[10月7日14:00.宮城県仙台市泉区 アリスの研究所 敷島孝夫&シンディ]
敷島のPCには色々な情報が搭載されているわけだが、その中にマルチタイプの情報も入っている。
「うーむ……」
敷島が見つめるモニタの中には、こういった表があった。
1号機:エミリー(鍵)
2号機:ナンシー(打)
3号機:シンディ(木管)
4号機:パウエル(弦)
5号機:キール(金管)
6号機:アーノルド(指揮)
7号機:レイチェル(歌)
これはシンディのメモリーの中から見つけたものだ。
これでマルチタイプが7機あるというのが分かった。
名前の横にあるのは、それぞれが対応できる楽器。
派生型の今稼働しているキールは金管楽器ではなく、弦楽器に取って変えられている。
「なあ、シンディ。この7号機のレイチェルの『歌』って何だ?」
「ああ。私達が演奏して、レイチェルが歌うんだけど、物凄く音痴だからダメだったね」
「音痴?」
「ええ。ここのボカロ達の方が全然上手いよ」
「そりゃ、その為のボーカロイドだからな。音痴ってどのくらいだ?ジャイアン並み?」
「周りの人間の脳幹が停止するくらいよ」
「……そりゃ欠陥じゃなく、そういう仕様だったんじゃないのか」
敷島は変な顔をした。
「ま、とにかく、お前達が二重奏するだけで俺達が昏睡するくらいだからな」
「うん」
「こりゃ、危険な実験になりそうだ……」
「派生機のキールも呼ぶんでしょう?エミリーに画像を見せてもらったけど、全然似てないわね」
「そうだとも。キールにはバイオリンを弾かせる」
「無難にボカロ曲の方がいいみたいね」
「クラシックもやるみたいだ。俺ゃ知らねーぞ。俺はミク達に付いて行くから」
ピンッ!(腰の横からロープを出すシンディ)
「だから、そのロープは何なんだ?」
「アリス博士から、首に縄着けてでも連れて来るように言われてるの」
「何だそれ!」
「とにかく、この中で元気に稼働してるの、私とエミリーだけみたいだから」
「そのようだな」
爆破解体された機が殆どのようだ。
[同日17:00.アリスの研究所・屋上 シンディ]
屋上で夕闇迫るニュータウンに向かって、フルートを吹くシンディ。
エミリーがピアノを独奏しても大丈夫なように、シンディもフルートの独奏程度なら影響は無いらしい。
「時報代わりだな」
敷島は事務室でお茶を啜りながらそう思った。
「……蒼い鳥~♪もし幸せ~♪近くにあっても~♪……」
知っている歌なのか、ライブハウスに行く準備をしているルカがフルートの音色に合わせて歌う。
「これがマルチタイプ全員にやらせたら、聴いた人間が全員死亡なんて恐ろし過ぎるよ」
そう思う敷島だった。
そこへ電話が掛かって来る。
「はい、アリスの研究所です。……おっ、十条先生。どうも、しばらくです」
{「今度の実験のことなんじゃが、本部から行きの足のチケットは届いたかね?」}
「高速バスのチケットなら、明日届くと思いますよ」
{「バカにしてもらっては困る。大事な優秀機揃いじゃぞ。輸送費をケチッてはならん」}
「ヤマトか佐川ですか?」
{「曲がりなりにも人間の形をして、人間と同じ動き、思考をするのじゃから、人間と同じ乗り物に乗せて何の支障がある?」}
「冗談ですよ」
{「本部まで御足労願うのじゃから、ちゃんとした乗り物を用意したわい。あとは稼ぎ手のボーカロイドじゃな」}
「はい」
{「キミも不安がっていると思うが、マルチタイプの知られざる性能を知る為じゃ」}
「十条先生はご存知だったんでしょう?彼女らの協演が死を招くと……」
{「まあな。じゃが、わしだけ知っていてもしょうがない。他の理事達にも知ってもらういいチャンスじゃわい」}
「ボーカロイドに歌わせるわけにも行きませんからね」
{「まあ、とにかく、キミはキミで、キミの仕事をしているといい」}
「いいんですか?」
{「アリス君にはワシから言っておくよ」}
「ありがとうございます。シンディはどうします?」
{「わしはかつて、そのマルチタイプの開発チームにいた者じゃ。心配いらん」}
「よろしくお願いします」
敷島は電話を切ってホッとしたのだった。
この時、シンディはあの“アヴェ・マリア”を吹いていた。
敷島のPCには色々な情報が搭載されているわけだが、その中にマルチタイプの情報も入っている。
「うーむ……」
敷島が見つめるモニタの中には、こういった表があった。
1号機:エミリー(鍵)
2号機:ナンシー(打)
3号機:シンディ(木管)
4号機:パウエル(弦)
5号機:キール(金管)
6号機:アーノルド(指揮)
7号機:レイチェル(歌)
これはシンディのメモリーの中から見つけたものだ。
これでマルチタイプが7機あるというのが分かった。
名前の横にあるのは、それぞれが対応できる楽器。
派生型の今稼働しているキールは金管楽器ではなく、弦楽器に取って変えられている。
「なあ、シンディ。この7号機のレイチェルの『歌』って何だ?」
「ああ。私達が演奏して、レイチェルが歌うんだけど、物凄く音痴だからダメだったね」
「音痴?」
「ええ。ここのボカロ達の方が全然上手いよ」
「そりゃ、その為のボーカロイドだからな。音痴ってどのくらいだ?ジャイアン並み?」
「周りの人間の脳幹が停止するくらいよ」
「……そりゃ欠陥じゃなく、そういう仕様だったんじゃないのか」
敷島は変な顔をした。
「ま、とにかく、お前達が二重奏するだけで俺達が昏睡するくらいだからな」
「うん」
「こりゃ、危険な実験になりそうだ……」
「派生機のキールも呼ぶんでしょう?エミリーに画像を見せてもらったけど、全然似てないわね」
「そうだとも。キールにはバイオリンを弾かせる」
「無難にボカロ曲の方がいいみたいね」
「クラシックもやるみたいだ。俺ゃ知らねーぞ。俺はミク達に付いて行くから」
ピンッ!(腰の横からロープを出すシンディ)
「だから、そのロープは何なんだ?」
「アリス博士から、首に縄着けてでも連れて来るように言われてるの」
「何だそれ!」
「とにかく、この中で元気に稼働してるの、私とエミリーだけみたいだから」
「そのようだな」
爆破解体された機が殆どのようだ。
[同日17:00.アリスの研究所・屋上 シンディ]
屋上で夕闇迫るニュータウンに向かって、フルートを吹くシンディ。
エミリーがピアノを独奏しても大丈夫なように、シンディもフルートの独奏程度なら影響は無いらしい。
「時報代わりだな」
敷島は事務室でお茶を啜りながらそう思った。
「……蒼い鳥~♪もし幸せ~♪近くにあっても~♪……」
知っている歌なのか、ライブハウスに行く準備をしているルカがフルートの音色に合わせて歌う。
「これがマルチタイプ全員にやらせたら、聴いた人間が全員死亡なんて恐ろし過ぎるよ」
そう思う敷島だった。
そこへ電話が掛かって来る。
「はい、アリスの研究所です。……おっ、十条先生。どうも、しばらくです」
{「今度の実験のことなんじゃが、本部から行きの足のチケットは届いたかね?」}
「高速バスのチケットなら、明日届くと思いますよ」
{「バカにしてもらっては困る。大事な優秀機揃いじゃぞ。輸送費をケチッてはならん」}
「ヤマトか佐川ですか?」
{「曲がりなりにも人間の形をして、人間と同じ動き、思考をするのじゃから、人間と同じ乗り物に乗せて何の支障がある?」}
「冗談ですよ」
{「本部まで御足労願うのじゃから、ちゃんとした乗り物を用意したわい。あとは稼ぎ手のボーカロイドじゃな」}
「はい」
{「キミも不安がっていると思うが、マルチタイプの知られざる性能を知る為じゃ」}
「十条先生はご存知だったんでしょう?彼女らの協演が死を招くと……」
{「まあな。じゃが、わしだけ知っていてもしょうがない。他の理事達にも知ってもらういいチャンスじゃわい」}
「ボーカロイドに歌わせるわけにも行きませんからね」
{「まあ、とにかく、キミはキミで、キミの仕事をしているといい」}
「いいんですか?」
{「アリス君にはワシから言っておくよ」}
「ありがとうございます。シンディはどうします?」
{「わしはかつて、そのマルチタイプの開発チームにいた者じゃ。心配いらん」}
「よろしくお願いします」
敷島は電話を切ってホッとしたのだった。
この時、シンディはあの“アヴェ・マリア”を吹いていた。