報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「未知の花、魅知の旅」

2016-03-09 21:10:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月10日06:11.天候:曇 JR白馬駅 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

〔「1番線、ご注意ください。6時11分発、普通列車の信濃大町行き、2両編成で到着です。黄色い線の内側まで、お下がりください」〕

 大きな荷物を手に、まだ雪の残るホームで始発電車を待つ2人。
 雪の積もる鉄路の向こうから、『ワンマン』の表示を出した電車がインバータのモーター音を響かせてやってきた。
 寒い車外に対し、車内は暖房が効いているのか、窓ガラスが曇っている。
 無人駅なら先頭車の一部のドアしか開かないが、白馬駅は有人駅ということもあってか、全部のドアが開いた。
 但し、押しボタン式の半自動である。
「まだ寒いですねぇ……」
 暖房の効いた車内に入る稲生とマリア。
 空いているボックスシートに、向かい合って座った。
 大糸線は単線であるが、特に対向列車との行き違いが無いせいか、電車はすぐに発車した。
 寒かったので、ホームの自販機で買った温かいお茶やホットレモンを窓の桟に置く。
「でも、中は温かくていい」
 マリアは魔道書を取り出し、それを読む為に赤い縁の眼鏡を掛けた。
 別に目が悪いわけではなく、大師匠ダンテが著した魔道書はラテン語で書かれているため、それを翻訳する為の魔法の眼鏡だ。
「イリーナ先生、来ませんでしたね」
「師匠は『あと5分』を1時間以上繰り返してた。ま、想定内だ。後で、ル・ゥラでも使って来てもらうよ」
 瞬間移動の魔法である。
 使いこなせれば、稲生達のように電車を何度も乗り継いで東北まで行く必要は無いのだが、いかんせん日本国内の移動であっても、相当な魔力を必要とする。
 かなり魔力を溜め込んだり、大師匠でもなければ自由に使いこなせないと思われている。
 その大師匠だって、急ぎでなければ飛行機を利用しているくらいだ。
「師匠クラスなら、屋敷から東北地方に来ることは可能だろう」
「だといいんですけどねぇ……」
 最初は稲生とマリアで行くよう言っていたのだが、途中で気が変わったか、自分も行くと言い出した。
 もちろん弟子達の立場としては、師匠のその言葉に反論はできない。
 だがフタを開けてみれば、案の定であった。
 こんなこともあろうかと、電車のキップは2人分しか購入していない稲生も稲生だが。
 稲生もまた夢の中で、ある程度の予知はしていたということだ。

[同日06:48.天候:曇 JR信濃大町駅 上記メンバー]

〔ピンポーン♪ まもなく終点、信濃大町です。信濃大町では、全ての車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。……〕

 朝早いのと程よく効いた暖房のおかげか、うつらうつらとしていたマリア。
 手持ちの魔道書を落とさずには済んだが、車内の自動放送を合図にしたかのようにビクッと体を震わせて起きる。
「!……っ!あー……」
「もうすぐ最初の乗り換えですよ」
 稲生が優しく声を掛ける。
「そ、そうか……。つい、寝落ちしてしまったな」
 マリアが恥ずかしそうに顔を赤らめるのを見て、
(かわいい……)
 と、思った稲生だった。

〔「おはようございます。ご乗車ありがとうございました。信濃大町、信濃大町です。車内にお忘れ物、落し物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 電車が駅に到着する。
 尚、改札口直近の単式ホーム1番線ではなく、乗り換え客を意識しているのか、島式ホームの3番線に到着した。
 4番線には松本方面行きの3両編成の電車が停車していた。
 高崎線から転属した211系電車である。
 それまで稲生達が乗って来たE127系と違い、ボックスシートは無い。
 それでも隣り合って着席はできたので、よしとしよう。

〔「4番線から6時50分発、松本方面、塩尻行きの普通列車が発車します。ご注意ください」〕

 今度はビィィィンというインバーターとは違うモーター音を響かせて、更に電車は大糸線を南下する。

〔「おはようございます。今日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。6時50分発、大糸線、中央本線直通、普通列車の塩尻行きです。これから先、南大町、信濃常盤、安曇沓掛、信濃松川の順に、終点まで各駅に停車致します。途中の松本には7時47分、終点の塩尻には8時5分の到着です。……次は、南大町です」〕

 ここでもマリアは魔道書を開くが、程よく効いた暖房では……。
「ん?」
「ZZZ……」
 稲生の方が先に寝落ちした!(;゜Д゜)
(あー……そうか。前に、『クロスシートよりロングシートの方が寝れるんです』みたいなこと言ってたっけ……。てか、それにしても、寝落ち早っ!)
 マリアは稲生の寝落ちぶりに驚くやら呆れるやら。
(『魔道師の弟子は師匠を映す鏡である』って、前に大師匠様が仰ってたけど、ユウタも師匠に似てきたってことか?)
 横で稲生が寝ているせいなのか、はたまた白馬から信濃大町までの間に一時でも寝落ちした為、ある程度の眠気を飛ばすことに成功したからなのか、マリアは松本駅まで寝落ちせずに済んだのである。

[同日07:47.天候:曇 JR松本駅 上記メンバー]

〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく松本、松本です。4番線到着、お出口は右側です。松本からのお乗り換えをご案内致します。中央本線上り、8時ちょうどの“スーパーあずさ”6号、東京行きは3番線から発車致します。……この電車は中央本線直通、普通列車の塩尻行きです。……」〕

「ユウタ」
 朝ラッシュでだいぶ混雑している車内。
「あれ?もう上野ですか!?それとも大宮!?」
「は?」
 稲生も寝落ちから覚めたのだが、マリア以上に寝ぼけたようだ。
「……あ、そうか。大糸線でしたね」
「そうだ」
「内装が高崎線時代と大して変わってないから、すっかり間違えましたよ」
「そ、そうなのか」
 マリアは苦笑いするしかなかった。
 稲生の鉄ヲタ根性にはついていくのがやっとで、たまにその関係のボケには何のツッコミも入れられなくなる。

 電車はゆっくりと松本駅に入線した。
 中央本線に直通するといっても、多くの乗客がここで降りてしまうらしかった。
 もちろん、稲生達もその1人。
「今度の特急は東京駅まで直通ですから、乗り換え回数が1回減りましたよ。すいませんね。帰りはなるべく、もっと乗り換え回数を減らすようにしますから」
「それはいいんだけど、それよりここで駅弁買わないのか?」
「あっ、そうでしたね。まだ少し時間があるので、ここで買いましょう。どうせ、座席は指定席ですし」
 もともと4番線から3番線に移動するには、階段を上り下りしなければならない。
 松本駅で今はホーム上で駅弁を購入することはできないため、コンコース上で買うしかなかった。

「それにしても、先生も優しいですね。前乗りしてゆっくりしてきていいだなんて……」
 稲生達は駅弁と飲み物を購入して、3番線に向かった。
 その途中で、稲生がマリアに話し掛けた。
「まあ、日本国内のみとはいえ、1日掛けて移動するわけだから、とんぼ返りは余裕が無いと見たと思うね。うちの師匠はのんびり屋で、余裕の無い事は嫌いだから」
「それもそうですね。これで11日は無事に追悼できそうだ」
 稲生は乗車券を見た。
 最終的な行き先は、仙台になっていた。
「マリアさん、イリーナ先生が急に僕達の追悼に同行したいって仰られたのは……」
「特に他意は無く、素直に災害への被害者達に哀悼の意を表したいだけ……」
「ですかね?」
「……だと、信じたい」
「…………」
「まあ、取りあえず行こう。少なくとも私の予知夢では、無事に私達は現地入りできることになっている」
「はい」
 2人は既にホームに横付けし、発車の時間を待つ特急列車へと向かって行った。
コメント
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