報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ガイノイド、東北へ行く」

2016-03-14 21:40:36 | アンドロイドマスターシリーズ
[3月11日05:20.天候:晴 東京都江東区菊川・敷島エージェンシー シンディ、敷島孝夫、鏡音リン・レン、MEIKO]

 まだ薄暗い新大橋通り。
 しかしこの都道は、既に多くの車が行き交っていた。
 その前に佇む小さなテナントビルの前に、1台の白い個人タクシーが止まる。
 セダン型ではなく、ミニバンタイプである。

 リン:「社長、タクシー来たよー!」

 頭に大きな白いリボンを着けたリンが、窓の上から道路を覗き込んでいた。
 タクシーの到着を確認して、社長室に向かって大きな声を上げる。

 シンディ:「社長はもうすぐ来るから、先に下に行ってなさい」

 シンディ、腰を両手にやりながら窘めるように言う。

 リン:「はーい(^O^)/!レン、一緒に行こっ!」
 レン:「うん」

 レンは自分用のバッテリーパックの入ったリュックを背負う間も無く、双子の姉機に手を引かれて事務所を出た。

 敷島:「朝から元気だなー。ま、昔からだけど」
 シンディ:「まあね。取りあえず、ロイドの方は準備できたよ。社長は準備OK?」
 敷島:「俺はいいが、MEIKOはどうした?MEIKOもCM契約している酒造メーカーさんから呼ばれて、行くことになったからな」
 シンディ:「ん」

 シンディは無言で窓の外を指さした。
 そこには既にタクシーのハッチを開けて、自分の荷物を積み込んでいるMEIKOの姿があった。

 敷島:「MEIKO、早っ!」
 シンディ:「言ったでしょ?ロイドの方は準備OKだって。社長はどう?人間の準備ができないと、何も始まらないよ」
 敷島:「それを早く言え。行くぞ、今すぐに!」

[同日05:45.天候:晴 JR東京駅 上記メンバー]

 ミニバンの最後部で3人仲良く座るボーカロイド達と、その前に座る敷島とシンディ。
 数多く往来する高速バスが、ターミナル駅の接近を否応にも知らせてくれる。
 半数はこの東京駅周辺が終点らしく、『回送』表示が多かったが、中には『東京ディズニーリゾート』とか『西船橋』『東雲』とか書かれているバスもある。

 敷島:「俺も売れないプロデューサーだった頃は、よく夜行バスで移動してたもんだけど、さすがにあのツアーバスに乗る気にはなれなかったな」
 シンディ:「社長、今は法律が変わって、あの“ウィラーエクスプレス”や“オリオンツアー”なども路線バスになりましたよ」
 敷島:「いや、知ってるけどさ、俺は最初から路線バスの会社しか利用したくないな」

 敷島、首を横に振って答える。

 MEIKO:「社長、ファンの皆さんの中には、そういう安い高速バスで駆け付けてくれる人もいるんですよ」
 敷島:「もちろん、そういうファンの思いを否定するつもりはない。だけど、俺はいいやって話」
 シンディ:「路線バスでもバージョン4.0は構わず襲って来たでしょ?」
 敷島:「エミリーから聞いたのか。昔の話だ。エミリーのヤツ、派手に4.0をぶっ壊してたよ」
 シンディ:「エミリーは近接戦が得意だからね。組み付かれたら最期だと思った方がいいよ」
 敷島:「まあな。暴走したエミリーに危うく組み付かれそうになった時は、思わず念仏を唱えたよ」
 リン:「そしたら!?」
 敷島:「ロケットアーム(左手の有線ロケットパンチ)で掴まれてしまった」
 レン:「知ってます。その後で『南無妙法蓮華経』と唱えたら、左手のチェーンが切れたんですよね」
 敷島:「そうそう」
 シンディ:「何気に作者のバックからの指示が入っていそうな会話ねぇ……」

 タクシーが無事に東京駅八重洲口に到着し、荷物を降ろすボカロ達。

 シンディ:「タクシーチケットで払います」

 さすがそこは秘書ロイド。
 シンディはボールペンでささっとタクシー料金の額を書いて運転手に渡した。

 敷島:「じゃ、荷物を降ろしたら移動だ」

 シンディが1番大きい荷物を持っているが、これはもちろん彼女がこの中で1番力持ちだからである。
 確かにMEIKOよりも高身長で肉付きも良いが、恐らく油圧の関係で人間には有り得ない腕力を持ち合わせているのだろう。
 改札口は八重洲中央口から中に入る。
 その後で、今度は新幹線改札口を通った。
 日本橋口改札以外、JR東日本の新幹線は改札口を2回通らないといけないので不便だが、構造上そうなってしまう。

 シンディ:「社長、まだ時間あるから駅弁でも買って行く?」
 敷島:「あー、そうだな。“やまびこ”41号は21番線か。じゃあ、買ってきてくれるか。“東京弁当”、お茶も一緒に」
 シンディ:「はい」
 リン:「社長、今度の電車は充電コンセント付いてるの?」
 レン:「リン、まだ僕達、メインバッテリー90%以上もあるんだよ?まだ大丈夫だって」
 MEIKO:「予備のパックも、何個か持って来たしたね」
 敷島:「E2系だからな。後期タイプだとコンセントがあるんだが……」
 リン:「後期タイプ(笑) 何だかシンディみたい」
 敷島:「まあ、そうだな」

 シンディは的確に敷島の欲しい物を買って来た。

 敷島:「さすが優秀だな」
 シンディ:「お褒めに預かりまして」

 エスカレーターでホームに上がると、既に10両編成のE2系はドアを開けて乗客を乗せていた。

 リン:「まさかの初期タイプ💢」
 レン:「ハズレの前期タイプだったね(笑)」
 シンディ:「アンタ達、何言ってんの?」
 敷島:「E2系0番台か。間接照明が落ち着いてるから、俺はいいと思うけどな」

 敷島はボディの下に書かれている型番と車内を見比べて言った。

 敷島:「とにかく乗るぞ」

 メンバー達は車中の者となる。
 乗車車両は10号車。
 E5系やW7系などでは最高級の“グランクラス”がある車両だが、E2系では普通車指定席である。

 シンディ:「アタシみたいなのは立ってていいんだよ?逆にその金で、このコ達グリーン車に乗せてあげたら?敷島エージェンシーのトップスターなんでしょ?」
 MEIKO:「別に、人間のスターじゃないからいいのよ。本当だったら私達、トラックか貨物列車で輸送される身よ」
 敷島:「昔、それで平賀先生と鉄道会社とでモメたって話聞いたな」
 リン:「そうなの!?」
 敷島:「七海を電車に乗せていいものかどうかでモメたらしい」
 シンディ:「結論は?」
 敷島:「人間のフリして、そのまま乗せればモメないことが判明したwww」

 ズコーッ!!(ズッコケるロイド達)

[同日06:04.天候:晴 JR東北新幹線“やまびこ”41号・10号車内 上記メンバー]

 始発の東北新幹線は定刻通りに東京駅を出発した。
 ロイド達は3人席に仲良く座り、敷島は窓側席に座って駅弁をつついている。
 シンディはデッキの荷物置き場に荷物を置いて戻ってきた。

 MEIKO:「カメラ(目)に映らない所に荷物を置くのは不安ね」
 シンディ:「アタシの予備パーツも入ってるから、勝手に移動したりしたら、センサーですぐ分かるよ」
 MEIKO:「私より高性能……!」
 シンディ:「いや、アタシゃマルチタイプだから当たり前だよ!」
 敷島:「おいおい。お前達が今回東北に行くのは、震災発生から5年目に当たっての慰問ライブなんだからな。あんまりはしゃぎ過ぎるなよー」

 敷島は弁当の箸を動かしながら、ロイド達に注意を飛ばした。

(※タクシー協力:法道院支部法華講所属O原班長)
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“大魔道師の弟子” 「震災前夜の魔の嵐」

2016-03-14 10:25:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月10日21:55.天候:雨 仙台市地下鉄南北線・長町南駅 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 規則正しくワイパーを動かす1台のタクシー。
 それがショッピングモール前の地下鉄駅の前に止まる。
「はい、着きましたよ。◯千△百□十円です」
「はい。カードでお願いします」
 稲生はイリーナから渡されたゴールドカードを渡した。
 暗証番号は聞いて知っているし、サインについてはマリアが行った。
 マリアもロシア語は分からないが、イリーナの名前をロシア語でどう書くかくらいは知っている。
 とはいえ、別に英語表記でも良いので、それでも問題は無い。

 タクシーを降りると、マリアは目の前のモールに目を凝らした。
「ここはまだ来たことなかったでしたかね?」
「ああ。私が前回、件の場所で暴走したものだから、ここには来られなかったな」
「あ、そうか。……さすがにほとぼりは冷めていたようなので、明日ここに来ましょうか」
「師匠が何て言うかな?」
「意外とあまり気にしないかもしれません」
「……だな」
 地下鉄への階段を下りて、駅構内に入って行く。
「それにしても、この雨はいつになったら止むんでしょうねぇ?」
「私の予知では、夜半過ぎのようだ。つまり、明日はいい天気だよ」
「そうですか。それならまあ……」
 仙台市地下鉄では2016年3月26日からでないと、Suicaなど他のICカードとは共用できない。
 つまりここでは、稲生のSuicaは使えないということだ。
「ちょっと、キップ買って来ます」
「ああ」
 というわけで、キップで乗ることになる。
 キップを買っている最中、駅構内に“荒城の月”のインストゥメンタルが流れてきた。
 これは仙台市地下鉄の運行時間帯において、毎時間定時になると流れてくる時報のようなものである。
 そのメロディを受けながら、幅広の改札口を通って更に下に降りる。
 魔界高速電鉄では駅やトンネルが素掘りで、湧き水の流れている所があったが、さすがに人間界の地下鉄にはそんなものはない。
 ……と言いたいところだが、東欧の地下鉄では岩肌剥き出しの駅があるらしい。
 魔界高速電鉄の地下鉄はレジスタンスが掘ったトンネルや、ダンジョンとしての洞窟を転用したトンネルもあり、そういう所が不気味な素掘り駅になっていたりするのだろう。
 この時間、仙台市地下鉄南北線の運行間隔は10分おき。

〔2番線に、泉中央行き電車が到着します。……〕

「寒くないですか?」
「いや、大丈夫。イギリスの方が寒い」
「そうですか」
 電車が強風と轟音を立てて接近してくる。
 1つ手前の富沢駅は乗車客が少なく、ほとんど回送状態で来たかのようだ。
 しかし、この駅で乗車率は跳ね上がる。
 稲生は着席すると、持っていたビニール傘を……あれ?どこいった?
「さすがマリアさんの杖ですね。傘にも変身できるなんて……」
「ユウタの杖でもできるんだよ。早く、傘に変身できるようになるまで頑張って」
「はい」
 今、マリアが足の間に挟んでいる杖がそれのようである。

〔2番線から、泉中央行き電車が発車します。ドアが閉まります〕

 短い発車メロディの後、電車はホームドアと車両のドアを閉めて発車した。

〔次は長町、長町です。JR線、仙台空港アクセス鉄道線はお乗り換えです〕
〔日蓮正宗・法龍山仏眼寺へは愛宕橋で、上方山日浄寺へは北仙台で、法光山妙遍寺へは八乙女でお降りください〕(※実際はこの放送は流れません。似た感じの広告放送は流れます)

 雨ガッパ代わりに着たマリアのローブだが、もう既に乾いていた。
「師匠は既にホテルに戻ってるみたいだ」
「何だか、僕達だけ遊んで申し訳無いですね」
「しょうがない。私達が行ってもどうせ何もできないし、イリーナ組の信条は『遊ぶ時は遊ぶ』だから」
「で、『寝る時は寝る』ですね」
「ま、そんなとこ」
 マリアはニヤッと笑った。

[同日22:15.天候:雪 地下鉄仙台駅→東横イン仙台東口1号館 稲生&マリア]

 電車は更に乗客を増やして、仙台市の北へ向かう。
 そして1番乗降客の多い仙台駅のホームに滑り込んだ。

〔仙台、仙台。ドア付近のお客様は、開くドアにご注意ください。仙石線ご利用のお客様は、ホーム後方の連絡口をご利用願います〕

 稲生はマリアと手を取って電車を降りた。
「あれ?」
「どうしました?」
「いや、多分夜中には止むはずなんだけど……」
「雨ですか?」
「いや、それが……」
「?」

 多くの人が行き交う地下道を抜け、仙台駅東口に出ると、
「あれ!?雪ですか!?」
「うん。一瞬、大昔の夜のロンドンの暗い街並みが浮かんで、雪が降っていたからね」
「何だか、どこかのホラー映画みたいですねぇ……」
「ここはまあ、そんなに暗くないから大丈夫だろう」
「ええ」

 駅から歩いてホテルに戻ると、ロビーにイリーナがいた。
「おぉ!無事に帰ってきたねぇ」
「師匠!」
「先生、お休みじゃなかったんですか?」
「いやあ、久しぶりにモンスター退治をしてきたもんだから、興奮冷めなくて眠れなくってねぇ……」
「師匠ともあろう御方が、たかだかモンスター退治如きで……」
「そんなに強いモンスターだったんですか?」
「いや。ム・ェラ(小火)やメ・ラ・ミィ(中火)で倒せる程度」
「ザコじゃないですか!」
「何かの布石ですかね?」
「おっ、さすがユウタ君。ゲームやってるだけのことはあるねぇ。“魔の者”と関連があるみたいなんだよォ……」
「えっ?」
「明日、慰霊祭が行われる東日本大震災が魔界の方にも影響があったことは聞いてるよね?」
「危うく“魔界富士”が噴火する所だったんですよね。正式名称は何て名前でしたっけ?」
「スーパーグレート火山だよ」
 と、マリア。
「元々名前なんて無い火山だったから、正式名称も安直だね。まあ、それはいいとして……。さすがにあの火山が噴火したらアルカディアシティが壊滅するから、大魔王バァルも逃げ出すわけにはいかなくてね、その火山を止める為に力を大きく使ったことがあったのよ。で、その時、うちの先生に騙されていたことに気づいたってわけ」
 魔界の奥底深くに潜んでいるという“魔の者”に対応する為、ルーシーに王権を預けたはいいが、実はダンテのガセネタであったという。
「それで、今回の先生の仕事とどんな関係が?」
「まだ分からない」
「えっ?」
「要は、それを知る為の事前調査だったのよ。大きな声では言えないけど、海岸への漂着ゴミの中に、どういうわけだか魔界の物が含まれててね、その中にモンスターもいたってわけ」
「怖っ!」
「ほとんどが既に死んで腐った肉になってるけどね。見た目はクジラの死体に似てるから大丈夫だよ」
「そうですかね!?」
「ま、ユウタ君やマリアの無事な姿も確認できて安心したし、やっと落ち着いて眠れそうだよ」
「はあ……」
「無事でって……?」
「“魔の者”の関係者かどうか分からないけど、あなた達の後ろをそれっぽい気配が距離を取って付いてきてたよ」
「ええっ!?」
「あなた達がこのホテルに入ってから消えたから、まあ、何をしたかったんだか分からないけどね」
「いつの間に……!?」
「まあ、アタシもいるから、安心して寝てていいよ。あ、そうそう。何も無いとアタシもぐっすり寝込んでるから、マリア、起こしてね」
「やっぱり……」
 3人の魔道師は客室に戻る為、エレベーターに向かった。
 その時、ふと稲生がエントランスの方を見ると、雪がしんしんと降っている様が見えた。
 地面に落ちてはその雪が消えるので、今すぐに積もるわけではないようだ。
 そしてマリアの予知が当たれば、夜中には止むということだから、積もることは無いだろうが……。

 で、エレベーターに乗り込んだのは稲生達だけであったが、ドアが閉まるまでの間、ホテルの外で、イリーナが言っていたらしい人物の姿が見えた。
 それはまるで全身黒タイツを着用した人物……マンガやアニメで言うなら、“名探偵コナン”や“金田一少年の事件簿”に出てくる犯人のようだった(まだ犯人が特定されていない状態で、その犯人が次の犯行に及ぶシーンの時の姿など)。
 稲生達を狙っているのだろうか?それとも……。
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