千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

『アバウト・ア・ボーイ』

2011-12-31 15:45:36 | Movie
今年も年末年始の恒例行事、帰省ラッシュがはじまった。
行くのも帰るのも、待っている家族がいることが、当たり前のように思っていたが、3月の震災を経て、一年に一度、離散?した家族が集まることはとても大事な時間だということに改めて思いをはせる。

ところが、そんな家族をつくることを拒否する男がいた。ノース・ロンドンに住む38歳のウィル(ヒュー・グラント)にとって、人生はシンプルなもの。クリスマス・ソングを一発当てた父親の遺産で、一度も働いたこともないのに、高級車を乗り回し、ビリヤードを楽しみ、クイズ番組で余暇を過ごし、悩むことと言えば、その日に聴くCD選びと、あきた恋人と後くされなく円満に別れる方法。部屋は、スタイリッシュに整え、勿論、独身主義。お気楽に”責任”という文字から回避して人生を謳歌してきた。

ウィルが無職というのは、日本人の感覚がすると不思議なものがある。映画『男はつらいよ』で、さくらが隣の印刷工場の工員さんたちをからかった寅さんに向かって、「額に汗して働く人たちの方が、お兄ちゃんのようにいいかっこしてふらふらしている人よりずっとりっぱ」と説教する場面がある。日本人的には、確かにこうだ。金持ちには金持ちなりの暇つぶしの”仕事”があると思うのだが、そこは英国なのだろうか、いずれにしても、職なし、とりたててボランティア活動も趣味もなさそうなので、人と人とのつながりは薄い。
「人間は孤独な島」
You can make yourself a little island paradise.
を哲学に、独身を貫くのはよいとして、本人は気づいていないようだが、社会からも、女性からも誰からも必要とされていない。姉もそんな極楽とんぼの弟を真剣に心配している。そんなウィルにひょんなきっかけで、彼を必要とする少年が現れた。

12歳のマーカス(ニコラス・ホルト)だった。様々な問題を抱える彼は、ウィルの実はいい人気質を見抜き、自分の人生にウィルが必要だと考えて毎日彼の部屋に強引に通うようになるのだったが。。。

1960年生まれ。撮影時、ウィルとほぼ同年齢。オックスフォード大学卒業、長身、清潔感のある端整な顔、そして間違いなくリッチ。ジョシ的な求める男像のすべてを満たしているようなヒュー・グラントだが、自己中心的で人はよいが軽薄な情けない「ダメ男」を演じたら、NO1!経歴どおりに、繊細なインテリ役もぴったりなのだが、絵に描いたような理想の男キャラを、情けない人物にふりかえるコメディ映画は、もはや彼の王道の定番となっている。スマートな彼だから、ナンパで子持ちと嘘をついたり、女達にふりまわされるから笑えるのである。そして、驚いたのはマーカス役のニコラス・ホルト君。『シングルマン』で、別の意味で孤独な島の大学教授に興味をもち、美しい裸身をさらした彼だったのだ。役柄とはいえ、ださいマッシュルームカットに、ださい服、ださい歩き方の少年が、成長してトム・フォードお気に入りのモデルに豹変するとは!予備知識があっても、アクアマリンのようなきらきらした瞳で、かろうじてあのニコラス君とわかる。

30代なかばで、マンションを買って独身生活を謳歌する女性がいる。モノトーンで統一したご自慢の部屋を見て、母親が「あなたの部屋は人を拒絶する」と言ったそうだ。姉の家に招かれ、赤ん坊の食べ物で汚されたソファーを見て、うんざりするウィルを見ていて、彼女の話を思い出した。年末年始の大掃除の合間にブログを更新する私も、シンプルに生きたいと常々考えるタイプ。整理整頓は不要なものを兎に角捨てる事、と考えてせっせとゴミだしに励むのだが、家族と生活している限りはなかなか自分の思うようなすっきりとした部屋には難しい。つきつめて、何もかも整い無駄のない理想のインテリアにこだわりはじめていくと、一緒に住む人間関係すらいっそのこと片付けたくなる・・・なんてことはできるわけないし。人は都合のよい時だけ付き合うこともできなく、何の気兼ねもなく、観たい時に観たいDVDを好きなだけ観て、行きたい時に行きたいところへ好きなだけ行ければ、とも思うのだが、孤独な島も誰かとつながっているからこそ、人生なのだ。そして、大事なのは、自分の城を守るのではなく、人への寛容さだ。小粒ながら、小粒だからこそ素敵で、今年の言葉、”絆”を感じさせられる映画だった。
皆さま、よいお年を!

監督:ポール&クリス・ウェイツ兄弟
2002年米国映画