報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「真夜中の富士宮」

2017-07-02 19:52:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月2日02:32.天候:曇 静岡県富士宮市 富士宮富士急ホテル]

 漆黒の暗闇を走る旧国鉄165系電車。
 しかし、本当に闇の中を走っている為、どこを走っているか分からない。
 そのうち電車の周囲に、鈴(りん)の音が響いて来た。
 そして、日蓮正宗の御題目が響いてくる。
 電車は急に富士宮駅の旧・操車場跡地を走り抜けると、闇のトンネルの中へと吸い込まれて行った。

 稲生:「……はっ!」

 そこで目が覚めた。

 稲生:(夢か……。変な夢だなぁ……)

 ふと室内の時計を見ると、夜中の2時半を過ぎていた。

 稲生:「あ、そうか。丑寅勤行……」

 稲生はベッドから出て起き上がると、部屋のカーテンを開けた。
 部屋からは富士山が見える。
 富士宮駅前のホテルで富士山が見えるということは、大石寺の方に向いているということでもある。

 稲生:(昔は寝付けなかったり、こうやって夜中に目が覚めた時は丑寅勤行やったものだなぁ……)

 しかし、稲生は勤行の取り扱いを間違えていたことがあり、それを指摘されたことがある。
 恐らくどの日蓮正宗信徒もそうだろうが、初めて丑寅勤行をやったのが大石寺の客殿であることが多いだろう。
 代々の信徒の家で、家庭で丑寅勤行もやっていたという人は例外だろうが。
 稲生のような顕正会からの中途受誡組なんかは、ほぼ100%、丑寅勤行は大石寺の客殿で初めてやったというパターンだと思う。
 そういった場合、丑寅勤行に参加して、改めて宿泊していた宿坊の朝勤行に参加したという人がほぼ全員だろう。
 そこで説明が無いと、丑寅勤行をやった後で改めて朝勤行をしないとダメだと勘違いするのである。
 稲生はそこを勘違いしていたことがあり、そこを指摘してきたのは、当時同居していた狐妖怪(妖狐)の威吹であった。

 威吹:「坊主から、朝・夕・丑寅の刻の3回、勤行をやらないと救われないと教わったのかい?」

 と。
 威吹にしてみれば、妖怪にとって耳障りの勤行が顕正会時代よりも1回増えた形になり、それに対する苦情みたいなものだった。
 はたと気づいた稲生。
 改めて末寺の住職に聞いてみて、顔から火が出る思いであり、正に穴があったら入りたいという状態であった。
 答えはノー。
 丑寅勤行はお坊さん達にとっての朝の勤行であり、信徒がそれに乗っかって参加しているだけなので、本来はその後で改めて朝勤行をする必要は無い。
 ただ、大石寺登山中の場合、宿坊の住職が朝に勤行を行う為、再びそれに乗っかっているだけなのだ。
 なので家庭で行う場合は、1日3回もする必要は無いわけである。
 もちろん、回数オーバーしたから罪障を積むだとか、そういうことは無いのだが。

 稲生:「……な、こともあったったけなぁ……」

 稲生は懐古に浸りながら、トイレと水分補給を行った。

 稲生:(今の僕は退転中だから……)

 魔道師になるに当たって、基本的には人間時代の宗教は捨てることになっている。
 ましてや、魔道師を魔女として迫害するキリスト教などは論外。
 仏教ではそんなことは無いので、イリーナとしては稲生の自由にさせた。
 元々稲生は霊力が強く、それを更に引き出したのが法華経であるということは否めない事実だったからである。
 イリーナやダンテは、法華経の本当の意味について知っているようだが、それは教えてくれない。
 イリーナは師匠クラスの中では1番大らかな性格だから稲生の自由にさせたが、アナスタシアやポーリンなど、常に厳格な指導・育成を行う師匠ならば、例え仏教であったとしても棄教させたと思われる。

 稲生:「それにしても、あの165系は一体、何だったんだろう……?」

 冷蔵庫に入れたペットボトルの水を飲んで、稲生はまた思い出した。

 稲生:「そうだ!夢日記!」

 稲生はライティングデスクを前に座ると、早速手帳を取り出して、今の夢の内容を記載した。

 『暗闇の中を突き進む165系』『鈴の音と御題目』『富士宮駅の北側の留置線を進んで消えた165系』

 稲生:「あれ?これって……」

 稲生はここまで書いて、1つ思い当ることがあった。
 JR身延線は今でこそ最新型の313系で運行されている。
 これは2両で1台のローカル線用電車で、3ドア・セミクロスシートの車両である。
 セミクロスシートというのは、ドアや連結器の横は通勤電車のような横向きのロングシートになっており、それ以外の席は向かい合わせのボックスシートになっているタイプのことである。
 それに対し、165系というのは身延線内においては急行列車として運行されていた車両である。
 だが、もう1つの顔があった。
 それは、破門前の創価学会の大石寺登山列車である。
 富士宮駅1番線ホームは、線路とは反対側がそのまま駐車場に出れるようになっている。
 元々は学会員専用ホームで、専用列車が到着した後、学会員達はホームに横付けされた専用バス(大富士観光バス)に乗って大石寺へ向かっていた。
 法華講側も貸切列車は運行させていたが、勢力的には微々たるものだったという。
 1991年に創価学会が破門されたことで1番線ホームは廃止、多くの専用列車を休ませていた駅北側の電留線も、それこそペンペン草が生えるような場所になってしまった。
 それでも大石寺境内はペンペン草が生えるようなことは無かったが、実際に学会員がいなくなったことでペンペン草が生えた場所が発生したのは事実である。

 稲生:「でも、これが何だって言うんだろう……?学会員が敵として現れるってことか……?いや、まさかなぁ……」

 もちろん、夢日記だけでまだ夢占いができるほど稲生は修行が足りていない。
 ここは1つ、イリーナに聞いてみるのがベストだと思った。
 手帳を閉じた稲生は、再びベッドに潜り込んだ。

 稲生:(今頃、如来寿量品第十六の……どの辺りだろう?眠い目を擦りながら、客殿の……中……)

 稲生の次の夢の中で、闇の中を突き進む165系電車が別の形式に変化したのだが、それを夢日記に記載するのは失念してしまった。
コメント (2)
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