千の天使がバスケットボールする

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『ニュースの天才』

2005-09-26 23:33:52 | Movie
1972年6月、ワシントンのウォーターゲート・ビルにある民主党本部に5人の男が侵入して、逮捕される。彼らの目的は、盗聴器を仕掛けること。ワシントン・ポスト紙の記者が、リチャード・M・ニクソン大統領の再選支持派の関与をスクープ。その後、大統領自身も関与していたことが明らかになり、下院司法委員会が弾劾決議案を可決した。74年8月、これを受けてニクソン大統領は辞任することになった。
この事件は、当初狂信的な人たちの単純な犯行と思われていたが、ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードとール・バーンスタインというふたりの記者の地道な追跡調査により、ホワイト・ハウスという国家権力による自由な選挙制度やプライバシーを犯す犯罪であることに気づくようになる。ワシントン・ポスト紙への報道担当官からの厳しい非難や中傷、圧力にも屈せず、彼らは仲間とともに侵入犯と政府の関与を認めるよう立証していった。

たったふたりの記者の直感と疑問からはじまった、ただの軽犯罪を国家的な犯罪だったことを暴いた事実に、健全で力強い米国精神を見た。いかにもアメリカらしい。
さらにこれらの一連の事件を、映画化(「大統領の陰謀」)、著書にして真実を掘り起こす作業も、いかにもアメリカ的だった。だからやっぱりアメリカが好き。
そして、今度の「ニュースの天才」
大統領専用機内に置かれる、権威ある唯一のニュース雑誌「THE NEW REPUBLIC」の24歳のスター記者が、27本もの捏造記事を書いていたという事実。ピュリッツァー賞受賞作家バズ・ビッシンジャーがこの事件を「Vanity Fair」誌に寄稿し、それをトム・クルーズが製作して映画化したこと、これもいかにもアメリカ的。アメリカだ。
だからやっぱり、アメリカは嫌いになれない。

平均年齢が20代の雑誌「THE NEW REPUBLIC」の記者たちの中でも、スティーブン・グラス(ヘイデン・クリステンセン)は若く、政財界のゴシップなどを次々とものにしていく。それらを会議の席でプレゼンテーションする時の彼のパフォーマンスつきのオハナシは、とっても楽しい。おまけに奢ることなく誰にも気配りをし、優しい。だからチノパンにボタンダウンシャツ、上品なプレッピースタイルの彼は、スターだ。誰もが彼を好んでいる。
ところが、「ハッカー天国」というタイトルの、ハッカー少年が大企業と交渉して高額の顧問料をせしめたという記事に、同じような内容を追跡していた他社の記者が調査した結果、捏造疑惑が生じる。

巧みに嘘をつき、その嘘が綻びかけても更に嘘の上塗りをし、人々の同情を買ってなんとか窮地をきりぬけようという主人公役に、ヘイデン・クリステンセンが見事にはまっている。母校の後輩にティーチ・アシスタントする時の落ち着いた自信にあふれる表情、同僚に愛嬌をふりまく善人そのものの笑顔、ことが破綻しかけていく途上の憔悴しきった顔、最後の情に訴える弱々しい姿、そのすべてが全身で語っている。役者だ。

自由とペンの公明正大な力の反面、このようなおそろしいワナをしかけることも可能だった。いつものスティーブンの笑いに満ちたゴシップ記事に、いとも簡単に、しかもほかならぬジャーナリストたちが騙されていたこと。外見と雰囲気のマジックに、その奥の事実に気がつかない。
このようなことは、大なり小なり、国内でもいくらでもある。ジャーナリストとして、最も許し難い領域にふみこんでしまったのは、それだけいかにこの業界が激しい競争に明け暮れているのかも語る。
スティーブンは、現在NYで「でっちあげ」という暴露本を執筆中。・・・これもなんだか、アメリカ的。