ポーーーーーーーーーー!(客終合図の音)

 愛原:「何とか間に合ったな」
 高橋:「ええ。体が熱いです」

[同日21:47.天候:晴 東北新幹線“やまびこ”60号10号車内]
(愛原の一人称です)

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は東北新幹線“やまびこ”号、東京行きです。次は、福島に止まります。……〕

 私の名前は私立探偵、愛原学。
 今日は仕事で杜の都、仙台に来ていた。
 事件は見事に解決し、真犯人からケガを負わされた高橋も、左手に包帯を巻くだけで済む程度の軽さで良かった。
 真犯人が逆ギレしてハンドガンを撃ってきた時には、さすがに冷やっとしたが。
 今はこうして帰京する為、新幹線に乗っている。
 最終電車ギリギリになったのは、どうしても早めに事務所に帰る必要がある為、悠長に連泊していられなかったからだ。
 せっかくこうして、指定席も取れたことだし。
 私達はガラガラの10号車に乗り込み、2人席に座った。

 愛原:「それにしても、ケガが軽くて良かったな」
 高橋:「ハイ。あんなクソジジィにこんなケガさせられるなんて、一生の不覚です。先生に御心配をお掛けしてしまい、真に申し訳ありません」
 愛原:「いや、いいんだ。こう見えてお互い、あのバイオハザードを生き抜いたじゃないか」
 高橋:「そうですね」

 今や事務所は大繁盛。
 事務所自体はまだ小さなものだが、そろそろ広い事務所でも借りて引っ越そうかと本気で考えている最中だ。
 ボスからも、そんなことを言われたことがある。
 未だに仕事を回してくれるボスが何者なのかは分からない。
 いつも『私だ』としか言わない。
 以前、高橋が電話応対した時は、『先生、渡田(わたしだ)さんから電話です』などという天然ボケをかましてくれたほどだ。
 今では、同じく霧生市のバイオハザードを生き抜いた元・地元新聞記者の高野芽衣子が事務員をしてくれているということもあり、高橋が電話応対をすることは殆ど無くなっている。
 それにしても、実に残念だと思う。
 この高橋、将来の夢は一流の探偵になることだという。
 もちろん、夢は人それぞれだ。
 それを否定するつもりは無い。
 だが、高橋の場合、明らかに別の道を進んだ方が成功できると思えて仕方が無い。
 例えば高橋は根が真面目なのか、短く切った髪を金髪に染め上げ、耳にはピアスをしている有り様だが、喋り方には根っからのヤンキーには無い硬さがある。
 チャラ男のように見えて、実は物凄く堅物なのだ。
 顔も文句なくイケメンであり、道行く女性が必ず高橋の顔に注目するほど。
 明らかに私がそういった意味で引き立て役……あれ?何か泣けて来た。
 顔がイケメンな上、打ち上げでカラオケで歌を歌わせたりなんかしても上手いのだ。
 これならどこかの芸能事務所に入って、ボイスレッスンやダンスレッスンを受けたら間違い無くそっちの道で成功できそうな気がするのだ。
 もっとも、私と出会う前は本当にヤンキーだったようで、今でもその片鱗である喧嘩っ早さを見せることが多々ある。
 そしてその腕っぷしはとても強いもので、単なる助手としてだけではなく、今回の事件のようにボディガードまで務めてくれる頼もしい存在だ。
 因みに彼は男性でありながら、女子力も持ち合わせている。
 家事もとても上手いのだ。
 喧嘩っ早いものの、イケメンで女子力がある男子なんて、モテて当然だろう。
 正直、私は彼がせめて女性であったなら……と神を呪ったこともあった。
 誤解の無いように言っておくが、私は同性愛者でも両性愛者でもない。

 愛原:「池袋の事務所に着くのは日付が変わってからだな。もしかして、乗り換え先の電車も終電になるのかな?」
 高橋:「はい。大宮駅から埼京線に乗り換えると、都合良く終電でブクロまで帰れます」
 愛原:「おっ、そうか」

 私はつい欠伸をしてしまった。

 高橋:「先生、お疲れでしょう。大宮に着いたら起こしますから、どうぞ寝ててください」
 愛原:「そうか?じゃあ、そうさせてもらおう」

 私は座席をリクライニングした。
 この電車の普通車の座席は、背もたれだけでなく、座面を前にスライドできるタイプだ。

 高橋:「…………」

 高橋は私の一挙手一投足をガン見しながら、手帳に書き込みを始めた。
 前に事務所にいた時、私のことを見ながらメモをしていたので、何を書いているのか気になって見てみたら、私の座り姿勢についてその角度から何やらみっちりと細かく書いていたのだ。
 一流の探偵になる為、私から何かを盗み出そうとするその姿勢は大したものだと思うが、しかしあれにはドン退きした。
 恐らく今もそうしているのだろう。
 最初は呆れて注意したりしていたが、今ではもうどうでも良くなった。

 私は単調な列車の走行音と空調音に、更に眠気を増幅させた。
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