[10月18日09:30.日蓮正宗大石寺・総一坊 稲生ユウタ、藤谷春人、栗原江蓮]
「それでは御目通りに参加される方、受付を開始しますので、着山票をお持ちください」
任務者が休憩所にやってきて、そのように案内した。
「じゃあ、行くか」
ユタ達は休憩所から、着山受付へ向かった。
「前は着山整理票、受け取り忘れて、登山部長に怒られたからなぁ……」
藤谷は笑いながら頭をかいた。
「いや、笑い事じゃないです」
「おはようございます」
ユタは着山票を内拝券に引き換えた。
ふと机の上を見ると、既に受付した人の整理票が纏められていた。
その上に、住職と同じ名前の整理券があった。
「うちのお寺、御住職と同じ名前の信徒さんがいるんですか?」
「バカ、御住職様のものだよ!」
「ええっ!?」
(そういや、“栗原江蓮”の記憶の中にあったな、そういうの)
栗原江蓮の体を使用している、川井ひとみはそう思った。
[同日10:00.同場所→客殿 ユタ、藤谷、江蓮]
「それでは客殿が開門しましたので、移動を開始します」
「よっしゃ。じゃあ、行こうぜ」
「はい」
ユタ達は総一坊から客殿に向かった。
「台風の次の週だから、またどうなるかと思ったけども、さすがに今回はよく晴れたな」
「ええ。素晴らしいことです」
「富士山は相変わらず、山頂だけ雲に掛かってるけどね」
「ああ」
清貫洞を通れば、上の道路は渡らずに済む。
「こういう時、威吹君達はどうやって時間を潰してるんだ?」
「人のいない所に移動して、手合せとかやってるみたいですよ。剣豪同士ですし」
「それはそれは……」
[同日10:30.大石寺・客殿 ユタ、藤谷、江蓮]
『……この客殿のことにつきまして、始めての人は客殿とは何かと思うでしょう。「客殿というのだからお客様の殿堂だ、私達がお客かな」と、こう思ってもらっては困るのです。(中略) 客とは誰れか。御書を拝しますると「勅宣並びに御教書を申し下して、霊山浄土に似たらん景勝の地を尋ねて戒壇を建立すべきものか」と。(中略) 大石寺は、ひたすら大聖人の御精神のまま、その時を待って戒壇の大御本尊様を秘蔵申し上げているのです。やがてその御本尊様がお出ましになる時がまいります。もう何十年かで、必ずまいります。(以下略)』
(“顕正会「試練と忍従」の歴史”より、19ページから20ページ。内容は顕正新聞、昭和36年9月1日号より)
「大客殿は耐震強度が心配なので、取り壊したんですか?」
ユタが藤谷に聞いた。
「俺もその時は浄土真宗にいたから、その場で見たわけではないんだが……。これで学会寄進の堂宇で、まだ現存してるのは大講堂とか総一坊、総二坊くらいになったかな」
「へえ……。栗原さんは知ってた?」
「栗原家は元学会だからな、アタシもあんまり……」
「僕は丑寅勤行でしか来ないもんなぁ……」
「ここの丑寅勤行に参加するだけでも偉いと思うぞ」
と、藤谷。
靴を脱いで、中に入る。
まずは階段の下に整列した。
「あれ?何か忘れてるような……?」
藤谷が首を傾げる。
「班長、カンベンしてくださいよ」
「内拝券は首からぶら下げてるし、ケータイの電源は切ってるし……」
任務者が解答を言った。
「奉(たてまつり)御供養は階段を上がったところで回収しまーす!予め、お手元にご用意くださーい!」
「ああっ、やべっ!封筒もらうの忘れてた!」
「班長!」
「稲生君、栗原さん、ここにいてくれ!今、封筒もらってくる!」
「ホント、やらかしてくれる班長だ」
江蓮が腕組みをして言った。
「うーん……」
そして、戻って来る。
「ペンあるか!?名前書かないと……」
「ああ、ありますよ」
「アタシも」
ユタはサイフの中から現金を出すと、それを奉御供養の袋に入れた。
「班長は札束?」
「封筒に入んねーよ!だけど、封筒は厚くするぜ!」
「さすが班長!セレブ!」
持ち上げるユタ。
しかし江蓮は、
(諭吉さんじゃなく、野口先生の束に見えたのは気のせいか???)
しっかり見抜いていた。
[同日11:00.客殿2階 ユタらを含む正証寺支部法華講の人々]
ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……。
[同日11:20.大石寺・常来坊 ユタ、藤谷、江蓮]
「おい、何だよ!?↑のスクランブルわ!?」(藤谷)
「作者の所属寺院から、御目通りの模様と御開扉のもようは絶対に出すなと警告が来たらしいです……。猊下様の登場もNGだそうで」(ユタ)
「“フェイク”が喜びそうだ……」(江蓮)
〔「講師が入場しますので、皆さん、拍手でお迎えください」〕
「顕正会の拍手より短い」
「シッ、黙ってろ」
[同日12:00.大石寺・売店(仲見世商店街) ユタ、藤谷、江蓮、威吹、キノ]
「よーし、メシの時間だ。江蓮、一緒に食いに行こうぜ」
「ああ」
「じゃ、メシの時間だけお別れだ」
「マジかよ」
「藤谷、飯代だけ出してくれよ?」
「バカ言うな!お前んとこも金持ちだろうが!」
「……雪女とは随分楽しくやってるみてーだなぁ?ああ?」
「ギクッ!」
「ほお。それは良かったな」
事情を知らぬ威吹は意外そうな顔をした。
「班長の女嫌いが治って功徳ですね!」
同じく事情を知らぬユタも続いた。
「おう、そうだぜ。さすが日蓮仏法とは凄ェな。今度からは足向けて寝れねーぜ」
何故か江蓮だけ俯いていたが。
「わ、分かったよ。これで好きなもん食いな」
藤谷は財布の中から、千円札を出した。
「もう一声!」
「く、くそっ……!」
「キノ、もうその辺にしときなよ!」
さすがに江蓮からのストップに逆らえないキノだった。
「妖狐族もそうだが、地獄界を押さえてる鬼族も結構侮れんぞ?」
威吹は藤谷に言った。
「それをもっと早く言って欲しかったな」
藤谷は悔しそうな顔をして言った。
ユタ達は“なかみせ”という飲食店に入る。
「あっ、カレーがある!すいません、カレーください!」
「ユタはカレーが好きだね」
威吹は笑みを浮かべた。
「いやー……」
ユタは照れ笑い。
「稲生君達に関しては、遠慮しないで好きなモン食っていいぞと言えるんだがな」
「ほお、そうか。ならば、お言葉に甘えさせて頂くことにしよう」
注文した食事が運ばれてくる。
「どちらのお寺の御住職様ですか?」
食事を運んできた女性店員が、藤谷を見て言った。
「正証寺の所化僧であり、次期住職でござる」
威吹がすかさずそう答えた。
「なワケねーだろ!ただの信徒っス!」
藤谷は慌てて否定した。
「紛らわしい頭髪してるからだろうが……」
威吹は呆れた顔をした。
「お兄さんは歌舞伎役者の方?」
「そうなんですよ!うちの次期信徒候補で、市川麝香っていうんですよ」
「誰が歌舞伎役者だ!ただの剣客だ!」
しっかり仕返しされた威吹だった。
[同日14:30.大石寺・奉安堂 ユタを含む正証寺支部法華講の人々]
「はい、記念撮影しまーす!」
御開扉を終えたユタ達は、添書登山の信徒達が退出した後、奉安堂の外で記念撮影をすることにした。
ただ単なる記念撮影だけでなく、日如上人猊下も御一緒という大盤振る舞い。
「あれ、作ってきたんだ……」
最後列には、『祝!御命題達成!』という横断幕が掲げられていた。
[同日15:00.大石寺・第二ターミナル ユタ、威吹、藤谷、江蓮、キノ]
2番乗り場は高速バス用。1番乗り場同様、特注のデザインである。
「何だァ、皆帰っちゃうのか?宿坊泊まって行けばいいのに……」
残念そうな顔をする藤谷。
「キノが早く帰りたがって仕方が無いんだ」
江蓮は変な顔をして、キノを指さした。
江蓮とキノは、ここから出る“やきそばエクスプレス”で帰る。
「僕は添書登山の時の感覚で、六壺の勤行に出てから帰ります。明日はちょっと用事があって……」
「しょうがねぇな。稲生君はともかく、栗原さん、ちゃんと夕方の勤行やるんだよ」
「分かってるよ」
バスがやってくる。
白糸の滝からやってくるので、少し遅れて来たが、乗客はほとんど乗っていなかった。
ここからの乗車客が大多数で、ここであいにくと遅延が増大するというジレンマがある。
大石寺第二ターミナルに停車中の“やきそばエクスプレス”。富士急静岡バスが担当する。
〔「東京駅日本橋口行、発車致します」〕
「それじゃ」
ユタは江蓮達に向かって手を振った。
バスは下山の信徒達を満載して、ターミナルを発車していった。
その後ユタと威吹は藤谷と別れ、再び売店へと向かった。
「それでは御目通りに参加される方、受付を開始しますので、着山票をお持ちください」
任務者が休憩所にやってきて、そのように案内した。
「じゃあ、行くか」
ユタ達は休憩所から、着山受付へ向かった。
「前は着山整理票、受け取り忘れて、登山部長に怒られたからなぁ……」
藤谷は笑いながら頭をかいた。
「いや、笑い事じゃないです」
「おはようございます」
ユタは着山票を内拝券に引き換えた。
ふと机の上を見ると、既に受付した人の整理票が纏められていた。
その上に、住職と同じ名前の整理券があった。
「うちのお寺、御住職と同じ名前の信徒さんがいるんですか?」
「バカ、御住職様のものだよ!」
「ええっ!?」
(そういや、“栗原江蓮”の記憶の中にあったな、そういうの)
栗原江蓮の体を使用している、川井ひとみはそう思った。
[同日10:00.同場所→客殿 ユタ、藤谷、江蓮]
「それでは客殿が開門しましたので、移動を開始します」
「よっしゃ。じゃあ、行こうぜ」
「はい」
ユタ達は総一坊から客殿に向かった。
「台風の次の週だから、またどうなるかと思ったけども、さすがに今回はよく晴れたな」
「ええ。素晴らしいことです」
「富士山は相変わらず、山頂だけ雲に掛かってるけどね」
「ああ」
清貫洞を通れば、上の道路は渡らずに済む。
「こういう時、威吹君達はどうやって時間を潰してるんだ?」
「人のいない所に移動して、手合せとかやってるみたいですよ。剣豪同士ですし」
「それはそれは……」
[同日10:30.大石寺・客殿 ユタ、藤谷、江蓮]
『……この客殿のことにつきまして、始めての人は客殿とは何かと思うでしょう。「客殿というのだからお客様の殿堂だ、私達がお客かな」と、こう思ってもらっては困るのです。(中略) 客とは誰れか。御書を拝しますると「勅宣並びに御教書を申し下して、霊山浄土に似たらん景勝の地を尋ねて戒壇を建立すべきものか」と。(中略) 大石寺は、ひたすら大聖人の御精神のまま、その時を待って戒壇の大御本尊様を秘蔵申し上げているのです。やがてその御本尊様がお出ましになる時がまいります。もう何十年かで、必ずまいります。(以下略)』
(“顕正会「試練と忍従」の歴史”より、19ページから20ページ。内容は顕正新聞、昭和36年9月1日号より)
「大客殿は耐震強度が心配なので、取り壊したんですか?」
ユタが藤谷に聞いた。
「俺もその時は浄土真宗にいたから、その場で見たわけではないんだが……。これで学会寄進の堂宇で、まだ現存してるのは大講堂とか総一坊、総二坊くらいになったかな」
「へえ……。栗原さんは知ってた?」
「栗原家は元学会だからな、アタシもあんまり……」
「僕は丑寅勤行でしか来ないもんなぁ……」
「ここの丑寅勤行に参加するだけでも偉いと思うぞ」
と、藤谷。
靴を脱いで、中に入る。
まずは階段の下に整列した。
「あれ?何か忘れてるような……?」
藤谷が首を傾げる。
「班長、カンベンしてくださいよ」
「内拝券は首からぶら下げてるし、ケータイの電源は切ってるし……」
任務者が解答を言った。
「奉(たてまつり)御供養は階段を上がったところで回収しまーす!予め、お手元にご用意くださーい!」
「ああっ、やべっ!封筒もらうの忘れてた!」
「班長!」
「稲生君、栗原さん、ここにいてくれ!今、封筒もらってくる!」
「ホント、やらかしてくれる班長だ」
江蓮が腕組みをして言った。
「うーん……」
そして、戻って来る。
「ペンあるか!?名前書かないと……」
「ああ、ありますよ」
「アタシも」
ユタはサイフの中から現金を出すと、それを奉御供養の袋に入れた。
「班長は札束?」
「封筒に入んねーよ!だけど、封筒は厚くするぜ!」
「さすが班長!セレブ!」
持ち上げるユタ。
しかし江蓮は、
(諭吉さんじゃなく、野口先生の束に見えたのは気のせいか???)
しっかり見抜いていた。
[同日11:00.客殿2階 ユタらを含む正証寺支部法華講の人々]
ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……。
[同日11:20.大石寺・常来坊 ユタ、藤谷、江蓮]
「おい、何だよ!?↑のスクランブルわ!?」(藤谷)
「作者の所属寺院から、御目通りの模様と御開扉のもようは絶対に出すなと警告が来たらしいです……。猊下様の登場もNGだそうで」(ユタ)
「“フェイク”が喜びそうだ……」(江蓮)
〔「講師が入場しますので、皆さん、拍手でお迎えください」〕
「顕正会の拍手より短い」
「シッ、黙ってろ」
[同日12:00.大石寺・売店(仲見世商店街) ユタ、藤谷、江蓮、威吹、キノ]
「よーし、メシの時間だ。江蓮、一緒に食いに行こうぜ」
「ああ」
「じゃ、メシの時間だけお別れだ」
「マジかよ」
「藤谷、飯代だけ出してくれよ?」
「バカ言うな!お前んとこも金持ちだろうが!」
「……雪女とは随分楽しくやってるみてーだなぁ?ああ?」
「ギクッ!」
「ほお。それは良かったな」
事情を知らぬ威吹は意外そうな顔をした。
「班長の女嫌いが治って功徳ですね!」
同じく事情を知らぬユタも続いた。
「おう、そうだぜ。さすが日蓮仏法とは凄ェな。今度からは足向けて寝れねーぜ」
何故か江蓮だけ俯いていたが。
「わ、分かったよ。これで好きなもん食いな」
藤谷は財布の中から、千円札を出した。
「もう一声!」
「く、くそっ……!」
「キノ、もうその辺にしときなよ!」
さすがに江蓮からのストップに逆らえないキノだった。
「妖狐族もそうだが、地獄界を押さえてる鬼族も結構侮れんぞ?」
威吹は藤谷に言った。
「それをもっと早く言って欲しかったな」
藤谷は悔しそうな顔をして言った。
ユタ達は“なかみせ”という飲食店に入る。
「あっ、カレーがある!すいません、カレーください!」
「ユタはカレーが好きだね」
威吹は笑みを浮かべた。
「いやー……」
ユタは照れ笑い。
「稲生君達に関しては、遠慮しないで好きなモン食っていいぞと言えるんだがな」
「ほお、そうか。ならば、お言葉に甘えさせて頂くことにしよう」
注文した食事が運ばれてくる。
「どちらのお寺の御住職様ですか?」
食事を運んできた女性店員が、藤谷を見て言った。
「正証寺の所化僧であり、次期住職でござる」
威吹がすかさずそう答えた。
「なワケねーだろ!ただの信徒っス!」
藤谷は慌てて否定した。
「紛らわしい頭髪してるからだろうが……」
威吹は呆れた顔をした。
「お兄さんは歌舞伎役者の方?」
「そうなんですよ!うちの次期信徒候補で、市川麝香っていうんですよ」
「誰が歌舞伎役者だ!ただの剣客だ!」
しっかり仕返しされた威吹だった。
[同日14:30.大石寺・奉安堂 ユタを含む正証寺支部法華講の人々]
「はい、記念撮影しまーす!」
御開扉を終えたユタ達は、添書登山の信徒達が退出した後、奉安堂の外で記念撮影をすることにした。
ただ単なる記念撮影だけでなく、日如上人猊下も御一緒という大盤振る舞い。
「あれ、作ってきたんだ……」
最後列には、『祝!御命題達成!』という横断幕が掲げられていた。
[同日15:00.大石寺・第二ターミナル ユタ、威吹、藤谷、江蓮、キノ]
2番乗り場は高速バス用。1番乗り場同様、特注のデザインである。
「何だァ、皆帰っちゃうのか?宿坊泊まって行けばいいのに……」
残念そうな顔をする藤谷。
「キノが早く帰りたがって仕方が無いんだ」
江蓮は変な顔をして、キノを指さした。
江蓮とキノは、ここから出る“やきそばエクスプレス”で帰る。
「僕は添書登山の時の感覚で、六壺の勤行に出てから帰ります。明日はちょっと用事があって……」
「しょうがねぇな。稲生君はともかく、栗原さん、ちゃんと夕方の勤行やるんだよ」
「分かってるよ」
バスがやってくる。
白糸の滝からやってくるので、少し遅れて来たが、乗客はほとんど乗っていなかった。
ここからの乗車客が大多数で、ここであいにくと遅延が増大するというジレンマがある。
大石寺第二ターミナルに停車中の“やきそばエクスプレス”。富士急静岡バスが担当する。
〔「東京駅日本橋口行、発車致します」〕
「それじゃ」
ユタは江蓮達に向かって手を振った。
バスは下山の信徒達を満載して、ターミナルを発車していった。
その後ユタと威吹は藤谷と別れ、再び売店へと向かった。