【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

医療経済学の入門書ということですが、疑問がたくさんありました

2010-01-05 01:11:40 | 経済/経営

真野俊樹『入門 医療経済学-「いのち」と効率の両立をもとめて』中央公論新社、2006年                           

                      
                  



 最近「医療経済学」という分野について、いろいろな論議がありますが、その中身はあまり知りません。その概観をおさえたいと思い、本書を手にしました。

 本書の内容は次のように紹介されています。「よい病院とわるい病院を見分けるにはどうすればよいだろう。レストランや車なら、高い値段のものが質もよいと考えればほぼ間違いはない。しかし医療では名医でも新米の医者でも値段は一緒であり、経済法則は働いていないように思える。では、なぜ医療の値段は同じなのか。本書は、医療が持つこのような特徴を、「情報の非対称性」「市場の失敗」等の視点から経済学的に分析し、今後の医療制度改革の方向性を提示する」と。

 著者の意図はそういうことだったのかもしれませんが、内容的にはあまり成功していないように思いました。

 さまざまな学派の経済学が紹介され、経済学の概念が使われています。経済学でいえば、マクロ理論、ミクロ理論、古典派、新古典派、厚生経済学、ケインズ経済学、ゲームの理論、組織の経済学、行動経済学、制度学派、経済学者で言えばスミス、セイ、ハイエク、シュンペーター、ウェーバー、ヒックス、宇沢弘文などなど。

 用語で言えば、方法論的個人主義、合理的経済人、無差別曲線、パレート最適、市場の失敗、公共財、費用対効果、情報の非対称性、ナッシュ均衡、囚人のジレンマ、創造的破壊などなど。

 全体として経済学史上、経済学上の都合のいいところを引っ張ってきて、つけ焼刃的に概念操作をしているだけで、著者はそもそも経済学というものがどういうものかを知らないのではと率直に思いました。なぜならいろいろな経済学の専門用語をくみあわせただけでは、経済学にならないからです。概念を引用されたり、概念を無造作に使われては、引用された側、使われた側は不本意でしょうし、びっくりしてしまうことでしょう。

 こうした経済学に関する叙述の部分を全部削除して、現代の医療制度、介護制度の問題点だけをわかりやすく整理して解説してくれたほうがよかったのではというのが印象です(専門の医療制度、介護制度についてはかなり詳しい方のようですので)。

 章別構成は以下のとおりです。

 第1章 医療経済学を理解するために/第2章 医療経済学の経済学的基礎/第3章 医療経済学とはなにか/第4章 医療と最新の経済学/第5章 医療の仕組みを経済学で分析する/第6章 医療のプレーヤーとその行動―医療経済学の視点による分析 


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