著者の思いは「本書が脱原発意識を少しでも深める一助になれば幸甚である」ということ。
この願いを実現するために、第一章では欧米の原発事故の実態が、第二章ではフクシマ原発事故が欧米各国のエネルギー政策に与えた影響が、第三章ではヨーロッパ格好での脱原発エネルギー政策に関するヒアリング調査の結果が、示されている。
より具体的にみていくと、第一章では旧ソ連時代のマヤーク核施設でおこった3つの原子力事故の参事(1950-60年代)、イギリスのウィンズケール原子力事故(1957年)、アメリカのスリーマイル島原発事故(1979年)、ウクライナのチェルノブイリ原発事故(1986年)、ドイツのエルベ川沿いの原子力施設で起こったと推定される放射能漏れ(1986年)、フランスのサン・ローラン・デ・ゾー原発での核燃料溶融事故(1963年)、南フランスのガール県マルクールの核施設での爆発事故(2011年)などが、福島第一原発事故と照合されながら解説されている。情報の隠ぺい(ソ連、イギリス)、住民の強制移住(ソ連)、確率がきわめて低いとされた原発事故が小さな人災の重なりで現実化した実相(アメリカ)などは、明らかにフクシマ原発事故と重なる。チェルノブイリ原発事故は、いまもって真相が不明で、著者は該当箇所で3人のオペレータの人間的確執に踏み込んで事故の原因に迫り、また新たな事故原因としての地震説に言及している。
第二章ではフクシマ原発事故の主要な国の反応を紹介している。ただちに反原発の方向を打ち出したドイツ、イタリア、原発路線を変更しないことを宣言したフランスでは、推進派のサルコジ大統領が原発半減を唱える社会党のオーランドに大統領選挙で完敗した(本書出版時では、両者の一騎討ちが予定されていることが指摘されている)。イギリスは独自の反応を示し、原発支持派が増加する珍現象がおきた。
第三章ではポスト原発エネルギーを睨んだヨーロッパ各国の再生可能エネルギー開発の実態が紹介されている。著者の取材によるもので、オーストリアの巨大バイオマス発電プラントを成功させたウィーンの経験、バイオマスプロジェクトで蘇生したギュッシングの場合、ソーラーシステム開発を地道にすすめるグラーツなどである。オーストリア、ハンガリーのバイオマス発電は森林国日本にとってヒントとなりうる、ようだ。イタリア、アイスランドの地熱発電も火山国日本にとって有益だ。デンマークの風力発電も日本にとって参考になるはずである。イタリアの凧発電は目新しい試みで、今後の進展に期待が寄せられている。
フクシマ原発事故は各国のエネルギー政策に大きな影響を与え、また与えつつあるが、著者は日本人の意識はまだ変わりきれていない、と不安を募らせている。