紅雲町で、こだわりのコーヒーと和雑貨を商う店・小蔵屋を営む杉浦草は、ある日、アパートの植込みに、置き去りにされている裸の人形を見かけて気にかかり、そこにあった空色のマフラーでくるんでおいた。
数日後、同じ場所を通りかかった草は、子供がそれを手にしているのを見かけ、声をかけた。髪が長く、一見女の子かと思ったが、よく見ると少年。その人形について問うた途端、それを投げつけて逃げて行ってしまう。
翌日、人形に新しい服を作った草は、アパートの近くで、彼の姿を探すが見つからず、前日彼が入っていった101号室で、田沼と出会う。
少年はタケルといい、田沼の姉の息子。姉は連れ子同士で再婚し、長野で蕎麦屋を営んでいたが、離婚話が出ており、その話の間、田沼が預かっているというのだった。タケルは、相手の連れ子だった女の子と仲の良かったという……“第一話 如月の人形”、
先頃、隣の市から妻子連れで実家に戻った青砥という、顔見知りの家の長男が、草の元にやってきた。
福司作業所・たんぽぽでボランティアをしている彼は、そこで作っているキャンドルを店に置いて欲しいという。何とかしたいと気にかかりつつも、取り扱うものにこだわりのある草は、その話を断ることに。
そんな中、かつて和菓子屋だったところに、<つづら>という和雑貨の店がオープン。営業妨害紛いのやり口を、小蔵屋に仕掛けてきており、憤る店員・久実を宥める草。
そんな中、ラジオでつづらが例のキャンドルを取り扱うという話が美談として取り上げられ、心中複雑な草だったが、その数日後、ひょんなことから、それがおまけとして配られていると知り、穏やかではいられなかった。
ふと妙案を思いつき、それを青砥を通さずに、直接たんぽぽに話を持って行ったのだが……“第二話 卯月に飛んで”、
乃木坂で美術館に寄った草は、彫刻家の須之内ナオミに偶然再会する。
「あの日、旧講堂の窓辺にいたのは誰か知りたい」というナオミ。
あの日、とは、ハーフの彼女がアメリカ人の父を頼りに渡米した日。同じ高校の制服を着た女の子の姿を見たというのだが、顔がわからなかったと言う。病を得ており、もう日本には来ないという彼女は、最後の心残りの真相を草に託すつもりであるらしい。
彼女と出会ったのは三十年前。当時四十二、三歳だった草は、知り合いの呉服店に手伝いに行かされるが、それが実は仕組まれたお見合いだとわかり、何となく抜け出しては、店の隣にある、元女子高の旧講堂だった建物で時間をつぶしていた。
ある日、そこで女子高生三人が、あるネタで美術教師らしい男を脅している場面を目撃。それを影から同様に見ていたのがナオミだった。曰く、脅しのネタになっているのはナオミであるという。その後、頼まれた草は、その件について手を貸した、といういきさつがあった。
ナオミの妹・洋子に話を訊き、件の三人…ノリコ、アオイ、ユウキ…をあたることに……“第三話 水無月、揺れる緑の”、
夏期休業前の最後の定休日、友人・由紀乃の家を訪ね、お昼を食べてゆっくり過ごす約束をしていたが、彼女の都合が悪くなったらしい電話が入る。それも途中で切れ、掛け直すのも憚られた草は、そこでたまたま、よく顔を合わせる男と出会い、彼の馴染みのカレー専門店『香菜』に連れて行かれる。
彼と合うのは寺で、亡き息子・良一の月命日である六日。男は妹尾といい、この店の斜め裏に住んでいるという。店を営むのは、草もたびたび寺で見かけたことのある香菜という女性で、彼女の夫・稔は、二年前に店のオープンを目前にして亡くなったのだという。稔は、妹尾の後輩でもあるのだった。
そこへシュウスケという男が乗り込んできて、香菜たちと、ダイデン不動産、建設会社の長要らに嵌められ、店を騙し取られたのだと言い立てた。彼は稔のいとこだというが、どこかからその話を聞き、ゆすっているに過ぎなかった。
夫の為とはいえ、やむをえずその話に乗った香菜は、その手口について草に語る。それは、先頃横行している件に関わりがあるのではないかと睨むが……“第四話 葉月の雪の下”、
店に無言電話がたびたびかかってくるようになり、気になる草。
つづらでは、店舗の元の持ち主である和菓子屋・泉堂の主人が座り込んだり、放火騒ぎも。
そんな中、先の一件で再会した能理子が話があると、店にやってきたがいつの間にか姿を消していた。その後、灯油の入ったペットボトルを投げ捨てる彼女を目撃した草は、真意を確かめるべく、彼女の営む鮨屋に出かけると店は潰れていた。何とか捕まえ話を聞いたところ、どうやら彼女も、一連の手口に引っかかったものらしく……“第五話 神無月の声”、
草は、詐欺事件について確かめるべく、ダイデンや長要らと関わりのある、マルフジの会長・藤原一京に会いに行くことに…彼は、以前、草との間に見合い話が持ち上がったことのある相手だった。
連絡がつかずに困っているところで、彼の姪・ハツ子の存在を思い出し、何とかその行方を突き止めた草。彼は北爪という女性の父という設定で、病院にいた……“第六話 師走、その日まで”を収録。
こだわりの和雑貨とコーヒーの店を営む、アクティブなおばあちゃん・お草さんの活躍するコージーミステリの連作・第二弾。
このシリーズがデビュー作で、その後いろんなジャンルのお話を書かれてる吉永さんですが、やはりこの辺の話が個人的には好みかな?
<11/6/7,8>
数日後、同じ場所を通りかかった草は、子供がそれを手にしているのを見かけ、声をかけた。髪が長く、一見女の子かと思ったが、よく見ると少年。その人形について問うた途端、それを投げつけて逃げて行ってしまう。
翌日、人形に新しい服を作った草は、アパートの近くで、彼の姿を探すが見つからず、前日彼が入っていった101号室で、田沼と出会う。
少年はタケルといい、田沼の姉の息子。姉は連れ子同士で再婚し、長野で蕎麦屋を営んでいたが、離婚話が出ており、その話の間、田沼が預かっているというのだった。タケルは、相手の連れ子だった女の子と仲の良かったという……“第一話 如月の人形”、
先頃、隣の市から妻子連れで実家に戻った青砥という、顔見知りの家の長男が、草の元にやってきた。
福司作業所・たんぽぽでボランティアをしている彼は、そこで作っているキャンドルを店に置いて欲しいという。何とかしたいと気にかかりつつも、取り扱うものにこだわりのある草は、その話を断ることに。
そんな中、かつて和菓子屋だったところに、<つづら>という和雑貨の店がオープン。営業妨害紛いのやり口を、小蔵屋に仕掛けてきており、憤る店員・久実を宥める草。
そんな中、ラジオでつづらが例のキャンドルを取り扱うという話が美談として取り上げられ、心中複雑な草だったが、その数日後、ひょんなことから、それがおまけとして配られていると知り、穏やかではいられなかった。
ふと妙案を思いつき、それを青砥を通さずに、直接たんぽぽに話を持って行ったのだが……“第二話 卯月に飛んで”、
乃木坂で美術館に寄った草は、彫刻家の須之内ナオミに偶然再会する。
「あの日、旧講堂の窓辺にいたのは誰か知りたい」というナオミ。
あの日、とは、ハーフの彼女がアメリカ人の父を頼りに渡米した日。同じ高校の制服を着た女の子の姿を見たというのだが、顔がわからなかったと言う。病を得ており、もう日本には来ないという彼女は、最後の心残りの真相を草に託すつもりであるらしい。
彼女と出会ったのは三十年前。当時四十二、三歳だった草は、知り合いの呉服店に手伝いに行かされるが、それが実は仕組まれたお見合いだとわかり、何となく抜け出しては、店の隣にある、元女子高の旧講堂だった建物で時間をつぶしていた。
ある日、そこで女子高生三人が、あるネタで美術教師らしい男を脅している場面を目撃。それを影から同様に見ていたのがナオミだった。曰く、脅しのネタになっているのはナオミであるという。その後、頼まれた草は、その件について手を貸した、といういきさつがあった。
ナオミの妹・洋子に話を訊き、件の三人…ノリコ、アオイ、ユウキ…をあたることに……“第三話 水無月、揺れる緑の”、
夏期休業前の最後の定休日、友人・由紀乃の家を訪ね、お昼を食べてゆっくり過ごす約束をしていたが、彼女の都合が悪くなったらしい電話が入る。それも途中で切れ、掛け直すのも憚られた草は、そこでたまたま、よく顔を合わせる男と出会い、彼の馴染みのカレー専門店『香菜』に連れて行かれる。
彼と合うのは寺で、亡き息子・良一の月命日である六日。男は妹尾といい、この店の斜め裏に住んでいるという。店を営むのは、草もたびたび寺で見かけたことのある香菜という女性で、彼女の夫・稔は、二年前に店のオープンを目前にして亡くなったのだという。稔は、妹尾の後輩でもあるのだった。
そこへシュウスケという男が乗り込んできて、香菜たちと、ダイデン不動産、建設会社の長要らに嵌められ、店を騙し取られたのだと言い立てた。彼は稔のいとこだというが、どこかからその話を聞き、ゆすっているに過ぎなかった。
夫の為とはいえ、やむをえずその話に乗った香菜は、その手口について草に語る。それは、先頃横行している件に関わりがあるのではないかと睨むが……“第四話 葉月の雪の下”、
店に無言電話がたびたびかかってくるようになり、気になる草。
つづらでは、店舗の元の持ち主である和菓子屋・泉堂の主人が座り込んだり、放火騒ぎも。
そんな中、先の一件で再会した能理子が話があると、店にやってきたがいつの間にか姿を消していた。その後、灯油の入ったペットボトルを投げ捨てる彼女を目撃した草は、真意を確かめるべく、彼女の営む鮨屋に出かけると店は潰れていた。何とか捕まえ話を聞いたところ、どうやら彼女も、一連の手口に引っかかったものらしく……“第五話 神無月の声”、
草は、詐欺事件について確かめるべく、ダイデンや長要らと関わりのある、マルフジの会長・藤原一京に会いに行くことに…彼は、以前、草との間に見合い話が持ち上がったことのある相手だった。
連絡がつかずに困っているところで、彼の姪・ハツ子の存在を思い出し、何とかその行方を突き止めた草。彼は北爪という女性の父という設定で、病院にいた……“第六話 師走、その日まで”を収録。
こだわりの和雑貨とコーヒーの店を営む、アクティブなおばあちゃん・お草さんの活躍するコージーミステリの連作・第二弾。
このシリーズがデビュー作で、その後いろんなジャンルのお話を書かれてる吉永さんですが、やはりこの辺の話が個人的には好みかな?
<11/6/7,8>