報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「最終電車」 埼京線 5号車・6号車

2017-07-21 19:55:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5号車]

 5号車もまた見た目は静かなものだった。
 ただ、この車両にも乗客の姿はあった。

 愛原:「敷島さん、他にも乗客はいるようですが……」
 敷島:「私が来た時には誰もいなかったんですが……」

 敷島氏は首を傾げた。
 どうやら、前の車両に行く度に乗客が多くなっているらしい。
 埼京線の上り電車は上り方向に行くにしたがって空いて行く傾向があるのだが、今回は逆のようだ。
 5号車に乗っている乗客は3人。
 それぞれがバラバラの位置に座っている。

 高橋:「先生、何かお通夜みたいに暗い連中ばかりですよ」
 愛原:「シッ」

 だが、高橋の言う事にも一理ある。
 私達から見て1番手前に座っているのは、地味なスーツの男。
 残業疲れて乗り込み、座ったら寝込んでしまった人のような感じだ。
 ……それってつまり、私達と同じように、この電車がいつもの終電だと思って乗り込んでしまった人ではないか?
 他に座っている客は、会社員らしき女性が1人と、女子高生らしき少女が1人だ。
 この2人もまた俯いている。

 敷島:「ちょっと失礼。お嬢さん」

 敷島氏は一番6号車よりの座席に座っている女子高生の所へ駆け寄って話し掛けた。
 ……見た目に反して、やっぱり中身はチャラい人なのか?

 高橋:「フン、やっぱり芸能界の人間だな」
 愛原:「まあ、いいじゃないか。見た目が可愛ければ、スカウトでもするつもりなんだよ」

 私は手前にいる男性客に話し掛けた。

 愛原:「お休みのところ、失礼します。ちょっといいですか?」

 私は男性客の肩を叩いたが、何の反応も無かった。

 高橋:「おい!先生がお呼びだぞ!スルーすんじゃねぇ!」

 高橋は男性客の胸倉を掴んだ。

 愛原:「やめなさい!」

 だが、その男性客は文句を言ってきたりはしなかった。
 言えない状態だったからである。
 何故なら……。

 高橋:「……死んでる!」
 山根:「うわ……!」

 高橋が手を放すと、まるで人形のように男は座席に座り込んだと思うと、電車の揺れでそのまま床に倒れた。

 敷島:「こっちも死んでる!畜生!何て電車だ!」
 高橋:「先生、これは……!」

 殺人事件!?いや、それにしては……。
 だが、その時だった!

 男性客:「アァア……!」
 女性客:「ウゥゥ……!」
 山根:「わあああああああ!!」

 男性客が起き上がって、私達に呻き声を上げながら近づいて来た。
 車両の真ん中に座っていた女性客もだ。
 そして、敷島氏が起こそうとしていた女子高生も!
 幸太郎君はショックで腰を抜かしてしまった。
 ゾンビ化!?これではまるで、霧生市のあれみたいじゃないか!

 敷島:「このやろ!!」

 敷島氏は掴みかかって来た女子高生ゾンビを逆に掴むと、反対側の3人席の窓ガラスに頭を突っ込ませた。

 高橋:「おおっ、ナイスだ!あのオッサン!!」

 高橋は敷島氏に感心すると、自分も同じように男性客を掴んで、こちらはドアの窓ガラスに頭を突っ込ませた。

 愛原:「でぇぇい!」

 私は私で連結器の横にある消火器を取り出すと、それで女性客ゾンビの頭部を攻撃した。

 高橋:「先生!」

 高橋が加勢に来た。
 とはいえ、その時にはもう女性客ゾンビは床に倒れていたので、あとは高橋が頭を踏み潰すだけで良かった。
 惨いと思うかもしれないが、ゾンビを倒すには頭を攻撃するのがベストだと、私達は霧生市で学んでいた。

 愛原:「幸太郎君!大丈夫かい!?」
 山根:「!!!」

 無理も無い話だが、惨たらしい死体と化したこの惨劇を目の当たりにしたことで、幸太郎君は4号車と5号車の間の連結器で嘔吐してしまった。

 敷島:「皆さん、大丈夫ですか!?」
 愛原:「ええ、何とか……。敷島さんこそ、どこか噛まれたり引っ掛かれたりはしていませんね?」
 敷島:「ええ、大丈夫です」
 高橋:「オッサン、強いな?」
 敷島:「こう見えても、様々なロボットテロを生き延びて来たから」
 高橋:「……特撮の話は別に機会にしろよな」
 敷島:「特撮!?いいなぁ!KR団との戦いを特撮モノにして、制作会社に売り込んでみるか!」
 愛原:「そんなことより敷島さん、もしかしたらこれ、バイオハザード電車かもしれませんよ」
 敷島:「バイオハザード電車?」
 愛原:「実は霧生市のバイオハザードを生還したのが我々なんですが、実はそこにゾンビが……」
 敷島:「あなた達も何か、ホラー映画とかに出演したことがあるんですか?」
 愛原:「えっ?」
 高橋:「バカ!霧生市だよ!あれだけテレビとかで大騒ぎになったじゃねーか!先生や俺もインタビュー出たんだぞ!?」
 敷島:「キリュウ市って、桐生市?群馬県でバイオハザードを取り扱った映画の撮影でもしたの?」
 高橋:「だから違うって!」
 愛原:「敷島さん、どうやら私達とあなたは別世界を生きる人間なのかもしれない」
 高橋:「先生?」
 愛原:「幸太郎君がさっき言ってたことだよ。少なくとも、この電車の常識性は見た目だけで、実はとんでもないことが起きているのは見ての通りだ。俺はこの電車にバイオザードでも発生したのかと思ったんだけど、どうやらそれとも違うのかもしれない」
 敷島:「同感です。そもそも今、どこを走ってるのか定かじゃない。正直、亜空間トンネルの中だと言われても信じれそうな状況ですよ。このまま異次元の世界へ行ってしまうとされても、信じてしまえるくらいです」
 愛原:「とにかく、1番前の車両に行ってみましょう。そこに行っても何も無いかもしれませんけど、とにかく、このままいつどの駅に到着するか分からない電車に乗り続けるよりはマシだと思うんです」
 高橋:「俺も先生の意見に賛成です」
 山根:「ぼ、僕も……。1人でこんな所にいたくない……」
 敷島:「最初から先頭車に行くべきだったか。ま、しょうがない。とにかく、行きましょう。私が後ろの車両に逃げてる間に、前の車両では惨劇が起きてたみたいです」

 埼京線は10両編成。
 ようやく折り返し地点にやってきた。
 6号車の扉の先には、今度は何が待ち受けているのだろうか?
 ハンターか?それともタイラントか?洗脳された女性猛者やファミパンおじさんがいたりしたら、私達はもう全滅だが。

 高橋:「!?」

 6号車のドアを開けて中に入った私達。
 そこで待ち受けていたのは……。

 男:「うおーっ!待て!そこを動くなーっ!!」
 愛原:「!?」

 7号車側から一目散に走って来る中年男だった。
 何だかヤバそうな雰囲気だ。
 どうする?

 ①その場で立ち止まる
 ➁急いで避ける
 ③タックルしてやる
 ④立ちはだかる
 ⑤こちらも大声を出す

(※バッドエンド直行が含まれているので、注意してください)
コメント (6)
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“私立探偵 愛原学” 「最終電車」 埼京線編 4号車

2017-07-21 12:24:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[JR205系4号車]

 3号車に棲む水の化け物の待ち伏せを交わし、4号車へと足を踏み入れた私達。
 高橋が蹴破った4号車側の貫通扉を直している。

 山根:「お兄さん、凄い脚力……」
 高橋:「ナメんじゃねぇ。おい、そっち持て」
 山根:「うん」

 私は4号車の中央辺りの座席に1人座り、頭を抱え込んでいる1人の男の姿を発見した。

 愛原:「おい、高橋君。あそこに誰かいるぞ?」
 高橋:「えっ?」
 愛原:「ドアはまだ直らんのか?」
 高橋:「もう少しです」
 愛原:「そのまま直しててくれ。俺はちょっと行ってくる」
 高橋:「あっ、先生。お気をつけて」

 私は高橋の掛け声に手を挙げて答えると、男の元へ駆け寄った。

 愛原:「すいません。あの、乗客の方ですよね?」

 男はスーツ姿だった。
 上げた顔は憔悴しており、彼もまたこの電車内において怪異を体験してしまった人間の1人だと推察できた。

 男:「! まさか、あなた達は後ろの車両から来ました?」
 愛原:「ええ。1番後ろの車両からです」
 男:「隣の車両に変なヤツがいませんでしたか?」
 愛原:「そうなんです。何とか掻い潜ってこっちまで来ました」
 男:「凄い、猛者だ!」

 男は少し薄汚れていた。
 何というか、スーツ姿のまま洞窟探検でもしたかのような……?

 男:「私は前の車両から来たんです。電車がなかなか駅に止まらないので、車掌に問い合わせようとしたんですが、向こうの化け物に阻まれて……」
 愛原:「あいにくと私達はその逆です。何故なら、乗務員室に車掌がいなかったんですよ」
 男:「ええっ!?」
 愛原:「それじゃしょうがないからと、今度は運転室を目指している所です」
 男:「そうだったのか……。やっぱりこの電車、変だ……」
 愛原:「そうですね。……あ、申し遅れました。私、都内で探偵事務所を経営している愛原と申します」

 私は名刺を差し出した。

 男:「あ、これはどうもご丁寧に。私は同じく都内で芸能事務所を経営している敷島と申します」

 男が差し出した名刺には、『四季グループ100%出資子会社 (株)敷島エージェンシー 代表取締役社長 敷島孝夫』と書かれていた。
 私も小さな探偵事務所経営なので人のことは言えないが、聞いたことの無いプロダクションだ。
 もしかして、AVとかそっち関係か?
 芸能界の関係者というとチャラいイメージがあるのだが、この敷島という男はどちらかというと誠実そうに見える。
 歳の頃は私と同じくらい?それとも、私の方が少し年上か?それくらいに見えた。
 いずれにせよ、アラフォーであることに違いは無いだろう。
 ただ1つ、私と違う所は彼の左手薬指には結婚指輪がしてあることだ。

 高橋:「聞いたこと無い事務所だな」
 愛原:「失礼だぞ、高橋。どうです、敷島さん?愛想は無いけどこのイケメン、歌も上手いんでスカウトします?」
 敷島:「あー、申し訳無いですけど、うちではちょっと……」
 愛原:「ですよね」
 高橋:「俺はあんなチャラい世界に行くつもりはありません」
 愛原:「だよなぁ……。勿体無い」
 山根:「あのー、こんなことしてる場合じゃないんじゃ……?」
 愛原:「おっ、そうだった。とにかく、後ろの車両では何も解決できません。敷島さんは何号車に乗ってらしたんですか?」
 敷島:「そ、それが……」

 敷島氏が困惑した顔になった。

 敷島:「覚えてないんですよ」
 愛原:「覚えてない!?」
 敷島:「ええ。気がついたら、この電車に乗っていたんです。ただ、乗務員室は見当たらなかったので、先頭車や最後尾ではないなと思いましたが……」
 高橋:「酔っ払ってたのか?」
 敷島:「いや、酒を飲んだ記憶も無い。俺は北海道に仕事で行ってたんだ。詳しいことは言えないが、とある別荘地を探索中に大きな爆発に巻き込れて……。たまたま俺はその地下の……水脈辺りにいて……」
 高橋:「何言ってんだ、コイツ?」
 愛原:「まあまあ。敷島さんの所の事務所のタレントさん、北海道の秘境探検番組にでも出てらしたんですか?」
 敷島:「いや、そんなことじゃないですよ。北海道の札幌ドームで、『北海道ボーカロイドフェスティバル』があって、そこにうちのボカロ達を連れて行ったんです。その後でちょっと用があって……」
 高橋:「おい、オッサン。さっきから何ワケ分かんねーこと言ってんだよ?札幌ドームでボーカロイドフェスティバルぅ?そんなの聞いたことねぇよ」
 敷島:「これがそのパンフレットだ!結構、首都圏でもテレビやラジオなどで告知したんだぞ?」

 私はよれよれになったパンフレットを見た。
 そのパンフレットには、あの有名な初音ミクなどのボーカロイド達がアイドルの衣装を着てポーズを決める様子が写っていた。

 愛原:「あの、敷島さん。これはボーカロイドのコスプレをしたレイヤーアイドルさんのライブなんですか?」
 敷島:「コスプレじゃなくて本物ですよ!本物のボーカロイドです!」
 高橋:「ボーカロイドってのはよ、バーチャルアイドルだろ?ロボットじゃあるまいし……」
 敷島:「ロボットというか、ガイノイドだよ。中身は機械だらけだけどな」
 愛原:「いや、ちょっと待ってください、敷島さん。あなたの言ってることが本当なら、リアル鉄腕アトムの世界ですよ?敷島さんの知り合いに、ジェットエンジンで空を飛んで、10万馬力のロボットでもいるっていうんですか?」
 敷島:「ええ、私の秘書がそうです。まあ、10万馬力も無いですけど。緊急離脱用に、超小型ジェットエンジンを搭載したブーツを履いています」
 愛原:「アトムのジェットエンジンは後付けだったっけ???」
 高橋:「先生、こんなラリー屋の言ってること、本気にする必要はありません。とっととボコして前の車両に行きましょう!」
 愛原:「せんでいい。とにかく敷島さん、申し訳無いけど、私はあなたの言ってることが全て初耳でとても信用できません」
 敷島:「そんな……!そうだ!本人に連絡を取りますから!」

 敷島氏はスーツのポケットからスマホを取り出した。

 敷島:「うわっ、電池切れだ」
 愛原:「申し訳無いですけど、この電車はどうも異世界そのもののような気がします。私達は最近この電車に乗ったばかりなんですが、どういうわけだか圏外な上に時計も動いていない有り様で……」

 私は自分のスマホを敷島氏に見せた。

 敷島:「7月!?」
 愛原:「ん?」
 敷島:「今は7月なんですか!?」
 愛原:「そうですよ。まあ、多分今は日付が変わって4日になっているとは思いますが……」
 敷島:「私が北海道にいたのは5月のゴールデンウィークです。で、気がついたらこの電車に乗っていたんですよ」
 愛原:「どういうことですか!?」
 高橋:「先生、こいつラリってるだけですよ」
 敷島:「この電車、何線なんですか?」
 愛原:「埼京線です。私と彼は大宮駅から、このコは指扇駅から乗ったそうです」
 敷島:「私は北海道にいたのに、どうして……?というか、もうこのタイプの電車は走っていないはず……」
 山根:「まるでこの電車、別世界と別世界を結ぶ線路を走る電車みたいだ」

 と、幸太郎君がそんなことを言った。

 愛原:「幸太郎君……?」
 山根:「何か、漫画で似たような話のヤツを見たことがある!電車は出てこないけど……」
 愛原:「別世界と別世界を結ぶ電車か……」

 私は敷島さんの名刺やパンフレットを見た。
 もし高橋君の言うようなジャンキーだったとしたら、こんな分かりやすいものは持ち合わせてはいないだろう。
 それに、敷島さんはちゃんと受け答えができているし、何よりベタなラリー屋の法則と違って、目がイッてることもない。
 この電車で起きていることといい、私は探偵でありながら、つい幸太郎君の突拍子も無い発言が正しいように思えてしまった。

 愛原:「とにかくです。敷島さんは先頭車の方には行っていないわけですね?」
 敷島:「ええ」
 愛原:「後ろの車両に行っても車掌はいませんでした。敷島さんも会っていませんね?」
 敷島:「ええ。もし会っていたら、捕まえて問い質していますよ」
 愛原:「ならばやっぱり、先頭車に行く必要があるというわけですよ。途中に危険はありましたか?」
 敷島:「いや、不気味なくらい何もありませんでした。まるで回送電車のように、他に乗客もいなくてですね……。私が乗っていた車両には何人かいたんですが、あの人達はどうしたのやら……?」
 愛原:「分かりました。とんでもなく嫌な予感がしますが、とにかく先頭車に向かいましょう」

 私はそう言って、次なる5号車への扉を開けた。
 5号車の扉は何の引っ掛かりも無く、簡単に開くことができた。
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