報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「のぞみヶ丘で望みが叶った」

2014-10-25 11:02:16 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月26日18:00.宮城県仙台市泉区のぞみヶ丘 中央公園 KAITO]

 アリス研究所で唯一の成人男性ボーカロイド、KAITO。
 仕事が早めに終わったため、その足で地域の秋祭り会場である中央公園にやってきた。
 アリス研究所が祭りの余興に、初音ミクやエミリー、シンディを出していることで、自分も何かできないかという自発的なものだったが……。
「出番があるかどうか分からないから、その辺ウロウロしてきな」
 という敷島の反応の為、出店を回ることにした。
 とはいうものの、精密機械の塊であるボーカロイドに、たこ焼きや焼きそばが食できるわけがなく……。

〔「千本桜ぁ♪世に紛れ♪キミの声も♪届かないよ♪」〕

「そこのカッコいい兄ちゃん!くじ引きどうだい!?」
 ステージでミクが“千本桜”を独唱している中、くじ引きの屋台の店主に声を掛けられた。
「くじ引きですか。!」
 KAITOは収録に行っていたテレビ局で、今日のラッキーカラーがブルーであることを聞いたのを思い出した。
 今ステージに上がっているミクのシンボルカラーが緑(厳密にはエメラルドグリーン)なら、KAITOは、正に今日のラッキーカラーたるブルーである。
「じゃあ、是非」
「はいよ!1回100円ね!」

〔「さあ♪閃光弾を♪撃ち上げろー♪」〕

 持ち歌を歌い切るミク。
 観客は大盛り上がりだ。
 ステージ裏で様子を見ていた敷島は、出店の方でカランカランという金の音が聞こえたような気がした。

[同日18:15.同場所 エミリー、シンディ、KAITO]

「へい、いらっしゃい!射撃いかが!」
 シンディとエミリーが秋祭りにも関わらず浴衣姿で歩くと目立つ。
「射撃?」
 シンディが右腕の袖を捲って、右手をマシンガンに変形させた。
「いいけど、店ごと無くなるよ?」
「失礼・致します!」
 エミリーが、
「何言ってんだ、このバカ」
 といった感じで、双子の妹の左腕を掴んでズルズルと引きずって行った。
「冗談よ!相変わらずカタいわねぇ!」
「だいたい・私達が・やったら・景品全て・ゲットで・商売の・邪魔だろう?」
「いいじゃない。そういうものだから。何だかさ、何気にここの景品高いよ?」

〔「……信じたものは♪都合のいい妄想を♪繰り返し映し出す鏡♪……『深刻なエラーが発生しました』……」〕

「次は福引ね。あー、でも、今日のラッキーカラーはブルーだから、私達じゃね……。姉さんがピンクで、アタシがイエローだからね……」
「お前・ブルーの・浴衣着てる」
「浴衣の色で、ラッキーになるかなぁ……?あれ?でも、もう特賞は出ちゃったみたいね」
「ごめんねー、美人さん達。さっき、カッコいい青髪の兄ちゃんが当てちゃったんだよー。1等はまだ当たってないから、それ頑張ってよ」
 と、店主。
「ですって。じゃあ“ベタな残念賞の法則”で、ポケットティッシュだけ頂いて行きましょうか」
「……それなら・いいか」

[同日18:30.同場所 エミリー&シンディ、敷島孝夫]

 ミクが最後の歌を歌う。

〔「……歩き続けた意味を問う♪考え続けた時間(とき)を振り返る♪思考巡らせ予測する♪……それはやがて♪ボクらの道しるべとなる♪」〕

 ミクがそれでステージを盛り上げてる中、2人の鋼鉄姉妹はくじ引きで当てた20キロの米袋とエンジンオイルの入った一斗缶を軽々と抱え、再び射的の店の前を通った。
「あら?いつの間にか、1番上の1番小さい的……つまり、1番高い物が取られてるわね?」
 シンディがそれを見つけた。
「……青い髪の兄ちゃんが、まるでスナイパーのように1発で当てたんだ……」
 店主は茫然自失といった感じだった。
「ふーん……。だいたい想像つくけど」
 と、そこへ、敷島が走って来た。
「おーい、2人とも!ステージへ上がれ!アンコールに応えるぞ!」
「イエス、敷島さん」
「えー?私達、歌えないよ?」
「分かってる!エミリーはピアノ、シンディはフルートでいいから!」
「はいはい」

 東日本大震災復興支援ソング“花は咲く”だったり。
 元々この秋祭りも実は2011年から始まったもので、元々は春と夏にしか祭りをやっていなかった。
 春祭りは追悼のため中止、その分を秋に回したのが始まりだ。
 仙台市泉区は内陸部で高台の地域が多く、海からの津波の被害は無かったが、崖崩れなどは発生した。
 住宅地域も例外ではなく、エミリーは崩壊した道路の復旧作業に当たったという。
 因みにその時、敷島は仕事で東京にいた。

[同日20:00.アリスの研究所 敷島、アリス、鋼鉄姉妹、ボカロ・オールスターズ]

「エミリー、シンディ、ミク。今日はありがとう。おかげで、祭りは大盛況だったよ」
「お役に立てて何よりです」
「イエス」
 ミクは笑顔で答え、エミリーも微笑を浮かべて頷いた。
 だが、シンディは皮肉る顔をした。
「ま、ごくごく一部の所では盛り下がったみたいだけどね」
「何がだ?」
 敷島はシンディの態度に苦笑いが半分、呆れが半分だ。
「シンディ。私達が・景品を・当てたから・か?」
「あれはいいのよ。お米もエンジンオイルも、どうせ売れ残りの放出品だろうから」
 リンとレンはエンジンオイルの入った一斗缶を覗き込んでいた。
「お米屋さんで、何でエンジンオイル?」
「さあ……?」
「KAITOが温泉旅行と金一封当てたからだよね?」
 シンディはニヤッと笑った。
「なにっ!?」
 敷島の驚きの言葉に、リンが続けた。
「ぬねの!」
「白状しなさい!」
「あ、いやっ、その……!これはその……暇つぶしに……」
 KAITOは申し訳なさそうに、のし袋に入った温泉旅行券と金一封を差し出した。
「これは……お返しした方がよろしいですよね?」
「さすが、強欲の悪魔に取り憑かれたKAITOっとだよねー」
「金運抜群だね」
 リンとレンがからかう。
「それはミュージカルの役だよ!」
 KAITOは慌てて否定した。
「ノー!」
 アリスがパシッとKAITOが持っていた二通の熨斗袋を奪い取った。
「このアリス・シキシマ!1度もらったものは絶対に返さない主義よ!」
「今、強欲の悪魔に取り憑かれてんの、こいつだから……」
 敷島はボソッと双子ボーカロイドに言った。
「シャラップ!」
「あ、聞こえた?」
「タカオ!すぐにこれで、旅行の予約をしなさい!」
「マジで行くの!?これは金券ショップで、換金した方がお得……」
「お黙り!シンディに鞭で引っ叩かせるわよ!」
「どこに鞭があるんだよ!?」
 シュルッとシンディは自分のコスチュームの腰のベルトを外した。
 実はこれ、ベルトじゃなく……。
「そんなところに隠してたのか!」
「働きの悪い下級ロボットは、これで引っ叩いてやったものよ」
「財団でも・やってました」
 エミリーは妹の所業を恥ずかしそうに言った。
「どこの温泉だよ?まあ、所詮商店会のヤツだから、近場の秋保とか作並とか、その辺か……」
 敷島は熨斗袋の中身を開けた。
 すると、その中に入っていたものは……。
コメント (4)
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