報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「埼玉帰還」

2017-07-29 19:13:07 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[日本時間7月6日11:30.天候:晴 埼玉県さいたま市 稲生家]

 稲生の実家の庭に魔法陣が浮かび上がる。
 そして、そこから魔道師3人が飛び出してきた。

 稲生:「やっと帰って来れた……」
 マリア:「ピンポイントだな」
 イリーナ:「アタシって天才!」

 3人全員が魔法陣から出ると、魔法陣は跡形も無く消えた。

 稲生:「さすが先生です!」
 イリーナ:「ま、アタシがちょっと本気出せばこんなもんよ。マリアだったら、何か媒体が無いとできないもんね」
 マリア:「悪かったですね。まだローマスターなんですから、異世界間移動ができるようになっただけでも良しとしてくださいよ」
 稲生:「媒体?」
 イリーナ:「魔界の穴を利用する方法がベタな法則だね」
 稲生:「となると……。あの旧校舎ですか」
 イリーナ:「ま、そういうことになるね」
 マリア:「今回はまあ、師匠に任せて良かったと思います」

 マリアは以前の東京中央学園での戦いを思い出して吐き気がした。

 稲生:「先生、今回の件は……」
 イリーナ:「うん、おおかた知ってるよ。ユウタ君も、久しぶりの友達との再会で飲み過ぎたのは分かるけど、もう少し慎重になるべぎたったね」
 稲生:「すいませんでした」
 マリア:「だからタクシーで帰って来いって言ったのに……」
 稲生:「いや、ハハハ……」
 イリーナ:「それより少し休ませてもらえる?」
 稲生:「あ、はい」
 マリア:「?」
 イリーナ:「本気出すのって本当疲れるわ」
 マリア:「自宅警備員みたいなこと言わないでください」
 稲生:「因みに今の魔法、何て名前なんですか?」
 マリア:「あ、そうそう。私も気になってた」
 イリーナ:「スーパー・ル・ゥラ?うん、きっとそうよ!」
 稲生:「は、はあ……」
 マリア:「知らないんですか!」
 イリーナ:「何よ?じゃあ、マリアは何て唱えて使ってたわけ?」
 マリア:「……ウルトラ・ル・ゥラ」
 イリーナ:「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 マリア:「笑いたかったら素直に笑ってください!知らないから、聞こうと思ったのに!」
 稲生:「まあまあ」

[同日12:00.天候:晴 稲生家]

 稲生:「……うん、上手く行ったぞ」

 稲生は自室に入ると、PCで威吹への報酬と出産祝いを通販サイトで注文した。
 もちろん、このサイトから直接魔界へ送れるはずがない。
 そこで1度こちら側に送ってもらって、それからエレーナに依頼することとなる。

 稲生:「それから……」

 稲生は長野までの帰りの足を確保しようと思った。

 稲生:「おっ、やった!まださすがにピークじゃないもんな!」

 稲生はネットで帰りの高速バスのチケットを購入した。
 厳密に言えば、ネット予約しただけ。

 稲生は部屋の外に出た。

 マリア:「ユウタ、そろそろランチの時間だけど、どうする?」
 稲生:「あっと!そう言えばそうですね。先生は?」
 マリア:「師匠は昼寝モードに入った。多分、ディナーの時間まで起きそうにない」
 稲生:「そうですか。平日昼間は両親もいないからなぁ……。じゃあ、外に食べに行きますか。帰りの高速バスの予約もしたので」
 マリア:「そうか。マイケル氏から『新幹線じゃないのか』と言われそうだな」
 稲生:「え?何ですか?」
 マリア:「え?あれ?私、何か言った?」
 稲生:「いや、あの……。新幹線かぁ……」
 マリア:「交通手段は全てユウタに一任することになってるんだから、師匠も私も文句を言うつもりは無いよ」
 稲生:「そ、そうですね」
 マリア:「おっと、交通費か」
 稲生:「先生、寝てらっしゃるんでしたら、立て替えて……」

 しかしマリアは、2人が客間として借りている一室へ行った。

 マリア:「師匠、帰りの交通手段……あっ」

 するとテーブルの上に、プラチナカードが置いてあった。
 ロシア語のメモがあったが、訳すと、『バス代はこれで』と書かれていた。

 稲生:「先生、予知していたんですね」
 マリア:「ここまで予知されると、却ってムカつかない?」
 稲生:「僕は平気ですけど……。とにかく、行ってみましょう」
 マリア:「うん」

 2人は外に出た。
 7月の暑い日差しが2人を襲う。

 マリア:「日本の夏はほんとジメジメしてる」
 稲生:「そうですねぇ……」

 マリアはブレザーは着ておらず、ブラウスの上から緑色のローブを羽織っている。
 ローブは本来防寒着なのだが、魔道師用に作られたそれは防熱の役割も果たす。

 マリア:「何食べる?」
 稲生:「この近くに回るお寿司があるんで、そこにしましょう」
 マリア:「Sushi……?回る……?」

 もちろんマリアは寿司を知っているが、お皿に乗った寿司が皿回しのように回っているのを想像した。

 稲生:「あ、いや、そういうことじゃないんですよ」

 稲生はマリアの顔を見て、明らかに違うことを想像していることに気づいた。

[同日12:30.天候:晴 さいたま市内 某回転寿司店]

 お昼時だったので、店内は混んでいた。
 少し待たされてから、ようやくテーブル席へ案内される。

 マリア:「これは……?」
 稲生:「コンベアの上に流れているお皿、自由に取っていいんですよ。もし食べたいものがあって、それがコンベアを流れていない場合、注文することもできます」

 稲生が言ってるそばから、テーブル横のレーンを“新幹線”が通過していった。

 マリア:「凄いアイディアだ」
 稲生:「何か飲みますか?」
 マリア:「ビー……あ、いや、お茶でいい」
 稲生:「いいんですか?築地で飲み過ぎたことは……」
 マリア:「あれはちょっとテンションが上がり過ぎたんだ!」
 稲生:「いや、まあ……。あの時のマリアさんもなかなか可愛かったのに……」
 マリア:「! ……と、とにかく、昼はアルコールはいい」
 稲生:「分かりました。あとは何食べます?」
 マリア:「サーモン、エッグ、オクトパス」
 稲生:「はいはい」

 稲生はピッピッと端末のパネルを操作した。

 マリア:「ところで、帰りはバス?いつの?」
 稲生:「明後日の土曜日、夜行便です」
 マリア:「夜行!」
 稲生:「アルピコ交通のそれは期間限定ですからね。今月の下旬くらいになると学校も夏休みになるんで、こうやって直前では取れなくなるでしょうが、今はまだギリギリ取れました」
 マリア:「なるほど。……フフッ」
 稲生:「何ですか?」
 マリア:「いや、ユウタはあの冥鉄暴走電車でだいぶ死闘を繰り広げたっていうから、しばらく夜の交通機関は懲り懲りかなと思っていたんだけど、大丈夫みたいだな」
 稲生:「帰りに関しては先生やマリアさんと一緒ですから。……てか、大丈夫ですよね?」
 マリア:「私の予知夢ではそういう夢はまだ出てこないし、何より師匠がグースカ寝ている間は大丈夫」
 稲生:「分かりやすいバロメーターですよねぇ、あれは……」

 稲生達がそんな噂しているものだから……。

 イリーナ:「……っクシュ!……うー……」

 イリーナはクシャミで目が覚めたという。
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“大魔道師の弟子” 「魔界稲荷」 2

2017-07-29 15:38:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間7月4日06:36.天候:晴 魔界稲荷(南端稲荷)]

 威吹達の住まいの玄関の扉をガラガラと開けた稲生。
 そこにいたのは……。

 赤ん坊:「ふぁい」
 稲生:「!?」

 稲生は目を丸くした。

 稲生:「誰!?」
 赤ん坊:「ふぁ?」
 坂吹:「誰って、威吹先生と禰宜様の御子息ですよ?」
 稲生:「何だ、そうか。……って、ええっ!?」
 赤ん坊:「あくす……あくす……」

 髪の色が銀色なのは、威吹譲りだろう。
 赤ん坊は稲生に向かって無邪気にバタバタと両手を振った。

 稲生:「ん?何だい?」
 坂吹:「握手ですって」
 稲生:「おー、握手かー。よしよし」
 赤ん坊:「ふぁ!」

 稲生は赤ん坊の小さな右手を握った。

 さくら:「あっ、伊織。こんな所にいたの?ダメよ。勝手にハイハイしちゃ」
 伊織:「おっかー……」
 坂吹:「禰宜様!おはようございます」
 稲生:「あっ、さくらさん、お久しぶりです」
 さくら:「あらっ、確か……伊藤さん?」
 稲生:「稲生です……」

[同時間07:00.天候:晴 同場所]

 ボーン!ボーン!とぜんまい式の柱時計が鳴る。

 稲生:(昭和というより明治だな……)

 稲生は何故かそう思った。
 いや、柱時計と黒電話は明らかに昭和の遺物のはずなのだが……。
 稲生は電話を借りて、イリーナやマリアに連絡を取ろうとした。

 稲生:「あっ、マリアさん!良かった……」
 マリア:「それはこっちのセリフだ!どこにいる!?」
 稲生:「魔界です。アルカディアシティ南部の南端村。マリアさんも1度来たことがありますよね?あそこです。あそこの威吹の家にいます」
 マリア:「分かった。あの狐妖怪の家だな。すぐ迎えに行く」
 稲生:「すいません」

 マリアはあえて理由は聞かなかった。
 電話であれこれ聞いても仕方が無いと思ったか、或いはもうイリーナが魔法で知る由となっているのか。

 マリア:「私だけでも駆け付けたいんだけど、恐らく師匠も行きたがるだろうから、ちょっと待ってて」
 稲生:「分かりました」
 マリア:「まずは師匠を起こすことから作業は始まる!」
 稲生:「あっ、しまった!そっち、今何時ですか?時差を忘れてた!」
 マリア:「こっちは7月5日の19時2分だな。魔界の方が遅いんだっけ?」
 稲生:「確か……」
 マリア:「まあ、いいや。弟子が行方不明だってのにグースカ寝てやがってダメだ、あの婆さん」
 稲生:「それって僕が無事に帰って来ると予知していたってことですよね?」
 マリア:「そうだといいんだけどなっ!……とにかく、威吹の家は安全なんだろう?」
 稲生:「魔界で威吹にケンカ売って来るようなアウトローはいないと思います」
 マリア:「分かった。なるべく早く行くから、もうちょっと待ってて」
 稲生:「お手数お掛けします。……はい、では」

 稲生は電話を切った。

 威吹:「ユター、電話終わった?早いとこ朝餉を」
 稲生:「あ、うん」

 食卓に行くと稲生の分も用意されていた。

 稲生:「すいません、急に押し掛けた上に……」
 さくら:「いいえ、構いませんよ」

 さくらは伊織を抱っこしていた。

 稲生:「頂きます」
 威吹:「あれ?ユタ、御題目三唱とやらはしないの?」

 威吹がニッと笑った。

 稲生:「やめてくれよ。神社でそんなことはできないよ」
 威吹:「ははははっ!」
 さくら:「本当に仲がよろしいんですのね」
 稲生:「すいません、昔馴染みなもので。……あ、先ほど僕の姉弟子に連絡しまして、迎えに来てもらえる算段を付けたので、もう少しだけいいでしょうか?」
 さくら:「もちろんですよ。ゆっくりしていってください」
 威吹:「うんうん。ユタとは、僕を呼び出した報酬について相談をしないとな」
 稲生:「ハハハハ……」

[同日08:00.天候:晴 同場所]

 別の和室に移動して、そこで話し合う稲生と威吹。

 稲生:「びっくりしたよ。そう言えば確か、さくらさん、身籠っていたとは聞いていたけど……」
 威吹:「伊織という名はさくらが付けた。僕的にはあと1人欲しいところだけど」
 稲生:「知ってたら、出産祝いを……。あっ、そうだ。それもプラスしよう。このカタログの中から選んで」
 威吹:「かたじけない。……というか、キミはいつもこういうのを持ち歩いているのかい?」
 稲生:「いや、予知能力向上の為に毎朝占いをしているんだ。今日1日必要なものは何かをね。そしたらこれがあったんだけど、やっと僕の占い、当たるようになってきたなぁ……」
 威吹:「空恐ろしい話だ。それで、僕的には、やはりさくらには栄養のある物を食べさせて……と思うわけだよ」
 稲生:「うんうん、そうだね」

[同日11:00.天候:晴 同場所]

 坂吹:「でやぁーっ!!」
 威吹:「浅い!もっと踏み込め!!」
 坂吹:「はい!!」

 稲生と話が終わった威吹は、坂吹に稽古を付けている。
 取りあえずスマホの充電が終わった稲生は、ネットに繋いで注文しようかと思ったが……。

 稲生:「いっけね。魔界からじゃアクセスできないんだった。マリアさん達に迎えに来てもらったら、取りあえず実家に戻らないとなぁ……」

 縁側に座ってスマホの画面を見ていた稲生はそう呟いた。
 その時、バタバタと外に向かって走って行く坂吹の姿があった。

 稲生:「ん?」
 威吹:「来客だ。それも、ただの参拝客じゃない。多分、ユタの仲間の魔女達じゃないか?」
 稲生:「おおっ!やっと来てくれた!威吹、僕は帰る準備するから、先生達には待っててもらえる!?」
 威吹:「分かった分かった。玉串料せしめてくるよ」

 稲生は休憩室として使っていた和室に戻り、ローブを羽織った。
 それから、できたばかりの魔法の杖を持って外に出た。

 イリーナ:「あー、はいはい。何もしないから」

 坂吹が妖狐の姿に戻って、犬のように唸り声を上げていた。

 稲生:「イリーナ先生!マリアさん!」
 マリア:「ユウタ……」
 イリーナ:「やほー!迎えに来たよー!」

 イリーナはムギュッと稲生をハグした。

 イリーナ:「いやー、よくあの冥鉄電車から脱出できたねぇ!偉い偉い!」
 稲生:「せ、先生……」

 イリーナの巨乳が稲生の顔を飲み込んでいる。

 マリア:「師匠!ユウタが窒息しちゃいます!」
 稲生:「ガクッ……」

 チーン!Ω\ζ°)

 威吹:「こ、この色ボケ魔女が……!」

 イリーナは地面に魔法陣を描くと、その中にマリアと意識を失った稲生を入れ、呪文を唱えた。
 冥鉄列車には乗らず、このまま魔法で人間界へ戻るつもりらしい。

 イリーナ:「それじゃ皆さん、どうも。うちの弟子がお世話になりました」
 威吹:「あ、ああ。ユタに、また来てくれと伝えておいてくれ」
 イリーナ:「了解!それじゃ!」

 魔法陣が淡いピンク色に光り、その中にいた魔道師達を包み込んだ。
 光が消えると、魔法陣ごと無くなっていた。
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“大魔道師の弟子” 「魔界稲荷」

2017-07-29 10:05:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[魔界時間7月4日06:10.天候:晴 アルカディアシティ南部・サウスエンド地区]

〔「まもなくサウスエンド、サウスエンド。南端村入口、日本人街です。お出口は、左側です。各駅停車で参りましたが、当駅より先、デビル・ピーターズ・バーグまで急行電車となります。停車駅にご注意ください」〕

 威吹:「ユタ、着いたよ」
 稲生:「ん……?あー、ここか」

 ついうとうとしてしまった稲生だった。
 魔族の乗客が多い地下鉄では、なかなかそうはいかないのだが。
 環状運転を行う電車であっても、平気で途中駅から準急や急行、或いは各駅停車へと変更するのがここの環状線。
 大抵は比較的規模の大きい駅で種別を変えることが多い。
 これは日本の鉄道ほど定時性が確保されているわけではないので、運転間隔調整の為に行ったのが定着したもの。
 似たようなことは、ニューヨークの地下鉄で行われている。
 大幅な遅延が発生すると、回復運転の為に各駅停車が急行に変化することがあるとのこと。

〔「サウスエンド〜、サウスエンド〜。3番線の電車は外回り、急行電車です。停車駅はヘル・エ・ヴィス(恵比寿?)、ドワーフバレー(渋谷?)、インフェルノタウン(新宿)、デビル・ピーターズ・バーグ(池袋)です。各駅停車をご利用の方は、4番線で次の電車をお待ちください」〕

 元が魔王の君臨する世界、町であった為に、今でも地名は物騒なものが多い。
 後から開通した地下鉄は、◯◯番街とかが多いのとは大きな違いだ。
 こちら側には埼京線や湘南新宿ラインなど、実質的な快速運転を行う路線が無い為、環状線側で急行運転をするのだろう。
 幕式の行き先表示がクルクルと上から下へと変わる。

『環状線急行 外回り』『Loop line Express Outer train』

 1両おきに日本語表記と英語表記にするという。
 前面ではどういう表記にしているかというと……。
 側面の表記と似たような表示になっている。

『環状線急行 外回り』『Exp.Outer line.』

 更には魔族の係員がヘッドマークを付けている。

『デビル・ピーターズ・バーグまで急行』『Express for D.P.B.』

 稲生:「…………」
 威吹:「写真でも撮る?ユタ」
 稲生:「だからスマホの電池が無いって」
 威吹:「おっと……」

 公用語が日本語と英語の国ならではか。
 この王国は魔王がアメリカ出身の女王で、首相が日本人だからだろう。

 稲生:「じゃ、行こうかな」
 威吹:「こっちだよ」

 因みにここの高架鉄道は日本の鉄道と同じく左側通行である為、外回りがアウターになるのだろう。
 内回りと外回りの区別の付け方は簡単。
 日本の鉄道は左側通行で、◎を描き、その外円が外回り、内円が内回りなだけだ。
 鉄ヲタの稲生ですら間違ったのは、この鉄道会社の紛らわしさ。
 地下鉄線は右側通行なのである。
 軌道線もまた右側通行であることが多い。
 一時期、一党独裁制を敷いた魔界民主党が、右側通行だった道路交通を日本と同じく左側通行へと強引に変更する施策を行ったことがあったそうだ。
 これには日本の鉄道システムを採用している冥界鉄道公社の威光もあったとされている。
 しかし、軌道線(路面電車)も多く抱える魔界高速電鉄は猛反発。
 電気事業も行っているこの鉄道会社、何と党本部や関係施設の送電だけを止める強硬手段に出た。
 民主党側も国家反逆罪として、魔界高速電鉄の屋台骨である鉄道事業停止処分を下すなどした。
 その為、王都内の電車が全て運行をストップした日が3日間続いたという異例の事態が続いた。
 これには乗り入れて来た冥鉄も悲鳴を上げる。
 実は冥鉄は人間界から迷い込んできた人間を運ぶだけではなく、貨物鉄道事業も行っていて、人間界からの物資を輸送するという重大な使命も帯びていたのである。
 貨物ターミナルの無いインフェルノタウン駅で足止めを食らった。
 冥鉄側が仲裁に入り、元々ニューヨークの地下鉄を参考にして開通させた地下鉄部門だけは恒久的に右側通行にすることとし、軌道線に関しても単線区間や支線などの本数の少ない路線で影響の少ない部分のみ左側通行という形を取らせた。
 その後、魔界民主党は立憲君主制を掲げる魔界共和党との民共内戦に敗北し、政権の座を引きずり降ろされる。
 議会における議席の殆どを確保した共和党は、ルーシー・ブラッドプールを新女王に担ぎ上げると、それまで民主党が行っていた強引な施策を解除している。
 道路も元の右側通行に戻されたが、地下鉄の方は左側通行に戻されず、今でも右側通行のままである。
 高架鉄道に関しては、冥鉄との兼ね合いからこれも左側通行が行われている。

 稲生:「……というわけなんだ」
 威吹:「なるほど」

 稲生の講釈を聞きながら、威吹は適当に相槌を打っていた。

[同日06:25.天候:晴 サウスエンド地区(南端村) 魔界稲荷]

 元々はサウスエンドと呼ばれている地区。
 今でも正式名称はそうなのだが、ここにいつの間にか日本人街が形成されると、サウスエンドを和訳した南端、そして日本人村なのだからと南端村と呼ばれるまでになった。
 だから先ほどのサウスエンド駅においても、駅名看板にカッコ書きで南端村と書かれている。
 魔界に迷い込んだ日本人達が作った村だとされ、現首相の安倍春明率いる魔界共和党の蜂起した村でもある。
 ここから共和党兵は環状線やその先にある地下鉄のトンネルを通って、魔王城への侵入を果たしている。
 で、この村の外れの小高い丘の上に真っ赤な鳥居が見える。
 大魔王バァル最終決戦での戦いの功績を認められた威吹がこちら側での市民権が与えられ、尚且つさくらと一緒に暮らす住まいを褒美として求めた所、何故か稲荷神社が建立された次第。
 白麗神社という名前なのだが、いつの間にやら「魔界稲荷」だとか「南端稲荷」とか呼ばれるようになった。
 その理由は、そもそも威吹や住み込み弟子の坂吹死屍雄が妖狐であること、禰宜のさくらが人間界にいた頃は稲荷神社にいたからであることが村人達に伝わったからだ。

 稲生:「ん?これは……」

 鳥居をくぐると両脇に狛犬があるのが別の神社。
 狛犬の代わりに狐がいるのが稲荷神社である。
 向かって左側は、赤い前掛けを着けた狐の石像なのだが、右側が……。

 威吹:「コラ!化けられてないぞ!」
 坂吹:「わわっ、すいません!」

 まるでバッキンガム宮殿の衛兵みたいに、直立不動で台座の上に立っている少年がいた。
 本来は左側の石像みたいに、狐に化けていたつもりだったのだろう。

 威吹:「妖狐のくせに化けるのヘタだなぁ……」
 稲生:「まあまあ。まるで門番みたいにカッコ良かったよ」
 坂吹:「エヘヘ、そうですか?」

 初めて会った時は随分とカタい感じだったが、あの時は緊張していたのだろう。
 今では打ち解けて、年相応の10代半ばの少年といった感じだ。

 威吹:「さくらは起きたか?」
 坂吹:「はい、先生。禰宜様は食事の支度をされておられます」
 威吹:「そうか。ユタの分も作ってもらうよう頼んでおくよ」
 稲生:「そんな、別にいいのに。すぐにイリーナ先生に連絡して、迎えに来てもらうように頼むから」
 威吹:「どうせここまで来るのに時間が掛かるだろ。僕はさくらに言ってくるから、ユタは適当に寛いでて。坂吹、ユタを案内して」
 坂吹:「了解しました。稲生さん、こちらへ」
 稲生:「う、うん。本当にいいのかなぁ……」

 稲生は困惑した様子で、坂吹の後を付いていった。
 威吹達の住まいの入口、玄関の扉をガラガラと開けるとそこにいたのは……。

 ①赤ん坊
 ➁白い狐
 ③逆さ女
 ④一振りの刀

(※バッドエンドはありません)
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