黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『踊る猫』折口真喜子(光文社)

2012-12-13 | 読了本(小説、エッセイ等)
以前から交流のあった、島原の太夫と俳人・与謝蕪村は、太夫が詠んだ句がきっかけで、もっと昔にふたりが会っていたことに気づく。
かつて旅をしていた蕪村は、ある村で女の子に出会った。その村の川にはむかしから<かわたろ>が住んでいて、川の岩場から聞こえる鳴き声だという話を聞く。その女の子が後の太夫である、お滝だった。
彼女はその後辿った人生を語る……“かわたろ”、
旅僧の姿の男が、夏の山中を歩いていた。山中で迷い、おまけに昼のはずなのに暗くなってきた。
歌声のする方へ向かうと、そこに人の丈くらいの白いものがうごめくのをみて……“月兎”、
喧噪の夏が終わり、秋の前の京都。絵師をしている岩次郎と語らう蕪村。
二十年程前、玩具屋に奉公していた岩次郎の絵の才能に目をつけた蕪村は、修行させてはどうかと主人に進言。その後、めきめきと腕を上げ、名を馳せる岩次郎だったが、自分の作風に思い悩んでいた……“踊る猫”、
小川で小さな男の子を折檻する父親に遭遇した蕪村。その男の子・新吉にうどんをおごってやりながら、その身の上話を聞き、いい子だったら周りの人が助けてくれると、言い聞かせる。
その数日後、俳諧仲間の太祇にその話を聞かせつつ、むしょうに亡くなった母親のことが思い出されると語る蕪村……“鉦叩き”、
冬の名残りのような雪が積もる中で行なわれた茶会に出席した蕪村。
その場に居合わせた盲目の琵琶法師は、物に触って何かわからないのに、思いの方が先に伝わってくることもあるといい、ある話をする。それは山の土に埋もれていた髑髏の思いだという……“雪”、
伏見の霍英が子を亡くしたと聞いた蕪村は、手紙を書くべく彼に贈る句を読む…<ろうそくの 涙氷るや 夜の鶴>と。その歌をたまたま聞いていた小料理屋の下女・お咲は、密かに涙する。彼女もまた秋に子を亡くしたばかりだった……“夜の鶴”、
豆腐屋の店先で喧嘩する、遣り手ばばあのお駒を見かけた蕪村は、彼女に興味を持ち話しかける。俳諧に興味がないというお駒に、何が好きなのかと尋ねる。
そんなお駒から、これまでの人生について聞くことに……“鳶と烏”、
突然の雨に降られ、軒下に逃げ込んだ蕪村。
そこで先客である貸本屋の男と話すが、相手が蕪村と知らぬ男は、<関の戸の 或夜きつねの 敲きけり>という蕪村の句を挙げ、狐は戸をたたくだろうかと口にする。
そして男が語ったのは、自分の故郷の話だった……“雨宿り”、
句作りに詰まり、物知りな元与力の隠居・神沢杜口の元を訪れた蕪村。そこへ相談したいことがあると、女がやってきて、一緒に話を聞くことに。
女はおしのといい、女手ひとつで成長の遅い息子・良吉を育てているという。
そんな中、大店の女房が亡くなる事件が起きた。あったはずの銀の粒が無くなっていたことから良吉が盗人と疑われ捕まってしまったという。良吉が銀の粒を持っていたからだというのが理由だが……“梨の花”の9編連作短編と、
若き植木職人の宗七は、たまたま寄った二八蕎麦の屋台の親父・萬里から、見鬼かと問われる。彼が一緒にいると霊を見てしまうことが多いということだが、そのせいか武家の御新造らしき女の幽霊を見てしまう。
その翌日、仕事で武家屋敷を訪ねた宗七は、そこに仕える女・お藤に既視感を覚え、如月の頃、梅の木の下で見かけた美しく仲睦まじい若き武家夫婦の、妻が先の幽霊だったと思い出す。
そんな幽霊の願いを叶える為、手を貸すことになった宗七と萬里だったが……“梅と鴬”の短編を収録。

最後の一編は、デビュー作である第三回小説宝石新人賞受賞作で、幽霊の女のヒトの為に奔走する植木屋さんたちの話。
他の話は、俳人・与謝蕪村を中心に、彼が遭遇したり人から聞いたりしたちょっと不思議なエピソードを綴った連作短編。
装丁の可愛らしさとタイトルに惹かれて読みました(笑)。
昔話のようなちょっとした不思議を、しみじみとした叙情を漂わせる筆致で描かれています。
派手に騒動が起きたりするわけではないけれど、なかなか素敵な一冊。

<12/12/12,13>