報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「稲生の心の闇」

2016-03-17 20:46:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月11日10:00.天候:晴 仙台市地下鉄仙台駅 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 ホテルをチェック・アウトした魔道師達は、そこからまずは仙台駅に向かった。
 体調の良くなかった稲生にあっては、イリーナからもらった薬をもらい、それを服用した。
「魔道師になって寿命が長くなっても、こういう体の周期は結構如実になるんだ。アタシも昔はだいぶ悩まされたものだよ」
「師匠。新しい体を手に入れたら、また体験することになりますよ」
「まあねぇ……」
 実はイリーナが体を交換したくない理由が、そこにもある。
「そういえば……」
 稲生はふと気づいた。
「先生は、ずっと女性の体を使用していたんですか?」
「そうだよ。……おぉ!いい所に気づいたねぇ!私は確かに魔道師になる前から性別は女だったけど、じゃあ男の体は使えないのかというと、実はそうではなかったりする」
「私、初めて聞きました!」
 と、マリア。
「もちろん、可能だというだけで、私はオススメしないね。というか、誰でも異性の体を使いたがるヤツはいないよ」
「性同一性障害になるからですね?」
「それもあるんだけど、多くの魔法が使えなくなる」
「……まるでパソコンのバグですね」
「そう、正にそれ!」
「Windows10の無償版は危険だそうです。どんなバグが発生するか分からないそうです」
「合わないソフトを無理にインストールするようなものね」
「それなら分かりやすいです」
「だから、もしも勇太君がその体を使い果たした時、交換するなら男性の体にすることだよ」
「分かりました」
 この時点ではまだSuicaは仙台市地下鉄では使えないため、キップを購入して地下鉄に乗ることにした。
 行き先は勾当台公園。
 ここで献花の受付をしており、稲生はそれを行うつもりだった。
「スーツを持って来たのは、その為か」
「はい」
 というわけで今、稲生はスーツにネクタイを着けている。
「マリアはまあ、ブレザーにスカートだからいいか」
「大丈夫ですよね?」
「まあね」

〔2番線に、泉中央行き電車が到着します。……〕

 エスカレーターでホームに下りると、ちょうど電車の接近放送が流れた。
 轟音と強風を手土産に、電車がホームに入線してくる。
 たったの4両編成と、日本の地下鉄では短い編成である。

〔仙台、仙台。東西線、JR線、仙台空港アクセス鉄道線はお乗り換えです〕

「先生、どうぞ」
 稲生は空いている席にイリーナを座らせた。
「ありがとう」
 稲生とマリアはその横に立つ。

〔2番線から、泉中央行き電車が発車します。ドアが閉まります。ご注意ください〕
〔「ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 短い発車メロディの後、電車は乗降ドアとホームドアを閉めて発車した。

〔次は広瀬通、広瀬通です。一番町、中央通りはこちらです〕
〔日蓮正宗、上方山日浄寺へは北仙台で。法光山妙遍寺へは、八乙女でお降りください〕

「先生……」
「なぁに?」
「やむを得ない場合として、異性の体を使うことはありますか?」
「うん。何で?」
「いや、ちょっと気になったもので……」
「基本的に歴史の陰に隠れて何かやるのが魔道師だけど、そうは言っても、私みたいに少しは表に出て来て何かやることが多々あるからね。だけど、異性の体を使ってしまうと、なかなか歴史の表にも出て来れないみたいだね」
「そうですか。分かりました」

[同日10:30.天候:晴 仙台市青葉区・勾当台公園 稲生、マリア、イリーナ]

 献花の受付会場で、稲生達は献花を行った。
「ユウタ君のご家族は……無事だったんだよね」
「ええ。もう既にその時、埼玉に引っ越してましたから」
「そうだよね」
「仙台に残してきた友達とかにまで範囲を広げると、さすがに全員無事とは言い難くて……」
「ふーむ……」
「僕、元はバリバリの顕正会員だったことがありました」
「知ってる」
「顕正会の当時の上長に唆されて、仙台の友達に折伏という名の勧誘をしまくったことがありましてね……」
「それで?」
「素直に入信してくれた人もいますし、大半は“逆縁”でした。ただ単に入信を断っただけではなく、『稲生が狂った!』と大騒ぎですよ。中には僕の手配書をネットで回されたこともありましたね」
「“ライン”が随分普及したけど、それでも『学校裏サイト』ってまだあるのかしら?」
「どうですかねぇ……。まあ、僕のことはどうでもいいんです。そりゃまあ、あんな宗教弘めてりゃ、警戒もされますよ。……面白い現証がありましてね」
「なになに?」
「僕だけでなく、大聖人に怨嫉したのが何人かいたんですよ。『日蓮がいなければ、顕正会というカルト宗教なんて発生しなかった!日蓮こそ諸悪の根源だ!!』なんてね」
「……このブログ、大丈夫かしら?」
「何を仰ってるのか分かりませんが、震災で死んだ奴らというのは、その日蓮大聖人を中傷した謗法者達だけだったんです。で、大ケガしたり、家が無くなったりしたのも、僕に怨嫉した奴らだけです」
「ちょ……ちょっと待って……」
 それまで目を細めにして聞いていたイリーナが、目を開けた。
「ユウタ……!?」
「つまり、全ては仏罰!僕が献花に来たのは、せめてもの情けなんですよ!地獄界で大聖人様に詫びを入れさせる為に!」
「ユウタの目が、『魔女』の目……!」

 パンッ!

「!!!」
「師匠!?」
 イリーナが稲生に一発ピンタを食らわせたのだった。
 大きな音に、周りの通行人達が振り向くほどだった。
「こっちに来なさい」
 イリーナはローブのフードを被って、稲生の腕を引っ張った。
 そして、地下鉄の勾当台公園駅の地下道まで来てやっと手を放した。
「私の弟子に勝手に触るな!」
 イリーナはカッと目を開けると、自分の背中に向かって魔道師の杖を振るった。
 すると、先ほど下りてきた階段を走ってこちらに向かってくる人物がいた。
 それは昨夜、宿泊先のホテルの外に現れた、全身黒タイツに黒覆面の者。
 異常な姿なのに、他の通行人達は見えないのか、全く気にする様子が無い。
 イリーナの強い警告に、その黒づくめの人物は滑って尻もちをついた。
 そして、慌てて先ほど下りて来た階段を逃げるようにして駆け上って行った。
「……大丈夫、稲生君?」
「……あ、あれ?」
「ユウタ、記憶が?」
「いや、記憶はあります。何で、あんなこと言ったんだろう?」
「師匠、今の“影”は?」
「悪魔の一種であることに間違いは無い。だけど、“魔の者”の手の者なのかまでは、まだはっきりしないね」
「ユウタがおかしくなるほど、接近されるとは……」
「アタシも接近には気づいていたんだけど、まさかアタシがいるのに手出しをしてくるとは思わなかったからね。わざと会話に夢中になっているフリをしたんだけど、どうやらナメられたもんだね」
 イリーナほどの大魔道師が、たかだか三下悪魔の接近に気づかないはずがない。
 それなのに気づかないフリをして、要はそれが無言の警告であったにも関わらず、悪魔の“影”は稲生に手を伸ばしてきた。
 それにより、稲生の心の奥底深くに潜んでいた“黒い心”が噴出してしまったというわけだ。
「後遺症は?」
「いや、あの程度で稲生君なら大丈夫でしょう?」
「顕正会のことなんてどうでもいいのに恥ずかしい……!」
 稲生は壁に向かってorzの体勢になっていた。
「まあまあ。魔道師にだって、闇の部分はあるさー。気にしない気にしない。何せ魔道師の世界は、仏法も凌駕するんだからね。それより、まだ黙祷の時間まで間があるから、どこかへ移動しようか」
「はい……」
「師匠。私、ショッピングモールで買い物がしたいです」
「あ、そう。ユウタ君、どこかいい所無いかねぇ……?」
「恥ずかしい……恥ずかしい……」
「ユウタ君?」
「師匠!?まだ悪魔の“影”が!?」
「いや、もういないよ。……結構、引きずるタイプなんだね。ユウタ君も」
「そのようで……。確か、長町南駅の前にモールがあったので、そこに行きたいです」
「OK.いいかしら、稲生君?」
「ブツブツブツブツ……」
「師匠?」
「さぁさ、移動しよう!グズグズしてると、さっきの悪魔の仲間がやってくるよ」
 イリーナはマリアと稲生の背中を押して、再び地下鉄乗り場に向かったのだった。
コメント (7)
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