【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

オバマ大統領の政策の中身は??

2009-10-06 00:49:52 | 経済/経営

福島清彦『オバマがつくる福祉資本主義』亜紀書房、2009年

             
オバマがつくる福祉資本主義

 期待をもって迎えられたバマ大統領(以下、オバマと略)。本書はその理念、政策を好意的にまとめた本です。

 それというのも著者はブッシュの保守的政策、市場原理主義をかねてから批判の俎上にあげ、ヨーロッパ型の経済政策を推奨していたので、オバマが後者に接近してきたことに関心を寄せているのです。

 オバマの政策は、環境・エネルギー、教育、医療がその三本柱(福祉国家再興のそれ)で、これに金融政策が付随します。オバマは、小さな政府、市場原理主義の時代は終焉したとして上記3部門に多額の投資を行うと言っています。著者はオバマの福祉資本主義がルーズベルトのニューディール政策以降のアメリカの伝統的な政策の延長であり、ヨーロッパ型資本主義のものまねでは決してないと評価しています。結果として類似してきているだけと。

 懸念されるのは、その金融政策で、経済見通しが楽観的すぎ、財政見通しが甘く、金融機関の規制が不十分であるというのが専門家の見方です。

 本書の特徴はまたオバマの生まれと育ちを検証し、そこから特に母親の影響の強かったことを強調しています。彼女は二人の子を育てながら、途上国の貧困者支援と文化人類学の研究を行い、50歳で博士号を取得、しかし52歳で夭折しました。母親が彼女でなかったら、オバマという政治家はいなかったとまで言い切っています。

 本書は著者からいただきました。  


    
           


賢いお金の殖やし方をティーチング

2009-05-13 00:09:26 | 経済/経営
勝間和代『お金は銀行に預けるな-金融リテラシーの基本と実践』光文社新書、2007年           
          


 金融リテラシーを説いた本です。

 著者は外資系企業で16年間、金融相場の分析や取引、新しい金融商品の設計などに関わってきた人です。そして現在は投資顧問会社を経営し、マスコミでも大活躍しています。

 金融市場が発達し、401Kも導入され、しかし資本主義に綻びが見えはじめている現在、金融リテラシーは人間らしい生活するのに必須との立場で書かれています。

 怪しい本ではなく、著者は消費者の側にいます。すなわち個人がデイ・トレードなどに投資するのはプロには絶対負けるので止めよ(p.74)、何らかの投資をしようと思い立った人が本屋で利殖のハウツーものの雑誌を読んだりしても騙されるだけなので注意せよ、投資信託ならまだよいが、個別の株やFX(外国為替証拠金取引)などに手をだすと絶対に損する(p.126)と賢い市民になるように警告しています。

 万人にお勧めなのは投資信託、生命保険は「逓減型」に変更せよ、新築マンションは買ってはいけない、とかなり細かなサジェッションがあります。一番伝えたいのは、自分の資産を現金、預金として持つのはリスク資産として運用するのと比べて大きな機会損失を生んでいるということ(p.146)、そうであるから、リスク投資の意思を固めるからはじまって、金融資産構成のりバランスの習慣をつける10段階のステップを踏んで金融商品について賢くなろうと提言しています(pp.162-163)。

 原則は5つ(①分散投資、②年間リターンの目安は5%で上出来、③タダ飯はない、④投資にはコストと時間が必要、⑤管理できるのはリスクのみ、リターンは管理できない)[pp.159-160]。

「景気って何」に答えています

2009-05-03 00:06:19 | 経済/経営
岩田規久男『景気ってなんだろう(新書)』筑摩書房、2008年

       
           

 マクロ経済学者による景気動向把握の基礎理論と直近の日本経済のパフォーマンスが分かりやすく説明されています。読者は、経済が生き物であることを改めて実感させられるでしょう。

 啓蒙書ですが、いくつか特徴があります。ひとつ例をあげますと、インフレターゲット論を支持し、日本銀行がインフレ目標政策を採らないことを暗に批判しています(p.160)。インフレターゲット論支持の根拠は、主要国の1995-2005年までの平均成長率と平均インフレ率との相関をとって緩やかなインフレ策をとったニュージーランド、オーストラリア、アメリカ、カナダ、イギリスなどの国々が成長率も高かったのに、インフレ政策をとらなかった日本の成長率は低かったということで、専ら統計的な観測にもとめられています。

 現状分析は説得的です。例えば、近年の日本経済の成長が外需に依存し、それも従来ウエイトが高かったアメリカの比重がアジアにシフトしてきているということの指摘です。多くの論者も気のついている事実ですが、それを日本の輸出とアメリカのGDPとの相関、日本の輸出額と新興国のGDPとの相関をとって、前者では近年両者の関係が不安定になっていること、後者では逆に強まっていることを指摘するなど、統計データで細かい説明を行っています(pp.70-77)。

 また、従来ある程度対応がついていた景気拡張期の実質賃金上昇率と実質経済成長率との関係が、2002年ごろから曖昧になってきていることの指摘があります(p.108)。マクロの景気が回復しても、個々の会社や個人の景気はそれに対応しなくなったのです。その理由も丁寧に説明されています。

 第2章の標題が「設備投資は南極探検のようなものだ!」とあり何かと思いましたが、これはケインズが生きていた時代の南極探検が死を覚悟しなければできないことだったのですが、設備投資を行う今日の企業はそのような蛮勇気が必要だということの表現でした。了解しました。

文字通り「金融商品とどうつき合うか」を説いた本

2009-03-23 00:46:27 | 経済/経営
新保恵志『金融商品とどうつき合うか』岩波新書、2008年

                              
               


 2001年に確定拠出年金導入(日本版401K)が解禁となり、今後ともその普及が予想されるとなると、金融商品に対する知識は不可欠になってくるので、それとの対処の仕方が重要であるという立場で書かれた本です。

 ワラント債、スワップなど複雑で分かりにくい金融商品への対処の仕方、金融被害を回避する手立て、すなわち金融リテラシーが、平易に解説されています。

 それによると、金融商品の消費者はリターンとリスクとは表裏一体であることを認識すること、高い金利は必ず高いリスクが隠されていることを肝に命じること、手数料には十分慎重でなければならないこと(日本人は手数料に鈍感で無頓着な傾向が強い)、二社以上から信用の格付け情報を入手すべきこと、などの留意点が指摘されています。

 金融機関の側は、07年に金融商品取引法が施行されたこともあり、リスクの説明を必ずしなければならないことになっています。また、「適合性の原則」と言って業者は消費者の知識、経験、財産力、投資目的に適合した販売、勧誘をしなければならなことになっているのだそうです。

 後半にいくと話が具体的になっていきます。仕組預金(満期日繰上特約付き定期預金)、変額個人年金保険、各種投資信託、各種証券化商品について注意すべきことが示唆されています。

 総じて、子どもの頃から金融教育を行うことが大事で、この点で日本はアメリカ、イギリスの教育に遅れをとっているとのことです。

 本書にはさらにもうひとつ目的があり、それは将来的に個人が企業を育てるという意識をもってもらいたいということで、これは要するに、消費者が投資のリスクを認識したうえで、自己責任で投資をするのが本来の意味の投資で、その投資先にベンチャー企業を想定してほしいということです。ベンチャー企業の育成が実現すれば、雇用が広がり、消費が拡大し、税収も増えるので経済にいい効果がもたらされるというわけです。

 本書には金融知識を問う10の設問があります(pp.179-184)。チャレンジしてみては???

未曾有の世界的金融恐慌の丁寧で、わかりやすい解説

2009-02-07 22:04:59 | 経済/経営
水田和夫『金融大崩壊-「アメリカ金融帝国」の終焉』NHK出版、2008年

            金融大崩壊 「アメリカ金融帝国」の終焉

 株価の暴落、雇用不安。世界にひろがる金融恐慌は、今や「100年に一度起こるかどうかの深刻な金融危機」(グリーンスパン前連邦準備制度理事会[FRB]議長)といわれます。

 本書は、どうしてこのような事態になったのか、これからどうなるのかを分かりやすく解説しています。今回の世界的不況は400年続いた資本主義のシステムに変更をせまるもの、というのが著者の主張です。

 変更をせまられたこのシステムとは、国家、資本、国民が根本のところで一体であったという資本主義経済モデルです。それが崩れ、資本が国家と国民に離縁状をつきつけたというわけです。

 アメリカは1995年ごろ「マネー集中一括管理システム」に基礎をおく、いわば「アメリカ投資銀行株式会社」として国の再建を意図しました。この意図を実現させるために、国際資本の完全移動を支援し、金融のグローバル化を推し進め、世界共通の会計基準をもとめました。さらに、投資銀行を経済主役に仕立てあげ、ローンの証券化をはかり、レバレッジ(梃子)によって他国の資金(貯蓄など)を有効活用する方法(短期間での膨大な利益の保証)を編み出しました。アメリカ経済の金融帝国への移行といわれるのは、これです。

 世界経済が活気を帯びているときは、このモデルはうまく働きました。しかし、一旦暗転するとショックの大きさと深さは未曾有です。

 サブプライム問題、リーマンショックがその象徴です。結果的に主役を担ったアメリカの5つの投資銀行は2008年9月に事実上全て倒産しました。次は自動車などの実物経済に多大な影響が及んでくるのは必至です。

 今後、予想されるのは、ドルが基軸通貨でなくなり、アメリカが世界経済の主役から降り、「無極化」の時代に入るということです。不況は3-5年は続くことでしょう。出口は見えなません。

 日本もこれまでのような処方箋では病を治癒できません。本書では、最後の部分で、従来の「輸出株式会社」型の経営をやめ、中小企業対策の海外展開への制度的支援、緊急経済対策ではなく予算で対策を組む、さらに展開先を新興国へスィッチしていく発想が必要との提言がなされています。

環境問題解決の重要性を説く良書

2009-01-24 20:45:38 | 経済/経営
福島清彦『環境問題を経済から見る-なぜ日本はEUに追いつけないのか-』亜紀書房、2009年

           環境問題を経済から見る なぜ日本はEUに追いつけないのか
 地球環境改善は、いまや喫緊の課題です。その警鐘は随分以前からありましたが、課題意識、問題への取り組みの姿勢、政策の実施状況は国ごとでかなり異なります。

 EU加盟諸国ではドイツが太陽光発電と風力発電で世界一になり、再利用可能エネルギーへの移行で先頭をきっています。イギリスは2020年までに二酸化炭素排出量を1990年比26-32%削減すること、さらに2050年に1990年比60%削減を義務付けた法律を制定、海上風力発電を中心とした低炭素経済への移行を急いでいます。フランスはすでに低炭素経済ですが、風力発電を強化し、2020年の二酸化炭素排出量を2005年比で4分の1に減らす計画を実行中です。

 これらに対しアメリカはブッシュが2025年までCO2排出量を増加し続けるようなことを言っています。しかし、多くの州と自治体は独自の取り組みを行っています。中国、インドはCO2排出量が桁はずれに多くなっていますが、先進国責任論で逃げています(pp.211-213)。

 本書は地球環境問題の現状、課題、展望を総合的に提示した良書です。世界的影響力のあったスターン報告(2006年)、「気候変動に関する政府間パネル」が出した評価報告書(2007年)を解説し、問題の所在(温暖化の実証、石油文明の限界、エネルギー発生源の革命的変革の必要性)を明らかにし、自然科学から見た新エネルギーの条件(再生利用可能、CO2を発生させない)と経済学から見た条件(経済収支、エネルギー収支、炭素収支)を提示し、京都議定書とバリ会議の意義と課題を指摘し、各国の取り組みを概観したのちに、日本の環境問題の認識、政策の立ち遅れ、失敗に終わった環境外交、省エネ技術の水準の高さを誇る対極での環境分野への公共投資の不足にメスを入れています。

 重要なのは、環境・エネルギー分野への公共投資(とくに電源部門)、2012年までの削減計画(内容)の見直し、エネルギー消費の再検討(『日本低炭素社会のシナリオ-二酸化炭素70%削減の道筋』などを例に)、経済思想の再構築であると、著者は提言しています。

 著者からの献本で勉強させてもらいました。

伯野卓彦『レクイエム-「日本型金融哲学」に殉じた銀行マンたち』NHK出版、2007年

2008-12-25 00:11:55 | 経済/経営

伯野卓彦『レクイエム-「日本型金融哲学」に殉じた銀行マンたち』NHK出版、2007年

     レクイエム 「日本型金融哲学」に殉じた銀行マンたち  /伯野卓彦/著 [本]
 1998年10月23日。長期信用銀行が「国有化」され、事実上、この銀行の終焉となりました。長銀の破綻は、日本の金融哲学がアメリカのそれに屈伏したことの象徴でした。

 日本の金融哲学とは、端的に言えば、「金を貸すのは時間を貸すこと」(pp.34-37)、
「金融機関の使命は、企業活動を含む経済・社会の枠組みを支える公的なものであるという考え方」(pp.12-13)です。不良債権処理方法でいえば、日本のそれは融資先が返済できない状況に陥っても倒産にまで追い込むことはせず、貸し付けを継続しながら、時間をかけて経営再建、債務返済の復活を待つというものですが、アメリカ流のそれでは、銀行が不良債権を抱えると、担保処分を含めて直ちにそれを償却するよう迫るという処理の仕方になります。

 アメリカは従来日本の閉鎖的で、自己完結的金融市場の開放に批判的でしたが、橋本内閣のもとでの金融ビッグバンは結果的にアメリカの門戸開放の要求を受け入れてしまうこととなりました。

 現在、日本の金融業界はBIS規制の締め付けを始めとするグローバルスタンダードの押し付けによって、すっかりアメリカ型に再編されてしまいました。

 本書の価値は上記の破綻の経緯を後追い的に辿るのではなく、それでもなお長銀最後の鈴木頭取が「日本にふさわしい金融哲学を、もう一度再構築する必要がある」(p.262)と考えていることを紹介していること、また「不良債権処理チーム」でアメリカ型処理に苦悩した石河[いしこ]さん(現在、信用中央金庫理事)の転職先が「家を一軒一軒回り、貯金をお願して、それを地元企業に融資して育てていく」という日本型金融哲学を実践する「信金中央金庫」(信用金庫の中央機関)審査部であったこと(p.258)を指摘している点にあります。

  著者は本書の目的を、「日本の金融敗戦に至るまでに金融業界の水面下で起きていたことな何か、その間、日米の銀行マンは何を考え、どういった行動に走っていたのか、その結果、日本型金融理念はなぜアメリカに屈したのかを解明する」ことにあったと述べています(p.16)。この目的は、著者の問題に対する誠実な姿勢、綿密な調査、取材、ヒアリングによって成功しています。

 本書を読んだきっかけは、この本で著者のインタビューに応えて再三登場する石河さんの紹介によります。石河さんはわたしと大学のゼミの同窓、同級生です。自身、審査部で危うい融資を目撃し、その後、取引先との債務取り立て交渉にあたり、最後まで長銀に残って残務処理をしました。責任感の強い、仁徳の人、そして気持の熱い人です。

 長銀破綻をタイタニック遭難と重ね合わせ、そこでの人間模様を綴った99年の年賀状の挨拶文が本書の末尾に掲げられていますが(pp.251-252)、この年賀状はわたしもいただき、今なお記憶に新しいです。

 本書の内容は、「NHKスペシャル 日本の群像 再起への20年~銀行マンの苦悩」として放映されました(2005年5月)。

 


阿部和義『トヨタモデル』講談社新書、2005年

2008-12-13 00:50:22 | 経済/経営

阿部和義『トヨタモデル』講談社新書、2005年

          

 トヨタの歴史と現状を上手くクロスさせて,50年前には倒産寸前の憂き目にあったこの企業の全体像を描いています。

 トヨタ自動車が世界一になった秘訣を著者は、二点あげています。ひとつは「いつも危機感を社員に与えて改善にとりくんでいること」,ふたつは「『質素と倹約』がDNAのように引き継がれていること」だと言います(pp.4-5)。

 トヨタモデル(大幅なコストダウン)が2005年2月に完成した「中部国際空港」の工事,郵政・社保庁改革に役だったというところから本書は、始まります。「かんばん方式」は,徹底した経費削減の方法として,従来の「流れ作業方式」に替わるものとして生み出されたものです。

 この本が書かれた頃のこの企業の年間売上高は13兆円。環境の世紀である21世紀を意識した経営戦略は、ハイ・ブリッド車「プリウス」と燃料電池車の開発です。海外展開も堅調でした。アメリカはもとより,苦戦を強いられたものの欧州に進出。さらに,遅れ気味だった中国市場も射程に入れました。

 財界(経団連)への人材供給にも余念がありません。巧みな労務管理は徹底しています。労使協調の一貫した姿勢,非公式グループ「豊八会」の創設,「労使協議会」等々。トヨタ王国の牙城は,当分くずれそうになかったのです。

 それが、いま世界的な自動車業界の不況に直面しています。わずか3年で状況はこんなに変わってしまいました。


金子勝/アンドリュー・デーウィット『世界金融危機』岩波ブックレット

2008-11-29 00:17:38 | 経済/経営
金子勝/アンドリュー・デウィット『世界金融危機』岩波ブックレット、2008年
     
 著者のひとりであるデウィットさんにいただきました。
                         金子勝/アンドリュー・デウィット 世界金融危機 岩波ブックレット740
 サブプライム問題以来、顕在化したグローバル同時不況の全貌と将来予測を豊富な資料と分析によって明らかにした本です。

 著者は本書の目的を「(世界同時不況の)メカニズムを解明すること」とし、「まずこの金融危機の根源は、証券化という手法と『影の銀行システム』の崩壊にある。つぎに、信用収縮と景気減速の悪循環のプロセスが金融危機を進行させていく。さらに、この金融危機が深刻なのは、地球温暖化に伴うエネルギー政策の波が重なっていることにある」(p.2)と述べています。

 今回の一連の危機は「津波」に例えられています。最初の「津波」は2006年の米国の住宅バブル崩壊。キーワードは「影の銀行システム」です。これは投資ビークルやファンドで債券取引などの資産を運用すれために銀行が設立した特別目的会社からなるシステムであり、これらは取引所を介さない相対(あいたい)の店頭デリヴァティブ取引を行いますが、FRB(連邦準備理事会)やSEC(証券取引委員会)の監督規制が及ばないゾーンであることがポイントです。

 「影の銀行システム」の最大の問題点は損失を確定できないこと、したがって危機の構造が見えにくく、ある日突然、金融商品のカタストロフィー(値崩れ)が生じ、システムの崩壊に落着することが起こりうるのです(起こったのです)。

 次の「津波」も予見されています。住宅価格の下落、デフォルトの割合の増加による住宅関連証券およびモノラインの格下げを引き金とする住宅関連証券の評価損、信用収縮の結果である企業倒産、さらに資源と食糧のインフレなど、「津波」の予兆をあげるには事欠きません。

 信用収縮と実体経済の悪化の悪循環のゆえに、住宅ローンのみでなく、商業用不動産ローン、消費者ローン、自動車ローン、企業融資が焦げ付き始め、危機の加速化による「津波」のエネルギーが蓄積されています。

 米国型金融資本主義と市場原理主義者がもたらした今回の危機は、まさに世界を壊すところまできているのです。

 著者はこうした状況を嘆いたり、切歯扼腕しているだけではなく、「おわりに-脱出口を見失った日本-」(pp.66-71)では、雇用、年金・医療などの社会保障の立て直し、将来につながる産業政策、すなわち大胆な自然再生エネルギーへの転換や食糧自給率を高める農業支援、東アジアレベルでの通貨や貿易の連携の強化が提唱されています。心強いですね。

山口義行『誰のための金融再生か-不良債権処理の非常識-』筑摩新書

2008-11-18 23:30:26 | 経済/経営
山口義行『誰のための金融再生か-不良債権処理の非常識-』筑摩書房新書、2002年

              
               誰のための金融再生か


 山口さんの本をもう一冊。前回の『経済再生は「現場」から始まる』と重なる部分がありますが,政府,官庁エコノミストの金融政策批判に力点があります。

 著者の本書執筆の第一の動機を「『マネーの世界』へと問題を矮小化したり,『市場原理』なるものに行き過ぎた拘泥りをもつことが,どのような理論的混乱や現実的悲劇を生み出すか,これをあきらかに」することと述べています(p.168)。

 この観点からインフレターゲット論からの日銀批判の問題点,不良債権処理の非現実性,ペイオフ解禁の不要性,自己資本比率を基準とする金融行政の陥弄を説いています。

 最後に「金融アセスメント(監督官庁に「円滑な資金需給」「利用者の利便」という2つの観点から,金融機関の活動を評価することを義務づけ,その「判断理由」を利用者が入手しやすい形で開示する)」の意義を強調しています。

 国民,中小企業化・中小金融機関の側にたって迷走する日本経済の問題点を明るみに出した力作です。

山口義行『経済再生は「現場」から始まる』中央公論社、2004年

2008-11-15 20:03:23 | 経済/経営

山口義行『経済再生は「現場」から始まる』中央公論社、2004年

                              経済再生は「現場」から始まる 市民・企業・行政の新しい関係

 著者の山口さんに、3年前に献本を受けました。すぐに読んで、読書ノートに書き込んでおいたものを引っ張り出して、以下に掲げます。

 「現場」を重視し,そこに「解」を見出すコンセプトがよいです。眼から鱗がおちました。全体は3章からなっています。

 第1章では,帳簿上の「不良債権処理」ではなく,「不良債権減らし」を提唱し,常陽銀行で経営改善支援活動の一環として対象となったある金属加工メーカーの支援,スーパーのM&Aが紹介されています。

 第2章では「壊す」のではなく「活かす」という観点から,榛名湖でのワカサギ漁の炭素繊維による再生,大阪産業創造館による企業ネットワークの構築,尾鷲総合病院でのNSTによる地域医療再生の経験について論じられています。

 第3章では近時における金融行政の転換,とくに中小・地域金融機関に対する施策の変化が示され,市民参加の新しい金融システム,金融アセスメントの提唱があります。

 「現場」第一義主義の視点にたつ鋭い問題提起と先進的な実践の成果をまとめた好書です。


安達智彦『株価の読み方』(新書)筑摩書房、1997年

2008-11-07 15:17:51 | 経済/経営
安達智彦『株価の読み方』(新書)筑摩書房、1997年

            株価の読み方

 10年ほど前の本なので今日の金融情勢を理解するには古いかなと思いきや、出版が日本型金融ビッグバンが始まったころなので現在の金融システムの大きな枠組みを理解するには役立ちました。ただ、難解な箇所もあります。

「第1章:株式と株式市場」、「第2章:株価の決まり方と株価予測」、「第3章:株価指数とデリバティズム」、「第4章:株式市場と日本経済を読む」。基礎的なタームの説明が行き届いていますが、それはともかく株式市場の存在理由が市場メカニズムによって資金の効率的な配分であること(「資本市場における資金の量には限度があるので、これをより高い収益をもたらすと期待される投資案件に、相対的により小さなコストで優先的・差別的に配分すること」[p.62])と明確に述べられているのが気に入りました。

 また、株式市場全体の将来水準を正規分布表で予測する試みに対して、1982年6月から94年3月までの収益率のデータの分布をみて、予測は失敗となることを検証し、このことをもって「株価形成は物理現象のようには扱えないという好例」(p.128)と述べているところにもガッテンです。

 最終章の「第4章:株式市場と日本経済を読む」はわかりやすく、面白いです。袖の惹句に「株式と株価についての基本的知識を身につけながら、21世紀に向けての投資のあり方までを解説し、かつフェアバリューを見失い混迷する株式相場を読み解く力がつくように編集された株式投資入門の書」とありますが、内容はどうしてどうしてかなり専門的です。

 著者の結論は、限られた資本が自由化(98年の「外為法」改訂など)によってグローバル化し日本で蓄積された資本が海外投資に向かうというのは必然である、ビッグバンのもとでは投資家の自己責任とともに企業サイドの情報開示も当然の流れである、ということのようです。

           
                  
    

読売新聞クルマ取材班『自動車産業は生き残れるか』中公新書クラレ、2008年

2008-10-26 00:17:28 | 経済/経営
読売新聞クルマ取材班『自動車産業は生き残れるか』中公新書クラレ、2008年

            

 今年はヘンリー・フォードがデトロイトで自動車の大量生産に乗り出し、最初の1台を完成させてから、
丁度100年目にあたります。また、昨年、我が国のトヨタ自動車は、自動車年間生産台数でGMを抜きトップの座に躍り出ました。自動車に関するトピックスが次々と報道されていますが、自動車産業はいま曲がり角にあります。

 第1章では、トヨタを初めとする日本の自動車産業の強さが分析されています。選び抜かれた技能者の熟練、「慢心」を諫める社訓、財務力の裏づけ、逸早く取り込んだ環境重視の姿勢、「ケイレツ(系列)」の強さ、あくなき探究心(究極の小型車開発)等々。

 しかし、死角があるのです。その分析が第2章です。BRICsで揚がる反撃の狼煙、国内市場の縮小、若者のクルマ離れ、環境問題への対応などです。自動車産業の現状は決して楽観できない状況のようです。

 そして、第3章には今後の可能性の示唆があります。自動運転(パーソナル・ビークル)、安全対策、女性をターゲットとした市場開発、車の魅力の発信。

 資料として「識者座談会」と「トヨタ学」の権威であるアメリカ・ミシガン大学のジェフェリー・ライカー教授へのインタビューが載っています。

 本書は「読売新聞」が2007年9-10月に一面に掲載した記事を基にしたものです。車好きの記者が集まって書いたらしいです。同時に社内の若手記者の発掘も意図したのだそうですが、「社内の若い世代にそれほど車好きが多くない」ことがわかったと書かれていました(p.215)。

伊藤セツ『生活・女性問題をとらえる視点』法律文化社、2008年

2008-10-13 00:08:14 | 経済/経営
伊藤セツ『生活・女性問題をとらえる視点』法律文化社、2008年  
               

 本書の表題は内容と寸部のズレがありません。文字どおり、生活と女性問題を考察する視点を示したものです。

 著者は経済理論(社会政策論)から出発して①社会政策論、②家政学、生活科学、生活経営学、③社会福祉学の3つの学問領域で精力的な仕事をしています。

 全体は2部構成で、第一部が「生活問題をとらえる-その視点と手法」、第二部が「女性問題をとらえる-思想・運動・労働」となっています。

 わたしがいくつか気づいたこと(またそれが本書のメリットでなのですが)が5点ありました。

 第一に国際的な女性問題の歴史の展開が俯瞰されています。19世紀後半の女性の権利運動、社会主義的女性解放運動、「第一波フェミニズム」「第二波フェミニズム」「第三波フェミニズム」と称される運動、国際民主婦人連盟の会議、国連世界女性会議、女性NGOフォーラム、「北京+5」「北京+10」、さらにINSTRAW(国際婦人調査訓練研究所)、UNIFEM(国連女性開発基金)などの活動です。

 第二は第一の指摘と関係しますが、現時点での女性労働問題の展開が仔細に紹介されています。「第10章・貧困の撲滅とディーセントワークをめざす世界の女性労働」ではこの問題を国連の最新の資料を使い、MDGs(ミレニアム開発目標)に焦点を絞って解説されているなどはその一例です。

 第三は「ジェンダー統計」に詳しいことです。ジェンダー統計の定義を著者は次のように書いています、「ジェンダー統計とは・・・統計の作成にあたって、たんに男女の区分があるというだけでなく、問題のある男女の状況把握や関係改善に連動することを認識して作成された統計である」と(p.86)。「第4章・ジェンダー統計視点にたつ」がこれに関するメインの章ですが、ジェンダー統計については他の章でも適宜触れられています。

 第四に著者は女性問題を理論的に深めているだけでなく、提言を積極的に行っていることです。ジェダー統計について、政府統計のユーザーとして5点にわたって提言(男女共同参画に関わる統計(ジェンダー統計)を意識した統計行政を!など)がなされています。

 最後に指摘したいのは、著者の視点の柔軟さです。女性の解放、権利の向上のための理論と実践には、階級視点を維持するとともに、同時にそれを相対化しつつ、より多面的にフェミニズムと称する運動が問題にしてきたことを取り込んだ内容が必要という著者の考え方がそれです。

 他にも、社会政策学会100周年記念シンポジウム「ジェンダーで社会政策をひらく」の意義(pp.45-46)、女性文化概念の概観(第7章)、日本の女性運動の展開(第9章)など、本書は女性問題についての汲めど汲みつくせぬ豊かな内容をもっています。

 本書は、生活・女性問題のシソーラス(語源はギリシャ語の単語で、その意味は「宝庫」)です。

ラッセル・ロバーツ『寓話で学ぶ経済学-自由貿易はなぜ必要か-』日本経済新聞社、1999年

2008-09-24 23:27:00 | 経済/経営
ラッセル・ロバーツ『寓話で学ぶ経済学-自由貿易はなぜ必要か-』日本経済新聞社、1999年。

             寓話で学ぶ経済学

 自由貿易のメリットを大筋のところで分かりやすく説いた書です。工夫が施され、自由貿易論者のかのデビット・リカードが1995年のアメリカに降り立ち、保護貿易政策で大統領選挙候補者の支持演説をしようとしているエド・ジョンソンに接触、エドの自由貿易に対する疑念をディベート形式で取り除いていくという内容です。

 自由貿易の利益と保護主義の弊害をアメリカ経済の実態に即しながら、経済理論的な説明をしています。

 論点は、貿易戦争、輸入による雇用の喪失、関税、数量規制など多岐にわたります。自由貿易により「富の迂回の論理」によってアメリカ国民全体が豊かさを享受できるのだ、というのが結論です。

 関税・数量規制が結局、国内価格の上昇を招き、消費者に損失を与えること、完全な保護貿易が雇用と就業の構造を閉塞させ、自給自足が貧困へ導くことが明示的に説明されています。

 アメリカの貿易相手国として、日本が再三、登場します。

 全体としてこの話を自由貿易の手放しの礼賛につなげてはまずいですね。注意しないと、アメリカの身勝手な議論になってしまうのではないでしょうか・・・。