報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「ロイド達の日常」

2014-10-02 19:38:20 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月3日09:00.アリスの研究所 エミリー、シンディ、敷島孝夫、鏡音リン、巡音ルカ、鏡音レン]

「おーい、リーン!撮影に出かけるぞー!」
「はーい!そんじゃ、行ってきまーす!」
「鏡音リン!ヘッドセット・忘れている!」
「ああっと!」
 バタバタと研究所を出て行くリンと敷島。
「じゃあ、私も行ってくるから。あと、よろしくね」
「行ってらっしゃい」
 MEIKOとKAITOも仕事で研究所をあとにした。
「姉さん、実験はまだなの?」
「理事達の・承認を・取らなければ・ならない」
「ドクター十条がいいって言ってるのにねぇ……」
「実験自体は・承認されたが・招集するのに・時間が・必要だ」
「ふーん……。で、プロデューサーは?嫌がってるけど、参加すんの?」
「ドクター・アリスが・『首に縄着けてでも連れてきて』との・ご命令だ」
 するとシンディはパッと顔を明るくした。
「うははははー!ほんと!?その役、私やる!」
「……お前は・ダメだ」
「何で!?」
「首に縄・どころか・亀甲縛り・しそうだ」
「いいじゃない!」
「ルカ姉ちゃん、亀甲縛りって何?」
 午前中オフの鏡音レンは、巡音ルカに聞いた。
「……トリオ・ザ・年少組のあなた達が知っては行けない言葉よ」
「ええっ!?」

[同日10:00.アリスの研究所 エミリー&シンディ]

「これで洗濯物は最後?」
「その通り」
「何だか昔を思い出すわね」
「同感だ。ドクター南里在りし頃・私は……」
「ああ、違うの。そっちじゃなくて」
「?」
「ソ連のKGB本部にいた時も、表向きは炊事・洗濯要員でいたからね」
「そっちか……」
 今のロシア政府がよく黙っているものだと思うが、KGB時代の機密は全て消去した上、日本の政府機関には渡さないという条件が付いている。
 KGBにいたという記録だけが残っている。

[同日11:00.同場所 エミリー、シンディ、初音ミク]

「ラー♪ラー♪輝いたー♪スぅテージにぃ立ーてば♪最高のー♪……」
 エミリーのピアノソロに合わせて、ミクが歌唱機能の自己調整を行う。
「大空をー♪飛ぶようにー♪」
「お、精が出るね」
 そこへやってきたシンディがフルートを出す。
「シンディ!デュエットは・実験までの間・禁止されている」
 エミリーが妹に注意した。
「大丈夫だって。恐らくクラシックがダメなんだと思う。それ以外の曲なら大丈夫よ」
 シンディはそう言って、フルートを吹き始めた。
 昨日初めて吹いたが、さすがそこはアンドロイドである。
 プロの奏者の如く、ミス無く吹けてしまった。
「……大胆不敵に♪ハイカラ革命♪磊〃落〃♪反戦国家♪」
 ミクの持ち歌をシンディが吹いたので、ミクはそれに合わせて歌った。
 その間、エミリーはピアノを弾こうとはしなかった。
 マルチタイプ7兄弟の長姉は、最も慎重且つ大胆不敵なのである。
 そこはアグレッシブな三女とは違うようだ。

[同日12:00.同場所 エミリー、シンディ、アリス・シキシマ]

「お、今日のお昼は、スパゲティ・ボロネーゼ・ソース?」
「イエス。ドクター・アリス」
 ミートソースのことだが、ウィキペディア英語版を見ると、英語圏ではミートソースと呼ばず、アリスのセリフのように言うらしい。
「おかわり、ありますからね、アリスお嬢……じゃなかった。アリス博士」
「いいのよ。アタシが生まれる前から稼働してたもんね」
「ええ。この時のメモリーは、まだ残っています」
 そう言って、シンディは目を閉じた。
 スーツにコートを羽織り、山高帽を被ったウィリー。
 片手にはステッキを持った紳士ながら、しかしサングラスを掛けていた。
 そしてその隣には小さな体に不釣合いの大きなスーツケースを持ち、不安そうな顔をしながらついてくる小さなアリスの姿があった。
 児童養護施設からウィリーが引き取ったのである。
 アリスは施設の仲間達が時折、里親に引き取られて行くところを見ていた。
 しかし、自分は成人するまでそういうことは無いだろうと思っていただけに、物凄く意外だったという。
 当たり前のことだが、見知らぬ老人に急に引き取られ、同じテキサス州内とはいえ、日本の国土の何倍もの距離を旅したアリスにとって、新しい生活は不安だっただろう。
 シンディがにこやかな顔で出迎えてあげると、アリスはそこでやっと安心した顔をしたのを覚えている。
「最重要メモリーとして、取っておきますから」
「よろしく。じゃあ、頂きます」
 アリスは右手で長い金髪を避けながら、パスタを口に運んだ。
(↑因みに女性のそういう仕草、萌えポイントです)

〔「では、ここでお昼のニュースをお伝えします。昨日午後6時頃、埼玉県さいたま市大宮区の宗教法人顕正会本部で、作者の雲羽百三氏が出て来るのが目撃されました」〕
〔「ちょっとすいません!雲羽さん!法華講を脱講するって本当ですか!?」「今しがた入信報告書を提出したとの情報が入ってますが!?」「
すいません、一言お願いします!」「沖浦さんと連絡を取ったのは本当ですか!?」〕

 
 バンッ!ブオオオ……!

「うん。今日のパスタの麺の固さはちょうどいいわね」
「ありがとうございます」
「ソース変えた?」
「この前、スーパーで特売やってたヤツだったんですけど、どうですか?」
「まあまあね」

〔「尚、顕正会本部では『担当者がいないのでコメントできません』との回答を報道陣に寄せており、日蓮正宗東京第一布教区の【ぴー】では、『報道は事実無根です。退転者など有り得ないことです』とコメントしています」〕

[同日14:00.同場所 エミリー、シンディ、敷島、初音ミク、鏡音レン、巡音ルカ]

「ただいまぁ!でも、すぐ行って来るけど。おーい、ミク。今度はお前の出番だ」
「はーい」
「ラジオ仙台で、歌番組の収録だから」
「分かりました」
「レンはリンと合流して、雑誌の取材と撮影な」
「はいっ!」
 バタバタと出て行く敷島とミク、レンだった。
「行ってらっしゃい」
 見送るルカ。
「あんたは仕事無いの?」
 と、シンディ。
「今日は夕方から、市内のライブハウスでソロライブがあるだけです」
「ああ、そうか。ここに来てから、ずっとお世話になってるライブハウスね。あんたのファンクラブも、そこが拠点だって話じゃない」
「ええ。明日は私も青年漫画のグラビア撮影があるんですけど……」
「ヌード?」
「違います。専用の衣装と水着です」
「まあ、あんたも胸デカイから、グラビア的に売れるよね」
 公式です。ルカのバストは90センチ。公式です。大事なことなので、2度言いましたよ。
「私も、もう少し背が高いといいんですけどね」
「大丈夫だって。私達が高過ぎるだけよ」
 マルチタイプの姿形はロシア人をモデルにしたせいなのか、エミリーやシンディとも170センチを超えている。
 ただ、名前がロシア人的ではない理由については不明だ。
 冷戦の敵国であるアメリカにスパイとして送り込むため、わざとアメリカ人的な名前をつけたのかもしれない。
「……プロデューサーが言ってました」
「何て?」
「『マルチタイプをグラビアモデルとして売り出したら、絶対バカ売れだ』って」
「あのプロデューサーの考えそうなことだね。まあ、実は私も密かにそう思ってるんだけど。でも、私達はそんな目的で作られたわけじゃないから。必要とあらば、そういうことで一肌脱ぐことも辞さないけど、多分そういうことは無いだろうし。芸能活動は、私達の使命ではないからね。でも、あなた達はそういう使命なのよ」
「分かってます。今では、どんな仕事も頑張るようにしています」
「その割には、バラエティの仕事とかは出ないよね?」
「……プロデューサーも、『ルカにはバラエティの仕事は合わない』と言ってました」
「ま、しょうがないね。マルチタイプにも得手不得手ってものがあるからね。そこはボーカロイドも同じってことね」
「ええ」

[同日18:00.同場所 エミリー、シンディ、敷島、アリス、ミク、リン、レン]

「ただいまぁ!」
「お帰りなさい」
 シンディが出迎える。
「年長組はまだ夜まで仕事だ。まずは年少組だけ上がりな」
「ボーカロイドは労働法とか関係無いのにね」
 特に10代のアイドルに立ちはだかるのが、18歳未満の深夜労働禁止である。
 ボーカロイドは人間ではないので、正しくシンディの言う通りなのだが、芸能界の慣習もまた分厚い壁だ。
「タカオ。財団から連絡があって、エミリーとシンディの実験、来週に決まったって」
「マジか。まあ、俺はボカロについててやんないといけないからなぁ……」
 敷島がわざとらしく残念そうにしてると、
「うはははは……」
 シンディが両目をギラッと光らせ、両手にロープを持っていた。
「あ、何だ、シンディ?そのロープは?」
「それとも首輪がいいかしら?それも犬用のね!」
「だから何の話だ?」
 それを敷島は来週、強制的に知ることになる。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「ユタの添書登山」 2

2014-10-02 14:58:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月20日06:26.JR大宮駅・京浜東北線ホーム 稲生ユウタ&威吹邪甲]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の電車は、6時33分発、各駅停車、大船行きです〕

 ユタと威吹は、週末の大宮駅で電車を待っていた。
 カンジは今日も留守番である。

〔まもなく1番線に、当駅止まりの電車が参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この電車は折り返し、6時33分発、各駅停車、大船行きとなります。次は、さいたま新都心に止まります〕

 ATOSの放送が鳴り響く京浜東北線ホーム。
 平日ならもうこの時点で乗車口に列ができている時間だが、週末ともなると疎らである。

 パァァァン!と電子警笛を慣らしながら、スカイブルーの帯を巻いた電車が入線してきた。
 他線区はどうだか知らないが、この時点で1両に最低1人はグロ客がいるのが“ベタな京浜東北線の法則”である。
 グロ客とは作者が学生時代、友人達の間に流行った言葉で、『グロッキー状態の客』の略である。
 要は爆睡していて、終点でも降りてこない客のことである。

〔「おはようございます。終点、大宮、終点、大宮です。お忘れ物の無いよう、ご注意願います。……」〕

 これが平日の整列乗車の時間帯や夜間滞泊を行う最終電車であれば、駅員や乗務員がグロ客を引きずり降ろすのだろうが、そうでない場合は大抵ほったからしである。
 いつもの光景と、ユタと威吹は先月の支部登山同様、先頭車に乗り込んだ。

〔おはようございます。1番線に停車中の電車は、6時33分発、各駅停車、大船行きです。発車まで、しばらくお待ち願います〕
〔この電車は京浜東北線、各駅停車、大船行きです〕

 ところで京浜東北線の電車もE233系である以上、乗降ドアの上にモニタが2つある。
 下記は埼京線のものだが、向かって右側の表示が京浜東北線の停車駅案内になっているだけで、左側が色々な広告やニュースを流すのは同じである。

 

 何気なくそれを見ていたユタだった。
 で、その時はニュースを流していた。
『雲羽百三氏、法華講を離脱か?(冨士参詣新聞社)』
『10月1日午後6時頃、埼玉県さいたま市大宮区の宗教法人“顕正会”の本部会館から、作者の雲羽百三氏が中から出て来るのが本紙記者にスクープされた。雲羽氏は普段から、「法華講も功徳は無い」と発言しており、その動向が注目されていた』

 
『映像は記者達の質問に終始無言でタクシーに乗り込み、その場を立ち去る雲羽氏』
『尚、顕正会本部会館は「担当者がいないのでコメントできません」と、本紙の取材を拒否している』
『消息筋によれば、顕正会では17時が夕刻の勤行であり、入信勤行を行っていた可能性があるとのこと』

[同日同時刻 場所不明 イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット、大師匠]

「随分と好調のようだな……お前の愛弟子は」
 黒いローブに黒いフードを深く被った、イリーナとポーリンの師匠がしわがれた声で言った。
 イリーナはにこやかな顔をしていたし、マリアは畏まっていた。
「ええ、おかげさまで。今日は少し強めの杖が新調されるんですよ」
「うむうむ。それはいい」
 大師匠は何度も頷いた。
 老人のように見えるが、イリーナは大師匠の正体を知っている。
 わざと老人の姿をしているだけなのだと。そこはポーリンも同じである。
「更に弟子候補を見つけているようだが……。そちらの方はどうなのかね?」
「マリアを好きになってくれてるので、あと一歩のところなんですけど、先約があるのが痛いですね。何ぶん、ユウタ君も平和主義者なもんで、私達が取り合いをするのを酷く嫌うんですよ」
「なるほど。だが、それには1つ名案がある」
「名案?」
「しばらくは、現状維持になるだろうがな。それより……お前の予知夢、どうやら当たりそうだぞ」
「マリアの屋敷は大丈夫でしょうか?」
「場所的には問題無さそうだが、もし心配なら従来の場所に戻ると良い。そこなら安心だろう」
「はい」
「では、今日も“候補者”と会うのかね?」
「ええ。私達的には予定に入れてなかったんですけど、彼がどうしてもと言うので。ね?マリア」
「あ、はい!」
「必ず、人手不足を解消してみせますよ」
「ん」
 イリーナの言葉に大師匠は大きく頷いた。
「師匠、もしかして、大師匠様の名案っていうのは……」
「シッ。黙ってて」
 マリアの口を塞ぐイリーナだった。

[同日08:06.JR東京駅・東海道新幹線ホーム ユタ&威吹]

〔新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく17番線に8時26分発、“こだま”639号、名古屋行きが入線致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は終点まで、各駅に止まります。自由席は1号車から7号車までと、13号車から15号車です。グリーン車は8号車、9号車、10号車です。……〕

 前回は高速バスで行ったが、今日は新幹線である。
 脇坂京子氏による自動放送が流れると、品川方向からN700系が入線してきた。
 既に座席が下り方面に向いており、車内が無人であるところを見ると、大井基地から回送で来た列車らしい。

〔「お待たせ致しました。17番線に到着の電車は8時26分発、“こだま”639号、名古屋行きです。まもなくドアが開きます。乗車口まで、お進みください」〕

 ドアが開くと、2人は自由席で車中の人となった。
 適当な2人席に座ると、買い込んだ駅弁を開ける。
「だからさ、威吹、そのでっかい弁当……」
「ん?ユタもこれくらい食べないとダメだよー」
「いやー……。無理です」
 そういうユタは、カツサンドとコーヒーだけ。
 普通のミックスサンドにするつもりが、威吹に、
「肉を食べなきゃダメ」
 と、ダメ出しされてしまった。
 ユタは苦笑い。

〔ご案内致します。この電車は“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。……〕

「魔道師達とは、いつ会うんだ?」
「取りあえず、夕方だって。だからまず、僕は普通に添書登山を受けていいみたい」
「そうか」
 六壺の夕勤行を受け、その足でバスの営業所まで向かう。
 その時点で魔道師側の方は新しい杖を手に入れてるから、その時にお披露目だそうだ。
 そして、最終の東京行きバスで一緒にユタの家へ向かうという計画である。
コメント (1)
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“アンドロイドマスター” 「デュエット・ザ・マルチタイプ」

2014-10-02 10:08:45 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月1日18:00.アリスの研究所 敷島孝夫、アリス・シキシマ、シンディ]

「はいー、到着ぅ」
「Thanks.」
 車で研究所に戻って来た敷島夫婦。
「お帰りなさい」
「おーう」
 シンディが出迎えた。
「キノコ畑が焦げ臭いんだけど、焼き畑農法でも始めたのか?」
 敷島は右手の親指で外を指さしながら言った。
「さあ……。キノコ畑は、マリオ達の絶対領域だからねぇ……」
 とぼけるシンディだった。
「それより昼間、姉さんとも話をしたんだけど……」
「何だ?」
「姉さんはピアノが弾けるでしょう?」
「ああ」
「私は笛が吹けるみたい」
「ほお」
「キールはトランペットとか……」
「ああ、それなんだけど、ヴァイオリンに変わってるぞ」
「え?」
「まあ、あのぶっ飛んだ博士の考えることは俺にも分からんが、とにかく金管楽器じゃなく、弦楽器に設定変更したそうだぞ」
「へえ……」
「で、それがどうした?」
「ジョイントしたら面白いんじゃないかなぁ……って」
「できるのか?」
「だから、その為の実験をしたいと思って」
「……だってさ、アリス」
「じー様の話じゃ、『それは危険』だって話なんだけどね」
「何で!?」
「エミリーがソロでピアノを弾くだけで、何か効果が無かった?」
「うーん……。あっ、『電気信号』?」
「そう」
「でもそれは、こういう特殊なピアノ……でもないか」
 まだ敷島がアリスと出会う前、アリスがウィリーの遺志を継ぐ者として影の存在だった頃、エミリーがその機能を使ったことがあったのを思い出した。
「シンディもソロで演奏したら、そうなるでしょうね。デュエットするだけで、それなりの効果があるんじゃない?」
「キールも?」
「キールは派生型だから、分かんないねぇ……。ドクター十条がどこまでマルチタイプの再現をしたかによるね」
「ふーむ……」
「ま、実験くらいならいいか。何がいいの?」
「フルートの方が一般的か?ちょっと探してくるよ」

[10月2日18:00.アリスの研究所 平賀太一&七海]

 この時、研究所に危機的な状況が訪れたらしい。
 それに気づいたのは平賀太一。
 今日は敷島もアリスもいるはずなのに、研究所に電話が繋がらない。
 敷島がいるので事務作業の手伝いは無く、平賀家で夫妻の幼子達のお守りをしていた七海だったが、マルチタイプからのSOS信号を受信した。
 その七海の連絡を受けた平賀が研究所と連絡が取れなくなっていたのに気づき、七海や財団支部からセキュリティ・ロボットを3機確保して現地に向かった。
 公道から研究所へ向かうアプローチ坂の手前で、RV車を止める。
「いいか?中にはマルチタイプが2機とバージョン5.0が2機いる。はっきり言って、戦闘になったら間違いなく不利だ。よって今回のミッションは、あくまで敷島さんを救助することを目的とする」
「太一様、アリス博士はどうなさるんですか?」
「後回しだ。最優先事項は、あくまで敷島さんの救助……」
「何してるの、こんな所で?」
「うわっ、出たーっ!」
 怖い顔をしているシンディに驚く面々。
「遅いじゃない!こっちは危機的状態だってのに!」
「お、お前が何かしたんだろ!?」
「ええ、したわよ!」
「こいつ、いけしゃあしゃあと……」
「太一様、落ち着いてください。シンディ、どういう状況なんですか?」
「どうもこうもないわよ。エミリー姉さんと私が楽器を演奏したら、ドクターもプロデューサーも眠りこけただけで……」
「はあ!?」
「ボカロまで強制的に電源切れたんだけど、私達じゃID知らないから入れらんないし」
「どういうことだ!?」
「だから、ちょっと見てもらいたいのよ」

 研究所に踏み込むと、
「……あれ?平賀先生、私ゃ何をしていたんでしょう???」
 ちょうど敷島が目を覚ましたところだった。
「敷島さん、ご無事ですか!?何があったんですか!?」
「いやー……。エミリーとシンディにデュエットで楽器弾かせてみたんですが、聴いているうちに眠くなっちゃって……」
「それだけ!?」
「太一様、アリス博士を発見しました!」
「ケガは無いな!?」
「はい!」
 その後、電源が切れていたボカロ達とマリオ達も再起動した。

[同日20:00.アリスの研究所 敷島、アリス、平賀太一]

「取りあえず実験としてボカロ曲の“千本桜”や“悪ノ娘”を弾かせてみまして、その後はクラシックをやらせてみました。“アニーローリー”までは良かったんですが、あの曲を聴いたら突然眠くなって……」
「何ですか、それは?」
「“アヴェ・マリア”です」
「……普通に聴いてて眠くなりそうな曲ではありますが、それが?」
「ええ。平賀先生も聴いてみます?」
「いや、いいですよ。しかし、興味深い話ではあります。ちょっと、財団に話を持ちかけてみますよ」
「よろしくお願いします」
「しかし、実験しておいて良かったですね。敷島さんのことだから、いきなりコンサートとかやり出しそうだ」
「いや、さすがの私も実験くらいはしますよ。しかし、残念ですね。いきなり眠くなる作用があるなんて、そうおいそれとコンサートはできなさそうだ」
「ええ」
「ボーカロイドだと、こんなこと無いのになぁ……」
「まあ、ボーカロイドは人に歌を聴かせるのが目的ですからね」
 と、そこへ、エミリーがやってきた。
「敷島さん・ドクター十条から・お電話です」
「十条理事が?」
 敷島はエミリーが電話を受け取った。
「はい、もしもし。お電話代わりました」
{「おーっ、敷島君。その様子じゃと、脳幹は無事のようじゃのー」}
「何の話ですか?」
{「マルチタイプが4人でカルテットをやるだけで、周辺の人間達の脳幹が停止するという波長が送信されるのじゃが、2人だと無事のようじゃな。実験ご苦労さん」}
「何で黙ってたんですか!」
(2人くらいなら脳幹が停止しない自信があったってことか……)
 シンディは右手を腰にやりながら、十条のぶっ飛び発言を聞いた。
(しっかし、自分でも自分の能力が把握できてないんだからねぇ……。そこの太一坊ちゃんの言うことは、ある意味正しいかもね)
{「今度はキールも入れて3人で実験ぢゃ」}
「私は参加しませんからね!」
「それ以前に、派生型のキールにそこまでの能力があるとは思えません」
 平賀は静かに言い返した。
 今度は平賀が電話を代わり、
「マルチタイプの危険性を把握するためにも、実験自体は必要だと思われます。先生、その機会を設けてもよろしいでしょうか?」
{「構わんよ。キールも必要なんじゃろ?その関係上、わしも付き合おう」}
「よろしくお願いします」
 十条に実験を申し出ている間、平賀はシンディを睨みつけていた。
「というわけで敷島さん……あれ?敷島さんは?!」
「さっき、『ディナーショーに出ているMEIKOとKAITOの迎えに行く』って、出て行ったわよ」
「速っ!逃げ足速っ!」
「そうね。ウィリアム博士の飼い犬だった頃も、あいつにだけは叶わなかった……」
「ユーザー殿を『あいつ』呼ばわりするなっ!」
 平賀はシンディを叱り付けたものの、
(だからこそ、財団に必要な人なんだ、敷島さんは!)
 と、思ったのだった。
  
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