報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「最終電車」 埼京線編 7号車

2017-07-23 16:09:57 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7号車]

 1つ分かったことがある。
 いや、それはもう既に予想していたことなのだが……。
 乗客は私達の他にもいた。
 それも、前の車両の方にだ。
 常識人達なら、少なくともとっくのとうにこの電車が異常だということに気づいているだろう。
 そして、何らのアクションを起こしたはずだ。
 たまたま最後尾に乗り込んだ私達が、車掌を訪ねて乗務員室に向かったのと同じように。
 敷島氏も似たようなことをしようしていたし、5号車のゾンビに食い殺された酔っ払いも、何かをしようとしていたのだろう。
 で、あるならばだ。
 先頭車にも乗客はいたはずで、彼らが運転室のドアを叩いたりはしなかったのだろうかということ。
 5号車の乗客達がどうして死んで、そしてゾンビ化したのかは分からない。
 しかし考えようによっては、1号車などの前方車両の乗客達はゾンビ化したとも考えられやしまいか?
 乗客だけではない。
 運転士もだ。
 それならブレーキ操作などできず、乗客達もアクションはできまい。
 だが、その考えはすぐに否定した。
 もしそうなら、逆に非常ブレーキが掛かっていないとおかしい。
 異常が起きたのが電車内だけで、外側は何とも無いというのなら、とっくにATCが作動して非常停止しているはずだ。
 埼京線はATSではなく、ATCである……と、敷島氏が言っていた。
 いずれにせよ、何事も無く走り続けているのだ。
 車掌は最初からいなかった。
 いないのに、どうしてドアが自動で開閉していたのか。
 車掌はドア開閉係でもあるからだ。

 そして、同じく常識人でありながら、全く話が嚙み合わない敷島氏。
 幸太郎君が言っていた別世界の人。
 いずれにせよ、この先に真相が隠されているような気がしてならない。

 高橋:「7号車は何も無いですよ。……うん、何も無い」

 さっきの酔っ払いの件があったからか、今度は高橋が私の前を歩いていた。

 敷島:「緩衝地帯か……」

 敷島氏はドカッと緑色の7人席に座った。

 敷島:「ちょっと休憩しよう」
 高橋:「おい、休んでる場合じゃ……」
 愛原:「まあまあ。幸太郎君も疲れてるみたいだし……」
 山根:「この先に……この先に行けば、家に帰れるんですよね?」
 愛原:「ああ、そうだよ」

 その確信は無い。
 だが、まだ小学生の彼にそんな不安を突き付けるのは酷だと思った。
 私は予め高橋に目配せをして、余計なことを言わないように釘を刺した。
 高橋はニヤッと笑って、それ以上何も言わなかった。

 愛原:「ちょっと待った。何か、少し明るくなってきたような……?」

 窓の外はずっと漆黒の闇であった。
 長いトンネル、照明も全く点いていないトンネルの中を走っているかのようだったが、それが何だか少し明るくなってきたような気がした。
 私達は窓の外に目を凝らした。

 高橋:「……何スか、ここ?」
 愛原:「どこだ……ここ……?」

 一瞬だけ見れば、川越線の沿線のような気がした。
 だだっ広い原っぱの中を電車が走っていた。
 空は赤いが草は枯れ、木も枯れている。

 敷島:「まるで地獄の入口だな……」

 座席に座っている敷島氏が呟いた。

 敷島:「もしかして……いや、そんなことは……」
 愛原:「何ですか?」
 敷島:「もしかしたらこの電車、本当にあの世に行く電車なのかもしれませんよ?」
 高橋:「なに!?」
 敷島:「そういえば俺、北海道のとある別荘地の地下を進んでいたんですが、意識を失う前に大きな爆発音を聞いた気がするんですよ。もしかして俺、その時に死んだのかなぁ……って」
 愛原:「バカなこと言わないでください。俺達は逆に死んだ記憶なんて無いですよ」
 敷島:「死者の中には、即死などして自分が死んだことに気がつかない者もいるそうです」
 愛原:「いやいやいや!私達はちゃんと仙台駅から新幹線に乗り込んで、その後、埼京線のホームにいたこの電車に乗り込んだんです。事故に遭っただとか、誰かに刺されただとか、そんな記憶はありません。な?高橋君」
 高橋:「全くです。あの世へはオッサン1人だけ行け!」
 愛原:「幸太郎君は?途中で事故に遭ったりとかの記憶は無い?」
 山根:「うん、無い」
 愛原:「ほら。敷島さんの考え過ぎですよ」
 敷島:「だとしたら今、電車はどこを走っているんでしょう?」

 そう言われると……。

 高橋:「先生、あれを!」

 高橋が窓の外を指さした。
 電車はスピードを落として、結構急なカーブを曲がっている。
 その先に駅のホームが見えた。

 愛原:「あの駅で降りれるかな?」

 カーブを曲がっているせいか、電車は時速40キロくらいにまで速度を落としている。
 先頭車の方から、警笛の音が聞こえて来た。

 高橋:「イザとなったら!」

 高橋は電車の窓を開けた。
 そう、窓は開いた。
 転落防止の為に上から下へ、半分ほどしか開かない窓だが。
 しかし、体が大きくない限りは身を乗り出せそうだ。

 敷島:「おい、まさかキミ!?」
 高橋:「先生、きっと俺達、乗る電車を間違えちゃったんですよ。この駅がチャンスかもしれません。もし通過するようだったら、このくらいのスピードなら飛び降りれます」
 愛原:「いやいやいや!それはダメだろ!」

 もしかしたら、ようやっと停車するのかもしれないし。

 敷島:「! そうだ!非常コック!」

 敷島氏は一瞬、ドアの上を見たがすぐに座席の下に目をやった。
 最近の新型車両はドアの上に非常コックが付いていることが多い為、作者のように低身長だと手が届かないことが多々ある。
 しかし205系は、昔ながらに座席の下に付いているタイプである。

 敷島:「もし駅を通過しそうな場合、こいつを引いてやったら電車は緊急停止しますよ。で、ついでにドアも開けられて一石二鳥!」
 愛原:「いや、それもそれで危険な気がします。やっぱり私は、先頭車に行くべきだと思います」
 高橋:「だったら俺だけでも窓から飛び降りて、サツに通報してやりますよ」
 愛原:「だから危ないからやめろって!」
 敷島:「非常コックを引くのが安全なやり方だよ」
 愛原:「敷島さん、あんなワケの分からない駅で降りる方が却って危険なんじゃないですか?無人駅だったらどうするんですか?」

 因みに私のスマホは相変わらず圏外のままで、尚且つ時計も止まったままだ。
 駅が近くなったのに圏外なんて、こんな所でヘタに降りない方がいいんじゃないか?

 敷島:「しかし、これの次の駅が分からないんですよ。ケータイが圏外でも、公衆電話くらいあるでしょう。幸い、私は会社や自宅の電話番号を覚えていますから」
 愛原:「いや、私は降りない方がいいと思います」
 高橋:「先生はこのまま乗っててください。俺が飛び降りて、助けを呼んできますよ」
 山根:「僕も降りれるんだったら降りたい!」
 愛原:「しかし……」

 どうする?
 もう駅が目前に迫って来ている。
 このまま乗り続けるか?それとも飛び降りるか?

 ①窓から飛び降りる。
 ➁非常コックを引いて飛び降りる。
 ③このまま乗り続ける。

(※当然バッドエンドありです。注意してください)

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