報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「宮城県の沿岸部で」

2016-03-13 22:51:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月10日16:30.天候:雨 宮城県宮城郡七ヶ浜町 イリーナ・レヴィア・ブリジッド、ミシェル・スローネフ、アナスタシア・ペレ・オハネフ]

 アナスタシアの弟子の男性が叫び声を上げた。
 振り向くと、腐った肉塊であるはずのグロブスターが一匹、動いてその弟子に襲い掛かっていた。
 ズルズルと砂浜の上を這いずり回り、上半身(?)を起こすと、大きな口を開けて襲って来る。
「せ、先生!」
 その口はまるで弟子を丸のみにせんと襲い掛かってはくるが、いかんせん動きは遅いので、落ち着いて離れれば大丈夫だ。
「気をつけろ。悪魔の手の者ならば厄介だ」
 と、ミシェルが注意を飛ばす。
「分かってますわ。叩き潰してみせましょう」
 イリーナは、
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!炎の精霊よ。この不浄なる肉塊に炎の制裁を!ベェ……」
 魔法とを唱えようとしたが、
「イー・ウォ・ルァ!」
 先にアナスタシアに超されてしまった。
 爆発の起こる魔法の為、グロブスターが更にバラバラの肉片と化す。
「こりゃまた派手にやるねぇ……」
 イリーナは呆れた顔をした。
「ふん。黒焦げにしたら、肝心のデータが取れないでしょ。もっとよく考えなさいよ」
「いやあ……肉片にする方がデータが取りづらい気がするけどねぇ……」
「アナスタシア。いくら周辺は復旧工事中とはいえ、あまり大きな音、特に爆発音を立てるのは良くない。今度はもう少し静かな魔法を使うように」
「は、はい!」
 姉のミシェルに注意されたアナスタシアだった。
「あー、でも、今のモンスターの中から何か出て来たねぇ……」
 イリーナは肉片と化したグロブスターの中から出て来た物と思われるカプセルを拾った。
「何かの魔法具?薬師系のポーリンとかなら分かるかねぇ……?」
「こちらで調べておく。2人にあっては、再び調査に当たってくれ」
 ミシェルは掌サイズのカプセルを受け取った。
「いいか?まだ動く個体は他にもあると思われる。警戒を保ちつつ、調査を続行してくれ」
「りょーかい」
「分かりました」

[同日17:00.天候:雨 仙台市太白区西多賀・ベガロポリス 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

「少し早いですが、温泉に入ってみました」
「師匠も“仕事”でなければ、一緒に来られたのにな」
 既に入浴後、休憩所で休んでいる稲生達。
「イリーナ先生、お仕事だったんですか?」
「大魔道師ともなると、私達弟子にはできない仕事を任されることがあるんだ」
「そうなんですか」
「何でも今回師匠が頼まれた仕事というのは、“魔の者”に関する調査らしいが、それがアナスタシア師と一緒らしいぞ」
「ええっ?」
 大事な話なのであるが、どうしても稲生は湯上りのマリアの姿が気になってしまっていた。
 まだ湿っている金色の髪、服はいつものブレザーとローブであるが、暑いのでそれは脱いでいる。
 白いブラウスを着ているが、それだと僅かにブラが透けて見える。
「……一緒に仕事できるものなんでしょうか?」
「師匠は上手くやるだろうけど、アナスタシア師がね、余裕の無い人だから、どうだかね」
「そうですか」
「それよりこの後、どうする?」
「まあ、外で夕食でも。イリーナ先生と合流できるかどうか……」
「それは無いな。多分、師匠のことだから、すぐにホテルに戻って寝ると思うな」
「そうなんですか?」
「大魔道師クラスが依頼される仕事って、言ってしまえば大魔道師しか使えない魔法が要求される仕事でもあるんだ。そんなのをガンガン使えば、特に肉体の交換時期が差し迫っている師匠のことだから、だいぶ体がこたえるだろうね」
「そういうものですか。……ん?てことはマリアさんも?」
「?」
「マリアさんも1人前になったわけですから、そういった仕事が舞い込むことが?」
「あるだろうな。だけど1人前になったからといって、そんなにすぐ仕事が来るわけでもない。自分で言うのも何だけど、私はそんなに実務経験が無い。来年度にはエレーナも免許皆伝を受けることになっているけど、実務経験が既にあるエレーナの方が受ける仕事は多いかもしれない」
「魔女の宅急便ですか」
「まあね。私は人形を作ることくらいしか能が無いから」
「いや、そんなことないですよ。その人形を使って、何でもできるじゃないですか。工夫次第で、もっと仕事は……」
「私はそんなに仕事が欲しいわけじゃないから。今は師匠が率先して仕事しているし、エレーナが受ける仕事もホウキで空を飛ぶ魔法が中心になるだろうから、私の出る幕じゃないってこと」
「そうなんですか」
「ところで外で夕食って、何を食べるの?」
「マリアさんは何を食べたいですか?」
 稲生は手持ちのスマホで、この施設の情報を画面に出した。
「……稲生は水晶球は要らなさそうだな」
「あれ?」
「ま、こっちの方が見やすいけど」
 マリアはニヤッと笑って、スマホの画面を覗き込んだ。
「せっかくだから、和食がいい」
「分かりました。そこにしましょう」

[同日同時刻 天候:雨 七ヶ浜町沿岸部 イリーナ、ミシェル、アナスタシア]

「よーし。もう調査は十分だ。一先ず、私の所へ集合してくれ」
 調査範囲の果てまで調査したところで、何とかミシェルの望む解析率に達したようである。
 2人の大魔道師は小走り(のように見せかけて、実は少し足を地面から浮かせて滑るように移動している)に、スタート地点に急いだ。
 だが、もう少しでミシェルの位置だという時に、地面からズボッとまたあのグロブスターが現れて襲い掛かって来た。
「また!?一体、何だって言うの!?」
 アナスタシアが魔法の杖を向ける。
「まだいたか。排除しろ!アナスタシア、イリーナ!」
 向こうからミシェルが指示を飛ばしてくる。
 もちろん、大魔道師クラスから見ればゴミみたいなザコである為、何のことは無かった。
 腐敗した肉塊の化け物である為、火にはとても弱く、その魔法で簡単に腐肉のバーベキューにして終了した。

「ご苦労。一先ず調査は、これにて完了としたい」
 ミシェルは相変わらず固い表情のまま、しかし頷きながら大魔道師達に言った。
「漂着物の肉塊が魔界のモンスターのようなものであることは、間違い無いですね」
「魔界のレッドスターシティにあった研究所が崩壊したことも、これと何か関係があるかもです」
「この調査で様々な予測が立っただろうが、しかしそれは単なる憶測に過ぎない。キミ達が収集してくれたデータを元に、詳しい解析の結果を待って仮説を立てるとしよう」
「仮説?結論ではないのですか?」
「これはあくまでも、仮説を立てる為のデータ集めに過ぎない。この程度の調査で結論が出せるとでも思うか、アナスタシア?」
「す、すいません」
「2人には忙しい中、急に仕事を依頼して申し訳無い。私もまた“魔の者”と敵対するが故に、協力を仰ぐ必要があった。特にダンテ門流は、その先鋭たる者が集まっているとの評判だ。優秀な人材が集まっていること、とても頼りに思う」
「身に余るお言葉です!」
 アナスタシアは歳の離れた姉に恐縮した。
「報酬はキミ達の望む物を後で用意しよう。それでは調査チームは一先ずこれを持って解散としたい。また何かあれば協力を仰ぐ機会があると思うが、その時もよろしく頼む」

 ミシェルは頼んでおいた迎えの車に乗り込んで立ち去り、アナスタシアは弟子が用意した車に乗り込んで立ち去った。
 あとに残ったイリーナは海岸線を見渡して、
(本当に“魔の者”のしわざなのかしら……?)
 首を傾げたが、すぐに瞬間移動の魔法の呪文を唱え、自分もまたこの海岸線から立ち去ったのだった。
コメント (1)
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“大魔道師の弟子” 「大魔道師達の調査」

2016-03-13 16:37:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月10日15:00.天候:雨 宮城県仙台市宮城野区榴岡・東横イン仙台東口1号館 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 まるでマンションにあるようなドアに窓のあるエレベーターを降りると、稲生達は部屋に向かった。
「イリーナ先生は広い方の部屋をどうぞ」
 稲生はイリーナにタグ付きのシリンダー・キーを渡す。
「いいのかい?アタシ、寝てるよ」
「寝るんですか!」
 マリアがまたかという顔をした。
「ル・ゥラを使うと、腰が痛くなってねぇ……」
「そろそろ本当に体の交換時期なんですよ」
 マリアはそれだけ言った。
「そうだねぇ……。ユウタ君が早く1人前になったら、アタシがいることもないから、いいんだけどねぇ……」
「え?」
 ダンテ一門では門内での恋愛・結婚は自由だ。
 だが、恋愛はともかく、結婚ともなると、互いに1人前になってからというのが暗黙のルールになっていた。
「これからどこか遊びに行くんでしょ?アタシのカード預けるから、好きに使っておいで」
「あ、ありがとうございます」
 イリーナは稲生にゴールドカードを預けると、そのまま部屋に入っていった。
 客室のドアはオートロックである。
「じゃ、マリアさん、少し落ち着いたら行きましょう」
「分かった」

[当日16:00.天候:雨 宮城県宮城郡七ヶ浜町 イリーナ、ミシェル・スローネフ、アナシタシア]

 復興工事が進む海岸沿い。
 そこに佇む1人の魔女の影。
 稲生達の前に姿を現した時と違い、スーツの上から黒いローブを羽織り、レインコート代わりにしている。
「現れたな」
 そこへ別の門流の大魔道師とその弟子達がやってきた。
「ダンテ門流師範“クロックワーカー”のイリーナ・レヴィア・ブリジッド、それに……アナスタシア」
「お、お元気そうで……姉さん」
「女ボス自らお出迎えとは珍しいですわね。『医者』に運動しろと言われましたか?」
 恐縮するアナシタシアの隣で、イリーナは細い目を少し開いて答えた。
「ぶ、無礼だぞ、イリーナ!」
「ふん……」
 イリーナは珍しく憮然とした顔をしていたが、アナスタシアの姉とされるミシェルは目を閉じて頷いた。
「まあ良い。確かに門流の違う私が、こんなことをあなた達に頼む方が非常識であることは承知している。キミ達も、東日本大震災と呼ばれる『悪魔の活動』が人間界に大きな被害をもたらしたことは理解しているな?漂着物がハワイやその先のアメリカ西海岸に流れついたことも、メディアなどで話題にされている」
「この前、ハワイに流れ着いた漁船が持ち主の遺族の所へ返されたというニュースを見ましたわ。ミシェル常務」
 と、イリーナ。
「イリーナ、いい加減にして!姉さんは人間界では大企業の重役だけど、今ここではダンテ先生並みの……」
「アナスタシア。お前の方こそ、話の腰を折られては困るんだが?」
 キラッとミシェルの左目が一瞬光った。
「ご、ごめんなさい」
「……続きだ。ところがここ最近、逆に東日本の沿岸部で正体不明の漂着物が相次いでいる。特に、東北地方に対してだ。人間の目から見れば、単なる漂着ゴミにしか見えないだろう。だが、その中に、明らかに魔力を帯びているグロブスターの姿も散見されるようになった」
「“魔の者”の隠し事も、流れ付いて来る漂着物までは隠ぺいできないってことですか?」
「そうだ。だが魔道師の名前を使っては、いつまで経っても調査に漕ぎ付けることはできない。そこで、私の所属している企業の名前を使わせてもらうことになった。あくまでも、復興支援の為の施設を海岸部に作る。そしてこれは、その為の事前調査だ。公にはそのようになっている。くれぐれも、大魔道師同士でケンカ騒ぎはせず、仲良く調査を行ってもらいたい。これはキミ達の師匠、ダンテ・アリギエーリ師の公認でもある」
「分かりました」
「幸いキミ達は、既に調査に必要な魔法が一通り使える。大魔道師クラスを呼んだのは、その為だ。暗くなる前に、調査を終了してもらいたい」
「分かりました」
「姉さん、調査など私や私の弟子達で十分です。イリーナの力は要りません」
「私の話を聞いていなかったのか?私は『大魔道師クラス2人』に調査を依頼した。お前の弟子の力など当てにしていない。無駄話をするヒマがあったら、さっさと調査に入れ。私もヒマではないのだ」
「……っ!」
 アナスタシアは冷たく言い放つ姉に、ギリッと唇を噛んだ。
「……だってさ。こっちは報酬もらう身だからね、素直に言う事聞いた方がいいよ」
 イリーナは肩を竦めて、ふわりと岸壁から砂浜に降り立った。
 後からミシェルやアナスタシアも降り立つ。
 まだ手つかずの海岸部には、色々な漂着物が流れ付いていた。
 その中に、明らかに肉塊と思われるものがいくつか転がっている。
 ミシェルはそのうちの1つを覗き込み、
「聞いた話以上に酷いな。すっかり腐敗している。因みに魔法で解析するに辺っては、科学と同じく一定のデータ量を必要とする。恐らく調査範囲内全てのグロブスターを調査することになるだろう。効率良く回って、解析率を100パーセントにしてもらいたい」
 イリーナは魔法の杖を持って、グロブスターに向ける。
 杖からはまるで緑色のレーザー光線のようなものが飛んで、そのグロブスターを包み込んだ。
「一匹一匹やってたら日が暮れるわよっ!」
 アナスタシアがヤジを飛ばしてくる。
 彼女は弟子達にも魔法具を渡して、片っ端から調査させていた。
「だいたい、アンタの弟子は何やってるの!?」
「デートさせてるよ」
「はあっ!?」
「だって久しぶりの旅行だもの。弟子同士、親睦を深めるチャンスじゃない」
「ここに連れてきて、調査の手伝いをさせようという発想は無いの?」
「だってミシェルお姉様、アタシとあなただけを御指名だったからぁ……」
「上の指示を額面通りにしか受け取れない。やっぱアンタ、二流だわ」
「三流よりマシってことね。褒め言葉として受け取っておくよ」
「私語は慎め。効率良く行えと言ったはずだ」
「はーい、ゴメンナサーイ」
「……姉さんをナメてると、いつか痛い目見るよ」
「わああああっ!?」
 と、その時、アナスタシアの弟子の男性が叫び声を上げた。
「なになに!?」
「!?」

 一体、何が起きたのだろうか。
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