報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ガイノイドの震災回顧」

2016-03-04 20:57:27 | アンドロイドマスターシリーズ
[3月4日10:00.天候:晴 東京都江東区豊洲・豊洲アルカディアビル シンディ&敷島孝夫]

 敷島は移転先のビルに来て、内装工事の視察を行っていた。

 敷島:「18階で眺めもいいし、何かむしろここに俺も住みたくなるなぁ……」
 シンディ:「マンションじゃないんだから……」
 敷島:「豊洲のマンションも高いし、そもそもほとんどが分譲タワーマンションばっかりで、マンスリーマンションがありゃしねぇ」

 隣の駅の月島と新木場にあったのだが、敷島は新木場の方にするという。
 そちらの方が家賃が安いというのもあったが、地下鉄とりんかい線の始発駅だからという理由らしい。

 敷島:「問題は震災対策か……」
 シンディ:「新しいビルだし、その辺は大丈夫なんじゃないの?」
 敷島:「だと、いいんだがな。豊洲も埋立地だし、あんまり地盤が強そうじゃないんだ」
 シンディ:「津波が来たら、私が社長抱えて飛ぶから心配しなくていいよ」
 敷島:「俺だけ助かってもしょうがねぇっての!」 
 現場監督:「あのー、社長さん。そろそろ、ご確認の方を……」
 敷島:「あー、ハイハイ。今行きます」

[同日12:00.天候:晴 東京都墨田区菊川・敷島エージェンシー シンディ&敷島孝夫]

 敷島:「よし。お昼には戻れたな」

 敷島、近所の“ほっともっと”で買って来た弁当を社長室に持ち込んだ。

 シンディ:「お茶、持って行くよ」
 敷島:「悪いな」

 敷島、社長室に入ると弁当を広げ、室内にあるテレビを点けた。
 東日本大震災発生の日から1週間前ということもあって、お昼の情報番組やニュースなんかでも、そのことについて取り上げるようになっていた。

 シンディ:「はい、ほうじ茶」
 敷島:「おっ、ありがとう。……シンディは東日本大震災の時、どこにいた?」
 シンディ:「関西にいた。ドクター・ウィリアムが、そっちの方が安全だからと……」
 敷島:「何で震災発生を知ってたんだ!?」
 シンディ:「分からないけど、何か色んな端末を操作してたね。その頃は私も前期型で、ウィリーのロボットだったから、何も考えてなかったよ」
 敷島:「そうか」
 シンディ:「社長はどうしてたの?その頃、もう既に財団の職員だったんでしょう?」
 敷島:「あの時、俺は都内にいたんだ。大日本電機時代に培った人脈を生かして、とある電機メーカーのビルにお邪魔してたな。トイレを借りて出ようとした時に、何か立ちくらみがしてさ、何だろうと思ってたら、俺のケータイの緊急地震速報は鳴るわ、ビル内の緊急地震速報は鳴るわで、『地震だ!』と思ったね」
 シンディ:「都内にいたということは、厳密には被災してないってことか……」
 敷島:「仙台に戻る手段が全部オシャカになったから、財団本部に駆け込んで、しばらく泊めてもらったよ。その電機メーカーの本社ビルが新宿区内にあって良かったよ」
 シンディ:「社長も大変だったのね。……姉さんは?」
 敷島:「ん?」
 シンディ:「その時……姉さんはどうしてたの?」
 敷島:「ああ、エミリーか……。仙台市内は停電になったんで、ロイド達も殆どが機能を休止した。財団仙台支部が入ってたビルもそんな状態になって、とてもロイドの充電までできるあれじゃなかったからな。当時まだ稼働していた南里研究所には発電機があって、エミリーだけは南里所長の意向でそれで充電していたけど、燃料も底を付いてエミリーも動けなくなってしまった」
 シンディ:「ドクター南里が急逝したのは、まさか……」
 敷島:「老衰だったから直接の原因ではないが、介助ロイドとしての役目も背負っていたエミリーが動けなくなったことで、間接的な原因にはなっただろう」

 もっとも、南里が死去したのは首都圏でも計画停電が無くなった後のことだから、何とも言えない部分はある。
 実は南里自身、介護認定を受けていたわけではなかったので。

 敷島:「で、葬式の時にKR団OGの吉塚氏が参列に来ていた上、シンディがウィリーの名代としてやってきて、『御祝儀』を置いていったと」
 シンディ:「あの時、久しぶりに姉さんのブチギレた顔、見たなぁ……。生真面目だから、よくムスッとした顔はしていたけどね」

 尚、後期型として稼働を始めた際、シンディは両膝をついてエミリーに『全力土下座』をしようとしたが、エミリーからは、
「私に・ではなく・ドクター南里に・謝って」
 と言われ、墓参りの際に謝罪の言葉を投げたところ、
「ならば・許す」
 と、和解している。

 敷島:「ロイドの中では1番、エミリーが苦労したと思うぞ」
 シンディ:「そうなの?」

 仙台市内全域が停電に見舞われる中、エミリーだけのうのうと発電機で充電し、ギリギリまで稼働していたわけではない。
 沿岸部は大津波に見舞われたが、では内陸部は100パー安全だったのかというとそうでもない。
 山間部まで行けば、至る所で土石流(山津波)が発生していた。
 南里研究所のあった仙台市泉区は内陸部で津波の被害は皆無だったが、高台の住宅地が多く、あっちこっちで崖崩れが起きており、特に研究所のあるニュータウンは道路が寸断されて孤立化してしまった。
 エミリーが率先して道路の復旧作業に辺り、ニュータウンの住民達は低地の避難所に無事避難できている。

 敷島:「平賀先生は仙台の大学にいた」
 シンディ:「東北工科大学も、丘陵地帯にあったんでしょう?大丈夫だったの?」
 敷島:「やっぱりすぐには帰れなかったらしいな。俺と同じように、トイレにいたんだって」
 シンディ:「さすがは親友ね」
 敷島:「俺はすぐに出れたからいいが、先生はトイレに閉じ込められてしまった」
 シンディ:「は?確かにあの大学、古い建物もあるけど、平賀博士のいる所って古かったっけ?」
 敷島:「いや、新館にいたらしいんだが、そのトイレの構造がとんでもなくてねぇ……」

 大きな揺れのショックで、壁に収納されていた防火扉が作動した。
 都内でさえ、そういった事象は多発した。
 ところが平賀の場合、その防火扉のせいで閉じ込められたのである。
 男子トイレのすぐ横にあった防火扉が作動したのだが、同時に近くにあったゴミ箱が倒れて、中にあったペットボトルや空き缶が転がった。
 防火扉がそれを挟んで、完全に閉まらなくなったのである。
 で、その扉が止まった所が男子トイレのドア。
 男子トイレのドアは外側に開けるタイプであったため、そこで止まった大きな鉄扉に阻まれ、開かなくなってしまったのだ。

 シンディ:「もしかしてその大学の新館、設計ミス?」
 敷島:「……かもな。あの後、男子トイレのドアは内側に開くグライドスライドドアになったって」

 ノンステップバスの前扉のようなドアのことである。
 閉じ込められた平賀を助けに来たのは、当時一緒に行動していたメイドロイドの七海であった。
 当時の七海は『天然ドジっ子』キャラであり、平賀が閉じ込められたことを知って、助けに来た。

 シンディ:「防火戸こじ開けるだけでしょ?だったら、メイドロイドの力でも余裕だね」
 敷島:「そうなんだが七海のヤツ、道具が無いとダメだと判断したらしい」
 シンディ:「道具?」
 敷島:「用具室に取って返して、電ノコ持ってきたって」
 シンディ:「は!?」

 どうやら電動ノコギリで防火扉を切り開こうとしたらしい。

 敷島:「すぐに平賀先生が、『ばかやろ!手でこじ開けろ!』と、ツッコんだらしい」
 シンディ:「さすがだねぇ……。さすがは前期型の私にボコボコにされても、壊れなかっただけのことはあるわ」

 東京決戦の時である。
 平賀を殺そうとしたシンディだったが、七海に妨害された。
 メイドロイドとマルチタイプ。
 攻撃力の差は雲泥である。
 シンディは笑いながら七海を痛めつけた。
 それでも七海は怯まず立ち向かって来た。
 普通なら壊れているはずなのにと、シンディのスキャナーがエラーを起こすほどであった。
 ただ、その時既にウィルスに感染していたシンディだったので、スキャナー自体が故障していた可能性が高い。
 七海を壊すつもりで攻撃力を調整したはずが、設定が不十分だったと今では考察されている。

 シンディ:「皆して、色々大変だったのね」
 敷島:「あー、因みにアリスはアメリカにいたから、完全に他人事だ」
 シンディ:「そうなの?津波はアメリカの西海岸にも到達したんでしょう?」
 敷島:「オクラホマ州にいたから知らないってさ」
 シンディ:「何故、オクラホマ!?」
 敷島:「あのアメリカ人の考えてることは分からんなぁ……。あ、そうそう。例のサーバー工場の見学に行く日取りが、ちょうど3月11日になった。場所も東北だし、向こうで黙祷でもしてこよう」
 シンディ:「はい」
コメント (4)
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