[3月1日12:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区(デイライト・コーポレーション・ジャパン旧埼玉研究所) シンディ、敷島孝夫、アリス敷島]
敷島:「皆して酷ェよなぁ……。ちょっと営業活動してただけじゃんなー?」
アリス:「反省していないようなら、またシンディに電気流してもらうわよ」
シンディ:「♪」(左手を挙げてパチッと火花を散らす)
敷島:「分かったから!……全く」
ここは地下にある仮設食堂。
本設の食堂はレイチェル戦で破壊された側にあったため、科学館建設まで食堂の営業は休止。
代わりに弁当業者に注文して、弁当を受け取るという方式に変わった。
で、受け取った弁当を食べるコーナーが設けられている。
シンディ:「マスター、お茶のお代わりお持ちしましょうか?」
アリス:「よろしく」
シンディ:「はい」
敷島:「ていうかさ、お前、ご飯にピーナッツバター塗って食うのやめろよ」
アリス:「適度な糖分の補給は、脳の活性化にいいのよ」
敷島:「いや、糖分取り過ぎだと思うぞ?」
アリス:「ちゃんと運動はしてるわよ」
敷島:「そういう問題じゃないって。……ちゃんと俺の言った通り、運動は続けてるんだな」
アリス:「もちろんよ。頭と体を動かすのは気持ちいいし」
敷島:「そうか。科学者っていうと、あんまり運動は得意でない人っていうイメージがあるんだけどな。平賀先生もそうだし」
アリス:「デイライトのイリノイ研究所の所長なんか、ボクシングが趣味だってよ」
敷島:「ほお……。意外と体育会系なんだなぁ……」
アリス:「前に、あなたが買ってくれたレーシングスーツね……」
敷島:「それがどうした?」
アリス:「アタシが着た後で、『くんかくんか』していたことはもうバレてるからね?」
敷島:「な、何の事だ!?」
シンディ:「お茶をお持ちしました。社長の分も」
敷島:「ああ、そこに置いてくれ。てか、『くんかくんか』の意味分かってんのか!?」
アリス:「シンディ」
シンディ:「はあ……。まあ、『匂いを執拗に嗅ぐこと』らしいですね」
アリス:「アブノーマル!(ヘンタイ!)」
敷島:「結婚前の話だし、酔っぱらってて覚えてないし!」
結婚前、しばらく一緒に同居していた時期がある。
この時はシンディではなく、エミリーが一緒にいた。
シンディ:(酔っぱらってて覚えてないことは覚えてるんだ……。ていうか、マスターの着ていたレーシングスーツの匂いを執拗に嗅ぐ?……本当に、人間ってよく分からない……)
[3月1日13:30.同研究所内・第3小研究室 シンディ&アリス]
シンディは研究所に来たついでに、アリスから整備を受けていた。
定期メンテではなく、必要に応じて行う臨時メンテである。
まだまだガイノイドは研究員達からは強い関心の元であり、特に、既に東西冷戦時代には完成していたという信じられない事態を引き起こしているシンディ達の存在は、尚更大きかった。
シンディは今、椅子に座って、右足の整備を受けている。
シンディ:「あの、マスター」
アリス:「なぁに?」
シンディ:「さっきの話……。食堂で社長とお話しされていた内容、よく意味が分かりませんでした」
アリス:「何が?」
シンディ:「マスターのスーツを社長がどうして『くんかくんか』するのですか?」
アリス:「シンディ、そういうのはいいから」
シンディ:「えっ?」
アリス:「それは余計な情報だから、処理しなくていいよ。むしろ消去して」
シンディ:「は、でも……」
アリス:「早く!」
シンディ:「かしこまりした」
アリス:「全く。タカオにも困ったものだわ」
シンディ:「私には嗅覚がありません。漂う物質をスキャンして、その成分が何かであるかというのは分かりますが」
例えば温泉地に行って、硫黄の臭いが漂っているとしよう。
人間には『硫黄の臭いがする』であるが、シンディにとっては『硫黄の成分が漂っている』なのである。
逆を言えば、無臭であるが毒ガスとも言える一酸化炭素。
中毒になれば死に至るものであるが、無色・無臭であるため、人間の感覚ではそこに充満しているのかどうか分からない。
だが、そこはちゃんとシンディは検出できるということである。
アリス:「それでいいのよ。とにかく、タカオのアブノーマルな行動は気にしないでちょうだい」
シンディ:「かしこまりました」
アリス:「はい、右足終わり。今度は左足出して」
シンディ:「はい」
シンディは左足のブーツを脱いで素足になると、さっきまで右足を乗せていた台の上に左足を乗せた。
[同日15:11.天候:晴 JR大宮駅・埼京線ホーム シンディ&敷島]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の20番線の電車は、15時13分発、りんかい線直通、快速、新木場行きです〕
敷島:「よーし!電車間に合った!」
シンディ:「家に帰らないの?」
敷島:「夕方から湾岸テレビで、ルカの収録があるからな。それについてやろうと思う」
〔まもなく20番線に、りんかい線直通、快速、新木場行きが参ります。危ないですから、黄色い線まで、お下がりください。次は、与野本町に止まります〕
敷島:「シンディ、足を直してもらったら調子が良くなったな?」
シンディ:「マスターの腕は本物ね。何だか足が軽くなったみたい」
敷島:「部品を交換しただけだから、特に軽量化とかはされてないみたいだがな」
シンディ:「それでも調子がいいわ」
地下トンネルの向こうから、HIDランプの光が近づいて来た。
対してロイド達の両目のランプはLEDである。
〔おおみや、大宮。ご乗車、ありがとうございます〕
ドアが開くと、川越線からの乗客がぞろぞろと降りてくる。
まだ、そんなに混雑はしていない。
敷島がドア横の座席に座ると、シンディはその横(ドアの前)に立った。
シンディ:「ルカに、社長がこれから行くよって伝えておく?」
敷島:「ああ、そうしてくれ。東京テレポート駅で待ち合わせしようって伝えてくれ。俺達も向かうから」
シンディ:「了解」
シンディはルカに無線通信で、敷島のメッセージを伝えた。
地下であるが、ちゃんと送信はできている。
シンディ:「ルカが『よろしくお願いします!』だって」
敷島:「そうか」
電車は2分間停車した後、発車メロディを後に地下ホームを出発した。
〔この電車は埼京線、りんかい線直通、快速、新木場行きです。停車駅は与野本町、武蔵浦和、戸田公園、赤羽です。赤羽から先は、各駅に止まります。次は、与野本町です〕
シンディはドアの窓に映る自分の姿を自分でスキャンしてみた。
だが、エラーが出るだけである。
実体をスキャンしないとダメなのだ。
この機能は後付のもので、製造当初には付いていなかったものだ。
尚、エミリーにやると、不快な反応をされるので注意だ。
敷島:「どうした?美人の自分に、自分で見取れたか?」
シンディ:「私はナルシストじゃないし!……私達のモデルって、本当にウィリアム博士や南里博士の好きな人だったのかな?」
敷島:「あのマッドサイエンティストの爺さん達の研究チームの中に、紅一点がいたそうだ。実験中の事故で死んだことになってるけど、場所が旧ソ連だからな。何かキナ臭さは感じる。あの後で爺さん達が離反したことを考えると、ただの事故じゃないって思うな。まあ、今となってはプーチン大統領締め上げても分からないと思うけどさ」
シンディ:「さらっと国際問題になるようなこと言う社長ね」
現ロシア政府は、旧ソ連時代の産物の1つであるマルチタイプのことは完全なる黒歴史として無かったことにしているし、日本政府も蒸し返すと国際問題になることを恐れて、マルチタイプ達にはノータッチである。
電車は地上を出て、西側に向かっている太陽の光を浴びながら東京へ向かう。
敷島:「皆して酷ェよなぁ……。ちょっと営業活動してただけじゃんなー?」
アリス:「反省していないようなら、またシンディに電気流してもらうわよ」
シンディ:「♪」(左手を挙げてパチッと火花を散らす)
敷島:「分かったから!……全く」
ここは地下にある仮設食堂。
本設の食堂はレイチェル戦で破壊された側にあったため、科学館建設まで食堂の営業は休止。
代わりに弁当業者に注文して、弁当を受け取るという方式に変わった。
で、受け取った弁当を食べるコーナーが設けられている。
シンディ:「マスター、お茶のお代わりお持ちしましょうか?」
アリス:「よろしく」
シンディ:「はい」
敷島:「ていうかさ、お前、ご飯にピーナッツバター塗って食うのやめろよ」
アリス:「適度な糖分の補給は、脳の活性化にいいのよ」
敷島:「いや、糖分取り過ぎだと思うぞ?」
アリス:「ちゃんと運動はしてるわよ」
敷島:「そういう問題じゃないって。……ちゃんと俺の言った通り、運動は続けてるんだな」
アリス:「もちろんよ。頭と体を動かすのは気持ちいいし」
敷島:「そうか。科学者っていうと、あんまり運動は得意でない人っていうイメージがあるんだけどな。平賀先生もそうだし」
アリス:「デイライトのイリノイ研究所の所長なんか、ボクシングが趣味だってよ」
敷島:「ほお……。意外と体育会系なんだなぁ……」
アリス:「前に、あなたが買ってくれたレーシングスーツね……」
敷島:「それがどうした?」
アリス:「アタシが着た後で、『くんかくんか』していたことはもうバレてるからね?」
敷島:「な、何の事だ!?」
シンディ:「お茶をお持ちしました。社長の分も」
敷島:「ああ、そこに置いてくれ。てか、『くんかくんか』の意味分かってんのか!?」
アリス:「シンディ」
シンディ:「はあ……。まあ、『匂いを執拗に嗅ぐこと』らしいですね」
アリス:「アブノーマル!(ヘンタイ!)」
敷島:「結婚前の話だし、酔っぱらってて覚えてないし!」
結婚前、しばらく一緒に同居していた時期がある。
この時はシンディではなく、エミリーが一緒にいた。
シンディ:(酔っぱらってて覚えてないことは覚えてるんだ……。ていうか、マスターの着ていたレーシングスーツの匂いを執拗に嗅ぐ?……本当に、人間ってよく分からない……)
[3月1日13:30.同研究所内・第3小研究室 シンディ&アリス]
シンディは研究所に来たついでに、アリスから整備を受けていた。
定期メンテではなく、必要に応じて行う臨時メンテである。
まだまだガイノイドは研究員達からは強い関心の元であり、特に、既に東西冷戦時代には完成していたという信じられない事態を引き起こしているシンディ達の存在は、尚更大きかった。
シンディは今、椅子に座って、右足の整備を受けている。
シンディ:「あの、マスター」
アリス:「なぁに?」
シンディ:「さっきの話……。食堂で社長とお話しされていた内容、よく意味が分かりませんでした」
アリス:「何が?」
シンディ:「マスターのスーツを社長がどうして『くんかくんか』するのですか?」
アリス:「シンディ、そういうのはいいから」
シンディ:「えっ?」
アリス:「それは余計な情報だから、処理しなくていいよ。むしろ消去して」
シンディ:「は、でも……」
アリス:「早く!」
シンディ:「かしこまりした」
アリス:「全く。タカオにも困ったものだわ」
シンディ:「私には嗅覚がありません。漂う物質をスキャンして、その成分が何かであるかというのは分かりますが」
例えば温泉地に行って、硫黄の臭いが漂っているとしよう。
人間には『硫黄の臭いがする』であるが、シンディにとっては『硫黄の成分が漂っている』なのである。
逆を言えば、無臭であるが毒ガスとも言える一酸化炭素。
中毒になれば死に至るものであるが、無色・無臭であるため、人間の感覚ではそこに充満しているのかどうか分からない。
だが、そこはちゃんとシンディは検出できるということである。
アリス:「それでいいのよ。とにかく、タカオのアブノーマルな行動は気にしないでちょうだい」
シンディ:「かしこまりました」
アリス:「はい、右足終わり。今度は左足出して」
シンディ:「はい」
シンディは左足のブーツを脱いで素足になると、さっきまで右足を乗せていた台の上に左足を乗せた。
[同日15:11.天候:晴 JR大宮駅・埼京線ホーム シンディ&敷島]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の20番線の電車は、15時13分発、りんかい線直通、快速、新木場行きです〕
敷島:「よーし!電車間に合った!」
シンディ:「家に帰らないの?」
敷島:「夕方から湾岸テレビで、ルカの収録があるからな。それについてやろうと思う」
〔まもなく20番線に、りんかい線直通、快速、新木場行きが参ります。危ないですから、黄色い線まで、お下がりください。次は、与野本町に止まります〕
敷島:「シンディ、足を直してもらったら調子が良くなったな?」
シンディ:「マスターの腕は本物ね。何だか足が軽くなったみたい」
敷島:「部品を交換しただけだから、特に軽量化とかはされてないみたいだがな」
シンディ:「それでも調子がいいわ」
地下トンネルの向こうから、HIDランプの光が近づいて来た。
対してロイド達の両目のランプはLEDである。
〔おおみや、大宮。ご乗車、ありがとうございます〕
ドアが開くと、川越線からの乗客がぞろぞろと降りてくる。
まだ、そんなに混雑はしていない。
敷島がドア横の座席に座ると、シンディはその横(ドアの前)に立った。
シンディ:「ルカに、社長がこれから行くよって伝えておく?」
敷島:「ああ、そうしてくれ。東京テレポート駅で待ち合わせしようって伝えてくれ。俺達も向かうから」
シンディ:「了解」
シンディはルカに無線通信で、敷島のメッセージを伝えた。
地下であるが、ちゃんと送信はできている。
シンディ:「ルカが『よろしくお願いします!』だって」
敷島:「そうか」
電車は2分間停車した後、発車メロディを後に地下ホームを出発した。
〔この電車は埼京線、りんかい線直通、快速、新木場行きです。停車駅は与野本町、武蔵浦和、戸田公園、赤羽です。赤羽から先は、各駅に止まります。次は、与野本町です〕
シンディはドアの窓に映る自分の姿を自分でスキャンしてみた。
だが、エラーが出るだけである。
実体をスキャンしないとダメなのだ。
この機能は後付のもので、製造当初には付いていなかったものだ。
尚、エミリーにやると、不快な反応をされるので注意だ。
敷島:「どうした?美人の自分に、自分で見取れたか?」
シンディ:「私はナルシストじゃないし!……私達のモデルって、本当にウィリアム博士や南里博士の好きな人だったのかな?」
敷島:「あのマッドサイエンティストの爺さん達の研究チームの中に、紅一点がいたそうだ。実験中の事故で死んだことになってるけど、場所が旧ソ連だからな。何かキナ臭さは感じる。あの後で爺さん達が離反したことを考えると、ただの事故じゃないって思うな。まあ、今となってはプーチン大統領締め上げても分からないと思うけどさ」
シンディ:「さらっと国際問題になるようなこと言う社長ね」
現ロシア政府は、旧ソ連時代の産物の1つであるマルチタイプのことは完全なる黒歴史として無かったことにしているし、日本政府も蒸し返すと国際問題になることを恐れて、マルチタイプ達にはノータッチである。
電車は地上を出て、西側に向かっている太陽の光を浴びながら東京へ向かう。