報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「最終電車」 埼京線編 1号車

2017-07-17 19:56:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月3日23:50.天候:晴 JR大宮駅埼京線ホーム→埼京線上り最終電車]

 私の名前は私立探偵、愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仕事で東北の町へ向かったのだが、その帰り、新幹線が大幅に遅れてしまった。
 私達は何としても事務所に戻る必要があったので、乗り換え先の最終電車を逃すわけにはいかなかった。

 高橋:「先生、こちらです!急いで!」
 愛原:「ま……待ってくれ!高橋……お前、足が速過ぎる……!」

 高架上の新幹線ホームから地下の埼京線ホームに向かう私達。

 高橋:「先生、電車が来ちゃいましたよ!急いでください!」

 ホームへ続く階段の下から、電車の音が聞こえて来た。

 愛原:「くそっ!」

 高橋はまだ20歳そこいらの若者だ。
 本人も体力には自信があるということで、こういう無理も利くのだろう。
 しかし、アラフォーの私にはキツいものがあった。

 高橋:「先生、早く早く!」
 愛原:「待ってくれ……!」

 電車は私達を待っていたかのようだった。
 どうやら私が最後の客だったらしく、私が乗り込むと同時に電車はエアの音を響かせてドアを閉めた。
 そして、カクンと大きく車体を揺らして地下のホームを出発した。

 愛原:「はぁ〜……。何とか間に合ったな」
 高橋:「先生を置いて行こうなんざ、100万年早過ぎます!」
 愛原:「まあまあ。これで一安心だな」

 私はホッとしてグリーンのモケットが掛かった座席に座った。

 愛原:「これが終電か?確か終電はブクロ止まりだったな?赤羽止まりとかじゃないよな?」
 高橋:「そのはずです……」
 愛原:「ん?」

 何故か高橋は表情を崩さず、ガラガラの座席にも座らず、相変わらずのポーカーフェイスのまま車内を見渡していた。

 愛原:「どうした、高橋?」
 高橋:「いえ、先生。終電の割には客がいないなと思いまして」
 愛原:「あー……そうだな」

 私は車内を見渡した。
 私達が乗り込んでいるのは1番後ろの車両、1号車。
 そこに乗っているのは私達だけだった。
 いや、乗務員室の中にいる車掌も入れれば3人か。

 愛原:「さっきの新幹線もそうだったろう?夜の上り電車はガラガラなんだよ」
 高橋:「それにしても、ガラガラ過ぎますよ。さっきの新幹線だって、それでも俺達以外に7〜8人くらいの客が乗っていたんです。大宮駅で降りた客だって、俺達以外に何十人もいたわけでしょう?埼京線に乗り換える客が俺達以外にもいるはずで、それがこの車両には俺達しかいないとは……」
 愛原:「偶然か何かじゃないのか?埼京線ホームへ行く階段やエスカレーター、エレベーターは1つだけじゃないんだぞ」
 高橋:「それはそうですが……」
 愛原:「それより、この電車、池袋行きだったよな?それだったら終点まで乗るんだから、ちょっと寝ておくよ。着いたら起こしてくれ」
 高橋:「はあ……。まだこの電車走ってたんですね。こんな時に限って、ドアの上にモニターの無い古い電車だ」
 愛原:「そういえばそうだな。まあ、昔は埼京線と言えばこの電車だったが……」

 連結器の上の天井付近の壁には、『クハ205-42731』と書かれたプレートが貼ってあった。

 高橋:「チッ!42731……?『死になさい』だと!?上等だ!だったら、4649と書いてやるぜ!夜露死苦!」
 愛原:「待て待て!いつの不良だ!余計なことはするな!」
 高橋:「ですが先生をナメてますよ」
 愛原:「俺はいいの!そんなこといちいち気にしてたら、身も心も持たな……」

 その時だった。
 地下の駅を出発した電車は、そのまま坂を駆け上がって地上に出ると、そのまま更に高度を上げて高架線に入る。
 それはいいのだが、その次の駅である北与野駅に差し掛かっても、電車は速度を落とさなかった。

 高橋:「どうしました、先生!?」
 愛原:「ちょっと待て、高橋……!」

 案の定、電車は次の北与野駅を通過した!

 高橋:「んんっ?駅を通過した?」
 愛原:「おい、終電って各駅停車だよな!?」
 高橋:「そのはずですが……」
 愛原:「オーバーランってレベルじゃねぇぞ!一体、どういうことだ!?」
 高橋:「きっと、事務所へお急ぎの先生の為に飛ばしてくれているのでしょう」
 愛原:「なワケないだろ!……待てよ。確か、埼京線もダイヤが乱れてたんだよな?」
 高橋:「ええ。東北新幹線、大宮〜上野間の線路内人立ち入りの影響で、横を走る埼京線もいい迷惑だったとツイッターに書かれてました」

 高橋は窓の外を見た。
 埼京線の大宮〜赤羽間は東北新幹線と並行している。

 愛原:「なるほど。じゃあ、これは終電じゃないのかもしれない」
 高橋:「と、言いますと?」
 愛原:「何本前かの通勤快速じゃないか?だったら北与野駅通過は頷ける」
 高橋:「なるほど、そうですね。だったら尚更ラッキーですよ」
 愛原:「そうだな」

 そうこうしているうちに、電車は与野本町駅も通過した。
 やはりこれは通勤快速なのか。

 高橋:「でも先生、やっぱおかしいですよ」
 愛原:「今度は何だ?」
 高橋:「この電車に乗ってから、全く車内放送が無いですよ」
 愛原:「それもそうだな。肉声放送だけの電車だから、もしかしたらボリュームが小さ過ぎるとか?」
 高橋:「だとしたらフザけてます。ちょっと車掌にヤキの1つを……」
 愛原:「だから待てって!そんなことしたら……」
 高橋:「俺はサツなんか怖くありません」
 愛原:「そうじゃなくって!車掌さんボコしたら、この電車が止まって俺達帰れなくなるから!そういうことを考えろ!」
 高橋:「ハッ!すいませんでした!」

 高橋はバッと私に頭を下げると、すぐに手帳を取り出して私の言葉をメモし始めた。
 勉強熱心な男なのだが、やっぱりどうも喧嘩っ早いというか……。
 私は何気に乗務員室の方を見た。

 愛原:「……なあ、おい。高橋」
 高橋:「何ですか?」
 愛原:「車掌さんの姿、見えるか?」
 高橋:「は?何ですか?」

 私は乗務員室を指さした。
 埼京線の205系電車にはドアの窓も含め、客室との境には3枚の窓がある。
 車掌室として使われているはずの乗務員室にはブラインドは下ろされておらず、照明も煌々と輝いて中の様子が見えた。
 だが、そこにいるはずの車掌の姿が見えない。

 愛原:「おい、これもしかしたら、通勤快速ですらないかもしれんぞ!?」
 高橋:「どういうことですか!?」
 愛原:「回送電車に乗っちゃったかもしれない!」
 高橋:「ええっ!?」
 愛原:「と、とにかく行ってみよう」
 高橋:「はい!」

 私達は乗務員室に行ってみた。
 そして窓の外から中を覗き込んでみたが、車掌の姿は無かった。

 高橋:「これはどういうことですか?」
 愛原:「回送電車の場合、車掌がいつもの定位置にいるとは限らないんだ。運転室に運転士と一緒に乗っている場合もあるし、回送の時はワンマンということもある」
 高橋:「何ですって!?じゃ、どうすれば!?」
 愛原:「確かこういう時は、それこそ運転室まで来てくれって聞いたことがある。東海道新幹線でのことなんだが、東京駅折り返しの回送電車に取り残された場合、そうしてくれっていうことがあるそうだ」
 高橋:「つまり、校舎の裏に呼び出し的なアレですね。上等です」

 高橋はバキボキと手の骨を鳴らした。

 愛原:「何でそうなる?とにかく少し骨は折れるが、1番前の車両に行くぞ」
 高橋:「了解しました!」

 私達はまず隣の2号車への扉を開けた。
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“私立探偵 愛原学” 「最終電車」 東北新幹線編 2

2017-07-17 12:14:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月3日23:18.天候:晴 JR東北新幹線“やまびこ”60号10号車内]

 私の名前は私立探偵、愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は仙台での仕事を終え、最終の新幹線に飛び乗って帰京している最中なのだが、まさかあんなことになるとは……。

 愛原:「……!」

 私は仕事に疲れていたこともあり、大宮駅に到着するまで仮眠することにした。
 幸い、助手の高橋が到着前に起こしてくれるという。
 ところが私の探偵のサガというヤツか、ちょうど列車が大宮駅に到着する時間に目が覚めた。

 愛原:「おい、高橋君。もう大宮か!?」
 高橋:「いえ、それが……」

〔「お待たせ致しました。安全の確認が取れましたので、まもなく発車致します。本日、列車遅れまして大変ご迷惑をお掛け致しました」〕

 窓の外を見ると、列車は宇都宮駅に停車していた。

 愛原:「あ、なに?」

 車掌の放送通り、ホームから発車ベルの音が車内にも微かに聞こえて来た。
 新幹線ホームの発車ベルにしては短いもので、列車は慌ただしくという表現がピッタリと言った感じで発車した。

 高橋:「実はフザけた話でして……」

〔「大宮〜上野間におきまして、線路内人立ち入りの影響により、当列車は約25分ほど遅れての発車でございます。列車遅れまして、大変ご迷惑をお掛け致しました。……」〕

 愛原:「線路内人立ち入り!?新幹線に!?」
 高橋:「現場が近くでしたら、俺が捕まえてボコすところですが……」
 愛原:「せんでいい。おいおい、埼京線の乗り継ぎ、大丈夫なんだろうな?」

〔「大宮駅でお降りのお客様にお知らせ致します。大宮駅より、各線最終電車の接続待ち合わせを行います。大宮駅より各在来線、会社線にお乗り換えのお客様はお急ぎください」〕

 高橋:「大丈夫……みたいですね」
 愛原:「よし!……てか、なに?じゃあ、また大宮駅で全力ダッシュか?」
 高橋:「心配要りません。俺は足腰には自身があります」
 愛原:「若いっていいねぇ……。ま、しょうがない」

 私は席を立った。

 高橋:「先生、どちらへ?」
 愛原:「ちょっとトイレ行ってくる」
 高橋:「お供します!」
 愛原:「せんでいい!」
 高橋:「俺もついでに用を足そうかと」
 愛原:「ったく、しょうがないな」

 私と愛原は連れションする形となった。
 10号車にはトイレが無いので、隣の9号車のトイレを利用することになる。
 9号車と言えばグリーン車。
 トイレくらいはビジネスクラスのものを使用させてもらってもいいだろう。
 仕事は順風満帆になってきてはいたが、私も早く出張はグリーン車を使えるようになりたいものだ。
 もっとも、ヒマだった頃は新幹線代ですら捻出できぬ有り様で、地方出張の時は普通電車や高速バスなどの交通費を安く抑えるパターンしか使えなかったのだが。
 それが今や普通車とはいえ、指定席に乗れるくらいなのだから良しとしよう。

 高橋:「さっきツイッターで見たのですが、新幹線を止めやがったバカ野郎はサツから逃げ切ったらしいです」

 高橋はニヤリと笑った。

 愛原:「そうなのか」
 高橋:「霧生市のバイオハザードの時といい、サツは役に立ちませんね。ダサくゾンビ化しやがりましたし。やはり先生のお力が1番最強ですよ」
 愛原:「バイオハザードの時はしょうがない。誰がいつゾンビ化してもおかしくなかったし、第一、高橋君だって大山寺で一時期ゾンビ化しかけたじゃないか」
 高橋:「も、申し訳ありません!」
 愛原:「とはいえ、さすがに線路内立ち入り犯を捕まえられなかったのはイタいな。大宮〜上野間って言っても随分と断片的だけど、具体的にはどの辺なのやら……」
 高橋:「さすがにそこまでツイートするヤツはいないですねぇ……」

 高橋は自分のスマホを見ながら首を傾げた。

 愛原:「! てことは、埼京線も遅れてるんじゃないのか!?」

 埼京線の大宮〜赤羽間は東北新幹線と併走している。

 高橋:「あ、そうですね。やはり、少なからず影響は出たようです」
 愛原:「そういうことなら、慌てなくても大丈夫っぽいな」
 高橋:「そうですね」
 愛原:「ま、調子に乗って乗り遅れるのもアレだから、少し急ぐくらいはするか」
 高橋:「はい」

 私と高橋はトイレで用を済ませ、私の場合はその後、洗面台で顔を洗ってから座席に戻った。

[同日23:40.天候:晴 同列車内]

 左手から上越・北陸新幹線の線路とニューシャトルの軌道が並行するようになってくると、大宮駅は近い。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、上野に止まります〕

 高橋:「先生、大宮です」
 愛原:「よし。降りる準備するぞ」
 高橋:「はい。荷物は全部俺が持ちますから、先生は俺についてきてください」
 愛原:「さすがは高橋君、頼もしいな」

 私が高橋を褒めてやると、私は背後に何かの気配を感じた。
 私は降りる準備の為に、窓に背を向けていた。
 それが人の気配がするのだから、窓の外に何かいる?

 愛原:「!?」

 私がバッと振り向くと、窓の外には2つの光る物体がいた。

 高橋:「先生、どうしました?」
 愛原:「高橋君、これは……」

 私が高橋の方を向いてまた窓の外に目を向けた時、白く光る2つの物体は消えてしまっていた。

 愛原:「あれ?」
 高橋:「何かあったんですか?」
 愛原:「いや、窓の外に、丸い光るボールみたいなのが浮かんでいたんだ。列車と並行するような形で。キミは見なかったのか?」
 高橋:「すいません。降りる準備に忙しくて……。確かに何か光る物は見えたような気がしますが、街中なもので、街の明かりだと思ったんです」

 確かに、そう見えなくもない。
 だが私が見たものは、明らかに何か意思を持って飛んでいたかのように見えた。

 愛原:「まるで人魂みたいだったなぁ……」
 高橋:「ホラーネタですか?大丈夫ですよ。あのバイオハザードの時だって、人魂なんてものは無かったですし、むしろそれ以上の化け物共を俺達で殺ってきたじゃないですか」
 愛原:「まあ、そうだな」

 私はまた窓の外を見たが、人魂らしき物は無くなっていた。
 きっと、幻でも見たのだろう。
 窓の外に県道2号線の大栄橋が見えてきて、それからすぐに列車はホームへと滑り込んだ。

 愛原:「じゃ、高橋君。ドアが開いたら急ぐぞ」
 高橋:「ハイ!」
 愛原:「但し、慌てない程度にな」
 高橋:「分かりました!」
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