昭和八年。子爵の家柄でありながら、ロシアの没落貴族の娘を祖母を持ち、パリで享楽的な生活を送っていた両親の元に育った、麻倉清彬。九歳で両親が事故死し、元老として絶大な影響力を持つ大伯父・周防高輝により、十歳で日本に連れてこられた彼は、現在二十七歳。天涯孤独な身の上で、職につくこともなく、暇を持て余す日々を送っていた。
彼の唯一の友人ともいえる、多岐川伯爵家の長男・嘉人の名で呼び出された清彬が、上野のカフェー<聚楽>へ出かけて行くと、そこには殺人の疑いをかけられた彼と、男の死体が。知らない人間だという嘉人の言葉を信じ、とっさに機転をきかせ、でたらめな推理で、警察から彼を解放させる清彬。
だが翌日、特高警察の黒崎が、白金の清彬の屋敷を訪れた。死んでいた男は、嘉人の予約した部屋を彼の名を告げて来店しており、そこで見つかったのは偶然ではないらしい。しかも、嘉人の妹・万里子を天皇家の側室にという話が出ており、それを巡って父である多岐川伯爵と嘉人は口論になっていたという。その件も絡み、黒崎から嘉人を探って欲しいと依頼される。
万里子に密かに好意を抱き、結婚の申込まで考えていた清彬は、それを察知した多岐川伯爵にロシア人の血ゆえに拒絶され、その思いをあきらめざるを得なかったという過去があった。
とりあえず、陸軍の歩兵第三聯隊に所属する嘉人の元を訪れた清彬。
そんな中、万里子が共産主義の活動家として逮捕されたと、屋敷を訪れた伯爵が告げ……
共産主義や軍部の台頭、そして華族の退廃著しい昭和初期を舞台にしたお話。一応、殺人事件も起きているミステリですが、その犯人当てよりも、この時代背景を描くことがメインっぽいかも。
どちらからも受け入れられない、清彬の孤独さ加減がどうにも切ないですね;
もうちょっと彼を見て(読んで)みたいので、続編じゃなくても、どこかに出てきて欲しいです(笑)。
<11/5/14,15>