黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『ことり』小川洋子(朝日新聞出版)

2012-12-04 | 読了本(小説、エッセイ等)
“小鳥の小父さん”と呼ばれていた老人が、ひっそりと亡くなった。
幼い頃から小鳥のさえずりに似た独自の言語・ポーポー語で会話する、七歳違いの兄と暮らしていた小父さん。その言葉をただひとり正しく理解していたのは、彼だけだった。両親が亡くなった後、ずっと兄と二人で暮らしていた小父さん。毎週水曜日に薬局で買う、飴の包み紙で小鳥のブローチを作る兄。
やがて兄は五十代で亡くなり、兄が愛した幼稚園の鳥たちの小屋を、掃除することに生き甲斐を見出し、小鳥の小父さんという、その呼び名を得るに至る。
ささやかな会話を交わす図書館の司書の女性に淡い恋心を抱いたり、小箱で虫の愛でる老人と出会ったりしつつも、小父さんのひっそりとした日々は過ぎてゆく……

小鳥の小父さんと呼ばれた老人が孤独死し、その傍らの鳥籠にメジロが一羽、というところから始まり、遡って語られる彼の一生。
けして世間的に見て恵まれているわけではないけれど、他人からすると些細なように思えることに対して、特別な意味を見い出せる、ただその人だけに開かれている深遠な世界を持つというのは、とても素敵で、羨ましい。
派手な題材で書く方はたくさんいるけれど、こういった静謐で繊細な空気を作り出せるのは、やはり小川さんかな、と思う。

<12/12/4>