706)カンナビジオールの抗がん作用に関する臨床報告

図:カンナビジオール(Cannabidiol)は様々な受容体に作用して、その働きに影響する。図内の(+)はその受容体にアゴニスト(作動薬)として作用して受容体を刺激する。(−)は拮抗的あるいは阻害的に作用してその受容体の働きを抑制する。カンナビノイド受容体のCB1とCB2に対してカンナビジオールは阻害作用を示す。カンナビジオールはセロトニン受容体の5-HT1A受容体とTRPV1-2バニロイド受容体を活性化する。その他にも様々な受容体やタンパク質と作用して活性化や阻害の作用を示し、これらの総合的な作用によって多彩なメカニズムで抗がん作用を発揮する。(図はBr J Clin Pharmacol 75(2):303-312, 2012年のFigure 2より改変)

706)カンナビジオールの抗がん作用に関する臨床報告

【カンナビジオールは精神作用を示さない大麻成分】
大麻草(マリファナ)には600種類を超える化合物が含まれていますが、そのうちカンナビノイド(Cannabinoid)と呼ばれる大麻草固有の成分が100種類以上存在します。カンナビノイドは大麻に固有の成分で、他の植物にはまだ見つかっていません。
大麻は人体に対して様々な薬効を発揮しますが、その薬効は多種類のカンナビノイドやベータ・カリオフィレンなどの精油成分などの相乗効果によります。

Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)は大麻の精神作用の原因となるカンナビノイドです。THCが結合する受容体としてCB1CB2の2種類のカンナビノイド受容体が見つかっています。CB1とCB2は7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体です。

1964年にイスラエルのワイズマン研究所の ラファエル・メコーラム(Raphael Mechoulam) 博士らによって、大麻の精神変容作用の原因成分としてΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)が分離され、1988年にTHCが直接作用する受容体が発見されカンナビノイド受容体タイプ1(CB1)と命名されました。
CB1は中枢神経系のシナプスに存在し、脳で最も広く分布するGタンパク質共役型受容体ですが、末梢神経系や、さらに筋肉組織や肝臓や脂肪組織など非神経系の組織にも分布しています。
数年後にタイプ2の受容体(CB2)の遺伝子が発見されました。CB2は主に免疫系の細胞に発現しています。

カンナビジオール(Cannabidiol: CBD)はΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)と並んで大麻の主要なカンナビノイドです。
CBDはカンナビノイド受容体のCB1とCB2には作用しないためTHCのような精神作用はありません。その他の受容体(セロトニン受容体の5-HT1Aなど)やイオンチャネル(TRPV1やTRPV2など)に作用して多彩な作用を発揮します。CB1やCB2やGPR55に対してはアンタゴニスト(阻害剤)として作用します。

GPR55はリゾホスファチジルイノシトール(LPI)を内因性リガンドとする受容体です。
大麻の作用がCB1とCB2受容体だけでは説明できないことが指摘され、GPR55が第三の受容体として推定されています。
カンナジオールはいくつかのGタンパク質共役型受容体(CB1, CB2, GPR55)の阻害作用やイオンチャネルへの作用などによって直接的な抗がん作用を発揮するようです。その結果、THCとは全く異なる作用を発揮し、THCの副作用を軽減する作用もあります。(下図)

図:大麻の薬効成分の主体は、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)で、この2つは全く異なる作用機序と薬効を示す。THCは脳内報酬系を活性化して依存性があり、精神作用(気分を高揚する作用)がある。一方、CBDには精神作用はなく、脳内報酬系を抑制して薬物依存を阻止する作用がある。

【膠芽腫の標準治療に大麻製剤を併用すると生存期間が延長する】
SativexEpidiolexなど大麻製剤の研究開発を行っている英国の製薬会社のGW Pharmaceuticalsは多発性硬化症や癲癇(てんかん)や癌(がん)の治療における大麻製剤の臨床試験を行っています。
多発性硬化症に対するSativex(THCとCBDをほぼ1:1で含む大麻抽出エキス)の有効性や、薬剤抵抗性てんかん(Dravet症候群やLennox-Gastaut症候群)に対するEpidiolex(CBD主体の大麻抽出エキス)の有効性はすでに多くの臨床試験で確認され、複数の国で承認されています。

がん患者に対しては、大麻は症状の改善作用や緩和作用が証明されています。すなわち、食欲増進、体重増加、睡眠の改善、抗がん剤治療による吐き気や嘔吐の軽減などの症状の緩和や改善の効果は多くの臨床試験で有効性が示されています。
がん細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導などの抗がん作用が培養細胞や動物モデルを用いた研究で示されています。

そこで、大麻製剤(医療大麻や大麻抽出エキス製剤など)の抗がん作用を検討する臨床試験が始まっています。
2017年にはGW社はTHCとCBDを含む大麻製剤が、脳腫瘍(膠芽腫)に対する臨床試験で有効性を認めたと発表しています。
すなわち、再発した多形性膠芽腫(Glioblastoma Multiforme)の患者21人を対象にした探索的第2相プラセボ対照臨床試験によって、テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)を含む大麻抽出エキスの有効性を検討し、有効性を示す結果を得たと発表しています。
再発性神経膠芽腫患者の1年生存率は、対照群が53%、THC:CBD製剤で治療を受けた群が83%で、統計的に有意な差を認めました(p=0.042)。生存期間の中央値は対照群が369日で、THC:CBD群は550日でした。
この臨床試験の結果は、テモゾロマイド治療を受けている膠芽腫の患者にTHCとCBDを含む大麻抽出製剤を併用することによって治療効果を改善できることを示唆しています。(下表)

表:再発した多形性膠芽腫(Glioblastoma Multiforme)の患者21人を対象にした探索的第2相プラセボ対照臨床試験の結果。標準治療にTHC/CBD製剤を併用すると生存率と生存期間の改善が認められた。 (GW Pharmaceuticals, 2017年2月7日発表のプレスリリースより)

【カンナビジオールは膠芽腫患者を延命する】
前述のように膠芽腫の標準治療に大麻製剤を併用すると生存期間が延長する効果が期待できますが、日本ではまだ医療大麻は使えません。成熟した茎から抽出したカンナビジオール(CBD)オイルであれば、食品扱いで販売されています。
CBD単独でも膠芽腫に対してある程度の効果が期待できるようです。例えば、以下のような報告があります。

Case Report: Clinical Outcome and Image Response of Two Patients With Secondary High-Grade Glioma Treated With Chemoradiation, PCV, and Cannabidiol.(症例報告:化学放射線療法とPCVとカンナビジオールで治療した二次性高悪性度グリオーマ患者2人の臨床転帰および画像所見)Front Oncol. 2019 Jan 18;8:643. doi: 10.3389/fonc.2018.00643. eCollection 2018.

【要旨の抜粋】
今回報告する2人の患者は、O6-メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)メチル化およびイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH-1)変異を示す高悪性度神経膠腫(グレードIII / IV)の確定診断を受け、腫瘍の切除の後、化学放射線療法を受け、さらに多剤併用のPCV療法(プロカルバジン、ロムスチン、ビンクリスチン)とカンナビジオールの併用を行なった。
2人の患者は、臨床経過および画像検査による定期的な評価で満足のいく結果を示した。
患者の一人は、化学放射線療法の直後に、一時的な悪化が磁気共鳴画像法(MRI)によって評価されたが、これは短期間で解消された。
もう一人の患者は、MRIで評価した術後スキャンと比較して、腫瘍部位の顕著な改善を示した。
このような結果は、従来の治療法のみで治療された患者では一般的に観察されない。
この観察結果は、神経膠芽腫の化学放射線療法に対する感受性を高めるCBDの潜在的な効果を示唆している。より多くの患者を対象にした臨床試験と、作用機序の研究を進める必要がある。

ブラジルのサンパウロのシリオ・リバネス病院(Sirio Libanes Hospital) の神経腫瘍部門からの報告です。シリオ・リバネス病院はブラジルで最もレベルの高い医療機関の一つです。
二次性高悪性度グリオーマというのは、初めは低悪性度のグリオーマとして診断され、テモゾロミドなどで治療を受けたあとに、二次性に悪性度が高くなって高悪性度のグリオーマになった症例です。
高悪性度のグリオーマは極めて治療に抵抗性で、治癒することは極めて稀です。
そのような治療抵抗性の二次性高悪性度グリオーマに対して、カンナビジオールが顕著な改善を示したという2例の症例報告です。

2名の患者は腫瘍の可能な範囲での切除を受け、そのあとに化学放射線療法を受け、さらに6サイクルの多剤併用のPCV療法(プロカルバジン、ロムスチン、ビンクリスチン)を受け、カンナビジオールの併用を行なっています。
カンナビジオール(CBD)は通常は舌下投与が良いと言われていますが、この研究では50mgのCBDを含有するカプセルを内服しています。
1日量は300mgから450mgです
服用量は副作用(主に眠気)の出方を基準に決めています
CBDは多く服用するほど抗腫瘍効果が強まるのですが、服用量が多いと精神機能を抑制的に作用して眠気(drowsiness)が強くなります。つまり、眠気の程度が耐えられるレベルで服用量を決めています。
2例とも2年以上生存しています。1名は2年半後に再発を認めています。
CBDは長期間服用しても血液検査の異常や肝臓や心臓への悪影響は認めなかったと報告しています。
さらに、CBDは抗がん剤の副作用を軽減する効果も多く報告されています。
膠芽腫の標準治療にカンビジオールを併用する根拠は高いと言えます。
服用量は1日に300mgから400mg程度ですが、副作用(主に眠気)を目安に服用量を加減すれば、ほとんど問題はないようです
さらにCBDを併用した膠芽腫の9人の患者の症例が報告されています。 

Concomitant Treatment of Malignant Brain Tumours With CBD - A Case Series and Review of the Literature.(CBDによる悪性脳腫瘍の併用治療-症例シリーズと文献レビュー)Anticancer Res. 2019 Oct;39(10):5797-5801.

【要旨】
グレードIVの多形膠芽腫は致命的な疾患であり、生存期間の中央値は約14〜16ヶ月である。腫瘍の最大限の切除とそれに続く補助放射線化学療法が長年の治療の主流であったが、生存期間は数ヶ月しか延長されていない。
近年、カンナビノイド、特に精神作用のないカンナビジオールを用いたin vitroおよびin vivoの研究報告が増えており、腫瘍抑制剤としてのカンナビジオールの潜在的な役割を示唆している。
この報告では、連続した合計9人の脳腫瘍患者をケースシリーズとして提示する。
すべての患者は、腫瘍の可能な限りの切除とそれに続く放射線化学療法の標準的な治療に加えて、1日量400 mgのカンナビジオールの投与を受けた。この論文の提出時までに、1人の患者を除いてすべてが生存しており、平均生存期間は22.3か月(範囲= 7〜47か月)である。これは予測される生存期間よりも長い。

オーストリアのクラーゲンフルト病院(Klinikum Klagenfurt am Wörthersee)の麻酔・集中治療科(Department of Anaesthesiology and Intensive Care)と神経科とCIS Clinical Investigation Support GmbHの研究グループからの報告です。
ランダム化試験ではないのですが、最大切除とそれに続く放射線化学療法の標準的な治療にCBD投与を併用すると、顕著な延命効果が認められたという報告です

グレードIVの多形膠芽腫は致命的な疾患であり、生存期間の中央値は約14〜16ヶ月と報告されていますが、CBDを併用すると、論文の提出時点までに、1人の患者を除くすべての患者がまだ生存しており、平均生存期間は22.3か月(範囲= 7〜47か月)でした。著者らは、これは「予想されるよりも長い」という評価で、CBDの効果を推測しています。

膠芽腫はグリア細胞の1種のアストロサイトが悪性化した腫瘍です。カンナビジオールはアストロサイトの病的な活性化を抑制することによって様々な神経変性疾患やてんかんに対して治療効果を発揮します。
つまり、カンナビジオールによる膠芽腫や神経変性疾患やてんかんに対する作用機序は共通の部分があるようです。

このような研究に対して、ランダム化試験でないから結論が出せないという意見はあります。しかし、このような難治性のがん患者にランダム化試験を行う倫理的問題や、特許が取れない治療薬の経済的サポートがない現状から、ランダム化試験でない臨床試験でも最近は許容される傾向にあるようです。

図:神経組織はニューロン(神経細胞)とそれを支えるグリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア)から構成される(①)。脳腫瘍のグリオブラストーマ(膠芽腫)はアストロサイトが悪性化した腫瘍で(②)、標準治療として手術や放射線治療や抗がん剤治療が行われるが、予後は極めて悪い(③)。グリオブラストーマにはカンナビノイド受容体のCB1とCB2が発現しており、これらの受容体がリガンドで活性化されると、細胞増殖の抑制とアポトーシス誘導などによって抗腫瘍効果が得られる(④)。大麻草に含まれるΔ9テトラヒドロカンナビノール(THC)はCB1受容体とCB2受容体を介して抗腫瘍活性を示す(⑤)。カンナビジオール(CBD)はカンナビノイド受容体(CB1とCB2)を介さない多彩なメカニズムでアストロサイトの活性を抑制する作用がある(⑥)。同様に、CBDはアストロサイト由来のグリオブラストーマに対して抗腫瘍作用を示す(⑦)。膠芽腫の抗がん剤治療にTHCとCBDを含む大麻抽出エキスを併用すると生存期間を延長できることが報告されている。CBD単独でも有効性が報告されている。

【カンナビジオールは副作用を引き起さずに抗腫瘍効果を発揮する】
通常の抗がん剤治療は耐え難い副作用を伴うのが欠点であり、問題点です。
カンナビジオールはほとんど副作用を起こさずに抗腫瘍効果を発揮することが報告されています。以下のような報告があります。 

Report of Objective Clinical Responses of Cancer Patients to Pharmaceutical-grade Synthetic Cannabidiol.(医薬品グレードの合成カンナビジオールに対するがん患者の客観的な臨床的反応の報告)Anticancer Res. 2018 Oct;38(10):5831-5835. 

【要旨】
研究の背景と目的:カンナビノイドは、がん患者の疼痛、悪心および悪液質の管理に広く使用されている。 しかしながら、何らかの抗がん活性の客観的臨床的証拠はまだ存在していない。 この研究の目的は、様々ながん患者に対する医薬品グレードの合成カンナビジオールの効果を評価することである。

患者と方法:4年間以上における通常の診療で得た119人のがん患者のデータを解析した。

結果:臨床応答は、固形がん患者の119例のうち92%で見られた。その臨床的反応は、循環腫瘍細胞の減少や、CTスキャンで確認された腫瘍サイズの減少であった。 薬学的グレードの合成カンナビジオールを使用する場合、いかなる種類の副作用も観察されなかった。

結論:医薬品グレードの合成カンナビジオールは、乳がんおよび神経膠腫患者の治療の候補である。

100種類以上存在する大麻のカンナビノイドのうち、精神作用を示すのはテトラヒドロカンナビノール(THC)のみと考えられています。THCに次いで多いカンナビノイドがカンナビジオール(CBD)です。
大麻そのものをがん治療に使用する場合、THCによる精神作用の副作用によって投与量が制限されます。
食欲低下や不眠や吐き気や疼痛や鬱状態などの改善にはTHCの薬効が必要です
しかし、たとえ培養細胞や動物を使った実験でTHCに抗がん作用があっても、副作用によって投与量を増やせないと、がん細胞の増殖を抑制する効果は低下します。
その点、カンナビジオールはかなり大量に投与しても、副作用はほとんど起こらないので、がん細胞の死滅を目標にした使用が可能と言えます
カンナビジオールはEGF/EGFRシグナル系(MAPK経路とPI3K/Akt経路)とNF-κB経路を阻害して、がん細胞の増殖や生存を抑制する作用が報告されています(下図)。

図:チロシンリン酸化型受容体にリガンド(増殖因子や成長因子)が結合し2量体化すると、受容体がリン酸化されて活性化する(①)。受容体が活性化されるとPI3Kのリン酸化活性からAktがリン酸化されてPI3K/Akt経路が活性化する(②)。一方、受容体の活性化は、低分子量G蛋白質Rasを経由して、Raf→MEK→ERKとリン酸化反応するMAPK経路によりシグナルが伝達される(③)。NF-κBは細胞質に存在し、IκBと呼ばれる制御蛋白質と複合体を形成している(④)。炎症性サイトカイン(IL-1やTNF-αなど)や細菌由来のリポ多糖や酸化ストレス(放射線や活性酸素など)はIκBキナーゼを活性化してIκBをリン酸化する(⑤)。リン酸化されたIκBはユビキチンが結合してプロテアソームで分解される(⑥)。IκBが外れるとNF-κB分子内の核内移行シグナルが露出してNF-κBは核に移行し、目的遺伝子の転写を行う(⑦)。PI3K/Akt経路とMAPK経路とNF-κB経路の活性化は、最終的に核の転写因子の活性化を介して、がん細胞の増殖や転移や腫瘍血管の新生を亢進し、アポトーシスに抵抗性の性質を持つようになる(⑧)。カンナビジオールはこれらの経路を抑制することによって抗腫瘍活性を示す。

前述の論文の報告では医薬品グレードのCBDのオイルを、1回10mgを1日2回服用を基本にしています。(1日20mgです)
腫瘍が大きい場合には増量し、1回30mgを1日2回まで増やしています。
一方、腫瘍の増大が抑えられているとき(病状安定)は1回5mgを1日2回に減らしています。
3日間服用して3日間休薬する方法で投与しています。この方が連日の服用より効果が高いと言っています。
副作用は全く認められなかったので、最大耐用量は決定できなかったと考察しています。
他に治療法が無くなったがん患者の治療法として、カンナビジオールはがん細胞の増殖抑制やがんの縮小など、客観的な臨床応答が得られたという報告です

この論文では、顕著な有効性が認められた症例を紹介しています。
患者は5歳の男児で、退形成性上衣腫(anaplastic ependymoma)という悪性度の高い脳腫瘍でした。2回の手術と抗がん剤治療と放射線治療を受けて、もう治療法が無くなったという段階でCBDのみによる治療が2016年2月に開始されました。2016年12月のCTスキャンでは、腫瘍は60%程度に縮小していました。その後もCBDだけで腫瘍の増大が抑制されたと報告しています。
他の症例は、50歳の進行性のグレード2の上衣腫(tanycytic ependymoma)で2013年6月に診断され、放射線治療が行われて2015年6月に終了しています。抗がん剤治療を拒否し、CBD治療を2016年7月から開始しています。
1回10mgを1日2回のCBD摂取を3日間続けて3日間休むという投与スケジュールです
この患者はロンドンのクリニックから代替療法としてメトホルミン、メベンダゾール、ドキシサイクリン、アトルバスタチンの投与を受けています。
これらとカンビジオールを併用して、腫瘍の縮小が認められています。カンナビジオールの摂取を止めるとがんが増殖しました。
その他に、前立腺がん、乳がん、食道がん、悪性リンパ腫などの腫瘍で、医薬品レベルの合成カンナビジオールの抗腫瘍効果が認められました。
グリオブラストーマなどの脳腫瘍の代替療法として、メトホルミン、メベンダゾール、ドキシサイクリン、スタチン類などに加えて、カンナビジオールの併用は有効だと言えます。
さらに、ニトロキソリン(660話)とイベルメクチン(673674話)を併用すると、さらに効果が期待できるように思います。

【カンナビジオールで肺がんが消滅した症例】
高齢のために化学療法と放射線療法を受けなかった肺腺がん患者が、カンナビジオールを自己判断で服用したら、顕著な抗腫瘍効果が認められた症例が報告されています。

Striking lung cancer response to self-administration of cannabidiol: A case report and literature review.( カンナビジオールの自己投与に対する著しい肺がん反応:症例報告と文献レビュー)SAGE Open Med Case Rep. 2019; 7: 2050313X19832160. Published online 2019 Feb 21. doi: 10.1177/2050313X19832160

2016年10月に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の81歳の男性が、3週間の間、咳は出ないが息切れが増加したという症状で開業医を受診しました。CT検査で、左下肺に2.5×2.5 cmの腫瘤と複数の縦隔リンパ節の腫大が確認されました。
患者は気管支超音波ガイド下の気管傍リンパ節の生検を受け、肺腺がん(T1c N3 M0)の診断を受けました。
腫瘍細胞は、CK7と甲状腺転写因子-1(TTF-1)が強く発現し、エストロゲン受容体の中程度の局所発現を認めましたが、CK20、S100、PSA、CD56、シナプトフィジン(synaptophysin)およびクロモグラニン(chromogranin)は陰性でした。 がん細胞は、上皮成長因子受容体(EGFR)と未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)変異が陰性でした。

患者は慢性閉塞性肺疾患の持病があり、糖尿病で食事制限の治療を受けており、さらに2004年に前立腺がんに対して根治的前立腺全摘除術を受け、現在は寛解状態でした。
定期的な投薬を受けておらず、薬物アレルギーの既往もありませんでした。
患者は引退したセールスマンで、アスベスト暴露の過去の履歴はありませんでした。元喫煙者(約15年間、毎日約18本のタバコ)で、45年前に喫煙をやめました。ECOGのパフォーマンスステータスは1(肉体的に激しい活動は制限されるが、歩行可能で、軽作業や座っての作業は 行うことができる状態)でした。

患者は化学療法と放射線療法を提案されましたが、80歳代と高齢であり、生活の質に悪影響を与える可能性のある治療を望まなかったため、治療を辞退しました。患者をフォローアップすることを決定しましたが、積極的な治療は行われませんでした。
2016年12月のCTスキャンでは、縦隔および左肺門リンパ節のサイズは変化していませんが、肺の腫瘍の大きさが2.7×2.8 cmに増加していることが示されました。
患者は再度治療の提案を受けましたが、再び辞退しました。
2017年7月の胸部X線写真では、左下肺野に進行性の変化が見られましたが、顕著な崩壊や胸水は見られませんでした。

患者は2017年11月に追加のCTスキャンを行い、左肺下葉の腫瘍はほとんど消失し、不規則な形状を呈する軟部組織の小さな瘢痕(1.3×0.6 cm)のみが残り、縦隔リンパ節のサイズと数が大幅に減少していました。患者は2018年1月に別のCTスキャンを受け、左下葉と縦隔リンパ節に小さな陰影を認めるのみで安定した病状を示していました。 

患者に質問すると、患者は、2017年9月の初めからCBD(MyCBDという製品)オイル2%(10 mL中に200 mg CBD)を服用し始めたと述べました。
彼は1回2滴(0.06 mL、1.32 mg CBD)を1日2回、1週間服用しました 。さらに、9月末までに1回9滴(0.3 mL、CBD 6 mg)を1日2回に増やしました。
2017年11月のCTスキャンに続いて、患者は1回9滴を1日2回の服用を始めましたが、味が悪いのと軽度の吐き気を自覚するようになったので、CBDの服用は約1週間後に中止しました。
その後も体調は良好で、 2017年9月以降、患者の食事療法、薬物療法、またはライフスタイルにその他の変更はありませんでした。 

CBDを1日12mg程度の摂取で、このように顕著な抗腫瘍効果が得られるのか、不思議ではありますが、CBD以外に他の治療を受けていないので、CBDが効いた可能性は高いと言えます。

図:(左)2016年10月のCT検査で、左下肺に2.5×2.5 cmの腫瘤(①)と複数の縦隔リンパ節の腫大(②)が認められた。2017年7月の胸部X線写真では、腫瘍が進行していたので、2017年9月の初めからCBDオイルを服用し始めた。
(右)2017年11月のCT検査で、左肺下葉の腫瘍はほとんど消失し、小さな瘢痕状組織のみが残り(③)、縦隔リンパ節のサイズと数が大幅に減少していた(④)。

【CBDの服用法について】
前述の81歳の肺がんの症例では、1日12mgのCBDを2〜3ヶ月程度の服用で、肺がんが消滅しています。
合成カンナビジオールの臨床試験では、1回に10から30mgのCBDを1日2回という投与量です。
神経膠芽腫に対する天然のCBDを用いた臨床試験では1日300mgから450mgが投与されています。
かなりのギャップがあります。
難治性てんかんの治療では最大で1日に体重1kg当たり20mgまで投与しています。通常は数mg/kgです。
構造が同じであれば普通は有効量は同じはずですが、合成カンナビジオールと天然カンナビジオールでは何かが違うのかもしれません。

がん治療の場合は、服用量が多いほど抗腫瘍効果が高くなりますが、服用量が多いと眠気などの副作用もでてきます
したがって、眠気が出る量を上限に設定して服用量を決めるのが良いと思います
通常は1日に体重1kg当り1〜5mg程度が目安になります。副作用がでなければ10mg/kg程度まで増量は可能です。ただし、多く摂取すると経済的に負担になります。少ない量で効き目を高める工夫も大切です。
つまり、体内吸収量を増やす工夫です。
1日に数回に分けて服用します。1回に数十mg分のCBDオイルの服用を1日に2〜4回程度繰り返します。
服用法はCBDオイルを舌下に滴下して、60〜90秒程度飲み込まないでそのまま保持します(下図)。
60〜90秒程度口腔内で保持したあとに飲み込みます。これは舌下や口腔粘膜からの方が体内吸収が良いためと、肝臓を通さずに全身循環に行き渡らせるためです。内服して肝臓を最初に通ると、肝臓で多くのCBDが分解されます。

図:CBDオイルの舌下からの服用法:顔を上に向けて、舌の裏にCBDオイルを滴下し、1分間ほど保持したあとに飲み込む。

舌下での服用が困難な場合は、カプセルに入れたり、そのまま服用します。
舌下で服用した場合も、口に残ったものは飲みこみます。
この場合、油の多い食事の後がCBDの吸収が良いことが知られています。以下のような報告があります。

Dietary fats and pharmaceutical lipid excipients increase systemic exposure to orally administered cannabis and cannabis-based medicines(食事からの脂肪および医薬品用脂質賦形剤は経口投与された大麻および大麻由来の医薬品の体内吸収を増加させる)Am J Transl Res. 2016; 8(8): 3448–3459.

【要旨】
近年、大麻(Cannabis sativa)の医療目的での使用への関心が高まっている。大麻は、脂肪を含む食品と一緒に経口投与されるか、脂質ベースの製剤で投与されることが多い。しかしながら、大麻成分への患者の体内吸収に対する脂質の影響は十分に検討されていない。この研究は、2つの主要な活性カンナビノイド、Δ9 - テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)の体内吸収に対する脂質の経口同時投与の効果を解明することを目的とした。
この研究では、脂質の経口同時投与は、脂質を含まない製剤と比較して、ラットのTHCおよびCBDの体内吸収をそれぞれ2.5倍および3倍増強した。
カンナビノイドの腸内での可溶化に対する脂質の影響を調べるために、インビトロでの脂肪分解実験を行った。 脂肪分解後にTHCおよびCBDの30%以上が脂肪のミセル画分に分配された。これは経口投与された量の少なくとも3分の1が、脂質と同時投与することによって消化管からの吸収に利用可能であることを示唆している。
両方のカンナビノイドは、人工のカイロミクロン様粒子、ならびにラットおよびヒトのカイロミクロンに対して非常に高い親和性を示し、腸管のリンパ輸送の高い可能性を示唆している。さらに、ラットおよびヒトのカイロミクロンに対するカンナビノイドの同程度の親和性は、脂質によるカンナビノイドの体内吸収の増加がヒトにおいて起こり得ることを示唆する。
結論として、食事性脂質または医薬用脂質賦形剤の同時投与は、経口投与された大麻および大麻由来医薬品への体内吸収を実質的に増加させる可能性がある。
カンナビノイドへの患者の体内吸収量の増加は、経口投与された大麻または大麻由来医薬品の治療効果に影響を与える可能性があるが、毒性にも影響を与える可能性があるため、臨床的に非常に重要である。

カンナビジオールを服用するとき、油の多い食事の後だと、脂肪がミセルを形成して腸管のリンパ管から吸収されるので、肝臓を通らずに全身に吸収されるということです。
このとき、中鎖脂肪酸(MCTオイル)だとミセルを作らないので、オリーブオイルや亜麻仁油や魚油(脂の乗った魚)や通常の食用油や動物性脂肪と一緒に摂取するのが良いと言うことです。これには長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸の吸収の違いを理解しておく必要があります。(下図)

図:長鎖脂肪酸トリグリセリドと中鎖脂肪酸トリグリセリドの吸収の違い。脂肪はグリセロール(グリセリンともいう)1分子に3分子の脂肪酸が結合した構造をしており、これを中性脂肪(トリグリセリド)と言う。食事から摂取した脂肪は十二指腸や小腸内で膵液中のリパーゼによって加水分解され、トリグリセリド(中性脂肪)から脂肪酸とグリセロールが分離される。グリセロールは水溶性なのでそのまま小腸から毛細血管に吸収される。
脂肪酸は水に不溶性で、胆嚢から十二指腸に分泌される胆汁中に含まれる胆汁酸やホスファチジルコリンやコレステロールによって乳化されたミセルを形成する(①)。ミセルというのは、水になじむ部分(親水基)と油になじむ部分(親油基)をもつ物質が、水の中で親水基を外に親油基を内に向けて球状に会合した粒子(②)。ミセルは水溶性で受動拡散によって消化管粘膜の吸収上皮細胞内に吸収される(③)。

脂肪酸が腸管から吸収されるとき、脂肪酸の大きさ(炭素鎖の長さ)の違いによって代謝のされかたが異なる。炭素数が13以上の長鎖脂肪酸の場合は、腸壁を通り抜けると、腸管粘膜上皮細胞内で再びグリセロールと結合して中性脂肪(トリグリセリド)になり蛋白質などと一緒になってカイロミクロンというリポ蛋白質粒子になる(④)。カイロミクロンはリンパ管から胸管に入り(⑤)、鎖骨下静脈から大循環系に入って全身に運ばれる(⑥)。
炭素数が8~12の中鎖脂肪酸(⑦)は胆汁酸によるミセル化は不要で、小腸吸収細胞に容易に吸収され、分子が小さいことから腸管で毛細血管に吸収され、カイロミクロンを作らずに遊離脂肪酸のまま門脈に入って肝臓へ運ばれ、速やかにエネルギー源となって代謝される(⑧)。

カンナビジオールの薬物動態に関して以下のような総説があります。

A Systematic Review on the Pharmacokinetics of Cannabidiol in Humans.(ヒトにおけるカンナビジオールの薬理学的動態に関する系統的レビュー)Front Pharmacol. 2018 Nov 26;9:1365. doi: 10.3389/fphar.2018.01365. eCollection 2018.

【要旨】
背景:カンナビジオールは経口投与による複数の症状の治療法として利用されている。動物実験では経口摂取によるバイオアベイラビリティー(生体利用性)が低いことが示唆されているが、ヒトでの検討は不十分である。このレビューの目的は、この研究領域で公開されているデータを検討することである。

方法:PubMedおよびEMBASE(MEDLINEを含む)の系統的検索を行い、ヒトにおけるCBDの薬物動態データを報告しているすべての論文を検索した。

結果:検討した792件の論文のうち、24件にはヒトにおけるCBDの薬物動態学的パラメータが含まれていた。カンナビジオールの半減期は、口腔粘膜スプレーによる投与では1.4〜10.9時間、慢性経口投与では2〜5日、静脈内投与では24時間、および喫煙の場合は31時間と報告された。
喫煙による摂取の場合の生体利用率(バイオアベイラビリティー)は31%であったが、静脈内製剤が利用可能であるにもかかわらず、ヒトにおける他の経路による投与法でのCBDのバイオアベイラビリティーの報告は無かった。
血中濃度-時間曲線下面積(AUC)および最高血中濃度(Cmax)は用量依存的に増加し、経口/口腔粘膜経路と比較して喫煙/吸入後より早く到達する。最高血中濃度(Cmax)は食事摂取後および脂質製剤中で増加する。最高血中濃度 到達時間(Tmax)は0から4時間であった。

結論:このレビューは、ヒトにおけるその広範な使用にもかかわらず、カンナビジオールの薬物動態学におけるデータの少なさと、いくつかの食い違いを明らかにした。バイオアベイラビリティおよび半減期などの特性の分析および理解は、将来の治療上の利用において極めて重要であり、さまざまな製剤からの多くのデータが必要とされる。

CBDを高脂肪の食事と一緒に摂取した場合、その生物学的利用能は約4から5倍に増加します。つまり、脂肪の多い食物と一緒にCBDを投与すると、生物学的利用能が最大化され、薬物への全身曝露の日内変動が減少する可能性があります。
つまり、脂肪を多く摂取するケトン食とカンナビジオールは、グリオブラストーマに対して相互に抗腫瘍効果を高めることができます。

舌下投与より、オリーブオイルなどに混ぜて内服する方が勝っている可能性があります。
また、CB2のアゴニストのβカリオフィレンも油に溶けるので、CBDとβカリオフィレンを一緒にオリーブオイルに溶かして服用すると抗腫瘍効果と鎮痛効果を高めることができます。(βカリオフィレンについては663話参照)
また、最大耐用量に関しては、「1日1500mgを4週間投与でも耐えられる」「50mg/kg/dayを3ヶ月間投与も可能」などという報告もあります。臨床試験では1日1000mgや3000mgの投与も、強い副作用は起きないようです。
大量に投与したときの副作用は下痢、吐き気、頭痛、眠気などです。このような副作用が出ない範囲で服用量を決めるのが良いと思います。

ただし、薬効がある以上、病状や体質によっては少ない服用量でも副作用がでることはあります。大量に摂取すると、副作用の頻度や程度は多くなります。
病気を治療する目的で、効果が出る量を服用すると、様々な副作用が出る可能性はあります。
てんかんの治療に使われるCBD製剤のEpidiolexの副作用として以下のような症状が記載されています。

以下はEpidiolexで記載されている副作用です。

頻度の多い副作用:倦怠感、眠気、体力低下、食欲低下、下痢、皮疹、睡眠障害、感染症(ウイルスや真菌など)
これらは、数日あるいは2〜3週間程度で軽減する場合もある。

重篤な副作用:頻度は稀ですが、ゼロではない。
 肝障害、鎮静状態、重度のアレルギー反応、自殺企図、

アレルギー性の副作用:皮疹、かゆみ、発赤、浮腫、

CBDを多く摂取すると眠気が高頻度に起こる、Epidiolexの臨床試験では、眠気はプラセボが8%に対してCBD群は25%

倦怠感はプラセボ群が4%に対してCBD群で12%

鎮静状態:眠気、協調性の低下、思考力の低下、自動車などの機械の操作能力の低下

睡眠障害:不眠、早期覚醒、など(低用量のCBDを摂取する場合)
CBDは多く摂取すると眠気が起こるが、低用量だと逆に不眠などの睡眠障害が起こる場合がある.

下痢:プラセボ群が9%、Epidiolex群が9から20%に下痢

肝障害:トランスアミナーゼの上昇が、プラセボ群が3%、Epidiolex群が16%
 肝機能障害の症状として、吐き気、嘔吐、上腹部痛、倦怠感、食欲低下、黄疸

大量にCBDを摂取すると、肝機能障害が現れる。臨床試験で服用を中止する主要な原因が肝機能障害

 Epidiolexの臨床試験では自殺企図:これは他の抗てんかん薬との相乗作用などもある。他の抗てんかん薬を服用している場合に自殺企図が多い

体重減少:Epidiolexの臨床試験では、4ヶ月間の投与で、1日に20 mg/kg のEpidiolex服用群の18%が5%以上の体重減少
1日に10 mg/kg のEpidiolex服用群の9%が5%以上の体重減少
(プラセボ群は8%が5%以上の体重減少)
食欲低下がEpidiolexを服用した16%から22%で起こった。食欲低下が体重減少の原因の一つ

以上、服用量が多いと、多少の副作用はありますが、比較的軽度です。
抗がん剤治療中や末期がんの緩和ケアにおいて、カンナビジオールオイル(CBDオイル)を積極的に摂取するメリットはあると思います。

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