黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『神隠し 子預かり屋こはる事件帖』翔田寛(PHP研究所)

2011-05-06 | 読了本(小説、エッセイ等)
天保八年四月、神田百壁町の甚兵衛長屋近くにある、煮売り屋・おかめ。
一年前に、腕利きの大工だった亭主・幸次郎と死に別れ、一人娘のさなえを連れて出戻ったこはるが、母・おていと営む店だが、最近は競争相手も増えて、売り上げは今ひとつ。そんなこはるは、子供をあやすのがうまいと専らの評判の持ち主だ。そんなある日、青物売りの庄太と女房のおよねが大喧嘩を始め、仲裁に入ったこはる。
およねのへそくりの一朱銀二枚を盗んで、おえんと酒を飲んでいたのだろうと責めるおよね。朝起きた庄太の顔や手には“笹色紅”がついており、今では廃れているそれをつけているのは、近所では元芸者だったおえんだけだったからだ。おえんは近所の男たちにたびたびちょっかいをかけていたことから、近所では評判が悪かった。
庄太の言い分では、とった金は一朱銀一枚で、倅の太一の奉公先が決まった祝いで飲んでいただけだから、おえんとは一緒ではなかった、と言う。しかもその証拠を見せてやる、とまで言う庄太。
先ほど、こはると鉢合わせするまで、およねから逃げ回り、おえんが身を寄せている甥・文七夫婦の長屋の床下に隠れていたという庄太は、そこで一昨日おえんが夫婦の留守中に頓死したという話を聞く。その場には、目の悪い娘・おりんがいたが、風邪で寝入っており、気づかなかったらしい。
しかし、その死んでいるはずのおえんが、昨日、金貸しの菊蔵の家に、文七たちの借金を返しにいったらしい、というのだった。おまけに庄太が昨日文七の家の前で、三味線の音を聞いていた。
その一件について、自身番に届けたこはるたち。調べをすすめることになったのは、定町廻り同心の武藤誠之助。こはるはつい気になり、あれこれ思いを巡らせる……“第一話 幽霊が返した借金”、
煮売り屋の売り上げが捗々しくないことから、先月から、空いてる部屋を利用して<子預かり屋>を始めたこはる。
先の一件で有能さを見込んだ、おりんを手伝いに頼んだのだが、肝心の客は一向に増えない。
そんな中、与兵衛長屋の周蔵が殺められたという話を武藤から聞いたこはる。しかも女房・おせんの連れ子である十四の娘・お初の姿が見当たらないという。
昔こはるが、姉のように慕っていたおせんは、実に運の悪い女だった。最初の亭主・蓑吉を流行病で亡くし、その両親の介抱と子育てに追われた末、周蔵と所帯を持ったのだが、博打に嵌まって暴力を振るうようになっていた。
周蔵の家から、男たちが騒がしくしている音が聞こえたらしく、お初は周蔵が賭場で作った借金の為に連れて行かれたのではと思われたが……“第二話 運の悪い女”、
菊蔵にどうしてもと頼まれ、日本橋数寄屋町の提灯屋・なか屋に出張子守を頼まれたこはる。
女隠居の曾孫にあたる男の子・小太郎が、誰があやしても泣きやまずに困っているという。
店に出向いて訊くと、生まれてすぐに母を亡くして以来、小太郎が懐いていたお照という娘が、半月前に忽然と姿を消してしまったらしい。母同然の存在をなくした穴を、自分や他の者が埋めるのは無理だと察したこはるは、お照を探すことを提案するが、逆にそれを頼まれてしまう。
誰にでも優しく接し、できた娘だと評判だったお照。若旦那・新蔵の後添えに、とまで望まれていた彼女が消えた理由とは……“第三話 できすぎた娘”、
春。子預かり屋で預かっている子供たちの中に、預かった覚えのない男の子がまぎれこんできた。たびたび遊びに来るようになった彼・松吉に昼ごはんを食べさせた後、家に送り届けたこはるは、そこが父の将棋仲間だった梅蔵の家であることを知る。松吉は、梅蔵の息子・栄太郎の次男坊だった。
栄太郎の女房・おふじは、聞き分けのよい長男の秀太郎ばかりを可愛がり、いうことをきかない松吉を疎んじており、ごはんを食べさせたこはるにさえ、文句を言う始末。しかし嫁いびりされ、さらに先頃亡くなった梅蔵の世話で苦労させたことから、おふじに強く言えないという栄太郎。
その後、梅蔵が亡くなったことを聞いたおていがお参りにいったところ、松吉が怒られている場面に遭遇したらしいのだが、ちょっと様子がおかしく……“第四話 叱られっ子”、
夏。文月十四日。
岩本町でぼやが起きたという話が、こはるの耳に入ってきた。しかもつけ火であったらしい。
そこへ武藤がやってきて、さらに詳細な話を聞かせた。小柳町の長屋に住む植木職人の半太郎は、膠の匂いのする禿げ頭の男とすれ違ったといい、もうひとり別の男も何かを見たらしい。そのひとりの男というのが、大工の龍吉で、燃えたしもた屋の若女房がお銀だという。その二人は、幸次郎が死んだ件に絡み、こはるにとっては曰く因縁のある相手だったことから、武藤がわざわざ知らせてくれたのだ。
二年前、神田高砂町の甘味屋福豆屋を建て直す、普請に関わることになった幸次郎。ところが隣の甘味屋清豆屋でも同様に普請が始まってしまった。そちらは堺町の棟梁・源太郎が請け負うことになったのだが、雇い主同士の反目が、大工たちにも伝わり、両者に諍いが勃発。そんな中、幸次郎は足場から落ちて亡くなったのだが、何者かが切れ込みを入れていたためらしい。
その後、用心のために見回っていた者たちに見つかったのは、源太郎。普請場でのこぎりを挽いているのを見たと証言するものがしたのが龍吉で、源太郎はその怒りのために卒中になり亡くなっていた。源太郎の娘のおぎんは、それ故に龍吉を恨みに思っていたという。しかし幼い頃に嘘を吐いて妹を亡くしたことのある龍吉は、嘘を吐かないと誓いを立てていた……“最終話 嘘吐き弥次郎”の五話収録。

ちょっと太目な体型を気にする、子守り上手なこはるが、持ち前の好奇心を発揮して、事件に首をつっこむお話。
一応真相には辿り着くものの、やむにやまれぬ理由で事件をおこした下手人たちを、見逃すための結末をひねり出すあたりが、ちょっといい話、的な感じかも。

<11/5/6>