報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「のぞみヶ丘秋祭り」

2014-10-24 20:09:17 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月20日13:00.宮城県仙台市泉区のぞみヶ丘・公民館 敷島孝夫]

「いいですよ。今度の秋祭り、ライブ・イベントにうちの初音ミクを出させましょう」
 館内の会議室に集まるは、のぞみヶ丘商店会の役員達。
 メインイベントとして、アリス研究所のボーカロイドを出演させて欲しいというものだった。
 メジャー化しているボーカロイドに、一地域の秋祭りに参加させることができるのかと思った役員達だったが、敷島がスケジュールを調整することで合意した。
「ちょうどこの日の夕方、地元のラジオ局で、『東北秋祭りレポート』があるんですよ。それも、中継で。ここの秋祭りが取り上げられないか、ラジオ局に打診してみますね」
「おおっ!さすが敏腕プロデューサー!」
(あとはこれを機に、マルチタイプも……)

[同日15:00.同地区内 アリスの研究所 敷島孝夫&アリス・シキシマ]

「ええっ、エミリーとシンディを?」
「そうだ。彼女らを祭りのコンパニオンとして使う。これも旧ソ連の粛清ロボットだった頃への贖罪と、世間一般のイメージ払しょくの為だ」
「……と、言いつつ、アタシにはアンタが後ろ手で電卓叩いているようにしか見えないけど?」
「そ、そんなことはない!」
 そもそも日本では、エミリー達が旧ソ連時代に国内で反乱分子の粛清に当たっていたと言われてもピンと来ないのが現状だ。
 KGBの殺し屋とかだったら、映画とかにも出て来るので、何となく分かるが……その程度だろう。
 その出身者が大統領やってたりするものだから大変だ。
 いつ、エミリー達が政治に使われるか気が気でない。
「ボーカロイド達は完全に日本のオリジナルだから、いくら売れてもいいけど、マルチタイプは目立っちゃまずいんじゃないかしら」
「そうかなぁ?『日本国内限定で、平和的使用をする分には構わない』という条件があったぞ?」
「相手は政治家だから、どこまで守るか分からないわよ」
「まあ、そこは裏金で」
「ワイロは受け取った方だけじゃなく、送った方も逮捕の対象だからね」
「女子高生の援助交際は、持ち掛けられた男だけが逮捕されるのにねぇ……」
「What is Enjyo-kosai?」
「ウィキペディアで調べてみろ。とにかく、こういう地域の祭りに参加する分には問題無いだろうさ」

[10月26日16:00.のぞみヶ丘中央公園・野外ステージ 平賀奈津子]

 平賀奈津子は平賀太一の妻であり、れっきとした南里研究所の準研究員であった。
 鏡音リン・レンが製造された時、フィールド・ワークのみならず、プロデューサーとして地方巡業を率先して行っていたくらいである。
 結婚してからは第一線を退き、メイドロボットの七海に、設けた2児の子守りを頼みつつ、研究者としての仕事を地道に続けている。
 奈津子はマイクの調整がてら、公園内にいる地域住民に呼び掛けた。

〔「えー、のぞみヶ丘ニュータウンの皆さん、こんにちはー。私、アリス・ロボット研究所から参りましたロボット研究者です。今日は皆さんの為に、うちの看板ボーカロイド、初音ミクが一生懸命歌います。よろしくお願い致します!」〕

「さすが元プロデューサー、上手いな」
 敷島は公園の出入口で感心していた。
 研究者としてはまだ現役でも、プロデューサーとしては第一線を退いているという意味だ。
「お待たせー」
「おっ、来たか。……って!」
 祭りの為に着替えて来たアリス、エミリー、シンディ。
 何に着替えて来たのかというと、
「さささ、寒い……」
「バカか、お前!秋祭りに浴衣着てきて、何考えてんだ!?」
「だ、だって、日本のお祭りって皆これ着るんでしょ?」
「夏だけだよ!それ以外の季節に着れるか!……せいぜい、冬……正月とかに振袖着るくらいだよ。振袖ってのは、それよりもっと厚手で温かい着物のこと!」
 大ざっぱだが、ハズレてはいない。
「早く着替えてこい!風邪引くぞ!」
「私達は別に寒くないけど?」
「当たり前だ!……!」
 その時、敷島はピンと来るものがあった。
「待て!エミリーとシンディはそのままでいい!」

[同日17:00.同場所 敷島孝夫、平賀奈津子、アリス・シキシマ、初音ミク]

「ええっ、アリスってば浴衣着て来たんですか!?」
 そういう奈津子は、上下パンツスーツだ。
 子供を2人産んだ割には、あまり体型の崩れは無く、そのスーツも結婚前に着ていたものだという。
「そうなんです。とんだ日本に対する誤解だ」
 因みに奈津子の夫である太一は、仕事を理由にここには来ていない。
 マルチタイプの、それもシンディに関わることを避けてのことだろう。
 しばらくして、やっとアリスと初音ミクがやってきた。
 ミクはいつもの、公式通りのあの衣装だ。
 もっとも、会場に出入りする時は目立たぬように上にコートを羽織っている。
「たかおさん、充電はバッチリです」
 ミクはにっこり笑った。
「よーし。まずは前座として、エミリーとシンディを紹介する。そして、『マルチタイプ二重奏』を行う」
「大丈夫なんですか?」
「実験で安全だと確認された曲だけを使う。ちょうど実験に引っ掛かったものが多かった静かなクラシック曲は元々この祭りには合わないからね、アップテンポの盛り上がる物をやってもらうよ。そして最後は、その2人の生演奏と共にミクがライブの最後に相応しい持ち歌を披露する。それでいいな」
「はい、たかおさん!」
「イエス、敷島さん」
「了解、プロデューサー」

[同日18:00.同場所 敷島、奈津子、アリス、KAITO]

「お疲れ様です、プロデューサー」
 ひょっこりやってくるKAITO。
「あれ、どうしたんだ、お前?」
「今日は収録が思いの外、早く終わったので戻ってきちゃいました」
「何だ、そうか。んー……。バッテリー残量、あとどのくらいある?」
「54パーセントです」
「54パーか。微妙だな……」
「1曲くらいの飛び入りなら余裕ですよ、プロデューサー」
「考えておこう。実は彼女らのステージだけで、キツキツなんだ。本来は地元の人達のカラオケ大会だから。取りあえず、その辺でファンサービスでもしてきな。もしお前が出れるようだったら呼ぶ」
「分かりました。出店でも回ってます」
「ああ」
 出店はほんと、“ベタな縁日の法則”通りである。
 たこ焼きとか焼きそばとか綿あめの露店以外に、金魚すくいとか、射的やくじ引きもあった。
 無論ボーロカイドのKAITOは飲食系の露店は回れないので、それ以外の店を回っているところを敷島は確認した。
 あとはミク達のステージの方を気にしていたので、まさかイケメンボーカロイド・KAITOがやらかしてくれるとは……。
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冨士参詣虚構便

2014-10-24 19:23:52 | 日記
[浅井会長の長男が顕正会提訴]

「浅井会長の長男が顕正会提訴 『無断で名前使われた』」

 宗教法人顕正会の代表・浅井昭衛氏(83)の長男が、教団と幹部ら30人に対し、自らの氏名や写真の使用差し止めと計4千万円の損害賠償などを求める訴訟を24日、さいたま地裁に起こした。
 長男の代理人によると、長男は現在、会社員で教団との関わりはないという。
 訴状によると、顕正会は今年、長男の誕生日に関係する催しを長男に無断で開催。催しの中で長男の氏名を使用したという。写真についても、「様々な形で使われることが予想される」と主張。今後も氏名などが使われれば、「回復困難な不利益を受ける」としている。
(朝曰新聞) 2014年10月24日 18時38分

 元記事:http://news.goo.ne.jp/topstories/nation/400/2ae6cddd6cfc46510335102470e4ee2a.html

 “あっつぁの顕正会体験記”の一部リスナーさん達から大クレームを受けた、あの冨士参詣新聞を復活させてみました。
 もちろん、ウソ記事です。
 いや、しかし宗教絡みの記事はほんのちょっと手を加えただけで、上記のようになるものですな。

「自分のブログでやれや、コラ!」
 ということでしたので、お言葉通りに致しました。

コメント (9)
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“ユタと愉快な仲間たち” 「束の間ホリデー」 final

2014-10-24 15:04:56 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月19日16:00.さいたま市大宮区三橋 湯快爽快2F 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

「あれ?イリーナさんは?」
 ほどよく温まっているマリアに声を掛けるユタ。
「師匠なら、リラクゼーションをハシゴ中。今、垢スリ受けてる」
「へえ……」
「今度は整体と足裏マッサージ受けるんだって、妙に張り切ってる」
「それ、富士宮でもやってましたよね?」
「そろそろ師匠の体も限界なんだよ」
「僕が生きてる間に、姿が変わっちゃうんですね……」
「まあ、師匠のことだから、いい切り札を持ってると思うけどね」
 そういうマリアの肩を揉むのはミク人形とフランス人形。
「なるほど……」
「ああ、私は変わんないよ。数百年は」
「それは良かったです」
「……ユウタ君は、これでいいの?」
「え?何がですか?」
「師匠みたいなモデル体型じゃなくて、私みたいな幼児体型でいいの?」
「幼児体型だなんて、そんな……!僕は素直にマリアさんみたいな人を、『お人形さんみたいでかわいい』と思ったんです」
「数十年はきっとこのままだよ?いいの?」
「もちろんです」
「おうおう、それってユタが魔道師になるって前提の話だろ?」
「キノ!」
 そこへ、キノと江蓮がやってきた。
「……威吹のヤツ、何か言ってなかったか?」
「キノの悪口なら言ってた」
「あー、そーかよ!って、そうじゃねぇ!あいつ、魔界に行くのかって!」
「魔界正規軍?勧誘の話はあるみたいだけど、実際どうなんだか……」
 ユタは首を傾げた。
「けっ、そうか……」
「キノ、もしかして、キミの所にも……?」
 ユタは意外そうな顔をした。
「なりふり構っていられねぇって話だ。オレは獄卒の仕事が忙しいって断ったけどな」
 すると江蓮がジト目でキノを見た。
「なーにがだよ。『正規軍として従軍したら、除隊後は無条件で獄卒に復帰させる』という条件突き付けられたんだろーが」
「えっ、そうなの!?」
「え、江蓮!余計なこと言うんじゃねぇ!」
「地獄界を牛耳る鬼族が、魔界の干渉を受けるのか?」
 マリアも訝し気な顔をした。
「だから、そんな話信じられねーから、断ったんだっつの!」
「もちろん除隊の条件は、『普通除隊以上』だそうだ。普通除隊以上って何?魔道師さんなら知ってる?」
 江蓮が珍しくマリアに面と向かって聞く。
「ああ。要はアメリカ軍と同じ。上から順に名誉除隊、普通除隊、非名誉除隊、不行跡除隊、不名誉除隊の5つがある。魔界正規軍の良い辞め方は、最初の2つ。あとの3つは言葉からイメージできると思うが、あまり良くない。特に不名誉除隊なんて、重大な軍紀違反をしでかして軍法会議に掛けられた上、投獄された者に課せられるものだ。魔界で生きて行けなくなるとも言われている。名誉除隊は軍人としての勤務成績が概ね良好で、軍法会議の対象にならなかった場合、退役時に名誉除隊証書が交付される。3年以上の軍歴を有する名誉除隊者には「善行章」も授与される。これに該当する者は、退役後も魔界で様々な恩恵を受けられる。恐らく、『無条件で獄卒に復帰』というのも、そこから来ているんだと思う」
「すると、普通除隊というのは、そこまでではなくても、一応満期で兵役を務め上げた人ということですかね?」
「そんなところだ」
 ユタの質問にマリアは大きく頷いた。
「威吹なんてオレから言わせてみりゃ、兵役逃れの為に海外逃亡しているようなもんだぜ」
「オメーも人のこと言えねーだろ」
 江蓮が突っ込んだ。

[同日17:30.大宮駅西口行き送迎バス車内 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ、マリア]

「はい、発車しまーす」
 マイクロバスにはエアブレーキやエアサスペンションが搭載されていないせいか、自動ドアも空気圧ではなく、電動で開閉する。
「だいぶ、外は暗くなりましたねー」
「もう秋だ」
 車内にはオレンジ色の明かりが灯っているが、路線バスの照明同様、そんなに明るいものではない。
「マリアさん達は、いつ頃出発するんですか?」
 2人席に座るユタとマリア。
 ユタは隣にちょこんと座るマリアに話し掛けた。
「ユウタ君の家からにしたい。師匠の魔法なら、ほんの一瞬だ」
「“ルーラ”ですね」
「ルーラ?」
「とある有名RPGで、瞬間移動の魔法の名前です」
「そんなのがあるのか。魔法に名前……」
 マリアは首を傾げた。
「魔法に名前が無い?」
「名前なんて……付けませんよね、師匠?」
「クカー……」
 イリーナは1人席に腰掛け、寝ていた。
「またか……」
「相変わらず寝落ち早い人だなぁ……」
「多分、詠唱の最後に3文字前後の言葉を放つから、それが便宜上、『魔法の名前』になったんじゃないか」
「そうですか。(唱題とは違うな)」
 と、思う。
 マリアはユタから目を放し、目を進行方向に向けてボソッと言った。
「魔道師になれば……勤行はやらなくて済む……」
「はい?」

[同日18:00.さいたま市大宮区仲町(南銀座)の居酒屋 上記メンバー]

「はい、カンパーイ!」
「いいのか?酔っぱらって魔法使えなくなるんじゃないか?」
 威吹はニヤッと笑った。
「だーいじょーぶだって。何百年魔道師やってるって思ってんの」
「1000年だろ。さり気なく歳サバ読むな」
 威吹がすかさず突っ込んだ。
「本当に大丈夫かよ……」
「先生、どうぞ」
 カンジが威吹に酒を注ぐ。
「ああ、すまん」
「温泉で会った鬼と女子高生は帰ったのか?」
 マリアの質問にユタが答えた。
「ええ。僕達より1本前のバスで帰ったらしいです」
「まあ、17歳の“獲物”が一緒ですから、ここにはいないでしょう」
 カンジはユタに同調するように頷いた。

[同日20:00.JR大宮駅東口タクシー乗り場 上記メンバー]

「うぃー……すまないねぇ……」
「絶対こうなると思った!」
 千鳥足のイリーナ。
 それを支えるユタと威吹。
「5人はタクシーに乗れませんから、分けて乗りましょう」
「威吹、悪いけど、イリーナさんを家までは運んできてくれない?」
「ユタがそう言うのなら……」
「師匠、タクシー代くらい下さいよ。あなたが酔い潰れたせいなんだから」
 マリアは師匠にたかった。
「1万もあれば足りるかねぇ……」
「いえ、1000円でいいです。逆に、お釣り無いって断られそうなんで」
「師匠、先に行ってください。私達は後の車で行きます」
「そうかい。ちゃんとついてきなよ」
「もちろんです」
 というわけで、ユタはマリアと後続車へ。
 ユタは運転手に行き先を告げた。
 すぐにタクシーは乗り場を発車した。
「マリアさん、どうして威吹達を先に行かせたんですか?」
「ユウタ君に言うのも何だけど、あいつらが師匠を途中で捨てて行かないかって警戒してる」
「はは、まさか……」
「こうして、私達が後ろから監視すればそんなことはしないだろう」
「そりゃもう……」

[同日21:00.ユタの家 上記メンバー]

 家に着いた後、少し酔いを覚ましてから、イリーナは魔法の準備を始めた。
「魔法陣書かなきゃいけないんですね」
 ユタは庭先に書かれた魔法陣を見た。
「人んちの庭に落書きすんなよ」
 と、威吹。
「まあまあ」
「ごめんね。魔法使ったら、きれいさっぱり消えるから」
 酔い潰れかけていたイリーナだったが、今ではすっかり元に戻っている。
(これぞ、魔道師の不思議)
 と、ユタ。
 魔法の準備ができたようで、2人の魔道師は魔法陣の中に入った。
「それじゃ、ユウタ君。またいつでも遊びに来てね」
「こちらこそ、いつでも来てください」
「魔道師になる覚悟……決めてくれると嬉しいな」
「ユタを惑わすな」
「威吹君も、今後の進路を早く決めた方がいいわよ」
「黙れ!大きなお世話だ!」
 魔法陣に緑色の光が浮かび上がる。
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。……」
 修行の一環なのか、はたまたやっぱり酒の残量が多いのか、呪文の詠唱はマリアが行った。
「ラ・ウ・ル・ウラ!
 2人の魔道師は光に包まれ、姿を消した。
 そしてイリーナの言う通り、魔法陣は影も形も無くなっていた。
「全く。嵐のような魔道師共だ。ユタ、家の中に入ろう。だいぶ冷え込んで来た。せっかく温泉に入ったのに、風邪を引いては元も子もない」
 威吹はユタを促した。
 しかしユタは、
「“ルーラ”じゃん!」
 妖狐2人には訳の分からぬことを口走った。
「ユタ、唱題して魔道師達の誑惑を断ち切るんだ!」
 謗法たる稲荷信仰の手先、妖狐が仏法の唱題を勧めるほどに、魔法は危険なものだと察知したようである。

                                                     束の間ホリデー 終
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“ユタと愉快な仲間たち” 「束の間ホリデー」 2

2014-10-24 04:20:56 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月19日13:22.イオンモール与野バス停 稲生ユウタ、威吹邪甲、威波莞爾、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット]

「いやあ、いい買い物したねぇ……」
「『いい商売』の間違いだろ」
 イリーナの言葉に、威吹がツッコミを入れた。
「一応、荷物は大宮駅のコインロッカーに入れて、それから向かいましょうか」
「そうだね。よろしくね」
 そんなことを話しているうちに、バスがやってきた。

〔「大宮駅西口行きです」〕

 大宮駅西口行きは反対側のバス停からも出ている不思議。
 しかし、そちらは遠回りな上、本数も1時間に1本か2本しかない。
「まあ、こういう時、ノンステは楽ですね」
 キャリーバッグを乗せる時だ。
 もっとも、魔道師達のことだ。
 いつぞやの時みたいに、魔法で軽くするくらいのことはするだろう。

〔次は氷川神社前、氷川神社前。……このバスは、大宮駅西口行きです〕

「今日は鬼達と遭遇することは無かったな……」
 威吹は窓の外を見ながら呟いた。
「前に来た時とは大違いだ」
「きっと、栗原女史について歩き回っているのでしょう」
 師匠の呟きに、弟子のカンジが答える。
「おおかた、実家に呼出し食らってたりしてな」
「それも有り得ます」
 カンジは大きく頷いた。
 一方、その隣では……。
「少し混んでいますが、しばらくの御辛抱です」
 ユタが魔道師達に言った。
「いいのよ」
 長身のイリーナは吊り革どころかそれを吊るしているバーを掴んでいるが、マリアは……。
「マリア、良かったらユウタ君に支えてもらったら?」
「いやっ、私は……」
 慌てるマリアだった。
 と、その時!
「!!!」
 バスが突然、急ブレーキ。
 ユタの胸にマリアが飛び込んでくる。

〔「対向車の急な右折により、急停車しました。大変失礼しました」〕

「も、申し訳無い……」
「い、いえっ……!」
 ユタとマリアはお互いに顔を赤くした。
 転倒者の無しを確認した後、バスは再び歩を進めた。

[同日13:45→14:00.JR大宮駅西口 上記メンバー]

 最近のコインロッカーはSuicaやPasmoが使える。
 ただ単に料金の支払いだけでなく、それらICカードに登録された識別情報でロックやその解除を行うことでキーレスを可能にしている。
 無論、現金での利用も可能で、その場合は発行されたレシートに記載されている暗証番号を入力する必要がある。
「じゃあ、この暗証番号はマリアの人形達に任せておくわ」
「はい」
「……おい、ミク人形のヤツ、紙を食ってるぞ。いいのか?」
 ムシャムシャとレシートを食べているミク人形に突っ込む威吹だった。

 それから駅舎の外に出て、バスプールの外にも出る。
「あのバスですね」
 路上に日帰り温泉施設に向かう送迎用のマイクロバスが停車していた。
「お願いします」
「はい、どうぞ」
 バスに乗り込むと、後ろの席の方に腰掛けた。
「師匠、寝ないでくださいね」
「どうだかねぇ……。寝ちゃいそうだねぇ……」
「その時は『流血の惨を見る事、必至』ということで、いかがかな?」
「先生の御意向に従います」
「物騒な妖狐さん達だねぃ……」
「冗談で言ってるんですよ」
 マリアと2人席に座っているユタは、後ろのやり取りを見て苦笑した。

「はい、発車しまーす」
 バスは定刻通り、西口前を発車した。

[同日14:15.さいたま市大宮区三橋 湯快爽快 上記メンバー]

「では、ここでお別れだな!」
 現地に到着する。
 券売機で券を買って入場すると、威吹は俄然強気な態度だ。
「混浴露天風呂でもあるといいのにねぇ……」
「アホか!ユタ、行こう」
「う、うん」
「稲生さん、こっちです」
 ユタは2人の妖狐に前後を挟まれて、男湯に入っていった。
「まあ、しゃーない。富士宮でもゆっくりしたことだし、ここでもゆっくりしましょう」
 イリーナはユタを連れて行った妖狐達に不快そうな顔をしているマリアの方をポンポン叩いた。

「んっ!?」
 男湯側の脱衣所でスマソ。
 そこで妖狐達は、ある気配に気づいた。
 日蓮正宗にて正しい仏法に縁したことで、無駄に強かった霊力が抑えられているユタも、それは察知することができた。
「先生、どうやら件の鬼も来ているようです」
「そのようだな」
「キノがここに?珍しいなぁ……。ん?ってことは、栗原さんも一緒?」
「可能性はあるな。……というか、それ以外考えられん」
「同感です」
 そんなことを話していると、赤銅色の肌をしたキノが浴場から出て来た。
「ああっ!?巫女に封印された妖狐の威吹が何でここにいんだ?」
「いちいち枕詞付けんじゃねぇ」
 お互い舌打ちしながら睨み合う。
 ユタは溜め息つきながら、服を脱ぎ始めた。
「カンジ君、放っといて先に入ろう」
「は?はあ……。ですが……」
「いいんだよ。あの2人、楽しんでやってるんだから」

[同日同時刻。同場所・お待ちかね女湯 イリーナ、マリア、栗原江蓮]

「あら?あなたは……」
「んん?奇遇っスね」
 脱衣所で服を脱いでいると、浴場から江蓮が出てきた。
「珍しいわね。御家族で来てるの?」
「いや、何か知らないんスけど、キノがこういうの好きみたいで、無理やり誘われたんスよ」
「下心あり、か……。それにしても……」
 マリアは江蓮の体つきを見た。
(私より年下なのに……!)
 まあ、発育の良さは江蓮の方が上だったようで……。

[同日14:40.男湯・洗い場 ユタ、威吹、カンジ]

「ったく、あいつめ……」
 威吹がボヤきながら、ユタの隣に座った。
「睨み合いは終わった?もう少し掛かると思ってたけど……」
「先生、最後はあいつ、何と?」
「『いいか?オレと江蓮の邪魔すんじゃねーぞ?分かったな?絶対だぞ!』だそうだ。誰も邪魔せんというに……」
 威吹は呆れて、シャンプーを始めた。
「キノも結構、真っ直ぐな性格ではあるけどね。威吹はよく変化球投げるけど……」
「それは褒め言葉でいいんだよね?」

 威吹に限ったことではないが、髪の長い者はシャンプーの後、髪をバサバサやることが多い。
「髪が長いと、洗うの大変だな」
「ええ……」
 カンジは人間形態だと短髪(スポーツ刈り)だが、妖狐の正体を現しても、肩の所までしか無い。
 これはここ最近の若い妖狐族の流行りなのだそうだ。

[同日同時刻。女湯・露天風呂 イリーナ&マリア]

「発育を気にしてるのかい?そんな瑣末なこと、気にすることないよー」
「そうでしょうか?」
「魔道師になると、体の老化が遅くなるのは知ってるね?」
「ええ」
 だからイリーナは、アラサー状態のまま何百年もその姿のままでいられるのだ。
「あなたは18で魔道師になった。18と言えばまだ体の成長は続いてるわけだけど、逆に若いうちに魔道師になるということは、体の成長も遅くなるってことよ。だから時間は掛かるけど、そのうち立派な大人の体型にるさー」
「はあ……」
「逆に……ユウタ君は、あなたが『お人形さんみたいでかわいい』なんて言ってくれたってことは、現時点でそのロリ体型は正解ってことよ」
「…………」
「だからね、ユウタ君には私の弟子、あなたの弟弟子になってもらって、近くで体の成長とか見てもらいたいよね」
「はい!」
 師匠の最後の言葉に、ようやくマリアが顔を明るくした。
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