報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「魔界情勢」

2014-10-14 19:19:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月11日07:30.長野県北部某所 マリア邸 稲生ユウタ、威吹邪甲、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット]

 ユタ達は洋館のダイニングで、朝食を取っていた。
 給仕をするは、人間と等身大になったフランス人形達。
 しかしその中に、ミク人形はいない。
 人形達の中でリーダー格となったミク人形だが、今ここで動いている人形達で、ユタが知っているのは、白い髪を三つ編みにしているクラリスと名乗る人形だけだった。
 ミク人形とペアで行動することが多い。
「本当はマリアと一緒に外で楽しんできてもらいたいところなんだけど、ちょっと台風が来てるから難しいかな?」
「問題無いですよ。僕はマリアさんと一緒にいられればそれでいいんで」
「そう。それならいいんだけど……」
「それと、オレに話があるんだったな。それも聞こう」
「イリーナさんが威吹に?」
 ユタは首を傾げた。
「魔界のことを話すつもりだから」
 と、イリーナ。
「そうなんですか」

[10月11日09:00.マリア邸1Fリビング イリーナ&威吹]

「お茶を・お持ちしました」
 マリアのフランス人形が、紅茶と緑茶を入れて来た。
「ありがとう、レイチェル。ここに置いといて」
「失礼します」
 メイド服を着用した、レイチェルという名のフランス人形はお辞儀して退出した。
「……皆、同じような人形に見えるが?」
 威吹は首を傾げた。
「ミク人形や、あの白い髪の人形以外はな」
「そのうち慣れるわよ。ま、お茶でも飲んで」
「話というのは何だ?」
「魔界のことについてよ」
「魔界だ?」
「それと、あなたの過去について」
「オレの過去?」
「どっちから話そうかな……。まあ、最近の魔界のことでいいか。今、魔界正規軍が軍人を募集している話は聞いたことある?」
「ああ。同族から聞いたことがある。しかし今の魔界正規軍というのは徴兵制ではなく、志願制だと聞いた。それが大募集とは、どういうことだ?」
「内戦に備えて、かな」
「内戦だと?」
「今、アルカディア王国では、新しい王都を建設中でね。新市街地と旧市街地に分けるって手法かな。だいぶ平和になったもんで、人口も増えたしね。それで今の市街地が随分と手狭になったので、新たな市街地を建設中というわけ」
「それと内戦と、どう関係あるのか?」
「その新市街地建設に反対する勢力があるのよ。結局、魔界共和党というのは人間が主に構成されている政党で、それの肝煎りだから、魔族達が反対しているわけ。『大魔王バァル様は未だ退位しておらず、あくまでルーシー女王は魔王代行である。それが新王都建設など、バァル様を蔑ろにするのも甚だしい』なんてね」
「よく言うものだ。実質、退位みたいなものではないか。おおかた、バァル大帝に重用されていた旧臣共かな?」
「まあ、そんなところね。台頭した魔界民主党が人間だけの共和国を作る為に旧臣達を追い出して、その後魔界共和党が立憲君主制にしたんだけど、結局重鎮には人間が多く登用されたから、不満はあるでしょうね」
「内戦鎮圧の為に、軍備増強か。新しい街作りにも相当カネが掛かるだろうに、意外とあの王国、潤沢国家なのだな」
「まあ、内戦というよりテロリズムに近いかな。威吹君くらいの強さがあれば、幹部に登用されると思うよ?」
「それも同族に言われた。だが、オレは魔界には興味が無い。あくまで、ユタとの盟約の完結に徹するつもりだ」
「そこで、もう1つ。今度は威吹君の過去に触れることになるの」
「オレの過去?」
「威吹君を封印した、巫女のさくらさんよ」
「さくらが、どうしたって?」
「新情報が入ったの。あなたを封印したのは、本人は否定しているけど、ポーリンの可能性が高い」
「ああ。あのクソババァ、いつ殺せる?」
「申し訳無いけど、今のあなたには無理よ。ポーリンを倒すのは諦めなさい」
「ああっ!?」
「本題なんだけどね、あなた、さくらさんの遺体は知ってる?」
「知らんよ。オレが封印されている間に殺されたそうだな?……いや、違う。ポーリンがさくらを殺して、それと入れ替わって、オレを……」
「ポーリンは今まで、知らぬ存ぜぬを貫いて来たわよね。もし本当に知らなかったとしたらどうする?」
「じゃ、誰がやったってんだ!?」
「大師匠様がね、少しヒントを教えてくれたの。さすがにあの御方は、私とポーリン、片方だけの肩を持つわけにはいかないからって、全部は教えてくれないけど、ヒントだけならって……」
「で、そのひんととやらは何なんだ?」
「ポーリンが私との対立で、江戸時代の日本に逃げて来たのは本当。そして逃げた先で、たまたまさくらと会って、その姿を真似たのも本当みたい。だけど、本物は死んでいなかった、という仮定ね」
「それで?」
「おかしいと思ったのよ。さくらさんはポーリンに殺された説と、威吹君を封印した後、東北まで行って、そこでパッタリと足取りが消えたパターン。私は後者に違和感があってね、もしかしたら、たまたま開いた魔界の穴に巻き込まれたんじゃないかって」
「何だと?物凄く強引な話だな。証拠は掴んだのか?」
「あいにくと、まだ。だけど調べてみたら、当時は結構ポコポコ穴が開いたりしてたみたい。偶然その穴にはまって、魔界に飛ばされた人間がいてもおかしくない。“神隠し”とか呼ばれてるけどね」
「魔界に住む人間達は、正にそれで魔界に来た者達ばかりだと聞いた」
 威吹は大きく頷いた。
「さくらさんの死体がそもそも見つかっていないのと……」
 イリーナはテーブルの上に、新聞を置いた。
 それは異世界通信社が発行する新聞、“アルカディア・タイムス日本語版”だった。
「ここの記事を読んで欲しいの」
 それは先ほどイリーナが話した、新市街地建設現場の特集記事だった。
 城壁に囲まれた旧市街地を脱し、隣接する広野に新市街地を建設するというもの。
 約10年の歳月を掛けて完成させる計画の新しい街だが、まずは新魔王城の建設から始めるというものだった。
 現在の魔王城は民主党との内戦ですっかり疲弊し、如何に巨大な城とはいえ、その半分は再建を諦め、打ち棄てなければならないほどだった。
 しかしここ最近、ようやく打ち棄てられた旧館も復旧させて使わなければ回らなくなるほどにまでなった。
 それで新庁舎としての新魔王城なのだが、建設現場にて、地下深くの永久凍土で、氷漬けになった人間の巫女を発見したという。
 その巫女は着ている装束などから、江戸時代初期の人間と思われる、とのこと。
 彼女が如何にして人間界から魔界に来て、しかも何故、地下深くの永久凍土にて氷漬けになっていたかは不明である。
「写真は無いのか?」
「あいにくとね。江戸時代初期の巫女っていうフレーズが引っ掛かったのよ」
「その巫女はどこにいる?ちゃんと、きれいなままなんだろうな?」
「そうよ。王国の肝煎りだから、今の魔王城に保管されてると思うわね」
「確認したい!確認させてくれ!」
「相手は王国政府だからね、そう簡単にOKとはいかないと思うよ」
「アンタの顔が利くだろう?それで何とか……」
「その為にも、向こうとの取引材料が必要だわ。威吹君、あなた、正規兵は無理でも、予備役兵として参加してくれない?正規兵は兵役が決まってるから簡単には抜けられないけど、予備役なら戦闘の都度、召集と除隊の繰り返しで済むわ」
「オレは団体行動が苦手だから、里を飛び出したようなものだが……」
 威吹は渋い顔になった。
「正規兵は軍規も厳しいけど、予備役兵はそうでもないってよ」
「……そうしないと、さくらかもしれない氷漬けの巫女とは会えぬのか?」
「その流れで、安倍君と取り引きよ」
「あ、安倍君?!」
 威吹は一瞬、第96代内閣総理大臣の方を思い浮かべた。
 だがもちろん、イリーナは魔界民主党初代総裁で、尚且つ現・内閣総理大臣の安倍春明の方を言ったのである。
コメント (2)
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