【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

パリ紀行②[美術館2(クリュニー中世美術館)]

2012-09-08 21:46:14 | 旅行/温泉

           

 今回の旅行の目的は、美術館巡りだった。訪れた美術館は、ルーブル美術館、オルセ美術館、オランジュリー美術館、クリュニー中世美術館、ロダン美術館、ダリ美術館、ギュスタフ・モロー美術館。3回ほどに分けて記述する。


 まず、クリュニー中世美術館。旅行前から、可能なら出かけたいと思っていた。というのも、以前TV番組でこの美術館の紹介があり(内容はあまり覚えていない)、ここにある「貴婦人と一角獣」の6枚のタペストリー(つづら織)に関心を惹きつけられたからだ。

 クリュニー美術館は5区にあり、カルチエ・ラタンの学生街が近い。ソルボンヌ大学や、自然史博物館にも、徒歩でいける距離である(クリュニーの名は、中世の時代、ローマの公共浴場跡のこの場所にクリュニー修道院院長が別邸を建てたことに由来する)。
 この美術館は2つの大きなカテゴリーに区分されている。
ひとつは敷地部分の、紀元前1世紀頃のものであるローマ時代の公共浴場。もうひとつは中世の約24,000点の美術品。「中世」はさらに、5世紀のローマ時代、5-10世紀の中世初期、11-12世紀のロマネスク時代、12-15世紀のゴシック時代に細区分されている。
 美術館は一階とニ階とに分かれ、一階にはローマ時代の浴場および中世の教会会で使われた彫刻、織物、工芸品、ステンドグラスなどが陳列されている。
 
 二階には「貴婦人と一角獣(La Dame à la licorne)」の6枚のタペストリー。「ありました、ありました」。強い想いで、何年も恋焦がれていたタペストリー。
 実際にみると、その重厚感はたまらない。幻想的なやや暗い色調の赤を背景に、デザインは精緻で、奥深い。一角獣(ユニコーン)は、非常に獰猛な動物だが、処女に抱かれるとおとなしくなるという。一体、誰が、どのような意図で作製したのだろうか。多くの謎が秘められている。


 調べてみると、今日の研究では、このタペストリーは15世紀末に、パリで下絵が画かれ、フランドルで織られたもの、ということがわかっているらしい。

 テーマも不透明であるが、6つの感覚がそこに示されているというのが通説。それぞれ「味覚(Le goût)」「聴覚(L'ouïe)」「視覚(La vue)」」「嗅覚(L'odorat)」
「触角(Le teoucher)」、そして「我が唯一の望みに(À mon seul désir)」である。この「我が唯一の望みに」というのは、「理解すること」と解釈される。

 6枚の壮大なタペストリーには、若い貴夫人が想像上の、伝説の獣ユニコーンとともにいる場面が描かれ、他に猿、獅子、ウサギなどがいる。背景は千花模様(ミル・フール:複雑な図柄の花や鳥が一面に描かれた画)が配されている。タペストリーにはさらに旗や紋章が記録され、それらはフランス王シャルル7世の宮廷の有力者だったル・ヴィストのものではないかと考えられている。

 このタペストリーは1841年に、歴史記念物監査官であり、作家でもあったプロスペル・メリメによって、クルーズ県のブーサック城で発見されたようだ。作家のジョルジュ・サンドがこれを激賞し、有名になった。
 
 ここには、上記のように、他にも多くの美術品、工芸品があり、「王冠についていた十字架(7世紀)」「聖クレールの像(15世紀)」はその代表的なもの。また「金のバラ(1330年)」もあった。文字通り、金でできたバラなのだが、精巧にできている。バラは四旬節に欠かせないもので、13世紀の教皇ジャン22世の注文で製作された最古の作品、ミヌビッキオ・ジャコビ・ダ・シエナの作、とガイドブックにあった。 (パリの美術館は多くの場合、作品の説明が英語で書かれていない[日本では英語の作品名が必ず付いている]。なので、作品の意味が何が何だかわからないことがしばしばで、いきおいガイドブックに頼らざるをえない)。 

 美術館のサン・ミッセル通りにはローマ時代の公共浴場があり、塀越しにこれを覗くことができる。瓦礫の山のようになっていて、工事中のようにもみえる、そうではないので、要注意。

 この中世美術館は、その価値の大きさにもかかわらず、日本ではまだ十分な紹介がない。フランス語の読解ができて、この美術館に何度も足を運んで、資料を集め、ここにいるかもしれないキュレーターに話を聞いたりすれば、ひとかどの研究者になれる気がする。もちろん、その前提として研究意欲と姿勢が大事なことはいうまでもない。この美術館を研究する若い人が現れることを期待したい。