【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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塩沢由典『複雑さの帰結』NTT出版、1997年

2007-04-05 18:47:42 | 経済/経営
塩沢由典『複雑さの帰結』NTT出版、1997年。

  「複雑系」がブームになった切っ掛けはミッチェル・ワードロップの『複雑系』(新潮社)ですが、本書は経済学の一般均衡論に対する挑戦の書です。

 一般均衡論に対して「定常性」の概念を基礎に「複雑系経済学」の構築を目指しています。著者は経済学説史の系譜ではスラッファを拠り所としながら、そこに留まらず、「現代的古典経済派(Contemporary Classical Scool)を自称しています。

 問題提起は確かに鋭いものがあります。
①一般均衡論に登場する経済人が効用の最大化原理にしたがって行動することを仮定する事の無意味さ、非現実性
②同じくこの経済学が2財モデルから多財モデルへ論理展開するさいの論理の恣意性
③コルナイの二元論(実物過程と制御過程の二分)の意義と限界
④市場における人間の3つの限界(視野の限界、合理性の限界、働きかけの限界)の指摘
⑤ 上記の3つの限界のなかの「合理性の限界」では複雑さが人間の問題解決能力に決定的な限界になっていることの指摘
⑥旧ソ連での経済計算論争の現代的解釈が重要であるという指摘、等々。

 要するに著者は経済をどのように理解しているかというと、それは「複雑系の時間特性がゆらぎのある定常性とすれば、系の相互作用の特性は『ゆるい連結』(p.159)と規定される」というのです。また、経済は「情報処理によってすべてを調節・制御するには複雑すぎる対象であ」り、「対象を記号化した情報システム内部の計算のみによって調節されているシステムではなく、対象システム自身に埋めこまれている」(p.204)とも言っています。

 とにかく、野心的な経済学です。一般均衡論は、もう時代遅れとわたしも思います。

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