【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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佐和隆光『これからの経済学』岩波新書、1991年

2012-10-27 00:36:23 | 経済/経営

           
  いまから20年前、1991年に出版された本である(ソ連崩壊の直前)。著者は出版に先立つ1980年代前半あたり(あるいは70年代)からの経済学と経済の動きを念頭にいれつつ、90年以降の見通しを、現在進行形で執筆したのだが、いまこの書を再読すると、この時期の経済学の論調、経済の動きが手際よく整理されていて、すこぶる興味深い。そういう時代を経過していまがあるのだと、感慨することしきりである。


   著者はまず科学(経済学)が「進歩」するという「科学主義」を捨てよ、と主張している。この素朴な「科学主義」の観念は自然科学における科学感に対する劣等感に由来するのであり(ポパーによる新古典派経済学の「科学」としての認定[反証可能性の評価]はまがいもの)、社会科学の存在根拠をかたどるのは時代の価値規範であり、この科学の変遷は価値規範によって駆動される、というのが著者の力点である。

   80年代の経済学は、政治の保守化、経済社会のソフト化(サービス化、情報化、国際化、金融化、投機化、省資源化)を背景に、ケインズ経済学を貶める保守派経済学(サプライサイド経済学、合理的期待形成の経済学、マネタリズム)が跋扈した。現実社会では、アメリカのレーガノミックス、イギリスのサッチャーリズムが先鞭をつけた市場万能主義、効率至上主義(新古典派経済理論にもとづく)が浸透し、それの流れは日本では中曽根首相の政治経済路線(新保守主義改革:各種規制の緩和・撤廃、国鉄・電電の民営化、行財政改革、財政改革などなど)に継承された。

   90年代の時代文脈はどうなるのか。著者は90年代の価値規範を、保守からリベラルへ、効率から公正へ、競争から協調へ、経済成長から環境保全へ、東西緊張から東西融和へといった方向転換に見ていた。その延長で、著者はこの方向を牽引する経済学として、ネオケインズ経済学に期待を寄せている。それは古典的ケインジアンの再登場ではない。新しい時代にふさわしい装いのケインズ経済学の構築である(pp.90-98)。

   本書のポイントは以上であるが、1980年代の思想潮流[新日本主義の台頭](第3章)、経済のソフト化のもとでの経済範疇の新たな解釈と問題点(第4章)、バブル経済とカジノ資本主義の問題点(第5章)にも、ページを割き、時代の思潮、社会経済の現状を浮き彫りにしている。

   計量経済学を専門としてきた著者が計量モデルの,見かけ上の大型化、精緻化にもかかわらず、予測精度にいささかも向上がみとめられないことを承認し、その理由を語っている箇所には(pp.188-90)、溜飲を下げた。


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