【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

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姜尚中『姜尚中の青春読書ノート』朝日新聞出版、2004年

2008-09-08 04:18:23 | 読書/大学/教育
姜尚中『姜尚中の青春読書ノート』朝日新聞出版、2004年
  
              姜尚中の青春読書ノート / 姜尚中/著

 姜尚中氏が青春時代にまみえた5冊の本、その読書体験を語っています。夏目漱石『三四郎』、ボードレール『悪の華』、T・K生『韓国からの手紙』、丸山真男『日本の思想』、マックス・ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』。

 『三四郎』では熊本出身の著者自身が主人公の小川三四郎という青年の軌跡をなぞるように東京に向かった青春時代を回顧しながら、三四郎同様の愛郷心、東京にたいする違和感、その滅びの予感を確認しています。

 次に取り上げられているのが、退廃、無為、倦怠を詩の言葉に映し出したボードレールの『悪の華』です。そして芸術の世界では前衛にいたものの政治的には後衛だったボードレール。著者は『悪の華』に示された世界に衝撃を受け、同時にも自らがたっている政治的立場を重ね合わせます。

 『韓国からの通信』(70年代に独裁政権と闘った教会関係者、学生、労働者、政治家、ジャーナリストがどのように民主化を勝ち取って行ったか、その軌跡をたどったレポート)では70年代以降の韓国の民主化の歴史的意味が問い直され、その時期に韓国に初めて旅したことの経験が著者をしてその名前を「永野鉄男」から「姜尚中(カン・サンジュン)」に変えさせたと書いています(p.117)。

 著者が丸山真男の『日本の思想』から学んだのは思想の相対化です。彼によれば丸山がやろうとしたことは「あれやこれやの思想やイデオロギーの正否を論じようとしたのではなく、それらを体系的に位置づけ、その意義を明らかにし、思想と思想、イデオロギーとイデオロギーとの間の『原理的な』対話や対決が行われるような座標軸を作り出す作業」(p.149)であったはずと言っています。

 そして最後に『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』ではひとつの体験を語っています。それは人生をいかにいくべきか悩んでいた青春時代にこの本にであい、そこに示されたカルヴァン主義の予定調和説的な運命感によって自身の悩みの回路が絶たれたかのような衝撃を受けたという告白です(pp.164-165)。意味を問うこと自体をシャッタウトするその論理に驚いたというわけです。「意味問題」を社会学の根本問題に据えたこの本の面白さは、著者によれば「宗教と経済、禁欲と資本主義という、本来ならば、水と油のように対立し会うものが結びつき、そこから思ってもみない結果が生まれてしまう、その逆説的なドラマにある」(p.168)とのことです。

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