報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「埼玉での一夜」

2017-07-09 20:13:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月2日21:50.天候:晴 JR大宮駅・新幹線下り本線ホーム]

〔17番線に、21時50分発、“なすの”275号、那須塩原行きが10両編成で参ります。この電車は、各駅に停車致します。グリーン車は9号車、自由席は1号車から7号車です。まもなく17番線に、“なすの”275号、那須塩原行きが参ります。黄色い線まで、お下がりください〕

 ホームに女声の自動放送が鳴り響く。
 その後で英語放送が流れるのだが、少なくとも新幹線としては近距離を走る列車に、英語放送を必要とする乗客はホームにいないようだ。

〔「17番線、ご注意ください。21時50分発、東北新幹線“なすの”275号、那須塩原行きが到着致します。黄色い線まで、お下がりください。電車到着しておりまーす」〕

 E2系のヘッドライトがホームの乗客達を照らして行く。
 今や古参となった車両のヘッドライトは、新型車両に流行りのHIDの真っ白なランプではなく、旧式の黄色っぽいランプである。

〔「ご乗車ありがとうございました。大宮ぁ、大宮です。17番線は東北新幹線“なすの”275号、那須塩原行きです。次は、小山に止まります」〕

 ここで降りてくる近距離客もいる。
 もっとも、中には東海道新幹線からの乗り換え客もいるので、一概に近距離客とは言い難い。
 最後尾の1号車の前ドアから乗ろうとした乗客は、大騒ぎしながら降りてくる乗客達に二の足を踏んだ。

 稲生:「先生、いい加減起きてください!」
 マリア:「くそっ!今までちゃんと素直に起きてたのに、こういう時に……!」
 イリーナ:「へへ……さすがにそれは食べれないよ……」

 稲生とマリアに両脇抱えられて降りるイリーナ、その後ろを稲生とマリアの荷物を持ち上げて降りるミク人形とハク人形がいた。

 乗客A:「な、何だありゃあ?」
 乗客B:「変な外人さん……」

 何とか階段を下りて、コンコースまで出る。

 マリア:「ユウタ!私は師匠をトイレに連れて行く!ちょっと待ってて!」
 稲生:「分かりました。お手柔らかに……」

 マリアはイリーナを眠気から覚醒させる為、ズルズルとトイレに引きずり込んだ。

 稲生:(ここで喫煙者なら、喫煙所で一服でもする所なんだろうけど……)

 在来線のホームから喫煙所が消えて久しいが、新幹線乗り場のコンコースにはある。
 稲生は非喫煙者なので、自販機で缶コーヒーでも買って時間を潰すことにした。
 手持ちのSuicaで、缶コーヒーのBossを買い求める。

 稲生:(『このろくでもない、素晴らしい世界』か……)

 とある宇宙人がトミー・リー・ジョーンズそっくりの地球人に化けて、様々な職業人に扮し、地球(といっても主に日本)の調査を行うという設定のCM。
 様々な魔法をさりげなく使うシーンは、まるで魔道師のようである。
 魔女の多いダンテ門流においては、宇宙人ジョーンズのようなシュールな魔法を使う者はあまりいないように見える。
 だが、エレーナを見ているとあながちいるのではないかと思われる。
 中にはエレーナのように働いている者もいる(表向きはビジネスホテル勤務、裏は魔女の宅急便)ので、そういった者はトラブル回避の為にシュールな魔法を使うことがあるかもしれない。

 10分くらいして2人の魔女が戻って来た。

 イリーナ:「いやあ、やっと夢の世界から帰って来れたよ〜」
 マリア:「ったくもう……」
 稲生:「あー……イリーナ先生とマリアさん、それぞれ別の意味で、よく御無事で……」
 イリーナ:「何の何の」
 マリア:「何だそりゃ……」
 イリーナ:「それより早く行きましょう。あまり遅くなると、ユウタ君の御両親に申し訳ない」
 マリア:「それもそうだ」
 稲生:「タクシーで行きましょう。こっちです」
 イリーナ:「また私のカード使っていいよ」
 稲生:「ありがとうございます」

[同日22:20.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 タクシーが稲生家の前に到着する。

 稲生:「……うん。今度は何も変化は起きてない」
 イリーナ:「そりゃそうよ。私の目が青いうちは、好き勝手な事させないからね」
 稲生:「ありがとうございます。(……ん?青い?『私の目が黒いうち……』じゃない?……あ、そうか)」

 稲生は運転手にイリーナのプラチナカードを渡し、いつものように伝票にサインした。
 今度の運転手は特に驚いた顔はしなかったが、地方より首都圏の方がアメックスを見る機会が多いのだろう。
 尚、アメックスの一般カード(グリーンカード)でさえ、年会費は高額である(他社のゴールドカード並み)。
 それをイリーナは普段使いとしてプラチナカードを出してくるのだから、一体どんな大富豪と繋がりがあるのか気になるところだ。
 尚、イリーナが『自分の目が青い』と言ったのは、本当に青い瞳だから。
 赤毛が特徴のイリーナだが、もちろん天然の髪色であり、白人ならではの髪色の1つである。
 この髪色は北欧でよく見られるものなのだそうだ。
 イリーナは北欧出身ではないが、現在使用している体の持ち主が北欧に関係していたのだろう。
 マリアの成育地であるイギリスや、その文化を受け継いだアメリカでは、赤毛は被差別の対象となっていたという(例、『赤毛のアン』)。
 北欧に近いロシアでは、そんな差別というほどのものは無かったようだが。
 マリアも初めてイリーナを見た時、本当にロシア人かと首を傾げたという。

 佳子:「まあまあ!息子がいつもお世話になっております!」
 イリーナ:「夜分遅くの到着、恐れ入ります。またお世話になります」

 イリーナは惜し気も無く『自動通訳魔法』を使い、そのまま自分はロシア語で話していた(日本人が聞けば、それが自動で日本語に同時通訳されて耳に入って来る魔法)。

 マリア:「Yo……ヨロシクオ願イデス……シマス」
 佳子:「ゆっくりしていらしてね」

 マリアは緊張の余りか、『自動通訳魔法』が切れてしまった。
 もっとも、あえて自分で勉強した日本語で話すつもりであったが。

 イリーナ:「マリア、無理せず『自動通訳』にしたら?」
 マリア:「いいんです!」

 マリアが件の魔法を使うと、日本人の耳には直訳された日本語になるらしく、言い回しが硬くなるという。
 普段、マリアが稲生に喋っている内容は硬い表現が散見されるが、実は本人はそんなつもりはない。
 英語圏の国の者が聞けば、普通の表現で喋っているのだという。

 稲生:「先生、マリアさん。奥の部屋でお寛ぎを」
 イリーナ:「ありがとう」
 マリア:「分かった」

 奥の客間はかつて、妖狐の威吹が寝泊まりしていた部屋である。
 畳敷きの8畳間で、威吹や直弟子だった威波莞爾(いなみ・かんじ。または、いば・かんじ)はここに布団を敷いて寝起きしていた。
 今現在はカーペットを敷いて、折り畳み式のベッドやエア収縮式のベッドを使用している。

 マリア:「前にも泊まらせてもらったことがあるから、勝手は分かるなぁ」
 イリーナ:「『勝手知ったる他人の家』ってか」
 稲生:「ハハハ……。暑いですから、エアコン自由に使ってください。あと、お風呂も入れるそうですので」
 イリーナ:「おっ、それはありがたい。早速頂こうかね。……ユウタ君のお父さんは?」
 稲生:「役員同士でゴルフに行ってると思いますが、今夜は遅いですね。おおかた、飲み会で盛り上がったってところでしょう」
 イリーナ:「それなら、『宿泊代』は明日でもいいかな?」
 稲生:「いつでもいいですよ。それじゃ、僕は2階の自分の部屋にいますから」
 イリーナ:「うん。分かった」

 ユウタは1階客間を出て、自室のある2階の階段を登った。
 そこでふと、稲生は首を傾げた。

 稲生:(そういえば先生達は、どうしてここに来たんだろう?僕の魔法の杖だけが目的だったら、杖ができたら帰ればいいのに……)
コメント
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