報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「マルチタイプ二重奏」

2014-10-07 20:38:00 | アンドロイドマスターシリーズ
[10月7日14:00.宮城県仙台市泉区 アリスの研究所 敷島孝夫&シンディ]

 敷島のPCには色々な情報が搭載されているわけだが、その中にマルチタイプの情報も入っている。
「うーむ……」
 敷島が見つめるモニタの中には、こういった表があった。

 1号機:エミリー(鍵)
 2号機:ナンシー(打)
 3号機:シンディ(木管)
 4号機:パウエル(弦)
 5号機:キール(金管)
 6号機:アーノルド(指揮)
 7号機:レイチェル(歌)

 これはシンディのメモリーの中から見つけたものだ。
 これでマルチタイプが7機あるというのが分かった。
 名前の横にあるのは、それぞれが対応できる楽器。
 派生型の今稼働しているキールは金管楽器ではなく、弦楽器に取って変えられている。
「なあ、シンディ。この7号機のレイチェルの『歌』って何だ?」
「ああ。私達が演奏して、レイチェルが歌うんだけど、物凄く音痴だからダメだったね」
「音痴?」
「ええ。ここのボカロ達の方が全然上手いよ」
「そりゃ、その為のボーカロイドだからな。音痴ってどのくらいだ?ジャイアン並み?」
「周りの人間の脳幹が停止するくらいよ」
「……そりゃ欠陥じゃなく、そういう仕様だったんじゃないのか」
 敷島は変な顔をした。
「ま、とにかく、お前達が二重奏するだけで俺達が昏睡するくらいだからな」
「うん」
「こりゃ、危険な実験になりそうだ……」
「派生機のキールも呼ぶんでしょう?エミリーに画像を見せてもらったけど、全然似てないわね」
「そうだとも。キールにはバイオリンを弾かせる」
「無難にボカロ曲の方がいいみたいね」
「クラシックもやるみたいだ。俺ゃ知らねーぞ。俺はミク達に付いて行くから」

 ピンッ!(腰の横からロープを出すシンディ)

「だから、そのロープは何なんだ?」
「アリス博士から、首に縄着けてでも連れて来るように言われてるの」
「何だそれ!」
「とにかく、この中で元気に稼働してるの、私とエミリーだけみたいだから」
「そのようだな」
 爆破解体された機が殆どのようだ。

[同日17:00.アリスの研究所・屋上 シンディ]

 屋上で夕闇迫るニュータウンに向かって、フルートを吹くシンディ。
 エミリーがピアノを独奏しても大丈夫なように、シンディもフルートの独奏程度なら影響は無いらしい。
「時報代わりだな」
 敷島は事務室でお茶を啜りながらそう思った。
「……蒼い鳥~♪もし幸せ~♪近くにあっても~♪……」
 知っている歌なのか、ライブハウスに行く準備をしているルカがフルートの音色に合わせて歌う。
「これがマルチタイプ全員にやらせたら、聴いた人間が全員死亡なんて恐ろし過ぎるよ」
 そう思う敷島だった。
 そこへ電話が掛かって来る。
「はい、アリスの研究所です。……おっ、十条先生。どうも、しばらくです」
{「今度の実験のことなんじゃが、本部から行きの足のチケットは届いたかね?」}
「高速バスのチケットなら、明日届くと思いますよ」
{「バカにしてもらっては困る。大事な優秀機揃いじゃぞ。輸送費をケチッてはならん」}
「ヤマトか佐川ですか?」
{「曲がりなりにも人間の形をして、人間と同じ動き、思考をするのじゃから、人間と同じ乗り物に乗せて何の支障がある?」}
「冗談ですよ」
{「本部まで御足労願うのじゃから、ちゃんとした乗り物を用意したわい。あとは稼ぎ手のボーカロイドじゃな」}
「はい」
{「キミも不安がっていると思うが、マルチタイプの知られざる性能を知る為じゃ」}
「十条先生はご存知だったんでしょう?彼女らの協演が死を招くと……」
{「まあな。じゃが、わしだけ知っていてもしょうがない。他の理事達にも知ってもらういいチャンスじゃわい」}
「ボーカロイドに歌わせるわけにも行きませんからね」
{「まあ、とにかく、キミはキミで、キミの仕事をしているといい」}
「いいんですか?」
{「アリス君にはワシから言っておくよ」}
「ありがとうございます。シンディはどうします?」
{「わしはかつて、そのマルチタイプの開発チームにいた者じゃ。心配いらん」}
「よろしくお願いします」
 敷島は電話を切ってホッとしたのだった。

 この時、シンディはあの“アヴェ・マリア”を吹いていた。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「魔道師の見た夢」

2014-10-07 15:58:01 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月26日15:00.東京都区内某所 ユタの通う大学 稲生ユウタ]

 ユタは講義が終わって、大学の廊下に出ると持っていたスマホを出した。
 着信があって、見ると相手はマリアになっていたからだ。
「もしもし、マリアさん?すいませんね、今大学にいて……」
 と言うと、
{「大学?そうか……。それは良かった……」}
 と、何故か心底ホッとしたような感じの声がした。
「どうか、したんですか?」
{「明日も大学か?」}
「そうです」
{「分かった」}
「どうしたんですか?」
{「ユウタ君、絶対に明日は長野県の山には登るな。もしユウタ君の中で死んで欲しくない人がその山に登ろうとするなら、何が何でも全力で止めるんだ」}
「な、何かあるんですか?」
{「魔道師の掟で、それ以上は喋れない。明日になれば分かる」}
「は、はあ……」
 ユタは電話を切った。
(何だろう?マリアさんかイリーナさんが予知夢でも見たんだろうか……)
 ここ最近、ユタ自身が予知夢を見ることはない。
 その時、ユタはあるポスターを見た。
 それは大学の登山部が、正に今日出発して長野県の山を登るというものだった。
 登山部に知り合いはいないが……。

[9月27日12:00.ユタの大学・学生食堂 ユタと友人数名]

「それでさ、今度のバイト先の店長が、どうもケンショーみたいで……」
「じゃあ今度、僕が折伏しに行ってみるよ」
「さすがイノっち」
 その時、食堂内にあるテレビから速報テロップが流れた。
『長野県と岐阜県の県境にある御嶽山で水蒸気爆発発生』
「……!?」

 そして時間が経つ事に、事態が悪化していく。
 食堂のテレビでワイドショーを見ていたが、それが御嶽山噴火一色に変わっていった。
「大変だ!うちの登山部がそこに登っているらしい!」
「!」
 ユタは血の気が引いた。
(マリアさんの言ってたことは、これだったんだ……!)

[10月5日10:00.東京都区内某所 日蓮正宗・東京第3布教区・正証寺 ユタ、藤谷春人、栗原江蓮]

「へえ……。あの魔道師さん、火山の噴火なんか予知したんだ。さすがだね」
 江蓮は感心したように言った。
「でも、冷たいね。もう少し詳しく話してくれたら良かったのにね」
「きっと、詳しい話をすると、却って混乱を招くからだろう」
 と、藤谷。
「予知したところで、周囲から笑われるというのもあるしな」
「僕は笑ったりしませんよ」
「稲生君じゃなくて、稲生君からそういった情報をもらった人達がね」
 江蓮が自分のスマホを取り出して言う。
「ネットや何かじゃ、顕正会員が『これは罰だ。その証拠に、山頂の神社付近に犠牲者が集中しているではないか』なんて書いてるみたいだね」
「くだらん、ナンセンス!神社があろうが無かろうが、山頂から噴火したんじゃ、その付近で被害が集中するのは当たり前だよ」
 藤谷は肩を竦めた。
「顕正会の会館よりは被害は小さくて済んだだろう」
「いやいや、藤谷さん。そもそも、顕正会の会館が火山の噴火口近くに会館なんて建てないって」
 江蓮が呆れたように言った。
「ん?それもそうだな……」
「浅井会長より、よく当たる予知だな。よし」
 藤谷はジャケットのポケットから、ある物を出した。
 それはマークシート。
「今度、銀座までステークス買いに行くんだが、どの馬が当たるか予想してもらえないか?」
「イリーナさん達は予知夢を見る方式なんで、今から馬の予想なんかしませんよ」
「ちっ、くそっ……」
「それに藤谷さん、地区長から競馬禁止令が出てるんじゃ?」
「シーッ!あくまで、銀座場外に出入りしている顕正会員に街折するだけだっ!」
「サトーさんしかいないでしょ!」

(※あくまでフィクションです。日曜日という戦闘日に競馬をしている顕正会員なんていない……はず。もしいたら折伏ではなく、所属組織に通報してやる方がよっぽど効果的だと思います。私は“慧妙”のアポ無し折伏隊ではありません)

[同日13:30.JR池袋駅・埼京線ホーム ユタ&威吹邪甲]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の4番線の電車は、13時30分発、快速、川越行きです。次は、板橋に止まります〕

 ユタと威吹が電車を待っていると、電話が掛かって来た。
「おっ、またマリアさんだ」
 ユタが電話に出た。
{「あっ、もっしー!ゴメンねー。マリアじゃなくて」}
「イリーナさん、どうしたんですか?」
{「マリアの予言、信じてくれたんだね。ありがとう」}
「信じるも何も、御嶽山に行く予定すら無かったですから。今度は何を予言なさるおつもりですか?」
{「うん。今度のステークスなんだけど、三連単が……」}
「それはうちの藤谷班長に直接言ってくれませんか」

〔まもなく4番線に、快速、川越行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、板橋に止まります〕

「ユタ、もうすぐ電車来るよ」
「……すいません、もうすぐ電車来るんで。また後で……はい、すいません」

 パァァァァン!(E233系電子警笛の音)

〔いけぶくろ~、池袋~。ご乗車、ありがとうございます。次は、板橋に止まります〕

 池袋の語源については、諸説あるようだ。
 この町に縁が無かった威吹も知らない。
 新宿のように新しい宿場町という意味でも無ければ、上野のように人の名字から付けられたわけでもない。

〔「快速の川越行きです。赤羽までの各駅と戸田公園、武蔵浦和、与野本町、大宮、大宮から先の各駅に止まります。停車駅にご注意ください」〕

「一応、イリーナさんの情報を藤谷班長に送信してあげよう」
 ユタはスマホを手に取ると、藤谷にメール送信した。
「あいつ、禁を犯してまで競馬か……」
 威吹は呆れた。

〔4番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 ガタッ……ピンポーンピンポーンピンポーン♪……バン。(首都圏JR新型電車のドアの閉まる音は、だいたい皆こんな感じ)

「藤谷班長、喜んでるなぁ」
「それはそれは。他人の予想など、ボクにとっては当てにならないと思うね」

 因みにそのレース予想は、最終レースのものだったらしい。
 藤谷はサトーと一緒に泡吹いたそうな……。
「今月の3連休はマリアさんの家に行くぞ。幸い、“ムーンライト信州”のキップも取れたし」
「駅に迎えを寄越すって話だが、ヤツの人形が来るってことか?」
「さあねぇ……」
「人形だけ寄越されても困るね」
「まあまあ」
 
コメント (14)
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