蔵人橘盛季が、陰陽師安倍晴明と源博雅の元へ相談にやってきた。
四ヶ月程前に、会ったこともない女から歌をしたためた扇が届き、その後親しく手紙をやり取りするようになった。それから四十九日目。女の身内が、挨拶したいということで女の屋敷に呼ばれた盛季。その晩、まっかに溶けた銅を飲む、舅や姑、馬の頭や牛の頭をした者を見てしまい、その場から逃げ出したという……“銅酒の飲む女”、
橘花麻呂の娘で琴の上手だと評判だった透子姫が、桜の下で琴を弾いている最中消えてしまったという相談が持ち込まれた。
亡父が遺した天絃という琴を持ち出し、散らずの桜という別名を持つ、庭の桜の老樹<桃実>の下で弾いていたのだが、それは花麻呂が禁じていたことだったという……“桜闇、女の首。”、
太政大臣藤原兼家と息子の道長が相談にやってきた。しかし兼家は何故か首だけの姿。曰く目が覚めると首だけになっていたという。
文章博士の紀長谷雄が、鬼から天下の美女を得たという逸話のように、自分も美女が欲しいと願った兼家の前に、蘆屋道満が現れ、兼家と鬼が双六する様を見物させてくれたら、そんな美女を作ってくれるという話に乗ってしまったのだった……“首大臣”、
幼い頃から身体が弱かった橘麻呂は、観音教を読むことが好きだった。そんな彼は十歳を越えたころから不思議なことにたびたび遭遇しながらも、無事大人になったが、四十七歳の夏、突然亡くなった。
骸を葬るため、鳥辺野のほとりにやってきた彼の家族の前に、ひとりの老人が現われ、酒を馳走になった。彼は道満法師であった。橘麻呂の棺に入りこみ、翌朝再び来るように告げ……“道満、酒を馳走されて死人と添い寝する語”、
橘為次が相談にやってきたのだが、その貌からは両眼が消失していた。
三日前、糺の森に出かけた為次は、女が百足を食べているところを目撃してしまったことから、目玉をとられてしまったという。
取り戻すべく、見える光景を手掛りにその在り処を探すことに……“めなし”、
容貌魁偉ながら文才のあった橘季孝。幼き頃より白氏文集を諳んじるほどであったが、文章博士どころかずっと下の擬文章生という地位に甘んじていた。やがて酒を飲んで身体を壊し、寝込んでいたが、突然屋敷を飛び出し行方知れずとなった。
その後、都に人を襲う獣が現われるようになり、何故か去っていく時に詩を吟ずる声が聞こえるという噂が広まった。
そんな中、文章得業の瀬田忠正の家の者が、晴明の元へやってきた。忠正は、その獣が友人であった季孝ではないかと思い、会いに出かけたのだという……“新山月記”、
検非違使の役人橘貞則は、ある日土塀に囲まれた破れ寺で、女と、彼女に仕える老女、牛に出会う。
通っていた男が他の女と隠れてしまったことから、男が残した牛を形見に連れているという。頼まれ、貞則の屋敷にふたりと牛を引き取ることに。
しかし機織がうまいというその女・幡音は夜中になると姿を消すことに気づいた貞則は、その後、不思議な光景を目撃する。
悩んでいると蘆屋道満が現われて……“牛怪”、
東三条殿の南の築山に、夜になると五位の装束を身につけ、身の丈三尺ばかりの太った男が徘徊するという。曰く、徘徊する月であるらしい。
式部卿宮は、望月の晩に何かがあるのではと心配していて……“望月の五位”、
多人と真人という猟師の兄弟が、老いた母と三人で暮らしていた。
ある日、二人が猟に出かけていたところで、何者かが多人の髻をひっぱり上げていた。その手を射たところ、それを残して逃げていった。
家に帰ると、母が恐ろしい形相で……“夜叉婆あ”の9編からなる短編集。
すでにシリーズ何作目かは忘れてしまいましたが、今年で25周年だとか。
割といつものパターンを踏襲しつつも、今回は道満の出番が多めかな?
そして相談に来るヒトが何気に橘氏が多い気が(笑)。
<12/12/14>
四ヶ月程前に、会ったこともない女から歌をしたためた扇が届き、その後親しく手紙をやり取りするようになった。それから四十九日目。女の身内が、挨拶したいということで女の屋敷に呼ばれた盛季。その晩、まっかに溶けた銅を飲む、舅や姑、馬の頭や牛の頭をした者を見てしまい、その場から逃げ出したという……“銅酒の飲む女”、
橘花麻呂の娘で琴の上手だと評判だった透子姫が、桜の下で琴を弾いている最中消えてしまったという相談が持ち込まれた。
亡父が遺した天絃という琴を持ち出し、散らずの桜という別名を持つ、庭の桜の老樹<桃実>の下で弾いていたのだが、それは花麻呂が禁じていたことだったという……“桜闇、女の首。”、
太政大臣藤原兼家と息子の道長が相談にやってきた。しかし兼家は何故か首だけの姿。曰く目が覚めると首だけになっていたという。
文章博士の紀長谷雄が、鬼から天下の美女を得たという逸話のように、自分も美女が欲しいと願った兼家の前に、蘆屋道満が現れ、兼家と鬼が双六する様を見物させてくれたら、そんな美女を作ってくれるという話に乗ってしまったのだった……“首大臣”、
幼い頃から身体が弱かった橘麻呂は、観音教を読むことが好きだった。そんな彼は十歳を越えたころから不思議なことにたびたび遭遇しながらも、無事大人になったが、四十七歳の夏、突然亡くなった。
骸を葬るため、鳥辺野のほとりにやってきた彼の家族の前に、ひとりの老人が現われ、酒を馳走になった。彼は道満法師であった。橘麻呂の棺に入りこみ、翌朝再び来るように告げ……“道満、酒を馳走されて死人と添い寝する語”、
橘為次が相談にやってきたのだが、その貌からは両眼が消失していた。
三日前、糺の森に出かけた為次は、女が百足を食べているところを目撃してしまったことから、目玉をとられてしまったという。
取り戻すべく、見える光景を手掛りにその在り処を探すことに……“めなし”、
容貌魁偉ながら文才のあった橘季孝。幼き頃より白氏文集を諳んじるほどであったが、文章博士どころかずっと下の擬文章生という地位に甘んじていた。やがて酒を飲んで身体を壊し、寝込んでいたが、突然屋敷を飛び出し行方知れずとなった。
その後、都に人を襲う獣が現われるようになり、何故か去っていく時に詩を吟ずる声が聞こえるという噂が広まった。
そんな中、文章得業の瀬田忠正の家の者が、晴明の元へやってきた。忠正は、その獣が友人であった季孝ではないかと思い、会いに出かけたのだという……“新山月記”、
検非違使の役人橘貞則は、ある日土塀に囲まれた破れ寺で、女と、彼女に仕える老女、牛に出会う。
通っていた男が他の女と隠れてしまったことから、男が残した牛を形見に連れているという。頼まれ、貞則の屋敷にふたりと牛を引き取ることに。
しかし機織がうまいというその女・幡音は夜中になると姿を消すことに気づいた貞則は、その後、不思議な光景を目撃する。
悩んでいると蘆屋道満が現われて……“牛怪”、
東三条殿の南の築山に、夜になると五位の装束を身につけ、身の丈三尺ばかりの太った男が徘徊するという。曰く、徘徊する月であるらしい。
式部卿宮は、望月の晩に何かがあるのではと心配していて……“望月の五位”、
多人と真人という猟師の兄弟が、老いた母と三人で暮らしていた。
ある日、二人が猟に出かけていたところで、何者かが多人の髻をひっぱり上げていた。その手を射たところ、それを残して逃げていった。
家に帰ると、母が恐ろしい形相で……“夜叉婆あ”の9編からなる短編集。
すでにシリーズ何作目かは忘れてしまいましたが、今年で25周年だとか。
割といつものパターンを踏襲しつつも、今回は道満の出番が多めかな?
そして相談に来るヒトが何気に橘氏が多い気が(笑)。
<12/12/14>