報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ガイノイドの一夜」

2016-03-27 21:42:31 | アンドロイドマスターシリーズ
[3月11日22:00.天候:晴 仙台市青葉区・ホテル法華クラブ仙台 3号機のシンディ&敷島孝夫]

 ベッドにうつ伏せで爆睡する敷島。
 シンディは窓の前に立って、通信を行っていた。
 相手はオーナー(マスター)であるアリスである。

 シンディ:「社長はお休みになりました。朝までぐっすり眠られると思います」
 アリス:「ご苦労様。あなたも充電して、明日に備えなさい」
 シンディ:「かしこまりました」
 アリス:「サーバーに使用するダミーは誰になったの?」
 シンディ:「エミリーです。トップナンバーを使用した方が良いという理由です」
 アリス:「タカオらしいわ」(電話の向こうで笑う)
 シンディ:「また、バージョン4.0が迷惑を掛けたらしいですね」
 アリス:「まあね。でもまあ、心配しなくていいよ。こっちにはマリオとルイージがいるし。旧型の1機や2機、アタシの自身作の最新モデルならイチコロよ」
 シンディ:「さすがです。私も……」
 アリス:「ん?」
 シンディ:「アルみたいな最新モデルが量産されたら、私達も……」
 アリス:「その心配は当分無いね」
 シンディ:「そうですか?」
 アリス:「そもそもマルチタイプが1機ずつのハンドメイドだもの。バージョン・シリーズみたいに工場生産できるわけじゃないしね。そんな生産ペースじゃ、非売品同然だもの。てか、アルエットはまた違う行程で作った、マルチタイプに似て非なる物だから。あなたは何も心配することはないよ」
 シンディ:「かしこまりました」
 アリス:「とにかく、あなたは引き続き、タカオが浮気しないように監視を続けてちょうだい。その為なら、どんな手を使ってもいいから」
 シンディ:「かしこまりました」
 アリス:「今日はマッサージをしてあげて、気持ち良く眠らせたのね」
 シンディ:「はい、そうです」
 アリス:「よしよし。その調子よ」
 シンディ:「お役に立てて何よりです。……それでは」

 シンディは通信を切った。
 そこで、ふと思い立つ。

 シンディ:(そうだ。一応、私もボカロの護衛役なんだから、様子を見に行こう)

 シンディは敷島の部屋を出て、まずは鏡音リン・レンの部屋に向かった。

[同日22:15.天候:晴 同ホテル・鏡音リンとレンの部屋 シンディ、鏡音リン・レン]

 シンディの予想はグッスリ“寝てる”か、枕投げでもしているところだろうと思った。
 まるで昔の修学旅行で、引率の教師になった気分だ。
 ホテルのドアはオートロックなので、中から開けてもらうことになる。
 外から呼び掛けてみると、意外にもすぐにドアが開いた。

 レン:「はい、どうしました?シンディ?」
 シンディ:「すぐに開けたってことは、まだ“寝て”なかったわけね?」
 レン:「充電のタイマーは23時からですから」

 ロイド達の充電は、一斉に深夜電力を使って充電される。
 東京電力では深夜電力は23時からであるため、ボカロの充電開始設定時刻を23時にしているのだった。

 シンディ:「ホテルの客室の電気はタダだから、別に今から充電開始したっていいのよ?」
 レン:「まあ、確かに……」
 シンディ:「で、リンはどこ?」

 レンはバスルームを指さした。
 右腕のペイント、赤字で『02』の数字が見えた。

 レン:「体を洗ってます」
 シンディ:「なるほど。あんたは……リンの次か」
 レン:「ええ」

 そこへ、ガチャッとバスルームのドアが開けられ、リンが出て来た。
 体にバスタオルだけを巻いている。

 リン:「あれ、シンディ!?」
 シンディ:「何もそんなに驚くこともないでしょう?“就寝前”の巡察だよ」
 リン:「なーんだ。つい、レンが何かしたのかと思ったYo〜」
 レン:「何でだよ!」
 シンディ:「まあとにかく、レンも体洗ったら、すぐに充電の準備するんだよ」
 レン:「はい」

 無邪気な双子の姉に対し、それよりしっかりとした弟のレンといった感じだが、設定年齢14歳という難しい年頃のせいか、そんなレンでも弾けることはある。
 また、ファンの前ではイケメンキャラのKAITOと被らないようにする為か、無垢な少年というイメージで出ることが多い。
 今回の追悼ライブでも、そんなイメージで出たと思われる。

[同日22:30.天候:晴 同ホテル・MEIKOの部屋 シンディ&MEIKO]

 リンとレンはツインルームであった。
 それに対し、MEIKOはシングルルームである。

 シンディ:「お疲れ。MEIKO」
 MEIKO:「お〜、シンディか。どうしたの?寂しくなった?」
 シンディ:「冗談!警護役として、就寝前の巡察よ」

 MEIKOも体を洗ったのか、髪が濡れていて、室内にあった部屋着を着ていた。
 ライティングデスクやその椅子の上には、赤い服が無造作に置かれている。
 MEIKOは敷島エージェンシー所属のボカロの中で、1番衣装の露出が高い。
 バドスーツのような感じだからか。
 それが却って、ガイノイドといった感じを出している。

 シンディ:「“就寝前”の“入浴”?考えることは皆同じだね」

 MEIKOは自分の服を畳む。

 MEIKO:「まあね」
 シンディ:「ヴァージョン3にソフトウェア交換もしたことだし、調子もいいみたいだね」
 MEIKO:「おかげさまで。あとはボディ交換だって」
 シンディ:「ロイドなら、だれでも通る道か。大丈夫大丈夫。ちゃんとメモリーやデータは別の媒体に保存されているから、それからソフト関係を新しいボディに移し替えるだけだから」

 ロイドの体はとても精密である。
 その為、通常のメンテナンスだけではとても長期間稼働できるものではない。
 ボディを丸ごと交換する必要も出てくる。
 大抵はモデルチェンジすることはなく、そのままの設計で新しく造ったボディに移し替えるだけである。
 ボーカロイドでも大変なのにマルチタイプはもっと大変で、エミリーは交換用のボディの新造が間に合わず、無理ができない為に南里志郎記念館への“常設展示”を余儀無くされた。
 今ではボディの交換も済んでいるのだが、引き続き記念館に残り、“館長”として来館者を出迎えている。

 シンディ:「何も心配無い。誰でも通る道だから」
 MEIKO:「それならいいんだけど……」
 シンディ:「あなたはリン達と違って“大人”だから、何も心配無いか」
 MEIKO:「大丈夫よ。ちゃんと設定時間は守るって」
 シンディ:「じゃ、何かあったら教えて。充電中でも通信はできるから」
 MEIKO:「了解、お休み」

[同日22:30.天候:晴 同ホテル・敷島の部屋 シンディ]

 巡察を終えたシンディは、敷島の部屋に戻ってきた。

 シンディ:「!」

 入った瞬間、シンディは何か違和感を覚えた。
 持ち出したカードキーをドアの横の壁に差し込む。
 これで室内が通電する。
 敷島が寝ているので、照明は点けない。
 点けなくても、ロイドには暗視カメラが付いているので暗闇でも見える。
 敷島のベッドを見ると、こんもりと布団が盛り上がってる。
 頭から布団を被って寝ているのだろう。
 だが、生命反応が無い。

 シンディ:「!」

 シンディはその布団を捲り上げた。
 するとそこに、本人はいなかった。
 予備の毛布やタオルを丸めて詰め込んだだけ。
 シンディはバスルームを確認したが、そこにもいない。
 部屋中をスキャンしたが、敷島の姿は無かった。
 で、クロゼットを開けると、掛けてあった敷島の服が無い。

 シンディ:「逃げやがったな!あのクソ社長!!」

 シンディも急いで部屋を飛び出した。
 ターゲットは、どこまでも追い掛けて追い詰めるのがマルチタイプだ。
 敷島は果たして、逃げ切れるだろうか。
 翌朝が楽しみだ。
コメント (2)
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“大魔道師の弟子” 「夜行の旅」 

2016-03-27 11:35:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月11日23:40.天候:晴 JR新宿駅コンコース ???]

「いつまでも“呪い”に縛られることはないと思う。もう私達は人間を辞めたんだ。それなら、私達はもう少し前を見るべきだと思う」
 マリアンナの言葉に、感激するイリーナ。
「確かに、いつまでも“復讐”していたんじゃ、ラチが明かないと思いますよ。マリアさんの言う通りです」
 稲生も大きく頷いた。

 だが、物陰からそんなイリーナ組のやり取りを思いっ切り不快な顔で見ている者がいた。
「くく……!マリアンナの野郎……!裏切り者……!」

[同日同時刻 天候:晴 東京都江東区森下・ワンスターホテル エレーナ・マーロン]

 “宅急便”の仕事を終えたエレーナは自分が働いているホテルに戻ると、寝泊まりしている部屋へと入った。
「ふう、疲れた。明日からこっち仕事だし、もう寝るか」
 被っていた帽子を壁に掛けると、黒いブレザーを脱いだ。
 ふと机の上を見ると、水晶球がピカピカ光っていた。
 ケータイの着信と同じだ。
 何か着信があると、一部がピカピカ光る。
 エレーナは空を飛ぶ魔女であり、水晶球は基本連絡用にしか使わない。
「ん?何か来てる」
 エレーナは赤いリボンや黒いベストを脱ぎながら、水晶球に触った。
「……あぁ?」
 その内容を読んで、エレーナは怪訝な顔をした。
 そしてその水晶球へ語り、発信元へ返信した。
「あまり、勝手なことしない方がいいよ。稲生氏があのマリアンナの下に所属させられたのも、大師匠様の織り込み済みだと思うから」
 すると、すぐにまた返信がある。
『協力できないのなら、邪魔しないでくれ。邪魔したら、あんたも“自殺”してもらう』
『所詮、“狼”に食われたことの無いヤツには、私達の気持ちは分からない』
『裏切り者はコロス』
(……1人じゃないのか。マリアンナ、ちょっとヤバいかもね。いや、ヤバいのは稲生氏もか)
 部屋は地下にあるが、それでも専用のシャワーやトイレもある。
 一矢纏わぬ姿でシャワールームに入る。
 エレーナの体にも、銃痕がいくつも生々しく残っている。
 ダンテ一門に所属する魔女の大半は、人間時代に性的暴行を受け、マリアを始めとしてその体に痕が残されている。
 エレーナは残りの、きれいな体のままで魔女になったパターンだが、マリアとは別に“魔の者”に狙われ、アメリカンマフィアのボスに憑依した“魔の者”と戦った。
 こちらはマフィアの本部が入る超高層ビルごと叩き潰したことで、完全に“魔の者”から狙われなくなったが、代償は体に受けた銃撃の痕である。
 マフィアのボスだから、こちらも自己愛性人格障害者であろう。
 崩壊したビルの下敷きにさせるくらい徹底的に叩き潰さないと、“魔の者”に憑依された者からの魔の手からは逃れられない。
 『流血の惨を見る事、必至』なのである。
(さて、どうなることやら……)

[3月12日00:07.天候:晴 JR中央本線・臨時快速“ムーンライト信州”81号・1号車内 稲生、マリア、イリーナ]

 ホームに発車メロディが鳴り響く。
 同じ中央線内を走る通勤電車が10両、昼間の特急がやはりそのくらいの長さで運転されているのに対し、臨時夜行快速は6両と、こぢんまりとした編成だ。

〔9番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 電車はドアを閉めてゆっくりと発車した。
 そろそろ終電のことを考えなくてはならない時間帯であるが、金曜日の夜ということもあって、まだまだホームは賑わっていた。
 座席は在来線特急の車両が使われているので、リクライニングシート。
 但し、グリーン車は無い。
 稲生とマリアが隣り合って座り、その前にイリーナが1人で座っている。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。「お待たせ致しました。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は中央本線、大糸線直通の快速“ムーンライト”81号、白馬行きです。池袋駅で発生しました線路内人立ち入りにより、遅れております山手線の接続のため、この電車、約13分ほど遅れて発車を致しております。お急ぎのところ、大変ご迷惑さまです。これから先の停車駅と、主な駅の到着時刻をご案内致します。……」〕

「……ねぇ、ユウタ」
 車両は6号車の簡易リクライニングシート以外、座席がリニューアルされている。
 シートピッチが従来より広くなり、だいたい中距離電車のグリーン車並みくらいになった。
「はい?」
「東京の電車は、確か路線によって色分けされてるよね?」
「ええ。だから、さっき乗って来た埼京線は緑ですね。マリアさんの色ですよ」
 ダンテ一門は大師匠ダンテの趣味なのか不明だが、各魔道師ごとにシンボルカラーが与えられている。
 但し、見習には与えられない。
 強いて言うなら無色か。
 但し、与えられたから何といった感じで、マリアのようにブレザーの色を緑にしたりするくらいしかやることが無い。
 中には、与えられた色が何なのか分からないほどに黒色に染まったアナスタシア組のような集団もいる。
「その、遅れているという山手線は?」
「黄緑ですね」
「黄緑……。この中央線は?」
「更にどんな電車かにもよりますが、各駅停車は黄色、快速はオレンジ、特急や立川から先の中央本線は青ですね。それがどうかしましたか?」
「いや、何だろう?少し気になったものだから……」
「そうなんですか」

〔「……終点白馬には5時40分、終点の白馬には明朝5時40分、定刻に到着する予定です。電車は6両編成で運転致しております。……」〕

「全員、魔女さんなんですよね?今の色を持つ人達……」
「ああ。黄色はポーリン先生だし、青はエレーナなんだけど……。黄緑とオレンジは、ユウタも知らないだろう」
「あまり、色まで見ませんからねぇ……」
 稲生は首を傾げた。
「気をつけた方がいいと言った魔女の2人だよ。どうしてもユウタが男ということで、入門に断固反対していた奴らの中の2人だ」
「早く1人前になって、信頼を勝ち取らないといけませんね」
「あ、ああ……うん」
 マリアは前向きな稲生に頷いたが、
(いや、絶対そんなのんきな話じゃないと思う。エレーナが送って来たメッセージはこの関係か?)
 マリアが稲生を追い出してくれると思っていた強硬派である。
 しかしそれどころか、稲生に心を許したマリアに対し、物凄く不快に思っているというのにも気づいている。

〔「……次の停車駅は立川、立川です」〕

「ちょっと、寝る前に洗面所に行ってきます」
「ああ」
 稲生はデッキの洗面所に向かった。
 窓側に座るマリアは、まだ空いているイリーナの隣の席に移動した。
「師匠、師匠。エレーナのメッセージですが……」
 既に座席を倒してフードを被っているイリーナは爆睡しているかと思ったら、そうでもなかった。
「……ええ、分かってるわよ。今回、アタシが同行しているのは、正にエレーナのメッセージ通りの内容を警戒する為よ」
「ええっ?」
「さしものあのコ達も、アタシみたいなクラスのヤツが一緒だと手出しができないみたいだね」
「どうして“ウグイス”と“ヴァーミリオン”が?」
「……女の嫉妬ってのは怖いねぇ。私の予想だけど、人間時代、あなたが1番“狼”に食われたのに、さっさと自分だけ立ち直ってユウタ君と幸せになろうってのが気に入らないんじゃない?」
「そんな……!」
「とにかく、あいつらは何かの用事で日本に来ただけだと思うから、国際都市・東京から出てしまえば何もできないよ。あとは、ほとぼりが冷めるまで、屋敷でおとなしくしてるのがベストだと思うね」
「……私も顔を洗って来ます」
「あいよ、行っといで」
 マリアは困惑した顔を隠しきれないまま、デッキに向かった。
 デッキの洗面台に稲生の姿は無かったが、併設されたトイレが『使用中』になっているところを見ると、そこにいるのだろう。
 この列車のトイレは全て和式であり、マリアのようなヨーロッパ人には使いにくい。
(ダメだ……。そんなに器の小さい連中だったのか……)
 顔を洗って、マリアはそんなことを考えていた。
(いつまでも、傷の舐め合いだけじゃダメだ。それでは、いつまでも前に進めない……)

 電車は途中で先行の通勤電車を追い抜いたからなのか、グングン速度を上げ始めた。
 夜行列車だからダイヤはかなり余裕に取られているはずだが、そもそも10分以上も遅れて発車したものだから、回復運転をしようとしているのだろう。
 偶然であろうが、マリアの『前に進まなきゃ』という言葉に呼応するかのように、列車は速度を上げ始めた。
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