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報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「夏合宿に向けて」

2025-05-30 20:19:01 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月7日12時00分 天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 善場係長との打ち合わせは、午前中いっぱいまで及んだ。

 善場「次はリサ達の夏合宿になりますね」
 愛原「本来、リサは受ける必要は無いということは分かっているんですが、これも社会経験ですので」
 善場「結構です。もう1つ懸念するべきは、確かリサを襲おうとする男が秋田にいるとか……」
 愛原「それなんです。今度のお盆の時期に満月になるので、鬼達の血が騒ぎ出すわけです。ましてや、上野流太はリサに勝ったものですから……」
 リサ「あのクソ野郎、わたしより強い電撃なんだもん」
 善場「対策は立てているのでしょうね?」
 愛原「まずは栃木の天長園に移動します。夏合宿の事は太平山美樹も参加者ですので、家族はそれを知っています。当然です。ただ、田舎ですので、村中にその話は知れ渡るでしょう」
 善場「つまり、リサもまた参加者で、天長園に移動していると知られるわけですね」
 愛原「そうです。こう言っては何ですが、戦闘の場所が都内よりは、栃木の山奥の方がマシでしょう」
 善場「板室温泉って、そんな山奥でしたか?」
 愛原「いずれにせよ、天長園の敷地は、天長会の宗教施設と合わせても広いので、戦闘の場所としては適地かと」
 善場「もう1つ懸念があります。合宿というからには、他の参加者もいるわけでしょう?その方達が巻き込まれないようにしませんと」
 愛原「満月の日は合宿3日目です。……因みに合宿は3泊4日ですが。3日目の夜は、息抜きの為にイベントが行われます。その時がチャンスだと思っております」

 その時だけリサと美樹には離脱してもらい、上野流太を何とかするという計画だ。
 イベントの時は他の参加者達はホテルを離れている為、戦闘に巻き込まれる心配は無い。

 善場「承知しました。この件に関しましては、デイライトとしては関知しませんので、所長にお任せします」
 愛原「分かりました」

 バイオテロに関する事以外は、基本的にノータッチなのである。
 打ち合わせは、これで一旦終了した。
 最後に係長に挨拶して、デイライト事務所をあとにした。

[同日12時35分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所]

 私とリサは迎えに来ていた新庄タクシーに乗り込むと、それで自分の事務所に帰所した。
 帰りのタクシー代も、後でデイライトが出してくれるという。

 新庄「お疲れさまでした」
 愛原「お世話さまでした」

 わざわざガレージの中まで、バックで入ってくれる。

 愛原「今日は新庄さんが監視役なんですか?」
 新庄「いや、ハハ……。単なる事務所の電話番ですよ」
 愛原「タクシーの仕事は?」
 新庄「今日は夜に行こうと思います。月曜日ですから、色々と需要のある所がありますものでね」

 タクシーの仕事は、テラセイブの隠れ蓑でやっていると思っていたが、結構ガチめにやってるのかな。
 そんな時、仕事量を自分で決められる個人タクシーは最適かもしれない。
 ガレージの中は空調が無いので、タクシーを降りるとムワッとした熱気が私達を襲う。
 そこから逃げるようにエレベーターに乗り込んだ。
 エレベーター内も空調は無く、天井のファンが回っているたけである。

 パール「先生、お帰りなさい」
 愛原「ただいまァ」

 さすがに事務所の中は冷房が効いて涼しい。

 リサ「お腹空いたー」
 パール「ホットサンドを作っておきました。冷蔵庫に入っておりますので」
 愛原「それはありがたい。リサ、早速食べよう」
 リサ「うん。先生のレンチンしておくねー」
 愛原「悪いな」
 パール「デイライトはどうでした?」
 愛原「色々と話を聞いてきたよ。BSAAから仕事を回してもらえて良かったな?」
 パール「おかげさまで……」
 愛原「ま、嫌味になってしまったが、現況を聞くとしょうがないと思う面はあるな」
 パール「御理解賜り、ありがとうございます」
 愛原「BSAAなら、常に上空をヘリが旋回している状態だろうから、それと比べたらマシだよ」
 パール「テラセイブは、基本的に後方支援が主な任務ですので」

 ホットサンドを温めてきたリサが、それを持って来ながら話す。

 リサ「実際には、レイチェルが泊まり込みに来るんじゃない?」
 愛原「レイチェルが?」
 リサ「軍用のライフルとかショットガン持ってきて」
 愛原「それは物騒だな。……ん?まさか、テラセイブも?」
 パール「ここは日本ですから。確かに後方支援が主とはいえ、現場では危険が付き纏うわけですから、戦闘訓練は受けますよ。ですので、メンバーの殆どが何らかの戦闘力があるわけです」
 愛原「パールのナイフ捌きとかもか?」
 パール「……はい」

 確かにテラセイブ日本支部の事務所には軍用の銃火器の類は置かれていないが、それでも日本では合法的なものは置かれている。
 猟銃とか、ガラクタや廃材から手作りしたという火炎放射器(カセットコンロで使用するガスボンベを使って、火炎放射できるもの)とか、グレネードランチャーなどがある(法律対策の為、弾は常備していないとのこと)。
 実際に使用することは無いのだろうが、もしも私が今、白井に体を乗っ取られようなものなら、パールはナイフくらいは使ってくるかもしれない。

 愛原「リサ、美樹はいつ上京するんだ?また飛行機か?」
 リサ「合宿の始まる前日に来るって言ってたから、10日だね。何で来るかは、後でLINEで聞いてみる」
 愛原「頼むよ」

 前回飛行機で来たのは、TS進学会の申し込み時間に間に合わせる為というのがあったらしいな。
 今回はそういう縛りは無いわけだから、無理して大館能代空港から飛行機で来る必要も無いわけだ。

 リサ「先生は合宿、一緒に来るんだよね?」
 愛原「ああ。さすがに同じ車両じゃないけどな」

 往復共に貸切バスを使う事が多い学習塾や予備校の合宿だが、TS進学会は何故か往復共に新幹線を使うらしい。
 そして、那須塩原駅から地元のバス会社のバスを貸し切って、そこからホテル天長園に向かうらしい。
 列車そのものを貸切にしたり、団体臨時列車を仕立てて……というわけでもなく、普通車を何両か貸し切るだけのようだ。
 ということは、他の車両は一般人が乗っているわけだから、私もそこに便乗すれば良い。
 貸切バスにはさすがに乗れないので、タクシーを使うことになるか。
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“私立探偵 愛原学” 「閉じ込められた亡霊」

2025-05-30 18:58:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月7日10時00分 天候:曇 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 翌日の月曜日になり、私はリサを伴って新橋のデイライト事務所へと向かった。
 いつもなら電車やバスで行くところ、何故かテラセイブ日本支部長にして個人タクシー運転手の新庄氏のタクシーで向かうことになった。

 愛原「私の監視の為ですか?」
 新庄「……詳しい事は、テラセイブとしてはお話しできないことになっています。それについても、デイライトさんからお話しがあると思いますので、その時に」
 愛原「分かりました」

 タクシー代は立替払いになるが、どうもデイライトさんが後で払ってくれるらしい。
 そこで領収書をもらっておいた。

 新庄「後でお迎えに参ります。行ってらっしゃいませ」
 愛原「ど、どうも……」

 新庄氏のタクシーは黒塗りのクラウン。
 ハイヤーに使われるものと同じ車種なので、まるで偉くなったみたいだ。
 まあ、屋根の上には『個人』と書かれた提灯型の行灯が載っているのだが。
 デイライトの事務所の前でタクシーを降りると、私とリサはその中に入った。
 リサは別に来なくて良いのだが、ついて来たがった。
 まあ、タクシーなら追加料金を払うこともないので、それならばと連れて来た。
 リサは何故か私服ではなく、学校の制服を着ている。
 上は盛夏用のポロシャツではなく、半袖のブラウスを着ていた。
 夏服はライトグレーのプリーツスカート、上はJR山手線または都営地下鉄新宿線のラインカラーに酷似した色のブラウスが制服である。
 左胸の所には校章の入ったワッペンが付いている。
 デイライトに行くのに、私がスーツを着ているから、リサも制服で来たという感じである。

 善場「愛原所長、お疲れさまです。御足労ありがとうございます」
 愛原「善場係長、いつもお世話になっております」
 善場「リサも人間に化けるのが上手くなりましたね?」
 リサ「……今さら?」

 応接会議室に通される。
 外は茹だるような暑さだが、デイライトの事務所内は冷房が効いて涼しい。

 善場「まずは昨夜の静岡出張、お疲れ様でした」
 愛原「勝手な行動をして申し訳ありませんでした」
 善場「いいえ。所長からは事前にメールを頂戴していたものの、こちらが多忙につき、確認できなかっただけのことです。こちらの……個人的な心情と致しましては、それでもこちらの回答をお待ち頂いてから出張して頂きたかったというのはあります」
 愛原「……ですよね。失礼致しました」
 善場「とはいえ、所長の心情を鑑みれば、急ぎ対策を取りたいというのも理解はできます。結果的には特に危急の支障が出たわけではないようなので、その話はこれで終わりにしましょう」
 愛原「ありがとうございます」
 善場「報告書の方、拝見させて頂いても?」
 愛原「はい。こちらになります」

 私は昨日作成した報告書を係長に提出した。
 それを確認する係長。

 善場「……なるほど。新幹線の中を探索するという感じになったわけですね」
 愛原「はい。とても非現実的な話ですが……」
 善場「非現実的な物を現実的にするというのが、特異菌の特徴ですからね。けして、オカルト話で終わる内容ではございません」
 愛原「これは特異菌の影響なのですか?」
 善場「その特徴によく似ています。別に、今の所長はそれに感染しているというわけではありません。特異菌の特徴として、感染して治療薬を投与したとしても、それそのものはGウィルスと同様、体の中に残ってしまうのです。そして時折、夢や幻という形で、影響が出ることがあるようです。これは今の科学力では、どうしようもできません」
 愛原「そうですか……」
 リサ「今でも学校の人達、変な夢や幻を見ることがあるからね。で、それを操るわたし……」
 善場「イタズラは、ほどほどにするのですよ?」
 リサ「はーい……」

 今のリサは特異菌やGウィルスを操る側だから、特異菌による症状(モールデッドなどのクリーチャー化、BOW化)は無くても、元感染者に夢や幻を見させる影響くらいは与えられるようだ。

 善場「次は栃木の天長会で、新たな儀式を受けられるのですね?」
 愛原「はい。今度は同じ失敗をしないようにしたいと思います」
 善場「かしこまりました。この報告書を拝読しますと、斉藤早苗と白井伝三郎は『新幹線00号』の中に閉じ込められているようですね。天長会の支部長が愛原所長に、『悪夢を見ることはない』と仰ったのも、それが理由でしょう。白井はグリーン車に閉じ込められ、斉藤早苗は普通車に閉じ込められているといったところでしょうか」
 愛原「ということは、私はもう白井に体を乗っ取られる心配は無くなったということでしょうか?」
 善場「まだ、何とも申し上げられません。何しろ現在は、未知の領域ですので。何が起こっても不思議ではない、といった感じです」
 愛原「なるほど……」
 善場「唯一前例があると思われる、ナタリア・バートン氏に照会している状態ですが、今のところは返信がありません」
 愛原「ええっ?」
 善場「ナタリア氏の養父であるバリー・バートン氏はBSAAの一線を退いて顧問職となっていますし、令嬢のモイラ・バートン氏はテラセイブの職員ですので」
 愛原「そうですか……。そのテラセイブなのですが、私は監視対象になったのですか?」
 善場「先ほども申し上げました通り、今は何が起きても不思議ではないわけです。現況では白井は特異菌が見せていると思われる世界の中に閉じ込められているようですが、これとて仮定です。実はいつでも抜け出せる力は持っていて、所長の体をいつでも乗っ取れる状態ではあると言っても否定はできないわけです」
 愛原「う……」
 善場「最悪の事を想定すれば、監視対象は致し方無いかと」
 愛原「ですよね」
 善場「さすがにBSAAが直接監視するのは支障があるのか、テラセイブに委託したようです。今のBSAAは、後方支援を他の協力組織に委託することが多くなっているようでして」
 愛原「なるほど」

 幸いなのは、テラセイブの日本支部メンバーの殆どが私の知っている顔だということだ。
 そことしては、仕事があまり無く、出張所状態になっている日本支部事務所が、本当に支部事務所になれるチャンスなのかもしれない。
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“私立探偵 愛原学” 「帰京してからの事」

2025-05-30 15:09:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月6日08時44分 天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東海道本線1548E列車・5号車内→JR(東日本)東京駅]

 帰りの交通手段は、新幹線から在来線に切り替えて正解だったようだ。
 熱海から東京まで、在来線普通列車で行くと2時間弱掛かる。
 その間にトイレに立ったりするわけだが、鏡に斉藤早苗が現れるといった事は無かった。
 恐らく今、新幹線00号に閉じ込められているのだろう。
 私1人だけ脱出してしまい、申し訳無いことをした。
 次回は必ず助けてあげようと思う。

 愛原「あ……!」

 電車が新橋駅を出て、次は東京となった時、私は降りる準備をしようと席を立った。
 平日の今なら朝ラッシュ真っ只中で、グリーン車ですら立ち席が出るほどだろう。
 しかし、日曜日の今は満席にもなっていなかった。
 席を立ってから、ふと進行方向右側を見た。
 東海道本線の線路の東側は、東海道新幹線が通っている。
 そこへ上りの新幹線が追い抜いていった。
 フルカラーLEDで、赤色の白抜き文字で“ひかり”と書かれている。
 スーッと新幹線の方が追い抜いて行く時、表示が……『新幹線00号』と変わり、窓には白い仮面を着けた斉藤早苗が……。

 リサ「先生……ダーリン!」

 パチッ

 愛原「わっ!」

 リサが私に軽い静電気を与えて来る。
 それで我に返ると、新幹線は既に東京駅の新幹線ホームに入線していった後だった。

 リサ「どうしたの?」
 愛原「いや、何でもない」

 私は網棚から鞄を下ろした。
 同時にこの電車も、東京駅の在来線ホーム7番線に進入した。
 どうやら、早苗は追い掛けてきたようだ。
 新幹線00号に乗って。

〔とうきょう、東京。ご乗車、ありがとうございます。次は、上野に、停車します〕

 電車はダイヤ通りに東京駅に到着した。
 ここで降りる乗客は多い。
 私とリサも、その波に乗った。

 リサ「ここからどうするの?」
 愛原「パールが迎えに来てくれているらしい。八重洲南口に向かおう」
 リサ「分かった」

 幸いグリーン車は15両編成のうちの、比較的後ろの方に連結されている。
 東京駅だと南側に止まるわけである。
 その為、南口や中央口へのアクセスはしやすい。

[同日09時00時 天候:晴 東京都中央区八重洲 東京八重洲パーキング西駐車場]

 八重洲南口改札でパールと合流する。
 それから東京駅を出て、すぐ地下に下りた。
 そこは八重洲地下街の入口で、その通路の途中に地下駐車場への徒歩連絡通路がある。
 駐車場には事務所でリースしているNV200があった。
 こういうライトバンなら、どこにいても違和感が無い為、探偵の仕事には最適なのである。
 私とリサはリアシートに乗り込み、パールが運転席に乗り込む。

 パール「先生、御朝食は済まされましたか?」
 愛原「ああ。富士市のマックで朝マックしてきたよ。あとリサの場合、車内販売で色々買って食べてた」
 パール「そうですか」
 愛原「帰ったら、リサは少し仮眠するってよ」
 パール「では、お昼は……」
 リサ「食べる!」
 パール「……では、お昼は通常通りにご用意致します」
 愛原「よろしく」
 パール「では、出発します」

 パールは車のエンジンを掛けて、車を出した。

 愛原「領収証出しておけよ?」
 パール「分かっております」

 パールは駐車料金を払うと、領収証ボタンを押して領収証を発行した。
 それから駐車場を出る。
 今日は夕方まで晴れるらしい。
 夕方まで、というのは、夏の天気の特徴で、ゲリラ豪雨の恐れありということだ。
 地上に出ると、夏の太陽が眩しい。
 パールはサングラスを掛けた。
 リアシートのガラスにはスモークが貼られているが、それでも日差しは入って来るものだ。
 外堀通りに出て最初の赤信号で止まった時、パールがルームミラー越しに言った。

 パール「実は早朝、善場係長から電話がありました」
 愛原「な、何て!?」
 パール「今回の件を報告書にまとめて、明日報告に来てくださいとのことです」
 愛原「そうか……」

 勝手に儀式を受けたこと、怒られるかな?
 仕方が無い。
 その時は、精一杯謝罪しよう。
 それとも、先に菓子折り持参の方がいいかな?
 確か、森下駅の近くに良い和菓子屋が……。

 パール「それと先生、もう1つございます」
 愛原「何だ?」
 パール「しばらくはテラセイブの事務所に、メンバーが最低1人常駐することになりました」
 愛原「えっ、そうなの?」
 パール「はい。あくまでもローテーション制で、常に同じ人がいるわけではありませんけど……。新庄がいることもありますし、サファイヤやルビーがいることもあるかもしれません」
 愛原「ふーん……。何でまた?」
 パール「詳しい話は、また後でさせて頂きます。まずは事務所へ」
 愛原「分かったよ」

 テラセイブはテラセイブで、何かあったのだろうか。

[同日09時20分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所]

 無事に事務所に帰りつく。

 リサ「やっと着いた……」

 リサは車から降りると、大きな欠伸をした。

 愛原「寝るのはいいけど、あんまり寝過ぎると、夜寝れなくなるぞ?」
 リサ「分かってるよ。どうせお昼にはお腹が空いて目が覚めると思う」
 愛原「そうか」
 パール「先生もお休みになりますか?」
 愛原「いや、俺は実質的に寝てたから。今は眠くない。取りあえず、報告書を書こう。俺は事務所に行く」
 パール「かしこまりました。何かお飲み物、お入れします」
 愛原「ありがとう」

 日曜日だから直電するのは躊躇われた。
 その為、パールがコーヒーを淹れてくれている間、スマホで善場係長にメールを入れておいた。
 そして、PCの電源を入れる。
 パールはアイスコーヒーを淹れて来てくれた。

 愛原「ありがとう。それで、テラセイブに何かあったのか?」
 パール「私達の組織そのものではなく、BSAAから業務委託を受けただけです。そのおかげで若干ですが、日本支部が少し忙しくなるだけのことです」
 愛原「まさか、日本でバイオテロが……」

 そこで私はハッと気づいた。

 愛原「白井の事か!?」
 パール「はい。白井が肉体を乗っ取っていると思われる斉藤早苗の肉体は死にました。次の憑依先は、先生である可能性が高いですね?だからです」
 愛原「俺が監視対象というわけか」

 まだBSAAによる直接監視ではないだけマシなのかもしれない。
 善場係長が日曜日であるにも関わらず、今日中に報告書を書けと言ってきたのも、これが理由なのだろう。
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“私立探偵 愛原学” 「帰りは在来線で」

2025-05-27 09:39:26 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月6日6時39分 天候:晴 静岡県熱海市田原本町 JR東海道本線1424M列車・最後尾車内→熱海駅]

 電車は時間通りに走っているのだが、やはり私は儀式を失敗したようだ。
 東海道本線の函南~熱海間は、丹那トンネルという全長7804メートルもの長いトンネルがある。
 そこに入った時だった。
 私は儀式の最中ずっと体は眠っていた状態だったので、そんなに眠くなかったのだが、精神的には疲れていたこともあり、リサと同様、うとうとと舟を漕いでいた。
 トンネルに入ると、何故か誰かの視線を感じて目を開けた。
 日曜日の早朝ということもあり、車内は空いている。
 向かい側の窓を見ると、窓に私とリサの姿が反射して映っている。
 それだけなら何でもないのだが、何故か私の隣に誰かが座っているように見えた。
 実際には誰も座っていない。
 しかし、窓の方を見ると……。

 愛原「斉藤早苗……」
 
 東京中央学園上野高校の旧制服であるセーラー服を着用し、天長会の儀式用の白い仮面を着けている。
 その為、表情は分からないが、私の方を見ていることは分かった。

 リサ「ん……?」

 私の呟き声で、寝落ちしていたリサが目を覚ました。
 リサには姿を見られたくないのか、リサが目を開けると、早苗の姿は無くなった。
 やはり早苗は、私に何か文句があるようだ。
 次回、那須に行くのはお盆の時期。
 リサ達が予備校の夏合宿に行っている間だ。

 リサ「何かあった?」
 愛原「また、“花子さん”が出たよ」
 リサ「えっ、どこ!?」
 愛原「俺の隣に座ってた。リサが目を覚ましたら消えたけどね。ずっと俺の方を見ていて、何か言いたそうだったな。まあ、何が言いたいかは想像できるけど……」
 リサ「……わたし、起きてるね」

 そうしているうちに、電車はトンネルを出た。
 再び車内に夏の日差しが差し込んで来る。

〔「まもなく終点、熱海、熱海です。3番線に到着致します。お出口は、右側です。熱海駅からのお乗り換えを御案内致します。新幹線上り……」〕

 愛原「ここで、また乗り換えだ。ここから先はグリーン車に乗り換えよう。リサの分は後で払うから、今はリサのPasmoで立て替えておいてくれる?」
 リサ「分かった」
 愛原「後でチャージするから」

 

 そして、電車は熱海駅に到着した。
 ホームに降りると、ムワッとした熱気が私達を襲う。
 さっきの電車は、冷房が効き過ぎたようだ。
 それとも……幽霊も乗っていたからだろうか。

 愛原「東京方面は5番線だって放送で言ってたな。10分で乗り換えだから、少し急ごう」

 熱海駅は高架駅で、コンコースは1階にある形だ。
 ホームにも売店はあるが、朝早いので、まだ営業は開始されていない。
 ホームの自販機でペットボトルだけ購入した。

 愛原「グリーン車だと車内販売もあるから、そこで食べ物とか買えるかもしれない」
 リサ「おやつが買えるならいいね」

[同日6時49分 天候:晴 JR(東日本)熱海駅→東海道本線1548E列車・5号車内]

 

 ホームにあるSuicaグリーン券販売機にて、グリーン券を購入する。
 実際は手持ちのICカードに、グリーン券情報を登録するだけ。
 Suicaグリーン券と称しているものの、実際はPasmoなど、提携している他の交通系ICカードでも利用可である。
 それに乗り込み、車端部の平屋席に移動する。
 ここは網棚があるので、荷物を上に起きやすいのと、トイレや洗面所に行くのに便利だからである。
 その為、リサは先にトイレに行きたがった。
 なので、リサが戻って来るまでの間、通路側で待っている形になる。

〔この電車は東海道線、普通、上野行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、御了承ください〕

 こちらは自動放送が流れる。

〔「ご案内致します。この電車は6時49分発、東海道線、上野東京ライン上り、普通列車の上野行きです。終点の上野まで、各駅に停車致します。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 発車の時間が迫る頃、リサが戻って来た。

 リサ「トイレ、きれいだった」
 愛原「そうか。E231だと、まだきれいなんだな」
 リサ「ウォシュレットは無かったけど」
 愛原「それはしょうがない。新幹線とかじゃないと」

 ホームから僅かに発車メロディの音色が聞こえてくる。
 メロディは新橋駅とか、大宮駅とかでも流れてる汎用タイプだ。

〔5番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 ドアチャイムを鳴らしながら、乗降扉がガチャンと閉まる。
 同じ形式の通勤車両なら、普通にバンと閉まるのだが、何故か中距離電車タイプはガチャンという音がするのである。
 ドアロックのシステムが違うのだろうか。
 こちらの列車も、ダイヤ通りに発車した。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東海道線、普通電車、上野行きです。4号車と5号車は、グリーン車です。車内でグリーン券をお買い求めの場合、駅での発売額と異なりますので、御了承ください。次は、湯河原です〕
〔「おはようございます。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。6時49分発、東海道線、上野東京ライン回りの上野行きです。これから先、湯河原、真鶴、根府川、早川、小田原の順に、終点の上野まで各駅に止まります。【中略】東京には8時44分、終点の上野には8時52分の到着です。【中略】次は湯河原、湯河原です」〕

 駅を出ると、グリーンアテンダントが回って来た。
 夢の中のパーサーは女性だったが、こちらのグリーンアテンダントは男性。
 ついまた肉系を買うかと思われたリサだが、普通にスナック菓子を購入していた。
 どうやら今は、そこまで空腹ではないらしい。
 リサは欠伸をしながら、スナック菓子をボリボリと食べている。

 愛原「帰ったら、少し寝るといい。まあ、あまり寝過ぎて夜寝られになくなるとアレだから、昼寝程度にな」
 リサ「分かったよ」

 頷いたリサは、また欠伸をした。
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“私立探偵 愛原学” 「グッドエンドを逃す探偵」

2025-05-27 07:01:25 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月6日05時00分 天候:晴 静岡県富士市某所 宗教法人天長会 静岡支部2階・大広間]

 愛原「……はっ!」

 ここで私は目が覚めた。

 支部長「お帰りなさい」

 仰向けで寝ている私の顔を覗き込む人物がいた。
 それは天長会の支部長。

 愛原「そ、そうか……。帰ってきたのか……」
 支部長「夢の中で殺されはしなかったようですね。それはまず何よりです」

 私は起き上がった。

 愛原「こ、これで私は、もう悪夢を見なくて済むのでしょうか!?」
 支部長「恐らくは。それは1つの勝利でしょう。ですが、愛原さんは肝心な事を逃してしまいました。なので、完全な勝利ではございません」
 愛原「肝心な事?」
 支部長「愛原さん、あなたが『呪い返し』の儀式を受けに来た理由は何ですか?」
 愛原「それは、白井による『転生の儀』をキャンセルさせること……」
 支部長「その為には、本人の手から逃れなければなりません。しかし、あなたはそれをされなかったようだ」
 愛原「どういうことです?グリーン車で白井らしき人物を見つけました。まさかその時、私から何かアクションした方が良かったと?」
 支部長「いえ、その逆です」
 愛原「逆?」
 支部長「あなたは夢の中の新幹線を止めた時、すぐに脱出されましたね?」
 愛原「ええ」
 支部長「それが間違いでした」
 愛原「えっ!?」
 支部長「あなたは後ろの車両に行き、仮面の少女と再会するべきだった。それをしなかったのが、そもそもの間違いです」
 愛原「すると……この儀式は……」
 支部長「本来の目的は達成できなかった時点で失敗です。ただ、それまでの悪夢に魘されることはもう無いでしょうが」
 愛原「支部長、もう1回この儀式を受ける事はできますか!?」
 支部長「ここではもうできません。次回は那須の支部に向かわれますね?」
 愛原「は、はい」
 支部長「そこで改めて儀式を受けるのです。恐らく同じ内容の夢を見るでしょうから、その時、今回の反省を踏まえて行動すれば良いのです」
 愛原「なるほど……」

 それから着替えてリサと合流する。
 リサはずっと起きて徹夜していたのか、物凄く眠そうな顔をしていた。

 リサ「わたしはずっと起きていたよ……」
 愛原「そ、そうか。悪かったな」

 私達は今回の儀式に関わる御布施を渡すと、天長会の支部をあとにした。

 リサ「お腹空いた……」
 愛原「何か食べてから駅に向かおうか。幸いここは、比較的街中だから。この時間でもやってる店はあるだろう。

[同日05時59分 天候:晴 静岡県富士市本町 JR富士駅→東海道本線1424M列車・最後尾車内]

 

 市内のマクドナルドで朝マックをした私達。
 リサはやはり肉の多い、メガマフィンのセットを注文していた。
 徹夜して眠くても、食欲はあるらしい。
 それからタクシーを呼んで、JR富士駅へ。
 新富士駅に行かなかったのは、さすがに今日はもう新幹線はカンベンして欲しかったからだ。
 あの時、支部長にも言われたが、斉藤早苗が私の前に現れて色々アドバイスしてくれたのは、私の行動如何によっては、自分も成仏できると期待しての事だったのだろうと。
 なのでそれが叶わなかったことも、残念ながら1つの敗北であると言われた。
 もう悪夢を見ることは無いとは言われたが、幻覚を見ないとは言われていない。
 新幹線に乗ってて、斉藤早苗が現れて、何か言われるのが怖かったというのもある。
 リサにそれを話すと、リサは在来線ルートでも良いと言ってくれた。

 リサ「ダーリンの失敗はわたしの失敗。だから、気にしないで」

 と、言ってくれた。

〔まもなく4番線に、普通列車、熱海行きが到着します。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側まで、お下がりください。この列車は、6両編成です。……〕

 3両編成と3両編成を繋いだ、6両編成の電車がやってくる。
 前3両は313系と呼ばれる中堅の車両で、後ろ3両が211系という旧型の車両だった。
 どちらにしても、ロングシートでトイレ無しである。

 

 日曜日の早朝ということもあり、電車は空いていた。
 この駅でも、下車客がそれなりにいるくらいだ。
 最後尾に乗り込み、私達はドアの横に並んで座った。
 朝から暑いこともあり、車内は冷房の強い風が吹いている。
 この駅では1分だけの停車時分。
 車掌が乗務員室の窓から顔を出し、ピイッと笛を吹く。
 プシューと旧型車両ならでのエアーの音を響かせてドアが閉まる。
 ついでに言うと、ドアチャイムがピンポンピンポン鳴っていたが、これは後付けだろう。
 ドアが閉まり切ると、電車が動き出した。

〔「ご乗車ありがとうございます。この電車は東海道本線、普通列車、熱海行きです。吉原、東田子の浦、原、片浜、沼津、三島、函南、終点熱海の順に止まります。途中、沼津には6時19分、三島には6時25分、終点熱海には6時39分の到着です。【中略】次は吉原、吉原です」〕

 車内には夏の日差しが差し込んでいる為か、殆どの窓にブラインドが下ろされている。
 ブラインドレスの車両が多くなった昨今、それも珍しくなっている。
 リサはうとうとして、私にもたれ掛かってきた。
 私は彼女の好きにさせてあげた。
 そもそもが私と腕を組んで座っているくらいだ。
 これくらいはいいだろう。
 マクドナルドにいた時、スマホの着信履歴を見たが、善場係長からのメールが含まれていた。
 月曜日に話したいことがあるという。
 恐らくは、遺体で見つかった斉藤早苗の事や、『呪い返し』の儀式のついて話すものと思われる。
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