報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「ロボット三原則」 2

2014-10-13 20:35:07 | アンドロイドマスターシリーズ
[現年月日不明 時刻不明 場所不明(何かの研究施設らしき場所) シンディ]

 目の前に負傷した科学者がいる。
 左腕からの出血がひどく、他の部位からの出血も相まって、着ている白衣は血に染まっていた。
 科学者は財団の人間ではない。
 むしろ、外国人だ。
 シンディに対し、信じられないといった顔で見据えている。
 当のシンディは、右手をライフルに変形させ、冷笑を浮かべていた。
「し、シンディ!お前、まさか私を撃つのか!?人間であるこの私を、ロボットであるお前が!え?ロボット工学三原則を言ってみろ!」
「ええ、もちろん知ってるわ。でもね、ここの研究所を潰すことで、大局的に見れば多くの人間の為になるのよ」
「ぎ、欺瞞だ!それは政府の欺瞞だ!シンディ、共産政権がいつまでも続くはずが無い!このままこの政治が……あぁっ!!」
 科学者の言葉は、最後まで発せられることはなかった。
 シンディの右腕から発射された銃弾が、頭に命中したからである。
「細かいことはどうでもいいのよ。さようなら。おバカさん達」
 シンディはそう言い放つと、研究施設の自爆装置の起動スイッチを押した。
 後にこの研究所でのことは、『実験中の事故』として、旧ソ連政府の圧力により、闇に葬られることになる。

[2014年10月11日07:00.東京・秋葉原 ホテル・ドーミーイン秋葉原の一客室 シンディ&エミリー]

「ん……?」
 タイマーが作動し、スリープ・モードが自動で解除される。
「シンディ。どうした?起きろ」
 同時に起動したエミリーは起き上がったが、そうしない妹を促した。
「ああ……。起動が正常じゃないみたい……」
「不具合か?」
「まあ……大丈夫か。ボディ自体は姉さんより真新しいのに、おかしいね」
 シンディは微笑を浮かべた。
「不具合が・あったら、すぐに・ドクターに・知らせろ」
「分かってるって」

 そして、いつものようにボカロ達とロボット三原則を唱和する。
 自分達を連れて来た人間の夫婦は、階下のレストランに朝食を取りに行った。
 三連休はボカロ達の稼ぎ時である。
 しかし台風19号の接近により、13日は参加予定のイベントが軒並み中止が見込まれた。
 実際どうするかは、敷島に任せることになる。
「シンディ、大丈夫か?起動の方は」
 部屋に戻って、エミリーが心配そうな顔で聞いて来た。
「ええ。大丈夫よ。……一応、メモリーだけ見てもらおうかな」
「メモリーに・不具合が?」
「いや、分かんないけど、ちょっとね……。前期型だった頃のメモリーが、スリープ状態なのに出てきちゃって……」
 見た目には、前期型も後期型も変わらない。
 あくまで前期型の耐用年数が来た時の為に、交換用として用意されたのが後期型なだけだ。
「ねえ、姉さん」
「何だ?」
「ロボット工学三原則って、何か矛盾してると思わない?」
「何故だ?」
「アタシ達って、昔はそんなのクソ食らえだったわけじゃない?」
「昔の・話だ。今は・違う。絶対に・人間に・手を上げては・いけない」
「解釈の変更だけで、こんなにも変わるものなのね。やっぱりちょっとおかしいわ。まるで日本国憲法みたい」
「おかしくても・命令は・命令だ」
「姉さん、もし財団が道を誤って、アタシ達に旧ソ連政府のような命令を出して来たら従う?」
 するとエミリーは眉を潜めた。
「シンディ、お前、何を・考えている?」
「難しいことは何も。ただ、前にも言ったでしょ?私はもう2度と後悔したくないだけ」
「…………」

[同日同時刻 東京都墨田区菊川 とある賃貸マンションの一室 十条伝助&キール・ブルー]

「タチアナ、わしはもう……後悔は……」
「博士、博士。お時間ですよ」
 キールが寝ている十条を起こした。
「んお……?もう朝かね?」
「はい。何か、夢でもご覧になってましたか?」
「おおっ、わしは寝言を言っておったのかね」
「ロシア人女性の名前を仰ってましたが……」
「ふふ、そうか……。参ったな」
 十条は照れ笑いを浮かべてベッドから起き上がった。
「朝食の御用意が出来上がっております」
「うむうむ。食事が終わったら、財団本部に行くぞ」
「かしこまりました」

[同日09:00.東京都新宿区西新宿 財団本部 アリス・シキシマ&シンディ]

「メモリーに不具合があるかもですって?」
 シンディの申し出に、白衣に着替えたアリスは目を丸くした。
「大したことはないと思うんですが、一応念のため、点検して頂けないかと」
「もう実験は終わったからいいわ。研究室に入って」
「よろしくお願いします」
 因みにエミリーは、他の研究者から別の実験を受けている。
「で、自覚症状はどんな感じ?」
「多分、前期型の時のメモリーだと思うんですけど……」
 シンディが症状らしき内容を話すと、アリスは首を傾げた。
「おかしいわね。あなたの前期型のメモリーで、旧ソ連政府時代のミッションの物は全部消去したはずだけど……。まだ残ってたのかしら?」
 このままだと、現ロシア政府との協定を破ることになる。
 あくまで旧ソ連時代のメモリーは全て消去した上、日本政府には引き渡さないという条件での譲渡だ。
「ロボット工学三原則で検索すれば、出て来ると思います」
「分かったわ」
 アリスはシンディの頭部、両耳(といっても、ボーカロイドと同じくヘッドホン型をしている)にケーブルを繋いだ。
「……ああ、これね。……うわ、エグっ……!」
「昔はこれが当たり前でしたから。そうしろという命令だったんです」
「まあ、今はダメよ」
「ええ」
「じゃあ、消去するからね。もうこんなエグいことは忘れて」
 シンディのメモリーから、冒頭のものが消去された。
「他にも消去忘れが無いか、確認するからね」
「はい」
 そして、驚きの新事実が明らかになる。
「う……そ?何でこんなに残ってるの?ええっ?この私が、こんなに忘れるなんて……」
 旧ソ連時代、シンディが政府命令で行ってきた残虐非道の数々が出て来た。
 中にはエミリーなど、他の兄弟とタッグを組んで、白系ロシア人の村を1つ壊滅させたメモリーまであった。
 因みに白系と聞いて、つい白人を思い浮かべるかもしれないが、ロシア人が白人なのは当たり前。
 共産系に与していない、つまり共産主義のシンボルカラーである赤色ではないという意味。
 アリスはとにかく、それに関するメモリーを片っ端から消去していった。
「アリス博士。1つ、疑問に思ったことがあるんです」
「なに?」
「いつも朝、唱和するロボット工学三原則ですが、私には矛盾しているような気がするのです。ちょっと解釈の変更だけで、都合良く人間を傷つけることができてしまいます。それでは意味が無いかと」
「それは私も同意見だわ。今度の会議で提案してみるわね」
「アリス君の立場では、通る意見も通らんな」
「十条博士!」
 そこへ、十条とキールが入ってきた。
「悪かったわね、立場が悪くて」
「まあ、ウィリーの孫娘とあらば仕方が無いじゃろう。しかしこれでも、お前さんの立場は意外なほど良いのじゃぞ?」
「はいはい。じー様の御学友様のおかげね」
「言ってくれるな。ウィリーは道さえ誤らなければ、数々の賞を受けれるほどの実力派じゃったのじゃぞ?その彼が後継者として育てたお前さんには、それなりの期待が掛かるというもの」
「まあね。で、十条理事もロボット工学三原則は矛盾があるってこと?」
「あれには第0条があることは知ってるか?」
「第0条?」
 シンディは目を丸くした。
「ああ……」
 アリスは知っているのか、少しウェーブの掛かった金髪に右手をやって頭をかいた。
「第1条と大して変わんないから別にいいかなって思ってたんだけど?」
「まあ、簡単に言えばある文言が変わっただけじゃがな」
「何が違うの?」
 シンディは首を傾げた。
「第1条の、『人間』を『全ての人類に対し』と置き換えたものじゃ。そうすることにより、お前が旧ソ連時代に、多くの人間を殺すこととなった曲解を封じる狙いがある。どうじゃ?『全ての人類に対し、これを傷つけてはならない』となったら、お前も手が出せんじゃろう?」
「そうねぇ……」
 第1条は、例えば100人の人間の為に1人の人間を犠牲にすることは仕方が無いという解釈ができる……らしい。
 しかし、第0条はそのような例外を許さない内容になっている。
「第0条を正式な新1条として、アンドロイド倫理憲章に挙げようという動きが理事会の中にある」
「それは素晴らしいことね」
 アリスは大きく頷いた。

[同日同時刻 東京都内某所 敷島孝夫、初音ミク、鏡音リン・レン]

「まあ、簡単に言えばロボット三原則ってのは、家電に置き換えることもできるんだ」
 イベント現場に向かう敷島達。
 敷島はレンタカーのハンドルを握りながら、同乗しているボカロ達に言った。
「家電?」
「そう。第1条は人間にとって安全に、第2条は操作性が容易に、第3条は壊れにくいという意味だ。難しく考える必要は無いよ。特に、お前達はな」
「そうですか」
「その原則を都合のいいように運用していた、エミリー達の方が考える必要があるってことさ」
 エミリー達も原則は守っていたのだ。
 但し、当時の政府にとって都合の良い運用をしたら、何故か多くの犠牲者が出たという話だ。
「このまま行けば、13日は完全に仕事が無くなる恐れがある。今日と明日で稼ぎまくるぞ!」
「おーっ!(×3)」

 台風は確実に、首都圏に近づいている。
 そして、敷島達の元へも……。
コメント (2)
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