報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「ユタの支部登山」 パート2-2

2014-10-19 19:28:59 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月18日09:30.日蓮正宗大石寺・総一坊 稲生ユウタ、藤谷春人、栗原江蓮]

「それでは御目通りに参加される方、受付を開始しますので、着山票をお持ちください」
 任務者が休憩所にやってきて、そのように案内した。
「じゃあ、行くか」
 ユタ達は休憩所から、着山受付へ向かった。
「前は着山整理票、受け取り忘れて、登山部長に怒られたからなぁ……」
 藤谷は笑いながら頭をかいた。
「いや、笑い事じゃないです」
「おはようございます」
 ユタは着山票を内拝券に引き換えた。
 ふと机の上を見ると、既に受付した人の整理票が纏められていた。
 その上に、住職と同じ名前の整理券があった。
「うちのお寺、御住職と同じ名前の信徒さんがいるんですか?」
「バカ、御住職様のものだよ!」
「ええっ!?」
(そういや、“栗原江蓮”の記憶の中にあったな、そういうの)
 栗原江蓮の体を使用している、川井ひとみはそう思った。

[同日10:00.同場所→客殿 ユタ、藤谷、江蓮]

「それでは客殿が開門しましたので、移動を開始します」
「よっしゃ。じゃあ、行こうぜ」
「はい」
 ユタ達は総一坊から客殿に向かった。
「台風の次の週だから、またどうなるかと思ったけども、さすがに今回はよく晴れたな」
「ええ。素晴らしいことです」
「富士山は相変わらず、山頂だけ雲に掛かってるけどね」
「ああ」
 清貫洞を通れば、上の道路は渡らずに済む。
「こういう時、威吹君達はどうやって時間を潰してるんだ?」
「人のいない所に移動して、手合せとかやってるみたいですよ。剣豪同士ですし」
「それはそれは……」

[同日10:30.大石寺・客殿 ユタ、藤谷、江蓮]

『……この客殿のことにつきまして、始めての人は客殿とは何かと思うでしょう。「客殿というのだからお客様の殿堂だ、私達がお客かな」と、こう思ってもらっては困るのです。(中略) 客とは誰れか。御書を拝しますると「勅宣並びに御教書を申し下して、霊山浄土に似たらん景勝の地を尋ねて戒壇を建立すべきものか」と。(中略) 大石寺は、ひたすら大聖人の御精神のまま、その時を待って戒壇の大御本尊様を秘蔵申し上げているのです。やがてその御本尊様がお出ましになる時がまいります。もう何十年かで、必ずまいります。(以下略)』
(“顕正会「試練と忍従」の歴史”より、19ページから20ページ。内容は顕正新聞、昭和36年9月1日号より)

「大客殿は耐震強度が心配なので、取り壊したんですか?」
 ユタが藤谷に聞いた。
「俺もその時は浄土真宗にいたから、その場で見たわけではないんだが……。これで学会寄進の堂宇で、まだ現存してるのは大講堂とか総一坊、総二坊くらいになったかな」
「へえ……。栗原さんは知ってた?」
「栗原家は元学会だからな、アタシもあんまり……」
「僕は丑寅勤行でしか来ないもんなぁ……」
「ここの丑寅勤行に参加するだけでも偉いと思うぞ」
 と、藤谷。
 靴を脱いで、中に入る。
 まずは階段の下に整列した。
「あれ?何か忘れてるような……?」
 藤谷が首を傾げる。
「班長、カンベンしてくださいよ」
「内拝券は首からぶら下げてるし、ケータイの電源は切ってるし……」
 任務者が解答を言った。
奉(たてまつり)御供養は階段を上がったところで回収しまーす!予め、お手元にご用意くださーい!」
「ああっ、やべっ!封筒もらうの忘れてた!」
「班長!」
「稲生君、栗原さん、ここにいてくれ!今、封筒もらってくる!」
「ホント、やらかしてくれる班長だ」
 江蓮が腕組みをして言った。
「うーん……」
 そして、戻って来る。
「ペンあるか!?名前書かないと……」
「ああ、ありますよ」
「アタシも」
 ユタはサイフの中から現金を出すと、それを奉御供養の袋に入れた。
「班長は札束?」
「封筒に入んねーよ!だけど、封筒は厚くするぜ!」
「さすが班長!セレブ!」
 持ち上げるユタ。
 しかし江蓮は、
(諭吉さんじゃなく、野口先生の束に見えたのは気のせいか???)
 しっかり見抜いていた。

[同日11:00.客殿2階 ユタらを含む正証寺支部法華講の人々]

 ザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……。

[同日11:20.大石寺・常来坊 ユタ、藤谷、江蓮]

「おい、何だよ!?↑のスクランブルわ!?」(藤谷)
「作者の所属寺院から、御目通りの模様と御開扉のもようは絶対に出すなと警告が来たらしいです……。猊下様の登場もNGだそうで」(ユタ)
「“フェイク”が喜びそうだ……」(江蓮)

〔「講師が入場しますので、皆さん、拍手でお迎えください」〕

「顕正会の拍手より短い」
「シッ、黙ってろ」

[同日12:00.大石寺・売店(仲見世商店街) ユタ、藤谷、江蓮、威吹、キノ]

「よーし、メシの時間だ。江蓮、一緒に食いに行こうぜ」
「ああ」
「じゃ、メシの時間だけお別れだ」
「マジかよ」
「藤谷、飯代だけ出してくれよ?」
「バカ言うな!お前んとこも金持ちだろうが!」
「……雪女とは随分楽しくやってるみてーだなぁ?ああ?」
「ギクッ!」
「ほお。それは良かったな」
 事情を知らぬ威吹は意外そうな顔をした。
「班長の女嫌いが治って功徳ですね!」
 同じく事情を知らぬユタも続いた。
「おう、そうだぜ。さすが日蓮仏法とは凄ェな。今度からは足向けて寝れねーぜ」
 何故か江蓮だけ俯いていたが。
「わ、分かったよ。これで好きなもん食いな」
 藤谷は財布の中から、千円札を出した。
「もう一声!」
「く、くそっ……!」
「キノ、もうその辺にしときなよ!」
 さすがに江蓮からのストップに逆らえないキノだった。
「妖狐族もそうだが、地獄界を押さえてる鬼族も結構侮れんぞ?」
 威吹は藤谷に言った。
「それをもっと早く言って欲しかったな」
 藤谷は悔しそうな顔をして言った。

 ユタ達は“なかみせ”という飲食店に入る。
「あっ、カレーがある!すいません、カレーください!」
「ユタはカレーが好きだね」
 威吹は笑みを浮かべた。
「いやー……」
 ユタは照れ笑い。
「稲生君達に関しては、遠慮しないで好きなモン食っていいぞと言えるんだがな」
「ほお、そうか。ならば、お言葉に甘えさせて頂くことにしよう」
 注文した食事が運ばれてくる。
「どちらのお寺の御住職様ですか?」
 食事を運んできた女性店員が、藤谷を見て言った。
「正証寺の所化僧であり、次期住職でござる」
 威吹がすかさずそう答えた。
「なワケねーだろ!ただの信徒っス!」
 藤谷は慌てて否定した。
「紛らわしい頭髪してるからだろうが……」
 威吹は呆れた顔をした。
「お兄さんは歌舞伎役者の方?」
「そうなんですよ!うちの次期信徒候補で、市川麝香っていうんですよ」
「誰が歌舞伎役者だ!ただの剣客だ!」
 しっかり仕返しされた威吹だった。

[同日14:30.大石寺・奉安堂 ユタを含む正証寺支部法華講の人々]

「はい、記念撮影しまーす!」
 御開扉を終えたユタ達は、添書登山の信徒達が退出した後、奉安堂の外で記念撮影をすることにした。
 ただ単なる記念撮影だけでなく、日如上人猊下も御一緒という大盤振る舞い。
「あれ、作ってきたんだ……」
 最後列には、『祝!御命題達成!』という横断幕が掲げられていた。

[同日15:00.大石寺・第二ターミナル ユタ、威吹、藤谷、江蓮、キノ]

 
 2番乗り場は高速バス用。1番乗り場同様、特注のデザインである。

「何だァ、皆帰っちゃうのか?宿坊泊まって行けばいいのに……」
 残念そうな顔をする藤谷。
「キノが早く帰りたがって仕方が無いんだ」
 江蓮は変な顔をして、キノを指さした。
 江蓮とキノは、ここから出る“やきそばエクスプレス”で帰る。
「僕は添書登山の時の感覚で、六壺の勤行に出てから帰ります。明日はちょっと用事があって……」
「しょうがねぇな。稲生君はともかく、栗原さん、ちゃんと夕方の勤行やるんだよ」
「分かってるよ」
 バスがやってくる。
 白糸の滝からやってくるので、少し遅れて来たが、乗客はほとんど乗っていなかった。
 ここからの乗車客が大多数で、ここであいにくと遅延が増大するというジレンマがある。

 
 大石寺第二ターミナルに停車中の“やきそばエクスプレス”。富士急静岡バスが担当する。

〔「東京駅日本橋口行、発車致します」〕

「それじゃ」
 ユタは江蓮達に向かって手を振った。
 バスは下山の信徒達を満載して、ターミナルを発車していった。

 その後ユタと威吹は藤谷と別れ、再び売店へと向かった。 
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“ユタと愉快な仲間たち” 「ユタの支部登山」 パート2-1

2014-10-19 16:02:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月18日07:10.JR東京駅・東海道新幹線乗り場 稲生ユウタ、藤谷春人、威吹邪甲、栗原江蓮、蓬莱山鬼之助]

 週末で平日とはまた違った賑わいを見せる東京駅。
 その八重洲南口付近では、藤谷が班長として訓示のようなものを喋っていた。
「今日は客殿にて、猊下様の御目通りがある!邪な妖怪は連れて行けん!」
「誰が邪な妖怪だ!」
「まあ、あながちウソではないがな」
「班長、いつもの通り、威吹達は境内の外で待っていてもらいますから」
「魔道師達はいないんだろうな?」
「魔界の現況調査に行きました。しばらくは戻ってこないそうです。……グスン」
 ユタがそう答えた。
「てか、白馬の台風編は強制終了か?だらしねぇ作者だぜ」
 と、キノが意味不明なことを言う。
「藤谷さん、キノ達はあくまでアタシらの護衛でいるんだから……」
「護衛じゃねぇ。婚前旅こ……ぶっ!」
「黙ってろ!」
 キノがとんでもないことを言い切る前に、江蓮が正座椅子をキノの顔面にヒットさせた。
「まあ、とにかく行きましょうよ。ね?ね?」
 スーツ姿のユタが促した。
 大学の入学式に着たものである。
 来年には就職活動用のリクルートスーツを買わなくてはならない。が、
(魔道師になったら、就職活動とかしなくていいんだよな……)
 などと考えてしまう。

〔新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく16番線に、7時26分発、“こだま”635号、名古屋行きが到着します。安全柵の内側まで、お下がりください。……〕

「ユタ、てめっ!待ちやがれ!」
 ホイホイ1号車に向かおうとするユタの襟首を掴むキノ。
「オレ達まで、オメーの趣味に付き合ってらんねーんだよっ!」
「えーっ!」
「えーっじゃねぇ!」
 すると江蓮が、
「せっかく指定席取ったんだから、たまには中間車に乗りなさいよ」
 江蓮は高校の制服のブレザーの中から、指定席特急券を出した。
「へーい……」
 ユタは残念そうな顔をした。
 そうしているうちに、大井基地からやってきた列車が入線してくる。
 ホームドアがメロディを流しながら、その扉を開ける。“乙女の祈り”だ。かつてJR東日本管内では、発車メロディとしても使用していたことがある。
 まあ、たまに暴走運転の“ドナドナ”よりマシだろう。

 ドアが開いてユタ達は、N700Aの乗客となった。

〔ご案内致します。この電車は、“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。……〕

「オレと江蓮、こっちな」
 キノはさも当然とばかりに、江蓮の肩を抱いて2人席に陣取ってしまった。
 残りは、3人席。
「あー、勝手にやってくれ」
「いいんですか、班長?窓側じゃなくて」
「引率者として、双方見てなくちゃな」
 と、藤谷は3人席の通路側に座った。
「いいか?今回の支部総登山は、正証寺が東京第3布教区の中で真っ先に誓願を達成したということで、特別に猊下様が御目通り下さる大切な行事だ。くれぐれも、いつものような……」
「江蓮、『いただきます』のチューしてくれ。もち、ここ」(←自分の唇を指さすキノ)
「何で、『いただきます』でチューなんだよっ!」
「ユタぁ、この列車、酒売ってる?」
「あっ、“こだま”はもう車販廃止にしたんだった。今のうち、売店で買ってきなよ」
「……って、聞いちゃいねー!」
「藤谷班長、悪い、通してくれ」
 威吹が小銭入れを手に、藤谷の前を通る。
 と、背中に隠し持っていた競馬新聞が床に落ちた。
「……肩肘張らず、いつもの通りでいいんじゃないか?」
「こ、これは顕正会の謀略だ!」
「んなワケない、んなワケない」
 ユタと江蓮が同時に否定した。

[同日07:26.東海道新幹線“こだま”635号12号車 ユタ、威吹、藤谷、江蓮、キノ]

〔「はい、レピーター点灯です!」〕

 駅のホームに発車メロディが鳴り響く。かつて、“のぞみ”の車内チャイムで使用されていたものだ。
 買い物をしていた威吹が慌てて戻って来る。
「ふう……。時間に左右されていて忙しい時代に封印が解かれたものだ」

〔16番線、“こだま”635号、名古屋行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りの方は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「ITVよーし!16番線、ドアが閉まります。ご注意ください。……はい、乗車終了!」〕

 ブー!(客終合図)

 列車は定刻通りに東京駅を発車した。

〔♪♪(車内チャイム。“AMBITIOUS JAPAN”)♪♪。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“こだま”号、名古屋行きです。終点、名古屋までの各駅に止まります。次は、品川です。……〕

 競馬新聞を隠し、代わりに“慧妙”を広げる藤谷。
 それ以外のメンバーは、朝食の駅弁を広げていた。
「そういえば班長、髪切ったんですね?」
 ユタが今頃気づいたかのように言う。
「ああ。さっぱりしただろ?まるで、このまま得度試験受けさせてくれってレベルだな」
 藤谷は笑って、自分の頭を撫でた。
 確かにそれまでの角刈りから、更に短くなっている。
「ははは……」
「“慧妙”のアポ無し折伏隊、相変わらずだな」
「今度は何ですか?」
 藤谷の言葉に反応するユタ。
「キリスト教会に行って、牧師を逆ギレさせてる」
「相変わらずですね。“となりの沖田くん”はどうですか?」
「功徳のオンパレードだ。俺も掲載してくんねーかな」
「これは実在の人物なんですか?」
「どうだろう……?」
 藤谷は首を傾げた。

 ※もっとも、ユタ達の所属する東京第3布教区というのは架空であり、実際にはまだ第2布教区までしかありません。よって、そこに所属している正証寺というのも架空です。

[同日08:40.JR新富士駅 ユタ、威吹、藤谷、江蓮、キノ]

 新幹線の定時性は世界一だ。
 定刻通りに到着した列車を降りるユタ達。
 ユタがそれを褒めると、藤谷が言った。
「俺のダチがアメリカに旅行に行ったんだよ。で、向こうの大陸横断列車に乗ったんだな」
「アムトラックですね」
「15分くらい遅れてたからさ、車掌に、『この遅れ、回復できるか?』って聞いたら、『This is on time.』って答えやがったんだとさ。で、ダチが半ギレして、『ごっつdelay!』って、ツッコんだって」
「アメリカでは15分程度の遅れは、定時と見なしているようです」
 ユタは苦笑いした。

 駅の外に出る。
「班長、この時間、まだバスはいませんよ?」
「分かってる。タクシーに分乗して行くさ」
「やあ、藤谷君、おはよう」
「あっ、講頭!おはようございます!」
 人間達は挨拶したが、妖怪2人だけはスルー。
「ん?このお二方は……」
「御受誡希望だぜ。できるものならな」
 キノはニヤッと笑った。口元から牙が覗く。
「す、すいません、講頭!何度も言い付けたのですが、申し訳ありません!せめて、こんな邪な妖怪を山内に入れることだけは何としてでも阻止しますからっ!」
「ひどい言われようだな……」
 威吹は苦笑した。
「来世は人間に生まれ変わって、それから仏様の信心をしましょうね」
 講頭は威吹達にそう言った。
「了解」
「へーへー」
 2人は適当に答えた。
 殺されれば死ぬが、そうでなければ老化もしなければ、死ぬこともない2人が、そう簡単に来世に生まれ変わるようなことはまずない。
「これからタクシーで向かうが、どうかな?」
「はいっ!願っても無いことです!」
「えーと……。じゃあ、私は稲生君と一緒に乗ろうかな」
「稲生君!くれぐれも、講頭に失礼の無いように!」
「はい」
「威吹君もな!」
「分かったから、早く車に乗れよ」
 威吹は呆れたような顔をした。

 こうしてタクシー2台に分乗して、大石寺を目指す。
 富士山の山頂は、あいにくと頂上付近だけ雲が掛かっていた。
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