413)医療大麻を考える(その4):大麻は医学的用途がある

図:カンナビス(大麻草)とカンナビジオールの年ごとの論文の数を示す。大麻草の薬効成分のカンナビノイドの構造や薬効の研究が1960年代から1970年代にかけて行われて報告が増え、カンナビノイド受容体が発見された1990年頃から研究が盛んになって論文数が増えている。カンナビジオールは1970年代には大麻の精神変容作用の成分のΔ9テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)の薬効を阻害する成分として研究されていたが、2000年以降は様々な薬効が明らかになり論文が増えている。

413)医療大麻を考える(その4):大麻は医学的用途がある

【大麻の医療応用の歴史】
日本の大麻取締法で大麻の医療目的での使用が禁止されているのは「大麻には医学的用途がない」というのが前提になっています。また米国の規制物質法(Controlled Substances Act)では、大麻はヘロインと同じスケジュールIに分類されていますが、スケジュールIは「濫用の危険があり、医学的用途がない」物質です。
なぜこのようなことになったのかは謎です。大麻に医療効果があることは古くから知られており、最近の科学的研究でも大麻が病気の治療に極めて有効であることが明らかになっているからです。
3500年間以上もの間、大麻草は世界中で薬用植物として利用されてきました。
紀元前2世紀の「三国志」華佗(かだ)伝には、華陀 (後漢末の医師)の行った数々の治療や診断の例が記録されています。華陀は世界で最初に麻酔をして、開胸手術や頭蓋切開を行っていたと言われています。麻沸散を酒と一緒に飲ませて麻酔をしていました。麻沸散の詳細は不明ですが、インド大麻あるいは曼荼羅華(チョウセンアサガオ)から作られたとされています。

医学論文で大麻の臨床応用が報告されたのは1840年代に入ってからです。
PubMed(アメリカ国立医学図書館の国立生物工学情報センターが運営する医学・生物学分野の学術文献検索サービス)でCannabis(大麻)で検索すると13333件の論文がヒットします(2014年11月14日の時点)。
このPubMebのデータベースでは、カンナビス(大麻)に関する一番最初の論文は1843年です。その後、1845年に1件、1847年に1件、1883年に2件、1893年に1件の論文があります。1900年以前はcannabisに関する医学・生物系の論文は6件です。その次の報告があるのは1939年に1件あります。
1900年以前の論文はインド大麻草(Cannabis Indica)の薬効に関するものです。これらの論文はいずれも無料で全文を読むことができます。
一番最初の論文は『Observations on the medicinal properties of the Cannabis Sativa of India.(インド大麻草の薬効成分の報告)』(Med Chir Trans. 26:188-210. 1843年)で、インド大麻草が様々な病気に有効であった18症例の報告です。著者はロンドンの聖メリルボーン診療所(St. Marylebone Infirmary)の医師のJohn Clendinning博士です。
インド大麻草の医療応用の西洋への紹介はインドのカルカッタにいたオショーネッシー(W.B. O’Shaughnessy)博士が1838年に行ったということになっています。
大麻は、気管支拡張、抗けいれん、眼内圧低下、抗がん作用、鎮静睡眠、鎮痛、抗不安、抗うつ、吐き気止めなどの作用があり、アルコールや薬物依存にも効果があります。
そのため、喘息、緑内障、悪性腫瘍、てんかん、多発性硬化症、脊髄損傷、筋肉の痙攣、関節リュウマチ、食欲低下、不眠、抑うつ、不安、吐き気など様々な症状や病気に有効性が証明されています。
1850年から1937年まで、アメリカ薬局方は大麻草を100種類以上の疾病に効く主要な医薬品として記載しています。
1840年代からマリファナはアメリカで最も人気のある鎮痛剤であり、1842年から1900年までの間、大麻草は全ての医薬品の半分を占めていたそうです。(大麻草と文明:ジャック・ヘラー著)
しかし、1937年にマリファナ課税法(実質的にはマリファナ禁止法)の施行によって、米国では大麻の医療応用や研究は制限されるようになります。
1976年のフォード政権時には「薬物乱用に関する全米学会」(NIDA)とアメリカ麻薬取締局(DEA)が、大学機関や連邦保健機関が大麻草を研究することを事実上禁止し、医薬品として天然の大麻草由来の抽出液の類いを研究することも禁じました。
しかし1988年、アメリカ麻薬取締局の行政法判事(フランシス・ヤング)が大麻の医療効果を認めました。
『アメリカ麻薬取締局の行政法判事フランシス・ヤングは、15日間に及ぶ医療的証言に耳を傾け、何百ものアメリカ麻薬取締局や「薬物乱用に関する全米学会」の研究書類と大麻合法化活動家たちの反対意見陳述を精査した後、1988年の9月に次の通り結論づけた。「マリファナは人間の知る限り、最も安全にして治療に有効な物質である」』(大麻草と文明;p.67)
しかし、麻薬取締局は大麻草がスケジュールIの麻薬指定であることを理由に医療応用の禁止を継続しています。連邦法では大麻の所持や使用は今でも禁止になっています。
1980年代にエイズが流行したとき、エイズ患者たちは大麻が痛みを和らげてくれることを経験的に知っていきました。その後、痛みと筋痙攣を引き起こす脊髄損傷患者多発性硬化症に苦しむ人々に使われるようになりました。
このようにして、医療大麻の必要性が次第に認知されるようになっていき、州によって大麻の医療使用や娯楽使用が許可されるようになってきました。
1996年11月5日、カルフォルニア州は住民投票で医療大麻の使用が認められ、その後、現在までに23州と首都のワシントンDCで医療大麻の使用が許可になっています。
なお、大麻(カンナビス)とマリファナは同じです。もももと「マリファナ」は大麻のメキシコの俗語で、大麻の悪のイメージを英語に浸透させるために「大麻(カンナビス)」を「マリファナ」と呼び変えたという歴史があります。

【カンナビス(大麻)の研究】
前述のCannabisの文献検索で1950年以降の文献の数をグラフにしたのがトップの図です。一緒にカンナビジオールの年毎の論文数も示しています。
大麻草の医学研究の論文は1960年代から増えます。これは大麻草の薬効成分のカンナビノイドの発見とその構造や薬効の研究が始まったからです。
大麻草の精神変容成分としてデルタ9テトラヒドロカンナビノール(Δ9-THC)が単離されたのが1964年です。その後カンナビノイドの構造や薬理活性に関する研究が行われました。
カンナビジオール研究の最初のピークは1975年です。Δ9-THCと他のカンナビノイド、特にカンアビジオールとの相互作用が明らかになったのです。
Δ9-THCの精神変容作用などの薬効は、その量だけで決まるのではなく、他のカンナビノイドの存在によって影響を受けることが明らかになりました。
例えば、ナンナビジオールはΔ9-THCの薬効を阻害する作用があるので、カンナビジオールの含有量が多いとΔ9-THCの効き目が弱くなります。
1966年から76年が大麻研究のルネッサンスで、この間の大麻草の研究から、「天然のままの大麻草」が「安全かつ最良の」多数の疾患に有効な医薬品であることが証明されました。
大麻に独自に含まれる成分として60種類を超えるカンナビノイドが発見されていますが、大麻はこれらの成分が相互に作用し合って精神変容作用を含めて様々な薬効を示すことが明らかになったのです。
しかし、1978年以降は論文数が減少します。これは1976年のフォード政権時には「薬物乱用に関する全米学会」(NIDA)とアメリカ麻薬取締局(DEA)が、大学機関や連邦保健機関が大麻草を研究することを事実上禁止し、医薬品として天然の大麻草由来の抽出液の類いを研究することも禁じたからです。その後、大麻の研究は1990年代に入って増えてきます。
すなわち、1990年代にカンナビノイド受容体CB1CB2が発見され、その内因性のアゴニストである内因性カンナビノイド(アナンダミドなど)が発見され、大麻の研究は1990年代から急速に増加することになります。
一方、カンナビジオールの研究が増えたのは2000年代に入ってからです。カンナビノド研究の初期にはカンナビジオールは大麻の薬理作用には関与しない薬理活性の乏しい成分と考えられていました。THCの薬効を阻害するだけの作用しかないと思われていたのですが、2000年代の研究によって、むしろΔ9-THCよりも有用な薬効があることが判明したのです。(カンナビジオールの薬効については410話411話412話で紹介)
最近では、大麻草の茎由来のカンナビジオール(大麻草の薬効成分の一つ)が合法的なCBDオイルやCBDチンキとして注目を集めています。

【大麻に対するNEJMの論説;1997年】
大麻に有害性は無いと断言した1995年のLancet(ランセット)のEditorial(論説)については412話でその日本語訳を掲載しています。
ランセットはイギリスの臨床系学術誌ですが、臨床系雑誌でランセットの上位に位置するのがThe New England Journal of Medicine(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン; NEJM)です。これは、マサチューセッツ内科外科学会が発行する米国の臨床系雑誌で、世界で最も長い歴史を誇り、最も多く引用されている学術雑誌です。
1997年にNEJMの当時の編集長のジェローム・P・カシラー博士(JEROME P. KASSIRER, M.D.)が『Federal Foolishness and Marijuana(連邦政府の愚かさとマリファナ)』というタイトルの論説(Editorial)を書いています。カシラー博士は著明な臨床家で1991年から1999年までNEJMの編集長を勤めています。この論説の全文の日本語訳を以下に記載します。

Editorial: Federal Foolishness and Marijuana(連邦政府の愚かさとマリファナ)N Engl J Med. 336(5):366-367, 1997年

多くの病気において、その進行した段階や治療中には、しばしば耐え難い吐き気や嘔吐や痛みを伴う。がんやエイズやその他多くの病気の多数の患者が、マリファナを吸うと、その絶望的な苦しみや症状が劇的に軽減すると報告している。
苦痛の軽減効果があまりに顕著であるため、患者やその家族の中にはマリファナを購入したり栽培して刑務所に入れられるリスクを厭わないと言っているものも多い。
このような絶望的な患者が存在するにもかかわらず、アリゾナ州とカリフォルニア州の住民投票で、これらの州内で医師が医療目的で大麻を使用することを許可する法案(医療大麻に関する新法案)が可決された数週後には、大統領や連邦厚生省(Health and Human Services)の長官や司法長官を含む連邦政府の職員が直ぐさま行動を開始した。
連邦厚生省のドナ・E・シャレイラ(Donna E. Shalala)長官は記者会見で、身体各部の詳細な説明をしながら、マリファナによってダメージを受ける部分を解説し、マリファナ使用が広がることによって起こる弊害について警告をおこなった。
司法長官ジャネット·リノ(Janet Reno)は、どの州の医師でも大麻を処方した医師は、処方箋を発行する権利を剥奪される可能性があり、メディケアとメディケイドからの償還を受けることができなくなり、連邦犯罪で起訴されることもあると発表した。
  (注:メディケアとメディケイドは米国の公的医療保険制度)
国家薬物統制政策(the Office of National Drug Control Policy)のバリー·R·マキャフリー(Barry R. McCaffrey)は、「マリファナは危険な薬物であり、アリゾナ州とカリフォルニア州の有権者はだまされてこの法案に賛成票を投じた」と繰り返して述べた。
マリファナを含めて全ての薬の効果を研究することはいつでも可能である。しかし、重病人がマリファナを使用するためには、十分な科学的研究が行われなければならないと、彼は指摘した。
重病の患者にマリファナを処方することによって患者の苦痛を緩和しようとする医師の行為を禁じる連邦政府の政策は、誤った指導であり、非情で非人道的であると私は確信している。
マリファナを長期間使用すると何らかの有害作用がでる可能性はあるかもしれないし、マリファナの使用が依存性を引き起こす可能性はある。しかし、そのような重病の患者にとっては長期的な副作用も依存性も、関係のないことである。
強度の呼吸困難や疼痛を緩和するために医師はモルヒネやメペリジン(meperidine; 合成オピオイドの一種)を処方することが合法的に認められているのに、マリファナの処方が禁止されているのは間違っている。
モルヒネやメペリジンは症状を緩和する用量(有効量)と死に至る服用量(致死量)の差が非常に狭い。しかし対照的に、マリファナを多く吸っても死ぬことはない。
治療効果の証拠を要求することも間違っている。
患者が経験する有害な感覚を定量化することは極めて困難である。
このような安全域の広い治療の評価は、二重盲検試験のような臨床試験でその効果を証明することではなく、重病の患者がその治療によって症状の緩和を感じるかどうかが最も重要である。
逆説的ではあるが、マリファナの活性成分の一つのテトラヒドロカンナビノールを含有する医薬品のドロナビノール(Dronabinol)は10年以上も前から処方薬として入手可能である。しかしこの薬は、有効用量を決めるのが困難であったために、あまり多くは処方されていない。
対照的に、マリファナの喫煙は活性成分の血中濃度の上昇が早く、その結果、高い治療効果が得られる。
言うまでもなく、抗がん剤治療によって引き起こされる吐き気を抑制する新薬は、マリファナの喫煙よりも有効かもしれない。しかし、そのような比較試験は全く実施されていない。
理由が何かは判らないが、連邦政府の職員は一般国民と協調したくないようである。
多くの州で医師が医療大麻を処方できる法案が可決されている。住民投票の結果は常に国民が医療目的でマリファナを使用することを支持している。
連邦当局は重病の患者にマリファナの医療目的での使用を禁止する政策を撤廃し、マリファナの使用の判断を医師に任せるべきである。
連邦政府はマリファナの薬物分類をスケジュールI(医学的用途がなく、濫用の危険がある)からスケジュールII(依存性の可能性はあるが医学的用途がある)に変更し、それに従って規制を考えるべきである。
医療大麻の適切な配給と使用を保証するために、政府自らがマリファナを提供することが認可された唯一の機関となることができる。
そのような政策の変更が社会になんら悪影響を与えないと私は信じている。
医療大麻の解禁が青年たちに「マリファナは大丈夫」というシグナルになるのではないかという主張はもっともらしいが、私はそうはならないと信じている。
この提案は新しいものではない。1986年には、数年間の法的な論争の後、麻薬取締局(DEA)は、大麻をスケジュールIIの分類に変更することに関して広範囲な調査を行った。
1988年に麻薬取締局の行政法判事は、「調査で得られた証拠に基づいて考えると、病気で苦しむ人が大麻の効能を利用することを麻薬取締局が阻害することは、不合理で、独断的で、必要のないものである」という結論に達した。
それにもかかわらず、DEA(麻薬取締局)は大麻をスケジュールIIに変更すべきだというその判事の命令を無視し、1992年には大麻のスケジュールIIへの変更に関する全ての要求を拒否する最終結論を発表した。

(注:規制薬物はその取り扱いのレベルでスケジュールIからVの5段階に分類されており、大麻はヘロインと同じスケジュールIに分類されている。スケジュールIは医学的用途が無く、濫用の危険があり、安全性の証拠が無いとされるもので、スケジュールI物質は処方箋に書かれることは無いのが原則。スケジュールIIは濫用の危険はあるが医学的用途が認められる薬物となるので、医療応用が合法になる。)

患者のためにマリファナの処方を継続する勇気を持った医師もいる。彼らの行動は、最終的には、思いやりや同情ではなく反射的な思考や政治的正当性によって決定される官僚政治家の絶対的権力より、死の淵にいる患者の権利を尊重するように法廷が判決を下す後押しをすると思われる。

JEROME P. KASSIRER, M.D.(ジェローム・P・カシラー)

つまり、大麻(マリファナ)がスケジュールIの規制薬物に分類されていることは、医学的にも常識的にも法律的にも間違っているという意見です。現在、多くの州法で医療大麻が使用できるようになっていますが、連邦法は頑に大麻の使用を認めていません。大麻に医学的用途があるのは明白なのに、スケジュールIからスケジュールIIへ変更できない、あるいは故意にしない理由は政治的なものかもしれません。
またこの文章の中で「モルヒネのようなオピオイドは致死量があるが大麻はいくら吸っても死なない」ということが書いてあります。
米国では医薬品(処方薬)の過剰投与による死亡者数が増えていますが、原因薬として最も多いのがモルヒネなどのオピオイド系鎮痛薬で年間16000人を超えています。このオピオイド系鎮痛薬による死亡者数は、医療大麻が合法化された州では減少していることが報告されています。(後述)

【大麻に対するNEJMの論説;2014年】
今年の9月のNEJMに医療大麻に関する記事があります。ジョージ・J・アナス(George J. Annas, J.D., M.P.H.)はJ.D.(法務博士)とM.P.H(公衆衛生修士)の肩書きを持つボストン大学公衆衛生学部の教授で、保健福祉に関する法律や生命倫理や人権の専門家です。
マサチューセッツ州では2012年に医療大麻の使用を許可する法律が可決されています。州法で医療大麻が許可になっても連邦法は医療大麻の使用を認めていません。この連邦法と州法の違いの間で医師はどう対処すべきかを述べています。

Perspective:Medical Marijuana, Physicians, and State Law.(展望;医療大麻、医師、州法)N Engl J Med. 371(11): 983-985, 2014年

マサチューセッツ州が「医療大麻に関する新法案」を施行しようとしたとき、アメリカ麻薬取締局(the federal Drug Enforcement Administration :DEA) の取締官が少なくとも7人のマサチューセッツ州の医師を、彼らの自宅やクリニックに訪問して、「DEAの登録(麻薬処方のライセンス)を放棄するか、医療大麻を取り扱う薬局との公式の関係を断つか」どちらかを選択するようにと脅してきた。
このような訪問は、医師たちを威嚇して、医療大麻の使用に積極的にならないように仕向けるものであり、この方法は明らかに成功した。
しかし、州法と連邦法の間には違いがあり、また患者と話をすることと薬を販売することの間には違いがあり、臨床医としての役割と大麻を商売として扱っている人の役割の間にも違いがある。
大多数の州で医療大麻に関する法律の施行が実現しようとしているとき、医療大麻を歴史的あるいは法律的な観点から考えてみることは意味がある。
多くのアメリカ人は、医療大麻に恩恵を受ける可能性がある病人に大麻が使えるようにすることを支持しており、医師は重病人にマリファナ(大麻)を推奨できるに違いないと86%の人が信じている。
DEA(アメリカ麻薬取締局)は、医師が患者に大麻に関して説明や議論をすることを止めさせようとしている。その理由は、そのような議論を許すことはDEAが大麻の使用が合法的であることを認めることにつながると考えているからかもしれない。
大麻はその事実がどうであり、スケジュールI(医療的価値がなく、濫用の危険が高い薬物)に分類されているのだ。
1997年に本誌(N Engl J Med)の編集長は、「マリファナを使用すると効果が期待できるかもしれない」と患者に提案して病気で苦しむ患者の苦痛を和らげようとする医師の行為を禁じている連邦薬事法(the federal drug laws)は「誤った指導であり、高圧的な非情なものであり、そして非人道的である( “misguided, heavy-handed, and inhumane.”)」と主張した。(前述のEditorial参照)
この論説(Editorial)は1996年にカリフォルニア州で「医療大麻に関する新法案」が全米で初めて可決されたことと、それに対してアメリカ麻薬取締局(DEA)が「法案で医療大麻が許可になったので、大麻によって患者が恩恵を受けるかもしれない」と示唆したカリフォルニア州の医師のDEA登録(麻薬使用のライセンス)を剥奪すると脅かしたことに対してEditorial(論説)として編集長(ジェローム・P・カシラー)が意見を述べたものである。
カリフォルニア州に続いて20以上の州で、患者は医師のアドバイスで医療大麻を所持し使用することが可能になった。しかしながら、連邦法には何の変化も起こっていない。つまり、連邦法はいまだにマリファナの所持も販売も禁止している。そして、DEA(アメリカ麻薬取締局)の方針にもほとんど変化は見られない。
州法は連邦法を変更することができない。そして1996年末には保健福祉省( Department of Health and Human Services)、米国の司法長官(the U.S. attorney general)とアメリカ麻薬取締局(DEA)は、カリフォルニア州における新しい法律にもかかわらず、カリフォルニア州で連邦薬事法を執行し続ける方針に変わりはないと発表した。
司法長官ジャネット・リノは「連邦法はまだ適用されます。連邦検事は違反者に対して起訴するかどうかの捜査を継続し、麻薬取締官はスケジュールIの薬物の使用を推奨したり処方した医師に対してDEA登録を剥奪することもできるのです」と言った。
しかしながら、医療大麻を許可したマサチューセッツ州やその他の州に対する2014年の状況は、1996年のカリフォルニアとは明らかに違っていた。
カリフォルニアの場合は、DEAが医師たちを脅かしたとき、カリフォルニアの医師のグループは、医療大麻の使用について患者と話し合うとことを禁止しようとする連邦政府の行為に対して訴訟を起こすことで対抗した。
予審法廷裁判官は、その医師が連邦法で禁止されている「マリファナの購入や栽培や所持を教唆した」と確信しうる十分な証拠がある場合のみ、DEA(麻薬取締局)の医師に対する禁止命令は有効であると判断した。
5年後の2002年には、医師と患者の会話の中において「マリファナの潜在的な医学的有用性」を話し合うことに対して連邦政府が医師を処罰することは米国憲法修正第一条(the First Amendment)に違反するという判決を第9巡回区控訴裁判所( the Ninth Circuit Court of Appeals)は支持した。

(注:米国憲法修正第一条は信教・言論・報道などの基本的人権を侵害する法律を制定してはいけないという米国憲法の条文)
(注:第9巡回区控訴裁判所は米国における控訴裁判所の一つで、11区域に分けられているうちの一つ。日本における地方裁判所のような位置にある)

この判決は、技術的には、第9巡回区(the Ninth Circuit)に含まれる州(アラスカ、アリゾナ、カリフォルニア、ハワイ、アイダホ、モンタナ、ネバダ、オレゴン、ワシントン)のみに適用されるが、米国憲法修正第一条に基づけば米国最高裁判所がそれに従うことはほぼ間違いない。
医療大麻の有用性やリスクについて医師は患者と自由に話すことができる。
しかし一方、医師と患者の関係から離れて、麻薬密売などの趣旨で大麻について話をしたり行動すれば、その行為は保護されず、連邦政府はそのような行為に対して刑罰を課することができる。
法定で最も多く引用されているのが1975年の最高裁判所のムーア(Moore)医師の判決である。ムーア医師は彼のDEA登録を使って、患者の十分な診察やカルテの記載をせずに、患者の要求にしたがって合成麻薬の一種のメサドン(methadone)の処方箋を大量に書いて売った。
法廷は、ムーア医師の行為は「実際的には、医者としての行為ではなく、大規模な麻薬密売人と同じ行為」であったと結論づけた。
麻薬取締局(DEA)は、新しく設置された大麻薬局(marijuana dispensaries)の職員や役員になっている何人かのマサチューセッツ州の医師を麻薬の売人(drug dealers)のように対応しているように思われる。しかし、それは度が過ぎていると私は思っている。
販売を増やすことによって医師が大麻薬局から報酬を得ようとしないかぎり、大麻薬局に勤める医師や役員が麻薬密売に関わっていると証明することは困難である。
マサチューセッツ州の規則は、「認定医がマリファナ薬局からいかなる報酬を受けること」を特に禁止している。大麻薬局は非営利事業でなくてはならない。医療大麻の認定医は、「マリファナの医学的使用の潜在的利益が、副作用のリスクより勝っている」という判断を専門家として患者のために行うことが認められた医師である。
一方、非営利事業における医師としてでなく、医師が起業家のように行動することも可能である。例えば、麻薬取締局は、医師が従事しているビジネス活動は医学の実践とは関係ないものであり、麻薬取引を行うこともできるとさえ主張するかもしれない(今日のヘルスケア市場の状況では説得力は無いが)。
最終的には麻薬取締局を説得できるという確信をもっていても、医師たちは麻薬取締局との敵対的な関係を避けたいと単純的かつ合理的に希望しているのである。
検察官に対する最近の司法省のガイダンスによると、刑事責任を問うのは「大規模な利益追求型の商業企業」に制限することを示唆しており、さらに、未成年者へのマリファナの流通の防止、犯罪組織への資金流入の防止、他の違法薬物の密売の防止、薬物の影響下での運転の防止、という4つの優先事項を確認している。
しかしながら、大統領が代われば、この方針が変更されたり撤廃される可能性があり、マリファナ禁止の連邦法の違反者をより積極的に起訴するように検事総長に指示することもできる。
連邦薬事法がすぐに変わることは無いと思われるので、州法の改正がより重要になる。ほとんどの州で医療大麻の使用が許可になり、これが転換点になると私は思っている。
例えば、州法の自由化に対して、ニューヨーク・タイムズの編集部は、連邦政府は「マリファナの禁止を撤廃」し、マリファナの規制や取締りは個々の州の判断に任せるようになると主張している。
さらに、州は自分の法を作るだけでなく、連邦法を作るためにワシントンに上院議員や代表を送り込むので、合衆国議会が連邦マリファナ法を自ら変更しなくても、マリファナ合法化への流れは必然的に連邦法の改正へとつながることになる。
例えば、5月には、医療大麻が合法化されている州に対して、司法省(麻薬取締局を所轄している)が「医療大麻の使用や流通や所持や栽培を認可した州法」の実施を邪魔するような行為にいかなる予算も使用してはならないという法案を米国議会の下院は可決した。
米国議会の上院はまだこの法案を採決していないが、恐らく可決されると予想される。その理由は、医療大麻を支持する人々に加えて、刑務所に入る黒人青年の数を減らしたいと思っている議員や州の権利を主張する人々や自由論者の人々が賛成しているからである。
このようなありそうもない連携は、州の医療大麻法に従って治療している医師を、威圧的で脅迫めいた麻薬取締局の圧力から守っている。その結果、最終的には、大麻の使用は、刑法の対象から、医療や公衆衛生の対象へと様変わりするようになる。

つまり、連邦法は医療大麻の使用を認めていないが、州法で使用が認められた州では、医師による適切な医療大麻の使用を麻薬取締局など連邦政府は禁止できない(禁止する行為は憲法違反)ということになっているようです。
今後さらに州法で医療大麻を認める州が増えることが予想され、米国では医療大麻が病気の治療に普通に使われる環境になりつつあるようです。

【医療大麻はオピオイドによる死亡を減らす】
米国の2010年のデータでは、1年間に38329人が医薬品の過剰投与で死亡しており、最も多い原因はオピオイド系鎮痛剤で年間死亡数は16651人です。オピオイド系鎮痛剤の過剰投与による死亡がこの10年以上にわたって年々増えています。これは、がん以外の慢性疼痛に対するオピオイド系鎮痛薬の投与が増えているためです。(
JAMA. 309(7):657-659. 2013年)
このオピオイドの過剰投与による死亡者数が医療大麻の使用が許可になっている州では減少していることが報告されています。以下のような論文があります。

Medical Cannabis Laws and Opioid Analgesic Overdose Mortality in the United States, 1999-2010(医療大麻法とアメリカ合衆国の1999年から2010年のオピオイド系鎮痛薬の過剰投与による死亡率)JAMA Intern Med. doi:10.1001/jamainternmed.2014.4005 Published online August 25, 2014.

【要旨】
重要性:アメリカ合衆国においては慢性疼痛に対するオピオイド系鎮痛薬の処方の増加に伴って、オピオイド鎮痛薬の過剰投与による死亡者数が年々増えている。慢性疼痛は医療大麻の主な適応疾患であるため、医療大麻の使用を許可する州法が、オピオイド鎮痛薬の過剰投与による死亡数に影響を及ぼす可能性がある。
目的:医療大麻法の存在とオピオイド鎮痛薬の過剰投与による死亡数の関連を検討する。
研究デザインと対象:1999年から2010年までの全米50州の死因のデータを解析し、それぞれの州の年齢調整の10万人当たりのオピオイド鎮痛薬の過剰投与による死亡率を算出した。
結果:3つの州(ワシントン州、オレゴン州、ワシントン州)では1999年以前に医療大麻法が施行された。10の州(アラスカ、コロラド、ハワイ、メイン、ミシガン、モンタナ、ネバダ、ニューメキシコ、ロードアイランド、バーモント)では1999年から2010年の間に医療大麻法が施行された。
医療大麻法がない州に比べて、医療大麻法がある州では、年間の オピオイド鎮痛薬の過剰投与による死亡率が平均して24.8%少なかった。医療大麻法が施行されてからの年数が経るにしたがって死亡率が減少した。死亡率の減少は1年後(19.9%)、2年後(25.2%)、3年後(23.6%)、4年後(20.2%)、5年後(33.7%)、6年後(33.3%)であった。
結論:医療大麻法は州レベルのオピオイド鎮痛剤の過剰投与による死亡率の減少と関連が確認された。オピオイド過剰投与による死亡を減らす対策として医療大麻の使用に関するさらなる検討が必要である。

【悪いのは大麻ではなく、大麻取締法】
アヘンを精製して作られるモルヒネは大麻とは比べものにならないほど毒性や依存性をもった麻薬です。しかし、がん性疼痛の治療への使用は許可(推奨)されています。
モルヒネでさえ、医療機関による管理下に置かれ、医師の診断により必要と判断されたときに必要量を処方することによって嗜好目的の乱用や市場への流出を防いでいます。
一方、大麻はアルコールやタバコよりも安全性が高いことは既に医学的に証明されています。(412話参照)
大麻は人間の知る治療効果のある物質のなかで最も安全なものの一つとも言われています。
大麻には軽い精神依存はあっても、身体的依存はなく、長期使用による健康被害もほとんど存在しないことが医学的に明らかにされています。
しかも、治療法がない幾つかの難病に対しては、特効的な効果を示すことが報告されています。
にも拘らず、日本では大麻については医療目的の使用もいっさい禁止されています。仮に医師が大麻を薬として患者に処方したら、処方した医師も、治療を受けた患者も、ともに罰せられます。
しかし、この状況は日本だけになりつつあります。多くの国で医療大麻の有効性と安全性が証明されて、医療大麻を認可する国が増えています。
日本も早く対応しないと、医療大麻において世界で最も遅れをとることになります。
大麻取締法がある限り、日本では医療大麻は使用できません。大麻取締法の医療目的での使用を禁止した条項の削除や、さらに産業用の大麻の利用を可能にする大麻取締法の大幅な改正が必要だと言えます。
昨今の医療大麻に関する文献を精査すれば、医療大麻を禁止することは憲法で保証された「生存権」に違反しているとことは明らかです。

【大麻栽培は地球温暖化を防ぐ】
地球温暖化の解決に切り札が大麻の栽培であるという考えは多くの人の賛同を得ています。
化石燃料を燃やすことによって引き起こされる二酸化炭素の放出は、大麻をエネルギー源として利用すれば解決します。大麻を燃やせば二酸化炭素は発生しますが、大麻が成長する過程で二酸化炭素を取込むので、大麻を燃料や繊維や製紙産業で活用すれば、地球温暖化も防げることになります。
大麻草は1年草で成長が早く、短い期間で3m以上まで成長し、ありとあらゆる土壌や天候に適応し、過酷な環境でも育ちます。
バイオマスとは、生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、一般的には「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」です。
バイオマスから得られるエネルギーのことをバイオエネルギーまたはバイオマスエネルギーと言います。バイオマスを燃焼することなどにより放出されるCO2は、生物の成長過程で光合成により大気中から吸収したCO2であり、化石資源由来のエネルギーや製品をバイオマスで代替することにより、地球温暖化を引き起こす温室効果ガスのひとつであるCO2の排出削減に大きく貢献することができます。CO2削減目標を達成するためには、大幅なバイオマスの利活用が必要であるとされています。
地球規模で考えると、バイオマスを最も多く生産する植物は大麻草であると言われており、全ての化石燃料に取って代わることのできる唯一の植物と言われています。
大麻の栽培や利用が進むと、製薬や製紙や石油などの企業が打撃を受けるということが、大麻禁止の主な理由になっているようですが、戦前のように大麻が自由に栽培できるようになると、地球も人類も大きな恩恵を受けることは間違いなさそうです。
下の絵は、清水登之の「大麻収穫」という絵で、1929年の第16回二科展に発表された絵で、1920年代の栃木県鹿沼地方での大麻収穫風景を描いたものです。麻栽培は第2次世界大戦以前は全国各地で行われており、国は麻栽培を推奨していたそうです。

 
 
日本においては、大麻は稲作が始まる以前の縄文時代から生活必需品を作るための重要な素材であり、文化的、伝統的、民族的、歴史的にいっても日本人の生活に密接に関連してきた、なくてはならない貴重な植物です。
 
大麻草の茎の皮の繊維質は、麻縄、鼻緒、弓弦、化粧回し、神社のお札、しめ縄、鈴縄などに利用され、茎の木質部(麻殻)はたいまつ、茅葺き屋根や漆喰壁などの建材、お盆の迎え火などに利用されていました。セルコールからプラスチックも作られるそうです。
種子は食用として七味唐辛子、鳥のエサ、生薬(麻子仁)として利用され、種子油は燃料、化粧品、マッサージオイルなどに使われています。
葉や花穂や根は医薬品、抗菌剤、農薬、香料になります。
日本人の名前に「麻」の字が使われますが、大麻草のように真っすぐ元気に成長し、世の中の人の役に立ってほしいという意味だということです。
医療大麻の利用だけでなく、日本人として、大麻の文化を復活させる必要があるように思います。そのためには、大麻の真実を多くの国民が理解する必要があります。
 
図:日本人は戦前まで大麻草を織物、衣服、縄、建材、食糧、医薬品(漢方薬など)、神道儀式など様々な用途に用い、農作物として栽培が推奨されてきた。大麻草は1年草で成長が早く、短い期間で3m以上に成長し、ありとあらゆる土壌や天候に適応して育つ。バイオマス(再生可能な有機性資源)として利用すれば、化石燃料の使用や森林の伐採を抑制し、地球温暖化の軽減に役立つ。さらに近年、様々な病気に対して医療大麻の有効性が証明されている。つまり、大麻の有効活用は地球や人類を救う可能性を有しているといっても過言ではない。
 
参考図書:
「マリファナの科学」 レスリー・L・アイヴァーセン 著(伊藤肇 訳)築地書館 2003年
「大麻入門」 長吉秀夫 著 幻冬舎新書113 2009年
「大麻草解体新書」大麻草検証委員会編 明窓出版 2011年
「悪法!!『大麻取締法』の真実」船井幸雄 著 ビジネス社 2012年
「大麻草と文明」 ジャック・ヘラー 著(J・エリック・イングリング 訳)築地書館 2014年
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