バルカン半島に位置する、東欧の小国<スキタイ=パンノニア=トランスバルカニア三重帝国>。複雑に言語や宗教、民族が入り混じるその国で、あまねく知られた存在である、エンゲルベルト・エステルハージ博士。
法学博士、医学博士、哲学博士、文学博士、理学博士などの多くの博士号を持ち、国内で、後にも先にもただ一人、優れた器量は右に出る者なしといわれている存在。
そろそろ晩秋の声を聞くある日、警視総監のロバッツが、博士の元を訪れた。
旧金箔師アーケードの小科学展という見世物で、三十余年眠り続けているというイギリス人女性ポリー・チャームズが話題となっているという。彼女は眠りながらも質問に答え、歌も歌うという。
下手物好きなふたりは、連れだってそれを観に出かけるが、その後、アーケードで火事が起き……『眠れる童女、ポリー・チャームズ』、
グロス=クロプレッツ温泉を訪れていたエステルハージは、そこでエルサレムの王を名乗る男と出会う。
それから数ヶ月後、博士の元に、何者かが、新聞<ベラ・イヴニング・ガゼット>紙の文芸欄に“スラッジに会え”、謎の伝言を置いていった。
その新聞社社を訪れたエステルハージは、スラッジに会い、エルサレムの宝冠が盗まれた事件について聞く。それは、キプロスの王冠、またはエルサレムの宝冠と呼ばれる帝国の宝が盗まれた一件。その事件について、得意の骨相学を用い、調査することになった博士は……『エルサレムの宝冠 または、告げ口頭』、
叔母エマに頼まれ、彼女が相続したスフラーフスと呼ばれる土地の差配・チルペリッツが、地代をごまかしているのでは、という疑惑について確認しに行くことになった博士。
その地には、熊と暮らす老婆がいるという……『熊と暮らす老女』、
三重帝国の文化相・ウラデック伯爵の元に、“神聖伏魔殿”という団体が、集会の認可を求めてきたという、書類に不備はないのだが、それに署名してしまったら大臣を辞めなければならないと悩む彼に、第一秘書のブルーノはエステルハージ博士に相談するようにと提案する。
かくして、その依頼を受け、その団体に探りを入れにいった博士だったが……『神聖伏魔殿』、
流行らないホテル<ホテル・グランド・ドミニク>に住みついている、イギリス人魔術師スミートを、エステルハージが訪ねた。
ミロード・サー・スミートこと、ジョージ・ペンバートン・スミスは、自然力オッドを用い、さまざまな人の頼みを引き受けているらしい。
それからひと月ほど経って、急速に親交を深めていた博士とスミス。
一方、在留外国人局監督官三等補佐・ルペスカスは、不慣れな調べものを強いられていた。ミロード・サー・スミートという人物について、あちこちに話を聞き、調査するのだが……『イギリス人魔術師 ジョージ・ペンバートン・スミス卿』、
家政婦の針箱の修理のお使いを頼まれ、ゴールデン・ハート小路にある店・ワイドモンドルに出かけたエステルハージ。
店の主人・セリグマン曰く、それは彼の父の代に作られた安物で、真珠の擬母貝・胎貝を材料としているという。先週までは材料に在庫がなかったが、ちょうど仕入れたばかりで、2週間ほどで修理ができるらしい。そこへ現われた店員が“ルールライは貝殻をひり出さなくなった”という(ローレライをその地方ではルールライというという)。
小ウロクスのロルドランド卿から博士に電話が。
水の精オンディーヌが現われ、彼の魂を狙っているという。村人は、ルールライの出現を恐れ、蕎麦作りに精を出さずに、困っているらしい。その地を訪れ、調べ始めた博士は……『真珠の擬母』、
指輪を買おうと金細工の店を探す人間に声をかけては、金の指輪を安く売る男がいるという。
しかし彼が売った指輪は、純金よりも純度が高い金で作られており、じきに歪むかもしくは千切れて駄目になるらしい。
そんな苦情がたびたび持ち込まれ、宝石商会の会長デ・ホーフトは頭を悩ませていた。
その話を聞いた博士は……『人類の夢 不老不死』、
不意に思い立ち、工事を見に出かけた、エステルハージ。
そこで見かけた年老いた人夫の容貌は、何故か老皇帝を彷彿とさせるもので……『夢幻泡影 その面差しは王に似て』の8編収録。
事件簿とついているけれど、ミステリなわけではなく、ホラーやら幻想やらいろんなちょっとテイストの不思議なお話の連作。
19世紀末~20世紀初めくらいの東欧の架空の小国が舞台。いろんな分野の博士号を持っている博覧強記なエステルハージ博士に持ち込まれる、あるいは関わることになった怪事件のあれこれが描かれています。
ちょっとわかりにくい話(国の設定がそもそも細かい…)もあったりで、読む人を選びそうな感じが、いかにも河出(笑)。
『眠れる~』あたりが好みですが、『イギリス人~』の三等補佐の勘違いっぷりもかなりおかしい…(笑)。
<11/6/20,21>
法学博士、医学博士、哲学博士、文学博士、理学博士などの多くの博士号を持ち、国内で、後にも先にもただ一人、優れた器量は右に出る者なしといわれている存在。
そろそろ晩秋の声を聞くある日、警視総監のロバッツが、博士の元を訪れた。
旧金箔師アーケードの小科学展という見世物で、三十余年眠り続けているというイギリス人女性ポリー・チャームズが話題となっているという。彼女は眠りながらも質問に答え、歌も歌うという。
下手物好きなふたりは、連れだってそれを観に出かけるが、その後、アーケードで火事が起き……『眠れる童女、ポリー・チャームズ』、
グロス=クロプレッツ温泉を訪れていたエステルハージは、そこでエルサレムの王を名乗る男と出会う。
それから数ヶ月後、博士の元に、何者かが、新聞<ベラ・イヴニング・ガゼット>紙の文芸欄に“スラッジに会え”、謎の伝言を置いていった。
その新聞社社を訪れたエステルハージは、スラッジに会い、エルサレムの宝冠が盗まれた事件について聞く。それは、キプロスの王冠、またはエルサレムの宝冠と呼ばれる帝国の宝が盗まれた一件。その事件について、得意の骨相学を用い、調査することになった博士は……『エルサレムの宝冠 または、告げ口頭』、
叔母エマに頼まれ、彼女が相続したスフラーフスと呼ばれる土地の差配・チルペリッツが、地代をごまかしているのでは、という疑惑について確認しに行くことになった博士。
その地には、熊と暮らす老婆がいるという……『熊と暮らす老女』、
三重帝国の文化相・ウラデック伯爵の元に、“神聖伏魔殿”という団体が、集会の認可を求めてきたという、書類に不備はないのだが、それに署名してしまったら大臣を辞めなければならないと悩む彼に、第一秘書のブルーノはエステルハージ博士に相談するようにと提案する。
かくして、その依頼を受け、その団体に探りを入れにいった博士だったが……『神聖伏魔殿』、
流行らないホテル<ホテル・グランド・ドミニク>に住みついている、イギリス人魔術師スミートを、エステルハージが訪ねた。
ミロード・サー・スミートこと、ジョージ・ペンバートン・スミスは、自然力オッドを用い、さまざまな人の頼みを引き受けているらしい。
それからひと月ほど経って、急速に親交を深めていた博士とスミス。
一方、在留外国人局監督官三等補佐・ルペスカスは、不慣れな調べものを強いられていた。ミロード・サー・スミートという人物について、あちこちに話を聞き、調査するのだが……『イギリス人魔術師 ジョージ・ペンバートン・スミス卿』、
家政婦の針箱の修理のお使いを頼まれ、ゴールデン・ハート小路にある店・ワイドモンドルに出かけたエステルハージ。
店の主人・セリグマン曰く、それは彼の父の代に作られた安物で、真珠の擬母貝・胎貝を材料としているという。先週までは材料に在庫がなかったが、ちょうど仕入れたばかりで、2週間ほどで修理ができるらしい。そこへ現われた店員が“ルールライは貝殻をひり出さなくなった”という(ローレライをその地方ではルールライというという)。
小ウロクスのロルドランド卿から博士に電話が。
水の精オンディーヌが現われ、彼の魂を狙っているという。村人は、ルールライの出現を恐れ、蕎麦作りに精を出さずに、困っているらしい。その地を訪れ、調べ始めた博士は……『真珠の擬母』、
指輪を買おうと金細工の店を探す人間に声をかけては、金の指輪を安く売る男がいるという。
しかし彼が売った指輪は、純金よりも純度が高い金で作られており、じきに歪むかもしくは千切れて駄目になるらしい。
そんな苦情がたびたび持ち込まれ、宝石商会の会長デ・ホーフトは頭を悩ませていた。
その話を聞いた博士は……『人類の夢 不老不死』、
不意に思い立ち、工事を見に出かけた、エステルハージ。
そこで見かけた年老いた人夫の容貌は、何故か老皇帝を彷彿とさせるもので……『夢幻泡影 その面差しは王に似て』の8編収録。
事件簿とついているけれど、ミステリなわけではなく、ホラーやら幻想やらいろんなちょっとテイストの不思議なお話の連作。
19世紀末~20世紀初めくらいの東欧の架空の小国が舞台。いろんな分野の博士号を持っている博覧強記なエステルハージ博士に持ち込まれる、あるいは関わることになった怪事件のあれこれが描かれています。
ちょっとわかりにくい話(国の設定がそもそも細かい…)もあったりで、読む人を選びそうな感じが、いかにも河出(笑)。
『眠れる~』あたりが好みですが、『イギリス人~』の三等補佐の勘違いっぷりもかなりおかしい…(笑)。
<11/6/20,21>