報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「台風一過」 2

2014-10-22 21:02:18 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月14日12:30.宮城県仙台市泉区 アリスの研究所 敷島孝夫、アリス・シキシマ、鋼鉄姉妹、ボカロ・オールスターズ]

 ようやく研究所に帰って来た面々。
「被害は無さそうだな」
 敷島は建物の外観を見て言った。
「あったら困るわよ」
「オ帰リナサイマセ」
 研究所では留守番部隊のマリオとルイージが出迎えた。
「ただいま。こっちは異常無い?」
 アリスの言葉に、
「ハハッ。特ニゴザイマセン」
「そうでないと困るのよ。エミリー、すぐにランチにして」
「イエス。ドクター・アリス」
「他に変わったことは無かったか?」
 敷島は事務室に入り、PCを起動させながら聞いた。
「オ陰様デ、今日モマタ茸ガ収穫デキマシタ」
「味覚の秋だもんな。まあ、毒キノコとかマジックマッシュルームは困るけど、趣味で作る分にはいいや」
「マタ収穫シテキマス」
「ああ、行ってこい」
 エントランスホールからは、ピアノの音とフルートの音がした。
 ピアノは自動演奏にして、シンディが吹いているのだろう。曲は“シチリアーノ”である。
「いずれ安全な曲に限って、『マルチタイプ二重奏』とかやってみたいな……」
 敷島はそんなことを考えた。
 何も、売るのはボーカロイドと限る必要は無い。
 むしろ、テロリズムのイメージを払拭させる為にも、そういう売り方もありではないかなと思ってしまう。

[同日13:00.同場所 敷島&アリス]

 研究所を切り盛りしている夫婦が昼食を取っていると、
「あの、プロデューサー、ちょっといいですか?」
 鏡音レンがダイニングにやってきた。
「敷島さんと・ドクターは・お食事中だ。後に・しろ」
 給仕中のエミリーがレンに注意した。
「何か緊急か?」
 敷島が遮るエミリーの後ろから顔を出した。
「はあ、マリオとルイージのキノコ畑が豊作だったようで、プロデューサーに売り込みをお願いしたいと……」
「俺が売り込むのはボーカロイドだけだよ。まあ、いずれマルチタイプの売り方も考えないといけないけどな」
 敷島は苦笑いした。
「ちゃんと食べられる種類でないと、ヘタすりゃキノコを使ったテロリズムになってしまう」
「それなら私が行ってくるわ。もし食用に向かないキノコだったら、焼却処分していいでしょ?」
 シンディが片目を瞑って言った。
「ああ、頼むよ」
「こっちこっち」
 シンディを先導するレンだった。
「マッシュルームでも作ってくれたら、レストランに売れるのにね」
「ロボット研究所がマッシュルーム栽培したって、誰も信じないよ。ボカロより売るのが大変そうだ」
「時々、町内会で朝市とかやってるでしょ?」
「ああ、公民館前でやってるヤツ?あれだって、田村の婆さんに許可取らないとなぁ……」
 特に南里研究所時代、自治会費の支払いを渋っていた南里だけに、自治会、特に会長の田村婦人からのイメージは悪い。
 今では滞納することなく支払っているが……。

 しばらくして、シンディが首を傾げて戻って来た。
「どうだった?」
「うーん……。どうもよく分からないのよ」
「何が?」
「パッと見ただけでは、私のライブラリの中に入ってる種類じゃなかった。なんで、スキャンしてみたんだけど、毒の成分は検出されなかったわね」
「おっ?じゃあ、やっと食用キノコの栽培に成功したってことじゃないか」
「シンディのライブラリに入ってないなんて、もしかして、新種のキノコかもよ?」
「ロボット研究所が新種のキノコを栽培しちゃったなんて、アメリカン・ジョークもいいところだろー?」
「そうね」
 アリスも笑みを浮かべた。
「どうする?知り合いに、キノコ研究家なんていないぞ?」
「取りあえず、そのキノコを確認してみましょうか」
「ああ」

[同日14:00.アリスの研究所・エントランスホール 敷島&アリス]

「こ、この匂い……」
 敷島は驚愕の表情を隠せなかった。
「数種類ホド栽培シマシタ……」
 マリオが答えた。
「これ、マツタケじゃないか!傘開いちゃってるけど……。これは、エリンギだな。もう1つのこれは何だろう……?エリンギに似てるけど……」
「だけどプロデューサー、マツタケはもっとこう……じゃない?」
 シンディは左目から、白い壁に画像を投影した。
 そこには本物のマツタケの画像がある。
 敷島がマツタケだと言ったものは、もう少し白かった。
 しかし、明らかにマツタケの香りがする。
 そこへ、訪問者が……。
「敷島さん、今月の自治会費……」
 自治会長の田村だった。
 南里志郎の天敵であり、どういうわけだかエミリーを手持ちの杖でしばき倒せる唯一の人間である。
 そのせいか、
「姉さん、何やってんの?」
 シンディの後ろに隠れるエミリーだった。
「おンや、この匂い……」
「マツタケのようなんですが、どうも違うようで……」
「あらまぁ!これ、バカマツタケでねーの!」
 田村はマツタケの香りを放つバカマツタケを手に取った。
「これはエリンギだっちゃね」
「やっぱり。これは何でしょ?エリンギに似てますけど……」
「アワビタケだっちゃね。んで、こいづはや……マツタケモドキ……」
「何か、微妙だな……。モノホンは無いわけですか」
「あったら、私のスキャンに引っかかるよ」
 と、シンディ。
「マツタケモドキ以外は商品価値があるからや、今度の朝市で売ればいいっちゃ」
 マツタケモドキは形がマツタケに似ているだけで、その香りは弱く、また味も弱い。
 調理すると、変に黒ずむという特徴がある。
 アワビタケはエリンギの変種だという。
「しっかし、こんなものを日本人は食べるの?」
 さっきからアリスは鼻をつまんでいる。
「マツタケのいい香りじゃないか」
「アタシには、そう思えないわよ」
「んん?いいから食べてみなって。エミリー、夕食はこのバカマツタケの炊き込みご飯にしてくれ」
「イエス。敷島さん」

[同日16:00.のぞみヶ丘商店街・たむら屋(スーパー) アリス・シキシマ、シンディ、田村てい]

「おンや、アリスちゃん、珍しいこだ……」
「Hi.たまにはアタシも夕飯の買い出しにってね」
「この前、冷蔵庫直してけてどうもねー。アリスちゃんだけ、特売にしてけっからねー」
「いいから、円で払えよ、円で」
「はー、ここ最近耳が遠くなって、しんどいこだ……」
 田村はトントンと背中を叩いて、店の奥に引っ込んだ。
(これだから日本人は……!)
「あの、ドクター。今の会長さんに用事があるんじゃ?」
 シンディが言った。
「Oh,no!シンディ、呼んで来て!」
「はいはい。こういうのはエミリーの役目だと思うんだけどね……」
「エミリーが怖がって、来てくれないのよ。終いには、『敷島さんか・ドクター平賀の・命令が・無ければ・動けません』の一点張り」
「あの鬼の姉さんにも、苦手なものがあったか」
 シンディはニヤッと笑った。
「ここのスーパー、田村会長は顧問で、社長は息子さんだって話よ?」
「大丈夫。実質的な権限は、婆さんの方だから」
「ふーん……」

[同日同時刻 アリスの研究所・事務室 敷島孝夫&MEIKO]

 外線が着信する。
「はい、アリス研究所です。……あっ、法道企画の池田さん。……はい、いつもお世話になっております。……今週の土日ですか?……はい、MEIKOがまだ空いてます。……もう1人?そうですねぇ……KAITOなら、土日ともに午前中なら空いてますが……。分かりました。では、また後ほど……はい、よろしくお願いします」
 電話を切る。
「MEIKO、いま番組制作会社から電話があって、土日お前出てもらうから」
「了解!」
「ところで、アリスとシンディはどこに行ったんだ?」
「たむら屋さんに、商談に行くってよ?」
「商談!?何か、嫌な予感が……」

[同日18:00.アリスの研究所・ダイニング 敷島孝夫&エミリー]

「ドクター・アリスが・戻って来られません」
「シンディを看板娘に売り込みにでも行ったのか?……んなワケないか。だったら、まだエミリーの方が実用的だ」
「シンディに・連絡を・しましたところ・まもなく戻る・とのことです」
「だったらいいけど……。まあ、あいつのことだから、腹が空けば戻って来るけどね。もう夕飯の時間だし……」
 そんな噂をしていると、
「ただいまぁ!」
「ほら、帰って来た」
「ドクター・アリス。お帰りなさいませ。夕飯の・仕度が・できております」
「後で食べるわよ!Shit!あのクソババァ!安く買い叩きやがって!」
「何を売り込みに行ったんだ?」
「あのキノコよ!」
「エリンギは今、大量生産の技術が確立してるから高く売れないよ」
「バカマツタケの方よ!」
「まあ、いくらモノホンのマツタケより香りも味もいいとはいえ、ネームバリューってもんがあるからな」
 するとシンディはアリスを擁護した。
「いや、お世辞じゃないけど、アリス博士はかなり健闘したわよ。それこそ、アメリカ人って感じ。だけどあのお婆さん、それ以上でびっくりしたわ」
「田村の婆さんはやめとけ。エミリーですら、しばき倒したくらいなんだから。モノホンのマツタケを売り込みに行っても、100円で買い叩いて1万円で店先に並べるくらいのことはするぞ?」
「シンディにグレネードガン仕込んでテロってやろうかしら」
「ご命令なら、いつでも」
「やめんか、こら!」

 のぞみヶ丘は今日も平和。
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“アンドロイドマスター” 「台風一過」

2014-10-22 14:32:15 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月14日08:00.東京都文京区本郷 ホテル・ドーミーイン水道橋 敷島孝夫&アリス・シキシマ]

「台風、無事に通過したみたいだな」
 敷島はホテルの朝食会場で、つぶやくように言った。
 まだ少し風は強いものの、あれだけ懸念されていた交通機関への影響というのも、思ったほどではなかったようだ。
「どうした、アリス?いつものように、こういったバイキングでは飯を山盛りにするくせに」
 テーブルを挟んで向かい側に座るアリスは、いつものテンションではなかった。
「温泉行きたい……」
「お前、このホテルがどういうホテルが知ってて言ってんだよな?」
 詳細はホテル公式サイトをチェックのこと。
 敷島は変な顔してアメリカ人妻を見た。
「昨夜も今朝も、大浴場行ってたじゃないか」
「だーかーらっ、尚さら本物の温泉に行きたくなったってことよ」
「そういうセリフは、仕事が一段落してから言えよ。時間もカネも余裕無いんだから」
「ボーカロイド達が稼いでるじゃない?」
「ボカロ達の維持費とお前の研究費用で、プラマイ・ゼロだっつの!」
 いかにボカロなどのアンドロイド達の維持費が抑えられるのかも、研究対象なのである。
 七海は軽量化並びに維持費の抑制に今のところ成功しているということで、少なくともメイドロボットが真っ先に実用化されるのではないかと目されている。
「ぶーっ……」
 頬を膨らませるアリスだった。
「交通費だってお前とマルチタイプの分は財団から出たようなものの、俺やボカロ達はライブの売り上げの中から出さないと行けないんだからな」
「ライブは大成功だったんでしょう?」
「おかげで帰りは新幹線に乗れそうだが、そうでなかったら車道をひたすら行くことになる」
「財団からも助成されてるはずだけど?」
「お前がそれを上回る研究費用をバカスカ使ってるからだろうが!」
「イザとなったら、じー様の遺産使うわよ」
「売れるわけねーだろ!全部テロ用だし!テロ組織に売る気か!

[同日08:50.JR水道橋駅 敷島、アリス、鋼鉄姉妹、ボカロ・オールスターズ]

〔まもなく2番線に、各駅停車、津田沼行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 平日の朝ラッシュで賑わう水道橋駅。
「次の御茶ノ水で乗り換えるからな」
「タクシーに分乗して東京駅に迎えなかったの?」
 と、MEIKO。
「すまん。予算が……」
「しょうがないわね」
 黄色い帯を巻いた電車が入線してくる。

〔すいどうばし〜、水道橋〜。ご乗車、ありがとうございます〕

「どーれ、乗るか」
 敷島達はメチャ混みの電車に乗り込んだ。

 ♪♪(発車メロディ)♪♪

「闘魂込ぉめて〜♪」
「リン、発メロ歌うな。ジャスラックがうるさい」
「そっちかよ」
 ミクに突っ込む敷島に突っ込むアリス。
 因みに作者の友人はアンチ巨人であり、
『商魂込めて♪強行開幕♪電気飛ぶ飛ぶ♪4万キロワット♪』
 と、水道橋駅2番線の発車メロディを歌っていた。
 まだ、東日本大震災による電力不足が取り沙汰されていた頃である。

〔2番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 電車は台風通過中とは打って変わって、雲間から朝日が時折差す中、水道橋駅を発車した。

〔次は御茶ノ水、御茶ノ水。お出口は、右側です〕

 どういうわけだか朝ラッシュ時は乗り換え案内をしないので、初心者は要注意。

[同日09:00.JR東京駅中央線ホーム→東北新幹線ホーム 上記メンバー]

「ふう……。凄い混み具合だった」
「タカオ、あんたあれで毎日通勤してたんでしょ?」
「まあ、そうなんだけど、俺は大宮から毎日ケト線で座って通勤してたからさぁ……。まあ、今回はたったの10分くらいだ。中電で1時間以上もあの状態のまま通勤させられる人達のことを思えば、文句は言えんさ」
 敷島は肩を竦めた。
 コンコースに下りてから、発車票を眺める。
「うーん……。ちょこちょこ遅れてる路線はあるみたいだな……。特に、風の強い地域を走る路線はダメージを受けるようだ。まだ俺達が乗って来た中央線は内陸を走るから助かった」
「で、東北新幹線は?」
 シンディが聞く。
「だいたい時刻表通り。予想通りの展開だ」
「車中でテロリストが暴れたりしてね」
「その時はお前達の出番だ。鎮圧してもらうぞ。もちろん、乗員・乗客の安全最優先でな」
「OK.テロリストのことはテロリストに任せておけってね」
(血で血を洗う自体と紙一重かもな……)
 敷島は今そう思った。

 とにかく、JR東日本新幹線ホームに上がる。

〔23番線に到着の電車は、9時24分発、“やまびこ”131号、仙台行きと“つばさ”131号、山形・新庄行きです。……〕

 エスカレーターで上がっていると、ちょうど上り列車が到着する頃だった。

〔「……23番線の電車は折り返し車内清掃のため、一旦ドアが閉まります。車内清掃、整備が終わるまで、しばらくお待ちください」〕

「兄ちゃん、次のみくみくが速いよ?」
 リンは敷島達の乗る列車の一本後に発車する“はつね”“はやぶさ”号のことを言った。
 カラーリングが初音ミクの髪の色(というかシンボルカラー)にそっくりなので、他のボカロ達からもネタにされている。
「予算が……。すまん」
 “はやぶさ”の特急料金は、それ以外の列車の特急料金より数百円高い。
 これはかつて、東海道・山陽新幹線の“のぞみ”の特急料金が“こだま”“ひかり”より高かったのと同じことだ。
「その割には指定席なのね」
 MEIKOは10号車に並ぶ敷島達を見て言った。
「自由席だと、こいつらが遠慮して立つからな」
 敷島がエミリーやシンディを指さした。
「だって私達は別に、立っても座っても電力消費量が変わらないから」
 と、シンディが答えた。
 彼女らが座るのは着席義務がある航空機、高速バス、それと構造上立ち席のできない乗用車内のみである。

[同日09:24.JR東北新幹線“やまびこ”131号10号車内 上記メンバー]

 ホームに発車ベルが鳴り響く。
 東海道新幹線ホームと違い、発車メロディではない。

〔23番線から、“やまびこ”131号、仙台行きと“つばさ”131号、山形・新庄行きが発車致します。次は、大宮に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕

 台風一過でまだ若干強い風が吹く中、列車は東京駅を発車した。
 神田まで先ほど敷島達が通って来たルートを辿ることになる。
 幸いなのは運用に当たっているこの車両が後期タイプのため、窓側に充電コンセントが付いていることだ。
「充電は仲良く回せよ」
「はーい」
 アリスは座席の網ポケットに入っている冊子“トランベール”を開いていた。
「湯守のいる宿……草津温泉か……」
 10月号では、草津温泉の特集でもやってるようだ。
「お前なぁ……」
 敷島は呆れた。
「タカオ、どこか温泉街から仕事取ってこれない?」
「アホか!」
「MEIKO辺り、旅番組に出せない?」
「MEIKOが旅してどうするんだよ?お前が行きたいんだろ?」
「うん。プロダクションの人間として一緒に」
「俺の仕事取る気か!」

 取り急ぎ、まずは研究所に帰る必要があった。
 台風19号は東北地方も通過したはずなので、被害が出ていないかどうかだ。
 新幹線がほぼ定時に動いており、留守番のマリアやルイージからも何の報告も無いので、楽観的ではあったが……。

「プロデューサー、意外と秋の温泉は料金安いようですよ。前に、旅番組に出た時に入った情報ですが……」
 KAITOがそっと敷島に耳打ちした。
「いくら料金が安いったって、アリスのことだから結局予算オーバーになるんだって。結婚相手は、ちゃんと金遣いが堅実なのを選べよ、作者ぁ?」

 は、はい。分かりました。
 えー、列車は台風一過の東京都内を駆け抜け、まずは埼玉に向かって行った。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「束の間ホリデー」

2014-10-22 10:11:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月18日19:40.東名高速下り線・足柄サービスエリア 稲生ユウタ、威吹邪甲、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット]

 ユタ達を乗せた高速バスが東名高速屈指の大規模なサービスエリアに入る。

〔「足柄サービスエリアです。こちらで10分の休憩を取らせて頂きます。発車時刻は19時50分です。お時間までにバスに戻るよう、お願い致します」〕

「降りてみましょうか」
「ええ」
 マリアはこくんと頷いた。
「“銀河鉄道999”みたいに、何かあったりしてね」
 イリーナはクスッと笑った。
「イリーナさんが言うと、冗談じゃなくなるんで!」
 ユタは慌てて抗議した。
「“銀河鉄道999”は10分停車とか、そんなチャチな停車時間じゃないから大丈夫よ」
「まあねぇ……」
 この前、威吹と乗った時は雨が降っていたが、今日はそうでもない。
 しかし曇っているせいか、月は見えなかった。
「明日はどこに行きましょうか?」
「あー、えーと……」
 ユタの質問にイリーナの顔を見るマリア。
「いいよ。マリアの好きな所にしな」
「それじゃあ……」

[同日19:50.JRバス関東“やきそばエクスプレス”18号車内 ユタ、威吹、イリーナ、マリア]

〔発車致します。バスが動きますので、ご注意ください。再び高速道路を走行致しますので、お座席のシートベルトは必ずお締めください。足柄サービスエリアの次は東名江田、江田です〕

 バスが再び走り出す。
「何も無かったわね」
「当たり前だろうが」
 微笑を浮かべるイリーナに変な顔をする威吹だった。
「しかしお前の弟子というのは、アレだな。変わった趣味をしているものだな」
「まあ、そこは魔道師やってるくらいだからねぇ……。逆にステレオタイプの一般人では、魔道師になれないのよ」
「普通は買い物……まあ、それも含まれてはいるが、映画観に行ったり、遊興施設に行ったりするものではないか?」
 威吹がこっそり後ろで聞き耳立てていたのだが、マリアが希望した行き先とは……。
「イオンモールと日帰り温泉とは……。まるで、いつぞやの奥州行と大して変わらんな」
「そう言いつつ、威吹君も一緒に行くんでしょう?」
「オレはユタの護衛としてだな……。まだ、不届き者の妖(あやかし)もいるみたいだしな」
「魔界から人間界に流入しないよう、色々と防衛策はしているみたいだけど、弱い妖力の妖怪までは防ぎ切れないみたい。威吹君が魔界に行くのだって、裏技使ったくらいだもんね」
「まさか、冥界鉄道公社に乗り入れて来た魔界高速電鉄の電車に乗れとはな……」
「私が頼めば、チャーター便を出してもらえるわよ」
「お前、どんだけ権限があるんだ?」
「そこは元・宮廷魔導師ですから〜、エッヘン」
「あの鉄道会社は、国家権力を諸共とせずが訓示だったと思うが……」
 威吹は首を傾げた。
「……本当はあれなんだろ?お前、今後は……」
「マリア、ポッキー食べる?」
 イリーナは威吹の言葉を遮るように、前の席に座る弟子にポッキーの箱を出した。
「あっ、師匠、いただきます」
「ユウタ君も」
「ありがとうございます」
 マリアの代わりに受け取るミク人形。
 マリアが与える魔力に応じて、等身大の人間並みの容姿になったり、デフォルメされたコミカルな人形になったりする。
 今は後者。
 しかし、どちらの姿になっていようと、いざ戦いの時には高い戦闘力を発揮する。
 出掛ける際には、代表でミク人形とクラリスという名のフランス人形がマリアについてくる。
 スピアとサーベルを駆使して、敵を追い詰める。
「……まあ、私も今後のなりふりは決めなきゃいけないわけよ。威吹君もそうだということよ」
「オレは……」

[同日22:30.埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 上記メンバーにプラス威波莞爾]

「ただいまぁ」
「お帰りなさい」
 莞爾が出迎える。
「明日まで魔道師が2人滞在だ」
「ははっ」
 威吹の言葉に、弟子の莞爾が頷いた。
「どうぞ、寛いでください。いつもの奥の部屋、使ってくださいよ」
「ありがとう」
 ユタが案内している間、莞爾は茶の用意をしていたが、
「ここ最近、魔道師の来訪頻度が多くなりましたね」
 と、威吹に振った。
「うむ。魔界の情勢があまり良くないみたいだ」
「先生がお留守の間、オレの所にも正規軍入隊の勧誘が来ましたよ」
「なにっ?」
 莞爾は封筒を渡した。
「大帝の治世なら、勧誘ではなく、もはや召集令状です」
「オレは事実上の徴兵逃れになるな」
「先生の場合は仕方が無いです」
 莞爾はポーカーフェイスを崩さずに言った。

[10月19日09:00.同場所 ユタ、威吹、イリーナ、マリア、カンジ]

「皆、朝早くからマジメだねぇ……」
 1番遅く起きてきたイリーナ。
 威吹とカンジは庭で剣の稽古をしていたし、ユタは朝の勤行、マリアは持参した魔道書を読みふけっていた。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。我が門に入らんとする汝、一切の望みを捨てよ。わが師により使役されし、レヴィアサタンよ。……」
 魔道師が詠唱する文言も、どこか宗教じみているのは気のせいではないと思う。
 で、今は朝食。
「お前が不真面目なだけだろうが」
 威吹がそう突っ込んだ。
「宮廷魔導師になったら、もうこんなヒマな時間は無いぞ」
「そうなんだよねぇ……」
「宮廷魔導師?」
 ユタはトーストにかぶり付いて首を傾げた。
「ユウタ君もアルカディア王国には行ったことにあるでしょう?要はそこの内閣官房長官とか、宮内庁長官みたいな仕事……って言えばいいのかなぁ……?」
「官房長官と宮内庁長官は、全然業務内容が違うような気がしますが……」
「王様……まあ、アルカディアは女王様だけど、そっちのご機嫌も取らなきゃいけないから大変なのよ」
「そのようで……」
 カンジが同調した。
 カンジは自前で魔界の機関紙を定期購読しているのだが、その1つの新聞、『アルカディア・タイムス』に、その日1日の王室の様子が掲載されている。
 昨日は魔界共和党の横田理事がルーシー女王にセクハラまがいのことをして、投獄されたという。
「『魔王にセクハラすんなって何万回言わせんの!!』と、お怒りの御様子です」
「人間界にも定期的に出入りする珍しい人間の党員ね。確か人間界では、とある宗教団体の幹部をやってるみたいよ」
「そうなんですか。しかし、普通は斬首にされそうなものですが……」
「死刑制度を廃止にしようっていう動きがあるから、そうおいそれと死刑にできないのかもね」
「へえ……。しかし、やっぱり魔界の王様……魔王ってのは、どうしても男っていうイメージがあるんですが、女性の魔王様も珍しいですね」
「期間限定だという話だけどね。数百年」
「人間界では大きな歴史の区切りですよ、それ」
 要は、(魔族から見れば)たったの数百年しか任期の無い代行魔王様が、何勝手に王国を作り変えてんだという反発が古参魔族から大きく噴出しているということだ。

[同日11:00.イオンモール与野 上記メンバー]

「いつぞやの事態はカンベンだぞ。ユタに迷惑掛けるなよ」
 ユタと2人で行動したがるマリアに、威吹はそう言った。
 今年のゴールデンウィークにおける、別のイオンモールでの出来事を言っているのだ。
「分かってる!」
 マリアはキッと威吹を見据えた。
「じゃあ、行ってきます」
「お昼ご飯までには、買い物終わらせるんだよ」
「分かってます」
 2人は連れ添って行ってしまった。
「さーて、アタシは別行動するかねぇ……」
「お前はお前で何か目的があるのか?」
「魔道師にも色々やることがあってねぇ……」
 水晶玉を手に歩くイリーナ。
「じゃ、呼び込みよろしくー」
 水晶玉を机の上に置いた。
「商売かよ!」
(この人がやれば100パー当たるな)
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