雇用問題が深刻化している。本書はとくに若年者の就業問題に焦点を絞って分析、提言している。この問題について、詳細な検討がなされ、類書にない成果が盛り込まれている。
前半では若年雇用のマクロ的分析。まず若年雇用問題がなぜ「問題」なのか、若年層の雇用と賃金が長期不況下でどのように変化したのかが、考察、分析され、ついでフリーター、ニートの定義、両者の特徴が浮き彫りにする作業を挟んで、若年雇用の問題点が、中高年のそれとの対比で、時系列的解析の成果が示されている。
著者はさらに、学校卒業時の労働市場の状況について、それ以降の賃金、雇用、離職行動に及ぼす影響の分析(「世代効果」分析)、日本企業の新卒一括採用の慣行の問題、労働者間の代替関係と若年雇用の関連、地域の若年労働市場の多様性、「若年者の育成」という観点から見た学校教育と企業内訓練との関連を細かく検討している。
最後は、若年雇用対策の諸施策。
このように、扱われている問題は焦点が絞りこまれ曖昧さがないが、論点はこの範囲でも多様で、複雑である。
著者はこれらを「国勢調査」「労働力調査」「就業構造基本調査」「学校基本調査」、各種アンケートなどのデータをもとに、主として回帰分析を駆使して、意味のある結論を導出し、検討に値する提言を行っている。
上記の検討事項のそれぞれについて各章に、要約とまとめがある。内外の研究成果を十分に咀嚼し、前提としながら、独自の実証分析を行っている真摯な姿勢が好ましい。
既存のデータのみでは分析が便宜的にならざるをえないところが出てくるのはいたしかたないが、いくつか許容範囲をこえるのではないかというものがあった。ひとつだけ例を示すと、地域の若年無業者の「意識」を考察した個所で、都道府県を「都市部」と「地方」にグループ分けしているが、前者に属する県として茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、大阪、京都など20都府県、「地方」に属するのはそれ以外として分析している箇所がある(p.208)。やむをえずこうした措置をとったのかと思うが、やや乱暴なやり方と感じた。
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