報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「鉄道の旅」

2016-03-22 19:29:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月11日19:00.天候:晴 仙台市宮城野区福室・仙台コロナワールド1F男子トイレ 稲生勇太]

 退館してバス停に向かう前に、トイレに寄る稲生。
「ふう……。風呂上がりのマリアさんもかわいいな」
 便器の前に立ってホッと一息つく稲生の隣の便器に立つ者がいた。
「うむ。因みに、マリアンナは生理前……2〜3日前の今くらいが1番性欲が高まる傾向があるので、更なる告白をするなら今だよ」
「は!?」
 バッと隣を見ると、そこにはタキシードと蝶ネクタイを着けたベルフェゴールの姿があった。
「ベルフェゴール!マリアさんの使い魔が何の用だ?お前の仲間の“色欲の悪魔”なら、僕が1人前になってからの契約のはずだぞ?」
「はははは……(苦笑)。使い魔か。まあ、実質そのようなものだな」
「僕に何か用か?」
「もう少し落ち着きなさい。私が立場上、キミの魂を食らうことが今できるとでも思うのかい?もう少し、自信を持ちたまえ。稲生勇太君?」
 稲生は足が震えていた。
 隣にいる悪魔は、キリスト教でも名高い“七つの大罪の悪魔”の1つ、“怠惰の悪魔”のベルフェゴールなのである。
 RPGでは大ボスを張ることが多い。
 ゲームによっては魔王扱いされる“暴食の悪魔”ベルゼブブの同僚でもある。
「マリアさんを不幸にした悪魔が!」
「おいおい、勘違いしてもらっては困る。私は契約通りに動いただけだ。稲生君、今度から契約書とか規約書はよく読んでからサインした方がいいよ」
「なに!?」
 稲生は便器から離れて、洗面所に向かった。
「私とてキミとマリアンナの仲については、是非進展してもらいたいと思っている。もし何だったら、私に頼めばいくらでも協力するよ」
「悪魔に頼むつもりはない!」
 魔道師が悪魔と契約するのは、悪魔から更なる魔力をもらう為と、自身の身辺警護の為である。
「人間と契約する時の悪魔と、魔道師と契約する時の悪魔の立場の違いがよく分かっていないようだな。帰宅したら、その辺よく確認すると良い」
 ベルフェゴールはそう言うと、先にトイレから出ていった。
 間髪いれず、稲生もすぐにトイレを出たのだが、既にベルフェゴールの姿は無くなっていた。

[同日19:20.天候:晴 仙台市宮城野区鶴巻・仙台市営バス『鶴巻』バス停 稲生、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 夜になって、市内は風が出て来たようだ。
 ヒュウと風が吹いて、稲生を除く魔道師達のローブが風に靡く。
「19時21分発、荒井駅行き。これですね」
 バス停に並ぶ乗客はおらず、稲生達だけである。
 すぐ近くの産業道路からは、多くの車が往来する音が聞こえる。
 バス停のある場所はそこから1本入った道であり、道幅は狭くないのだが、その割には交通量が少ない。
「何か、ベルフェゴールが余計なこと言ったみたいで申し訳無い」
 マリアは稲生に謝った。
「あ、いや、いいんですよ。ただ、何で今さらあんなこと言ったのかなぁって……」
 もちろん、生理前云々については喋っていない。
「ちょろっと様子を見に来ただけだったんだろうけど、“使い魔”扱いされたから、少しカチンと来たのかもね」
 と、イリーナ。
「えっ?」
「使い魔と契約悪魔は違うよ」
「そうなんですか!?」
「うん。実は近いうち、ユウタ君にも使い魔と契約してもらおうと思ってる。使い魔は文字通り、魔道師の“使い”だからね。つまり、使役する下級の悪魔のこと。ベルフェゴールなどは、私達魔道師に魔力を付与してくれる『対等の相手』。まあ、今は私らの買い手市場ではあるけれど、立場的にどっちが上でも下でも無いのよ。まあ、ボケとツッコミかな」
 悪魔がボケ役で、魔道師がツッコミ役だろうか。
 確かにどちらも重要な役なので、どちらが上でどちらが下でもない。
「そうだったんですか。ベルフェゴールに悪いこと言っちゃったな」
「まあ、ベルフェもバカじゃないから、ユウタ君が知らずにそんなことを言ったくらいは知ってると思うわ」
「師匠、バスが来ました」
 そこへ、バスがヘッドライトの眩い光を照らしてやってきた。

〔「宮城運輸支局前、荒井駅方面、鶴巻循環です」〕

 かつては起点・終点のバス停であったが、地下鉄東西線開通に伴うバス路線再編成のせいか、ここを発着するのは循環バスだけになってしまった。
 その為、起点・終点の停留所ではなくなっている。
 なもんで、既に乗っている乗客がいたが、数人だけと数えるだけになっていた。
 まだSuicaが使えないので、整理券を取る。
 乗り込むと、1番後ろの席に3人並んで座った。

〔「はい、発車します」〕

 バスが夜の工場街を進む。

〔毎度、市営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。次は鶴巻保育所前、鶴巻保育所前でございます。お降りの際はお忘れ物の無いようご注意願います〕

「マリアさん、温泉はどうでしたか?」
「ああ。日本に来て良かったよ」
「いやあ、ダーツで決めて良かったねぃ」
 と、イリーナ。
「ダーツで決めたって本当なんですか?所ジョージじゃあるまいし……
「そうだよ。ね?マリア?」
「はい。ダーツで決めて良かったです」
「そ、そうですか」
 要は世界地図を広げて壁に張り、ダーツを投げたら日本に刺さったという話だ。
 大師匠ダンテも、『アジアへ行け』という指示は出していたらしいが……。
「痣が消えて行く感じだ。まだ、気休め程度だけどね」
 マリアの体には、人間時代に受けた暴行の数々の痕がまだ残っている。
 ベルフェゴールと契約する直前には、女の尊厳も奪われた。

 魔道師と契約する時の悪魔は対等(現在は若干、魔道師側が有利)だが、人間と契約する時は悪魔の方が上であることに気づけない人間を狙うのだという。
 マリアも見事に狙われ、彼女の思い通りの復讐劇を繰り広げたが、最後にはものの見事に騙された。
 ベルフェゴールは、『契約の時に確認しなかったマリアンナが悪い』の1点張りで突っぱねている。
 現在はイリーナも立ち会っての契約なので、変な特約が付けられることはない。
 時折、Windows10の無償アップグレードのポップアップ並みに、それとなく特約を付けるよう勧誘してくることはあるが。
 もちろん、魔道師となったマリアはそれを断っている。
(そういえばベルフェゴールやアスモデウスはたまに姿を現すけど、イリーナ先生のレヴィアタンは姿を現さないな。まあ、個性的な悪魔達だからな……)
 稲生がそんなことを考えていると、マリアが、
「ベルフェのヤツ、他に何か言ってなかったか?」
 と、聞いて来た。
「あー、えーと……」
「言って!」
「はあ……。マリアさんは今、生理2〜3日前だから性欲が強いだとか、今着けてるブラ・ショーツは白系だとか、そんなこと言ってました」
「くっ!あのクソ悪魔……!」
 マリアは顔を赤らめた。
「多分、アスモデウスの入れ知恵だね。さすがは色欲の悪魔だよ」
 イリーナは呆れたように言って、天井を見上げた。

「♪」
 バスの屋根の上に上半身だけ起こして寛ぐベルフェゴールとアスモデウスの姿があったが、気づいたのはイリーナだけであったようだ。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「再びの仙台へ」

2016-03-22 15:56:12 | アンドロイドマスターシリーズ
[3月11日17:00.天候:晴 宮城県仙台市・市街地 3号機のシンディ、敷島孝夫、平賀太一、1号機のエミリー]

 夕闇迫る仙台市の市街地を走る高速バス。
 山形市内を出発した時には、窓側席が全部埋まるほどの乗車率で、これなら確かに朝夕のラッシュも賑わうのが目に見える。
 都市間高速バスとして成功した路線であろう。
 その為、鉄道の方は衰退してしまっている。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日も宮城交通高速バスをご利用頂きまして、ありがとうございました。まもなく終点、県庁市役所前、県庁市役所前でございます。……〕

 バス停の名前は『県庁市役所前』であり、『県庁・市役所前』ではない。
 さいたま市のように、県庁と市役所、それに区役所が集合しているパターンである。
 何もすることがなく、“スリープ”に入っていた鋼鉄姉妹が、放送を合図に“スリープ”を解除する。

 敷島:「どーれ、そろそろリンとレンのイベントが終わるかな」
 平賀:「あのコらも、随分と有名になりましたね」
 敷島:「ええ。奈津子先生の仕事、取っちゃったかな……」
 平賀:「いやいや。ナツも、敷島さんでなければできなかったと言ってますよ」
 敷島:「そう言ってもらえると光栄ですね」

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、県庁市役所前に到着致します。お忘れ物、落し物の無よう、ご注意ください」〕

 バスがいくつもポールの並ぶバス停に止まる。
 降りる時に4人は購入した乗車券を整理券と一緒に、運賃箱に入れた。
 乗車券購入者はこれで良い。

 敷島:「それじゃ、リンとレンを迎えに行くか」
 シンディ:「MEIKOは?」
 敷島:「もう今頃、別の会場に移動してるだろう。後で俺も行くよ」

[同日17:15.天候:晴 勾当台公園イベント広場 シンディ、鏡音リン・レン、敷島孝夫]

 イベント監督:「だからまあ、今度は……」
 敷島:「すいません、敷島エージェンシーの者です!」
 イベント監督:「ん?」
 敷島:「うちのアイドル達が何かご迷惑を!?」
 イベント監督:「いやいや、むしろその逆ですよ。いやあ、試しに使ってみるものですねぇ。ま、ボーカロイドだから、あまり人間の生き死にについては分からないだろうけど、素晴らしい歌唱力で、お客さん達、感動してましたよ。是非またよろしくお願いしますよ」

 イベント監督、敷島の肩を叩いてその場を立ち去る。

 敷島:「お前らなぁ、追悼式に歌う歌だぞ?変なアレンジやアドリブ入れたんじゃないだろうな?」
 レン:「あー、えーと……」
 シンディ:「変なアレンジやアドリブを入れたのは事実みたいだね。ま、監督のあの様子じゃ、結果オーライだったみたいだけど」

 シンディ、右手を腰にやって呆れるような顔をする。

 リン:「でも、お客さん達、盛り上がってたYo〜!」
 敷島:「盛り上げるイベントじゃないって、昨日言っただろ!」
 シンディ:「会場のアンケートの結果と、ネットがどれだけ燃え上がるか、あとはマスコミの反応次第ね」
 敷島:「とにかく、着替えたら移動だ。今日はMEIKOの仕事が遅いから、ここで一泊していく。お前達はもうホテルに入れ」
 リン&レン:「はーい!」
 シンディ:「平賀博士が整備してくれるから、その後だね」
 敷島:「そうだな」

 敷島達がリンやレンと合流している間、喫煙者の平賀は喫煙所で一服していたという。

 平賀:「最近はどこの乗り物も、禁煙ばっかになって大変だよ」
 エミリー:「ロケット・アーム!」

 エミリー、左手を上空に挙げ、そこから有線ロケットアームを空に向かって飛ばす。
 そして、子供が放してしまった風船を掴んだ。
 腕はスルスルとワイヤーを収縮させていき、元に戻す。

 エミリー:「はい」
 子供:「ありがとう」

 エミリー、腰を曲げて子供に風船を渡す。
 その時、後ろからポンとエミリーの尻を軽く叩く者がいた。

 シンディ:「何気にいいことしてるじゃん」
 エミリー:「シンディ、私の・尻を・叩くな」
 シンディ:「いいじゃん。減るもんじゃないしー」
 敷島:「バカなことやってないで、さっさと行くぞ」

[同日20:00.天候:晴 ホテルメトロポリタン仙台 シンディ、敷島孝夫、MEIKO]

 MEIKO:「ありがとうございましたー!」

 ワイヤレスマイクを片手に、赤いドレスを着たMEIKOがショーの観客に挨拶してバックヤードへと下がった。

 敷島:「お疲れさん、MEIKO」
 MEIKO:「あっ、社長。来てくれたんですか?」
 敷島:「ああ。お前やKAITOはディナーショーが向いてるな」
 MEIKO:「ありがとう。私のショー、どうでした?」
 敷島:「良かったぞ」
 MEIKO:「へへっ!(〃´∪`〃)ゞ」

 バックヤードの壁にも、MEIKOのディナーショーのポスターが貼ってあった。
 最後は赤いドレスを着ていたMEIKOだったが、ポスターには“千本桜”の衣装を着たものが貼られている。
 最初はそれで登場したのである。

 敷島:「取りあえず、着替えてホテルに戻ろう。整備は明日、アリスがやってくれる」
 MEIKO:「分かったわ」

 控室で着替えるMEIKO。
 宣材写真(クリプトン社の公式イラスト)だと赤いバドスーツを着ているが、普段はその上からコートを羽織る。
 シンディは、ボーカロイドの背中にあるバッテリーの交換を行った。

 MEIKO:「今日はこれから平賀博士と飲みに行くの?」
 平賀:「先生も忙しいからな、夕食だけ取りあえず一緒にしただけだよ」
 シンディ:「そういうこと」

[同日21:00.天候:晴 ホテル法華クラブ仙台 シンディ&敷島]

 敷島:「あー、疲れた。俺もトシかな……」
 シンディ:「何言ってんの」

 ベッドにうつ伏せなり、シンディにマッサージをしてもらう敷島。

 シンディ:「明日はどうするの?」
 敷島:「リン・レンとMEIKOは午前中オフだから、少しゆっくり目に出発するさ。てか、もう新幹線はその時間のを予約してるだろ?」
 シンディ:「まあね」
 敷島:「明日のランチから一緒に過ごすから、絶対だぞってアリスのヤツさぁ……」
 シンディ:「いいじゃない、別に」
 敷島:「MEIKOの整備どうすんだよ、全く……」

 ゴリゴリと足ツボを押される敷島。

 敷島:「うー、そこそこ……!」
 シンディ:「この辺ね。……悪いね。こんなことくらいしか役に立たなくて」
 敷島:「んー?」
 シンディ:「姉さんみたいに、もっとサーバーのダミーになれるくらいだといいんだけど……」
 敷島:「なに言ってるんだ。マルチタイプのトップナンバーを使った方が、より確実だからエミリーを選んだだけだぞ。何もお前が役に立たないからってわけじゃない」
 シンディ:「そうなの?何か最近、ヤキが回って来た気がしてねぇ……」
 敷島:「バージョンがナメた態度を取って来るって話か?いいんだよ。そんなヤツぁ、どついたって。俺が許す」
 シンディ:「そう言ってくれると、ありがたいね」
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“大魔道師の弟子” 「魔道師達の追悼」

2016-03-22 10:14:37 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月11日14:46〜14:47.天候:晴 仙台市宮城野区某所 稲生勇太、マリアンナ・ベルフェ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 スマホでインストールしたNHKラジオのアプリ。
 そこから追悼式の模様が中継されてくる。

〔「黙祷!」〕

 震災発生時間と共に3人の魔道師達は、海の方向に向かって黙祷した。
 稲生の生家があった場所からは、海は全く見えない。
 それどころか、潮の香りすらしない。
 それでも、津波はやってきた。
 イリーナは、
(ユウタ君の宗教勧誘を断った人間達が、全員被災したという話、あながち無関係とも思えないんだよねぇ……)
 と考え、マリアは、
(ダンテ一門の誰1人、この震災を予知できなかったというのは不自然過ぎる。師匠ですら予知不能だったなんて……)
 と、魔道師達の観点はちょっと変わっていた。

〔「黙祷、終わります。……」〕

 稲生は目を開けると、アプリを閉じた。
「ありがとうございました」
「いや、いいよ。あと、私達の仕事は……まあ、ほとんどアタシの仕事になるのかな。この“悪魔の所業”を突き止めることだよ」
「“魔の者”の揺さぶり、ですよね?」
「それもあるんだけど、もっと他にありそうな気がする。まあ、ミシェル先生のチームがどういう調査をしていくかだね。で、ユウタ君、この後どうするの?」
「新幹線の時間までまだ時間があるので、もう少し遊んで行こうかと」
「それはいいね」
「少し歩きますが、あちらです」

[同日16:00.天候:晴 仙台市宮城野区福室・仙台コロナワールド(セガ) 稲生&マリア]

「あれ?先生は?」
「師匠は“仕事”の関係で、外に出ていったよ。何か、ちょくちょく連絡が来るみたい」
「何か、忙しそうですね。早めに帰った方が良かったかな?」
「いや、大丈夫だろう。それならそう言うだろうし」
「そうですか」
「それより、今度はあれ取って」
「あー、ハイハイ」
 稲生の特技はゲームであるが、アーケードにも造詣が深いもよう。
 その証拠に、作者がこの前の帰省で“鏡音リン”のフィギュア1個しか取れなかった中、袋一杯に景品を詰め込んでいる。
 釣果は大漁のようである。
 マリアは大きなお菓子の入った箱がぶら下がっている筐体を指さした。
 あまり大量に取ると、持って帰るのが大変そうだ。

[同日17:30.天候:晴 同場所(大江戸温泉物語・仙台コロナの湯) 稲生、マリア、イリーナ]

 大浴場から出て来る稲生。
 マリアが既にその出入口前にちょこんと座っていた。
「あれ?先生は?また、例のお仕事ですか?」
「いや。あれあれ」
 マリアが指さした所には、リラクゼーションコーナーがあった。
「ああ。こういう所来ると、先生必ず行きますね」
「トシなんだよ」
 マリアはニヤッと笑った。
 昨日もそうだが、風呂から出たばかりのせいか、ローブもブレザーも脱いでいる。
 リボンも着けていない。
「これからどうするの?」
「まだ、もう少し時間がありますよ。東西線が開通したおかげで、前回とはルートが変わります」
「ふーん……?」
「前はタクシーで陸前高砂駅まで行きましたが、今はバスで地下鉄の荒井駅まで行けます。そこから地下鉄で、仙台駅まで戻ればいいんですよ」
「なるほど。そこはユウタらしいな」
「いえいえ」
「師匠がプラチナカード出して、タクシーで楽に行こうとするだろうが、私が無理にでも引っ張って行くさ」
「確かに楽ですけど、今日は平日の、それも金曜日ですからね。市街地近辺は渋滞が発生してそうで……。まだここから荒井駅に行く分には大丈夫でしょうが、市街地まで車で行くのは心配ですね」
「師匠の魔法なら、邪魔な渋滞してる車を消すくらいのことはできるぞ?」
「いや、そこまでしてもらわなくていいです!」
「うっはははは!」
 マリアが大笑いした。
「んー、なぁに?またアタシのネタ?」
 と、そこへ癒し処からイリーナが出てくる。
 目を細めているので、特に怒っているわけではない。
「あ、いえ、違います!帰りのルートです!」
「交通機関や宿泊地についてはユウタの担当ですから、師匠も従ってもらいますよ。イリーナ組の『局中法度』でしょう?」
「あー、そんなのあったかねぇ……。それより、お腹が空いたよ」
「ここで何か食べましょう」
 と、今度は食事処に移動した。

 飲み物はアルコールを頼む。
 こういう時、イリーナは酒豪であることが分かる。
「ウォッカは……無いのか」
「バーとかに行かないと無いと思いますよ、日本じゃ」
「先生はロシア出身ですからねぇ……。そっちの方が良かったですかね?」
「いや、屋敷で飲んでるからいいけどさ。じゃ、ハイボール」
「カシス・オレンジ」
「生グレープフルーツサワーにしようっと」
 誰1人としてビールを頼まないという。
「先生がされているお仕事って何ですか?」
「今回の震災についての調査さ。上手く行けば、“魔の者”の正体が分かってくる」
「あれ?でも、正体はもう既に分かったんじゃ?」
「それはほんの一部さ。氷山の一角。まだ全体像が掴めたわけじゃないんだよ」
「へえ……」
「あの大津波で色んな物が流されたのは知ってるね?」
「もちろんです」
「ところがここ数週間、つまりもう震災が起きてから5年も経つというのに、今さら海から流れ付く正体不明の物体が相次いで報告されているってわけ。調べてみると、魔界からの漂着物だった」
「魔界!?」
「確かに“魔の者”は人間界よりも魔界の住民に近い存在だからね。もし今回の震災が“魔の者”のしわざだったとしたら、確固たる証拠になるわけだね」
「証拠を掴んでどうするんですか?」
「おっと、ここから先は捜査機密」
「なーんだ」
「ま、アタシの個人的見解だけど、“魔の者”は何も人間界だけを狙ってるんじゃないんだと思う」
「?」
「目の上のタンコブたる大魔王バァルも退位したことだし、今の女王ルーシーではバァルに比べて魔力が弱いのは否めない。狙うなら今だ。そう考えてもおかしくはないね。アタシはスーパーグレート火山を噴火させる為に、人間界側から力を押し出したんじゃないかと思ってる」
「スーパーグレート火山!“魔界富士”ですね」
「確かにあれが噴火したら、アルカディアシティは全滅ですね」
 噴火したら町が跡形も無くなるほどの大きな火山。
 そのエネルギーは凄まじく、町の電力はその地熱発電と豊富な地下水脈による水力発電によって賄われている。
 町の電気を1番使っている魔界高速電鉄が、独自の電気事業本部を運営し、発電から送電まで全て行っているという。
 ルーシーの母親である“皇太后”が魔界高速電鉄への法人税をアップさせようとしたところ、発電量を半分カットする反政府ゲリラを行ったらしい。
 安倍春明が慌てて皇太后の政策を中止させたことで、それは1日限定で済んだが。
 とにかく、地熱発電だけで町の電力の8割はカバーできるほどの巨大な火山。
 それが噴火したら一たまりも無いことは分かっている。
「魔界であからさまにそんな動きをしたら、すぐにアタシらにバレて阻止されるのは目に見えている。だから、わざと人間界側から動こうとしたのかもしれないね」
「そんなことの為に、あんなことを……!」
「だから、アタシ達も悪魔の所業と呼んでいるのよ。早いとこ、奴らの全体像を掴まなきゃ」
「そうですね」

 稲生が手元に置いている地元の新聞には、大きく震災の節目である旨の記事がでかでかと掲載されていた。
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