886)進行乳がんの再発予防

図:進行乳がんの治療後の再発予防に有効な食品成分、サプリメント、医薬品、運動、精神的サポートなどが報告されている。これらを多く実践すれば、再発リスクを限りなくゼロに近づけることができる。

886)進行乳がんの再発予防

【最近では1年間に約10万人が乳がんになっている】
2019年の統計では女性の部位別がん罹患数は、乳がん(97,142人)、大腸がん(67,753人)、肺がん(42,221人)、胃がん(38,994人)、子宮がん(29,136人)の順です。
2019年の日本人の男女計のがん罹患数は約100万人(男性が約57万人、女性が約43万人)です。つまり、乳がんは日本人のがん罹患数の約10%、女性がんの約22%を占めることを示しています。

女性全体のがん死亡数では、2020年の統計で大腸がん、肺がん、膵臓がんに次いで第4位ですが、30~64歳の世代では乳がんは女性のがんによる死亡数で第1位です。
他のがんは60歳代から増えてきますが、乳がん罹患率は30歳代後半から急増しています。乳がんは、働きざかり・子育て世代の比較的若い世代もかかるがんです。

乳がんの多くは手術、抗がん剤、放射線療法、ホルモン療法による標準治療を行うことにより根治が可能です。乳がんは早期に発見すれば治る確率が高いがんです。
しかし、手術時に腫瘍が大きかったり、すでにリンパ節転移があると、再発する可能性があります。そのため、標準治療では手術後に抗がん剤やホルモン療法が再発予防の目的で行われます。しかし、再発を完全に防ぐことは困難です。

比較的進行した乳がん患者さんが、再発リスクを低下させ、生存率を高めるために、標準治療中および治療後に実践する価値がある有効性のエビデンスのある方法は数多くあります。

【がんの第3次予防(再発予防)がクローズアップされてきた】
がんによる死亡を減らすための一つの手段は、検診によって早期の段階で見つけてがん細胞を取り除くことです。がん組織が小さくて限局している段階では転移が起こっていることが少ないので、切除すれば根治できます。この早期発見・早期治療によってがん死亡を減らそうという戦略をがんの第2次予防といいます。

しかし、がん検診で見つかった場合でも確実に治せるとは限りません。がん細胞が増殖し目に見える大きさまで数が増えた時に初めてがんの診断ができるのですが、目にみえる大きさに成長したがん組織は、すでに他の組織に転移している可能性があるのです。

そこで、がん死亡を減らすには、がんになる人の数を減らすことが最も大切であることが認識されるようになりました。禁煙などの生活習慣の改善や食生活の改善によってがんになる率そのものを減らすことを第1次予防といいます。第1次予防が、がん患者数とがん死亡数を減らす根本的な解決法であることは間違いありません。

しかし、現実問題として第1次予防や第2次予防を徹底しても、がん患者を減らすことには限界があります。環境中から全ての発がん物質を取り去ることは困難であり、DNAにキズをつける活性酸素は絶えず体の中で発生しています。診断のための費用や労力との兼ね合いで、早期がんを見つける検診の有効性には限界があります。

不幸にしてがんに罹った人にとっては、がん死から逃れる方法が必要となっています。がんを治療したあとに再発や転移を予防することをがんの第3次予防といいます。

最近では、がんが治ったあとに、二つ目のがん、三つ目のがんにかかる人が増えてきました。転移ではなく、胃がんの次に乳がん、その次に肺がんなどといったように全く別の部位に新たながんができることです。
一人の人に幾つものがんが発生することを多重がんといいます。治療方法が進んで治るがんが増えてきたことが原因の一つに挙げられるのですが、がんになる人は免疫力の衰えなど他のがんにもなるリスクも高くなっているのが一般的です。

時にはがんの治療(抗がん剤や放射線照射)が新たながんをつくり出すこともあり、これを2次がんといっています。多重がんや2次がんを防ぐことは第1次予防になるのですが、発がんリスクが高い人が対象ということで第3次予防に近い対策が必要です。

医学の進歩によってがんを取り除く治療法が進歩してくると、がん治療の宿命である再発や多重がんや2次がんの発生を予防すること、つまり第3次予防ががん死から免れるキーポイントとしてクローズアップされてきたのです。

【手術で完全に切除したつもりでも再発することがある】
治療後にがんが再発してくる確率は、がんの種類(発生臓器)や進み具合(ステージ)によって異なります。がんを切除したあとに、がん細胞の性質(悪性度)や広がり、リンパ節への転移の有無などを顕微鏡で検査すると転移や局所再発の可能性を推測することができます。

がんが大きかったり、リンパ節に転移が見つかったりすると、たとえ他の臓器に目で見える転移がなくても、体のどこかにがん細胞が残っている可能性があります。そこで、手術後に抗がん剤によって残存しているかもしれないがん細胞を叩いて再発を予防します。

がん組織が限局していてがんから十分な距離をおいて切除し、リンパ節転移や他の臓器への転移も見つからなかった場合、その手術は治癒切除といいます。がんを根こそぎ切除して、体に残っているがん細胞は存在しないと考えるわけですから、治癒切除の場合は理論的にはがんの再発は起こらないはずです。しかし、このような治癒切除でも10〜20%は5年以内に再発しているという事実があります。その理由は、たとえ原発巣が小さくても肉眼的に見える大きさになったがんは既に転移している可能性があることと、目にみえない小さながん転移はその時点では診断できないからです。

大雑把にいって、直径1cmのがん組織(約0.5グラム)には約5億個のがん細胞が、米粒大の大きさで1000万から2000万個のがん細胞がいます。手術中に目で見えるところに米粒大のがん転移があれば見つけることができるかもしれません。しかし、その十分の1の大きさになると肉眼的な診断は困難です。肝臓の中に転移巣がある場合には直径が1cm以上でもみつかりません。
臓器の中にある場合には、CTやエコーで検査すれば転移巣を検出することができますが、この場合には1cmくらいに大きくなっていないと検出は困難です。つまり、がん細胞が数億個に増えるまでは多くの場合、体の外からがんの転移を検出することは困難なのです。

【がん再発の予防のために自分でやるべき事がたくさんある】

がんの手術をしたあとは、患者さんのみならず主治医も再発が心配です。そこで、他の臓器への転移が予想される場合には、体内に残っている可能性のあるがん細胞を抗がん剤によって死滅する治療法(術後補助治療という)を行ないます。
目に見えなくても、残っている可能性があるがん細胞を抗がん剤によって叩いておくほうが再発予防に効果があるからです。しかし、強力な抗がん剤治療は免疫力や抵抗力を低下させることによって再発を促進する可能性も指摘されており、その手加減に関しては議論の余地があります。

がんが小さくて転移の可能性がないと考えられる場合には、がん細胞を完全に切り取れば治療は終了となりますが、このような早期のがんでも再発することがあります。がんが目で見えるほど成長した段階では既に数億個以上のがん細胞が増えていて、その一部がリンパ液や血液の流れに乗って遠くへ転移している場合があるからです。手術後に再発(転移や局所再発)が見つかれば、がん細胞を取り除く治療(手術、抗がん剤、放射線)が再開されます。

このように、がんの治療後に転移や再発を見越した補助治療が行われていますが、医者が行えるのは薬や放射線などを使ってがん細胞の増殖を抑えることが主体となります。
がん細胞を攻撃する治療法以外にも、がんに対する抵抗力を高めるための健康食品や自然療法や伝統医学などの活用、再発のリスクを減らすための食生活やライフスタイルの改善など、患者自身で行える再発予防の方法がたくさんあります。

医者が指導してくれない以上、自分で勉強して実践するしかありません。がんの種類や進行度、体力や体質や性格、食生活や生活習慣などによって、がん再発予防のために必要な方法は患者さんそれぞれで違ってきます。がん死から逃れるためには、患者さん自身が自分のがんの再発を予防するために何をすべきかを判断できるように勉強することも必要なのです。
例えば、以下のような方法は有効性のエビデンスがあります。

1)糖質の多い食事はがんの再発を増やす 

がん細胞はグルコースの取り込みが多く、インスリンはがん細胞の増殖を促進します。
グリセミック負荷の大きい食事は食後血糖を高め、がんの再発を促進します。
再発予防の基本は血糖とインスリンを高めないことです

2)甘い果物は乳がん細胞の増殖を促進する      

「果物はがん予防に良い」は間違いです。
果物はフルクトース(果糖)が多く含まれています。
正常細胞にはフルクトース輸送体は発現していません。
しかし、がん細胞はフルクトース輸送担体の発現が増えています。
つまり、がん細胞はフルクトースをエネルギーや物質合成に利用できるのです

3)高糖質食と乳製品の組み合わせはがんを促進する

牛乳はインスリン様成長因子-1の産生を増やします。
牛乳のアミノ酸組成はロイシンが多く、ロイシンはmTORC1を活性化し、がん細胞の増殖を促進します。
グリセミック負荷(糖質の多い食品)+乳製品はがんを促進します

4)運動不足は乳がんの再発を増やす     

運動不足は乳がんの危険因子です。適度な運動は体の治癒力を高めます。
がんの診断後も運動はメリットが多いことが明らかになっています。
乳がん治療後に再発率を下げるために適切な運動量について多くの研究報告があります。
過度な運動は逆効果であることも知っておく必要があります。

5)ビタミンD3の血中濃度が高いほど乳がん患者の生存率が高くなる

ビタミンD3は1000種類以上の遺伝子の発現を誘導し、細胞の増殖や分化や死の調節に関わっています。
多くの疫学研究でビタミンDの血中濃度が高いと長生きできることが明らかになっています。
ビタミンD3の血中濃度が高いと乳がんの死亡率が低下することも示されています。

6)夜間の照明は乳がん患者の予後を悪くし、メラトニンの補充は予後を良くする   

光の強さが発がん率に影響することが報告さています。
メラトニンは加齢によって分泌量が低下し、加齢によるメラトニン低下が乳がんの成長を促進します。
夜間のスマホ使用はメラトニン分泌を抑制して乳がんを増やすことが明らかになっています。
夜間のブルーライト曝露は乳がん治療の効果を弱めることも報告されています。

7)ドコサヘキサエン酸はがん治療後の生存率を高める

魚油摂取は乳がん治療後の生存率を高めます。
ドコサヘキサエン酸はがん細胞の抗がん剤感受性を高め、乳がんの補助化学療法の効果を高めます
ドコサヘキサエン酸は細胞膜に取り込まれ、脂質ラフトの性状を変えて、増殖シグナル伝達を抑制します。

8)高脂血症治療薬のシンバスタチンは乳がん患者の生存率を高める  

エストロゲンはコレステロールを低下させ、エストロゲンが減少するとコレステロールが上昇します。
抗がん剤やホルモン療法はエストロゲンの体内濃度を低下させ、コレステロールを増やします。
コレステロールは乳がん細胞の発生と増殖を促進します。さらに、メバロン酸経路の中間代謝産物ががん細胞の増殖を亢進します。
コレステロールはアセチルCoAを材料にメバロン酸経路によって体内で合成されます。
脂溶性スタチンはがん細胞におけるメバロン酸経路を阻害するメカニズムで乳がん治療後の再発率を低下させます。

9)トコトリエノールはシンバスタチンの抗腫瘍効果を高める    

ビタミンEには8種類の異性体があります。
トコトリエノールはHMG-CoA還元酵素の分解を促進する機序でメバロン酸経路を阻害します。
トコトリエノールは多彩なメカニズムで抗がん作用を示し、臨床試験でも有効性が報告されています

10)コエンザイムQ10はがん治療から心臓を保護する                     

ミトコンドリアの呼吸鎖で活性酸素が発生します。
コエンザイムQ10は呼吸鎖の構成成分であり、ATP産生を高め、活性酸素を消去します。
抗がん剤治療や放射線治療は心血管疾患のリスクを高めます。
コエンザイムQ10は抗がん剤や放射線治療の心臓毒性を軽減します。
CoQ10は体内においてメバロン酸経路で産生されるので、シンバスタチンやトコトリエノールを使用する場合は、CoQ10のサプリメントで補います。

11)糖尿病治療薬メトホルミンはがん患者の生存率を高める

糖尿病はがんの発生を増やし、がん患者の予後を悪くします。
メトホルミンは糖尿病患者のがん発生率を低下させることが明らかになり、非糖尿病の患者でもがんの発生や再発率を低下します。
メトホルミンはAMP活性化プロテインキナーゼを活性化し、脂肪酸合成など物質合成を抑制して、がん細胞の増殖を抑制します。メトホルミンは抗がん剤の副作用を軽減する効果もあります。

12)アスピリンやセレコキシブはがんを予防する

アスピリンはがんを予防します。
シクロオキシゲナーゼ-2(C0X-2)は発がんを促進します。
セレコキシブ(celecoxib)はCOX-2の選択的阻害剤です。
慢性炎症はがんの発生と老化を促進し、寿命を短縮します。
アスピリンとセレコキシブは抗がん剤による細胞老化を抑制します。

13)漢方薬はがん患者の生存率を高める          

台湾の医療ビッグデータは漢方治療の有効性を示しています。
植物が産生する二次代謝産物は薬の宝庫です。植物には抗がん作用を示す成分が多数見つかっています。
漢方薬は複数の生薬を組み合わせて効果を高めます。
漢方薬は天然成分の相乗効果によって抗がん作用を強めます。

14)野菜の豊富なアルカリ食はがんを予防し寿命を延ばす

野菜や果物は体をアルカリ化し、肉は酸性化します
食事中の酸負荷ががんの発生率を高めます。
乳がんの補助化学療法は老化を進めます。
野菜は老化細胞除去作用を持つ成分の宝庫です。
野菜スープはファイト・ケミカルを効果的に摂取できます

15)アブラナ科野菜の辛味成分が抗がん力を高める 

アブラナ科野菜は最強の抗がん食品です。
グルコシノレートはアブラナ科植物の生体防御物質です。
アブラナ科野菜を加熱調理すると抗がん作用が減少します。
加熱調理したアブラナ科野菜に生のアブラナ科野菜を加えると抗がん作用が復活します。

16)不安や孤独や精神的ストレスは再発を促進する         

ストレスを溜め込む性格はがんの発生や進展を促進します。
精神的ストレスは免疫力と治癒力を低下させ、がん患者の予後を悪くします。
精神的なサポートはがん患者の生存率を高めます
認知行動療法は精神的ストレスを軽減します。
アロマテラピーは不安や抑うつを軽減します。
カンナビジオールは不安やうつ症状を緩和します。
がん患者会を利用してがんと闘う心の強さを養うことも有用です。

以上のような有効な方法を多数実践すれば、再発リスクは限りなくゼロに近づけることができます。

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