412)医療大麻を考える(その3):カンナビジオールは抗がん剤の副作用を軽減する

図:カンナビジオールは様々な受容体に作用して、その働きに影響する。図内の(+)はその受容体にアゴニスト(作動薬)として作用して受容体を刺激する。(−)は拮抗的あるいは阻害的に作用してその受容体の働きを抑制する。内因性カンナビノイドの受容体であるCB1/CB2のアゴニスト(作動薬)に対してカンナビジオールは拮抗作用を示す。さらに、カンナビジオールはCB1とCB2に対して逆アゴニストとして働き、CB1/CB2受容体の働きを阻害する。カンナビジオールはセロトニン受容体の5-HT1A受容体とTRPV1-2バニロイド受容体を活性化する。その他にも様々な受容体やタンパク質と作用して活性化や阻害の作用を示し、これらの総合的な作用によって多彩なメカニズムで抗がん作用を発揮する。(図はBr J Clin Pharmacol 75(2):303-312, 2012年のFigure 2より改変)

412)医療大麻を考える(その3):カンナビジオールは抗がん剤の副作用を軽減する

【大麻取締法違反事件におけるアンドリュー・ワイル博士の証言】
アンドリュー・ワイル(Andrew Weil)博士は、人間の自然治癒力を引き出す統合医療を提唱し、『癒す心、治る力』などの著書はベストセラーになっています。がんを含め多くの病気の自然療法や代替療法の分野では最も影響力の高い研究者です。世界各地の伝統医療に造詣が深く、薬用植物に関しては世界的権威と言えます。
ワイル博士は、1968年にボストン大学医学部で行った大麻吸引の臨床実験のデータをもとに、アメリカの政府機関やWHO(世界保健機関)や州議会などで大麻の医学的な効能について証言や助言を行っています。
このアンドリュー・ワイル博士が、昭和54年の京都地方裁判所での大麻取締法違反事件で証言しています。その証言のポイントを以下に記載します。

大麻取締法違反事件(京都地方裁判所)
アンドリュー・ワイル博士(ハーバード大学)の証言(昭和54年6月5日)

●大麻を大量に摂取しても急性中毒症状は起こらない。アメリカ合衆国では、毎年何百人という人がアスピリンの飲み過ぎで死んでいるが、マリファナの飲み過ぎで死んだ人はいない。
●ヘロインやモルヒネやアルコールは身体依存が見られるが、マリファナには身体依存は生じない。
●タバコやアルコールには催奇形性があるが、マリファナについてはその証拠はない。
●アルコールは人を攻撃的にさせ暴力的犯罪を引き起こすが、マリファナは人々を静かにして攻撃的でなくする。
●普通の医薬品と比較しても安全性は高い。
●大麻(マリファナ)はアルコールやタバコより安全で、しかも多くの病気に対して効果がある。
(引用書籍:大麻入門 長吉秀夫 著、幻冬舎新書113、2009年)

大麻がアルコールやタバコよりも安全性が高いことは既に医学的に証明されています。アルコールやニコチンは致死量がありますが、大麻(マリファナ)には致死量は無いと言われています。
大麻は人間の知る治療効果のある物質のなかで最も安全なものの一つとも言われています。
大麻には軽い精神依存はあっても、身体的依存はなく、長期使用による健康被害もほとんど存在しないことが医学的に明らかにされています。
治療法がない幾つかの難病に対しては、特効的に効果を示す場合も報告されています。
これだけのエビデンスが存在するにも拘らず、日本では大麻については医療目的の使用もいっさい禁止されています。仮に医師が大麻を薬として患者に処方したら、処方した医師も、治療を受けた患者も、ともに罰せられます。
日本国民の多くは「大麻は安全で医療効果がある」という事実を知らされていないと言えます。
精神変容作用の負の部分だけが強調され、麻薬のレッテルを貼られ、日本人は「大麻は危険な植物」と洗脳されています。
現在、(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センターという厚生労働省の外郭団体(天下り先)が国民に発している大麻草の弊害の情報は科学的根拠の無いもので、ほぼ間違いです。
大麻がいかに安全であるかは、1995年のランセット(Lancet)の論説(Editorial)でもはっきりと記載されています。ランセットは臨床系の医学雑誌としてはトップクラスの学術雑誌です。その論説の日本語訳を以下に記載します。

【大麻に対するランセットの論説の日本語訳】

Deglamorising cannabis(奪われゆく大麻の魅力)Lancet 346(8985), 1241, 1995年

論説(Editorial)『奪われゆく大麻の魅力』:

大麻の吸引は、たとえそれが長期間に及ぶものでも、健康には害はない。しかしながら、かつては広く使用されていた大麻は現在ではどこでも違法になっている。
ここ何年にも渡って、大麻の合法化(legalisation)あるいは少なくとも非犯罪化(decriminalisation)を求める要求が多数の人々や団体から上がっている。
この非常に異論の多い議論において、オランダの対応が理にかなっているという評価がある。オランダでは、大麻自体は違法であるが、コーヒーショップの顧客は30gまでの大麻を約10ポンド(15ドル)で購入することができる。ただし店は広告したり、16歳未満の個人には大麻を販売することはできないという決まりがある。
大麻取締の法律改正を求めたり、あるいは建設的な提案を行っている人々の中で特に注目されるのは、警察所長や市の医療関係者たちである。それは、ほとんどの国における現行の大麻取締の政策が、全く無効であり実行不可能であることを知っているからである。
それに対して、政治家はほとんど沈黙している。それは、大麻の使用に強力に反対している有権者の怒りを買いたくないという理由と、犯罪率の増加が起こるかもしれないという懸念からである。
英国の野党の代議士のクレア・ショート(Clare Short)が最近、大麻の非犯罪化についての新たな討論を要求したときの他の政治家の反応はうんざりするほど予測可能であっった。すなわち、政治上の変化を好まない政治家たちからの圧倒的な非難や拒否である。
彼女(クレア・ショート)は、彼女が所属する党(労働党)の党首からすぐさま叱責されただけでなく、党の役員からは、大麻の合法化は「供給を増加させ、価格を引き下げて、使用を増やす」ことになるので、非合法化というスタンスが完全に論理的であると反論された。
今年初めの内務省のレポートによると、大麻を吸引する人々の数は10年間で2倍になっている。「大麻の非犯罪化」などという寛大な手段の助けなしで2倍になっている。
政治家が恐れているのは、多分、大麻のようなソフトドラッグ(soft drugs)の使用が自由になると、コカインやヘロインのように強い麻薬の使用が自動的に増加するのではないかという恐れかもしれない。
もしそうであれば、彼らは最近のオランダ政府の報告書を見過ごしていると言える。オランダからの報告によると、ソフトドラッグ(大麻のこと)の所持の非犯罪化は、ハードドラッグ(hard drugs; コカインやヘロインのこと)の使用の増加にはつながらないことを証明している。
このオランダの方法が成功しているのに、なぜハーグ(オランダ南ホラント州の州都)では州の薬物政策の強化が進行しているのであろうか。
まず第一に、アムステルダムの市長は大麻を販売しているコーヒーショップの半分を閉鎖することを提案した。そしてそのために、ソフトドラッグ(大麻のこと)の合法化を提案する健康局からの報告書を拒否した。
そして、大麻の合法化を選挙公約にしていたオランダ政府は、先月、アムステルダムの計画に沿った審議文書を発行した。
その結果予想されたように、オランダ議会は最終的な提案に賛成し、オランダに4000件もある大麻を販売しているコーヒーショップの半分を閉鎖し、個人に販売できる大麻の量を5gに減らした。
政策の変更に関するオランダ政府自身の説明が不十分なので、その背景には他の理由があるかもしれない。
オランダ、フランス、ドイツ、スペイン、ルクセンブルグ、およびベルギーはシェンゲン協定(Schengen agreement:ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を超えることを許可する協定)によって自由に行き来できる状況にある。
特に、オランダが欧州における麻薬の主なサプライヤー(供給者)であったと主張してシェンゲン協定を破棄すると他の国が脅かしたとき、オランダ政府は何らかの対策を講じる必要があり、コーヒーショップがスケープゴートになったと言える。
このような政治的な理由が無ければ、大麻を非犯罪化する不都合はどこにあるのだろうか?
大麻を使用する人に健康上の害は何もない。そして禁止する法律が無くても犯罪は増えない。 
しかし、大麻所持の非犯罪化は、あまり実施されていない。
タバコと同様に、供給者、流通、広告のコントロールを伴う必要がある。そのシステムは、実際、オランダのコーヒーショップの場合と非常に近い。
大麻は政治的な論争の対象になっているが、政府は結論を出すのを回避している。逆戻りすることもある。
しかし、遅かれ早かれ、政治家は脅えることをやめて、証拠を直視しなければならない。
大麻自身には社会に対する有害性はない。しかし、禁止すればさらに地下社会にもぐって社会に有害になるだけである。

さて、このEditorialでは最初にはっきりと『The smoking of cannabis, even long term, is not harmful to health.(大麻の吸引は、たとえそれが長期間に及ぶものでも、健康には害はない。)』といって、大麻の非犯罪化や合法化を認めるべきだと言っています。
文章の最後には『cannabis per se is not a hazard to society but driving it further underground may well be.(大麻自身には社会に対する有害性はない。しかし、禁止すればさらに地下社会にもぐって社会に有害になるだけである)』と言っています。
つまり、大麻を禁止する科学的根拠もメリットも無いという主張です。
ランセットは2003年にタバコは非合法化すべきだと主張しています。つまり、医学的権威は大麻よりタバコの方が健康や社会に対する有害作用ははるかに強いと言っているのです。
オランダは国連麻薬単一条約(1964年)に署名し、オランダの法律でも大麻が違法であることがはっきりしています。しかし、オランダ政府は1976年に、少量の大麻の所持や販売を含む違法行為に対しては法律規定を執行しない政策をとることを決めています
その量は、初めは30gでしたが、1995年に5gとなりました。Lancetの論説が出たのは、この1995年に5gになったことに対するものです。
オランダの薬物政策の狙いは、道徳的というより実用主義的で、大麻の売買を制御し、これを他の不法で潜在的有害性の高い精神活性薬(コカインやヘロインなどの麻薬)の供給源から切り離すことで「害の軽減」をねらっています。
「タブーにして地下社会に押しやるだけでは問題は解決しない」という考えです。
非犯罪化から20年がたっても、オランダの若者の大麻使用量は他のヨーロッパ諸国と同レベルであり、米国のそれより低いという事実はかわっていないと言われています。
つまり、大麻を非犯罪化あるいは合法化しても、社会に不都合はないというのがランセットの主張です

米国では、医療目的の大麻(マリファナ)使用はすでに23州と首都ワシントンDCで認められています。娯楽用のマリファナ合法化は2012年にコロラド州とワシントン州の住民投票で認められ、コロラド州では今年1月に販売が始まっています。
さらに、今週はワシントンDCとオレゴン州とアラスカ州で、娯楽を目的としたマリファナ(大麻)の使用を合法化するかどうかを問う住民投票が中間選挙の投開票とともに実施されました。
その結果、ワシントンではマリファナの所有と栽培、オレゴン州では所有や販売などへの賛成が過半数を占め、合法化されることが決まったそうです。アラスカ州でも所有や販売が合法化される可能性があるということです。
カリフォルニア、アリゾナ、ミシシッピなど8州でも同様の住民投票を目指す動きがあるそうです。(11月6日の読売新聞朝刊の記事から引用)
この新聞記事では『日本では危険ドラッグが問題となる中、米国ではマリファナ合法化の流れが加速している』ということです。また、米調査期間ピュー・リサーチセンターの調査によると、合法化支持が54%、反対は42%だそうです。
「マリファナと飲酒のどちらが有害か」の問いには69%が飲酒と回答し、マリファナの15%を大きく上回っているということです。(11月6日の読売新聞朝刊の記事から引用)
日本は1948年に米国の押しつけで大麻が禁止にさせられましたが、米国では合法化が進んでいます。日本も大麻の真実を知る時期にきていると言えます。

今回は、カンナビジオールが抗がん剤治療の副作用を軽減するという論文の紹介です。

【カンナビジオールはパクリタキセルの神経性疼痛を軽減する】

Cannabidiol inhibits paclitaxel-induced neuropathic pain through 5-HT(1A) receptors without diminishing nervous system function or chemotherapy efficacy. (カンナビジオールは、神経系の機能や抗がん剤の効果を減弱することなく、5HT1A受容体を介してパクリタキセル誘発性の神経性疼痛を阻止する)Br J Pharmacol. 171(3):636-45.2014年

【要旨】
研究の背景と目的:パクリタキセルは末梢神経にダメージを与えて痛みを引き起こす副作用があり、これによって抗がん剤治療を中断せざるを得ない場合もある。我々は以前の研究において、精神変容作用を持たないカンアビノイド(大麻に含まれるある種の成分の総称)の一つであるカンナビジオールが、パクリタキセルによる機械的および温熱による疼痛感受性の亢進を阻止する作用を有することをマウスを使った実験で明らかにした。
抗がん剤による末梢神経障害を阻害するカンナビジオールの作用のメカニズムを明らかにし、カンナビジオールの作用が神経機能や抗がん剤の抗腫瘍効果を減弱させる作用がないかどうかを検討した。
主な結果:マウス(C57Bl/6 mice)を使った実験で、パクリタキセルで誘発される機械的刺激に対する疼痛感受性の亢進はカンナビジオール(2.5~10mg/体重1kg)の投与によって阻止された。この効果は5−HT(1A)受容体のアンタゴニスト(拮抗薬、阻害薬)であるWAY100635の同時投与によって減弱したが、カンナビノイド受容体のCB1のアンタゴニスト(SR141716)やCB2のアンタゴニスト(SR144528)では減弱しなかった。カンナビジオールの投与によってマウスの学習機能や認知機能などに低下は認めなかった。
培養乳がん細胞を用いた実験では、パクリタキセルとカンナビジオールの併用は、相加あるいは相乗的な抗腫瘍効果の増強を示した。
結論:今回の実験結果より、カンナビジオールはパクリタキセルによって引き起こされる神経障害を予防する効果を示し、その作用機序として5-HT1A受容体を介する機序が示唆された。さらに、学習効果や認知機能などの神経系の働きに悪影響は及ぼさず、乳がん細胞に対するパクリタキセルの抗腫瘍効果を減弱させることはなかった。以上のことから、パクリタキセルによる抗がん剤治療にカンナビジオールを併用することは、神経障害の発生予防や軽減において有効で安全な治療法と言える

パクリタキセルなどの抗がん剤治療における末梢神経障害(しびれ、感覚異常、味覚障害、疼痛など)によって苦しむ患者さんは極めて多くいます。しかも、有効な治療法がありません。ビタミン剤(ビタミンB6,B12など)や漢方薬(牛車腎気丸や芍薬甘草湯など)やリリカやサプリメント(アセチル-L-カルニチン、メラトニン、αリポ酸、DHA/EPAなど)など多くの方法が多少の効果が報告されていますが、現実的には強い神経障害に対してはあまり効いていません。
カンナビジオールは直接的な抗がん作用が報告されています(410話411話参照)
カンナビジオールはカンナビノイド受容体のCB1とCB2には作用しませんが、Ca透過性イオンチャネルのTRPV(transient receptor potential vanilloid type)やセロトニン受容体の5-HT1Aなど幾つかの受容体に作用することが報告されています。(トップの図参照)
この論文では、5-HT1A受容体の拮抗薬によってカンナビジオールの神経障害抑制効果が減弱(阻止)されたので、カンナビジオールの神経障害抑制作用はこの5-HT1A受容体の関与を示唆しています。
5-HT1A受容体はセロトニン受容体の一種で、5-HT1A作動薬は抗不安や抗うつ作用などの作用があります。7回膜貫通型のG蛋白共役型受容体で、アデニル酸シクラーゼ活性の抑制や、内向き整流性カリウムチャネルを活性化して神経活動を抑制(過分極)することが知られています。
5-HT1A受容体は不安障害やうつ病の治療標的分子として長く研究されてきましたが、最近の研究によって統合失調症やパーキンソン病の新たな治療ターゲットとしても注目されるようになってきました。実際にカンナビジオールが統合失調症など精神疾患に有効であることが報告されています。
このような作用から、抗がん剤による末梢神経障害による痛みや感覚異常やしびれに対する効果が得られるのかもしれません。

【カンナビジオールはシスプラチンの副作用を軽減する】

次のような論文があります。

Cannabidiol Attenuates Cisplatin-Induced Nephrotoxicity by Decreasing Oxidative/Nitrosative Stress, Inflammation, and Cell Death.(カンナビジオールは活性酸素や一酸化窒素によるストレス、炎症および細胞死を減少させることによってシスプラチンによる腎障害を軽減する)J Pharmacol Exp Ther.328(3): 708–714.2009年

シスプラチンは腎毒性の発現頻度が高い抗がん剤です。シスプラチンは静脈内投与後に血漿蛋白と結合しますが、蛋白と結合しなかったフリーのシスプラチンは腎臓の糸球体からろ過され、近位尿細管に蓄積されます。シスプラチンの腎毒性は、このフリーのシスプラチンが近位尿細管細胞に酸化ストレスを与え、細胞死を誘導することが主な原因です。腎毒性を減少させるには、尿中のシスプラチン濃度を低下させ、近位尿細管の細胞との接触時間を減らすことが重要で、そのため水分負荷と強制利尿が行われています。
シスプラチンによる細胞傷害には、活性酸素や一酸化窒素の産生が高まって細胞に酸化ストレスを与え、炎症反応や細胞死が引き起こされることによって生じます。
この論文では、マウスにシスプラチンを投与して腎障害を引き起こす実験モデルを用いて、カンナビジオールが活性酸素や一酸化窒素などのフリーラジカルの産生を抑制し、タンパク質やDNAのダメージや炎症を抑制することによって腎臓における細胞傷害を軽減する効果を報告しています

【CB1拮抗薬は心臓保護作用がある】

Pharmacological Inhibition of CB1 Cannabinoid Receptor Protects Against Doxorubicin-Induced Cardiotoxicity.(カンナビノイド受容体CB1の薬理学的阻害はドキソルビシンによって誘導される心臓毒性を軽減する)J Am Coll Cardiol. 2007 August 7; 50(6): 528–536.

【要旨】
研究の目的;ドキソルビシンによって引き起こされる心臓毒性のin vivo(動物を使った生体内での実験)およびin vitro(細胞培養の系での実験)を用いて、カンナビノイド-1受容体(CB1)の阻害剤の効果を検討した。
研究の背景:ドキソルビシンは非常に有効性の高い抗がん剤の一つであるが、強い心臓毒性の副作用があるため、臨床での使用には制限がある。様々な生理的および病的な状況において、内因性カンナビノイドはCB1受容体を介して心臓機能を低下させる作用があり、このような作用はCB1アンタゴニスト(拮抗薬)によって阻止できる。
方法:心臓左室機能、アポトーシスの指標、CB1/CB2受容体の発現量、内因性カンナビノイド濃度などを種々の方法で解析した。
結果:マウスを用い、体重1kg当たり20mgのドキソルビシンを腹腔内に1回投与してから5日後の検査で、左心室収縮期圧や左室駆出分画(ejection fraction)や心伯出量など様々な心機能の指標は顕著に低下した。内因性カンナビノイドのアナンダミドの心筋内濃度はコントロール群に比較して上昇を認めた。しかし、カンナビノイド受容体CB1とCB2の発現量には変化は認めなかった。
CB1のアンタゴニスト(受容体に結合してその働きを阻害する薬:拮抗薬)であるrimonobantやAM281を投与すると、ドキソルビシンによって引き起こされる心筋細胞のアポトーシスが阻止され、心機能低下が顕著に改善した。
培養心筋細胞株H9c2細胞を用いたin vitroの実験で、ドキソルビシンは培養心筋細胞の生存率を低下させ、アポトーシスを引き起こしたが、心筋細胞をCB1の拮抗薬で前処理すると、心筋細胞のアポトーシスは阻止された。
この阻害作用は、CB1とCB2のアゴニスト(受容体に働いて機能を示す作動薬)やCB2のアンタゴニスト(拮抗薬)では認められなかった。
結論:以上の結果は、ドキソルビシンによって引き起こされる心臓毒性に対して、カンナビノイド受容体CB1の拮抗薬や阻害剤が有効な治療薬となる可能性を示唆している。

カンナビジオールはカンナビノイド受容体CB1に対してアンタゴニスト(拮抗剤)として作用することが報告されています。したがって、カンナビジオールがドキソルビシンによる心臓障害の軽減に効果が期待できます
カンナビジオールはマイクロモラー(micromolar, μM)レベルの濃度ではカンナビノイド受容体のCB1とCB2に非常に弱い親和性(アフィニティ)を示しますが、通常の服用で達しうるナノモラー(nanomolar, mM)の範囲の濃度ではCB1とCB2のアゴニスト(作動薬)に対して拮抗作用を示します。
また、カンナビジオールはCB1とCB2に対して非競合性逆アゴニスト(non-competitive inverse agonist)として働き、CB1/CB2受容体を活性化するアゴニスト(作動薬)の作用を阻害します。逆アゴニスト(inverse agonist)というのは受容体に結合してその受容体の活性化を阻害する物質です。
通常のアンタゴニスト(拮抗薬)はアゴニストと競合的に受容体とアゴニストの結合を阻止してアゴニストによる受容体の活性化を阻害します。逆アゴニスト(inverse agonist)というのは受容体に結合して抑制的に作用します。
カンナビジオールはCB1の逆アゴニストになって、CB1の活性化を阻害するので、ドキソルビシンの心臓毒性を軽減できることが示唆されます。

【カンナビジオールは吐き気を軽減する】
医学用語では吐き気を「悪心(おしん)」、吐くことを「嘔吐(おうと)」と言います。
抗がん剤治療を受けた患者さんで、予期性悪心予期性嘔吐を呈する人がいます。
これは、抗がん剤治療時の副作用として吐き気を経験した人の中で、実際に抗がん剤の投与を受けていない時でも、抗がん剤治療を想像しただけで、吐き気を感じてしまったり、実際に嘔吐してしまうような症状を予期性悪心や予期性嘔吐と言います。他人の点滴をみたり、病院の建物を見ただけで、吐き気や嘔吐することもあります。

 
予期性悪心・嘔吐には普通の吐き気止め(制吐薬)はあまり効果がないとされ、抗不安薬が用いられています。カンアビジオールには抗不安作用があるので、予期性悪心や予期性嘔吐に効く可能性があります。実際に動物実験でカンナビジオールが抗がん剤治療に伴う予期性悪心や予期性嘔吐を予防する効果が報告されています。

The effect of cannabidiol and URB597 on conditioned gaping (a model of nausea) elicited by a lithium-paired context in the rat.(ラットにおけるリチウム誘発性の条件づけギャッピングモデル[吐き気のモデル]に対するカンナビジオールとURB597の効果)Psychopharmacology 196(3): 389-395, 2008年

Gaping(ギャッピング)というのは「大口を開けること」で吐き気を意味する行動のようです。塩化リチウムを注射すると吐き気(悪心)が起こり、このときのラットの変化が「gaping:大口を開けること」です。この塩化リチウムを注射すると同時に匂いのついた場所に移すという条件付けを繰り返すと、塩化リチウムを投与しなくても匂いのついた場所に移すだけで悪心(吐き気)を起こすようになります。これが予期性悪心や予期性嘔吐の実験モデルとなります。この論文の要旨は以下です。

【要旨】
研究の背景:抗がん剤治療中の患者にしばしば経験される予期性悪心(Anticipatory nausea)は通常の吐き気止めを使った治療に抵抗性である。この研究では、予期性悪心に治療における内因性カンナビノイド系の制御の役割についてラットの悪心モデル(conditioned gaping)を用いて検討した。
目的:カンナビジオール(CBD)と脂肪酸アミド加水分解酵素(fatty acid amide hydrolase;FAAH)の阻害剤であるURB597(URB) がラットにおける条件付けギャッピングを減らすことができるかどうかを検討した。(脂肪酸アミド加水分解酵素は内因性カンナビノイドのアナンダミドを分解する酵素)
方法:匂いのついた場所にラットを起き、その直前に塩化リチウムの注射によって悪心を誘発しで条件付けを行った。1,5,10mg/kgのCBDはラットを匂いのついた場所に移す30分前に投与した。URBは0.1 か 0.3 mg/kgの用量を2時間前に投与した。
また、カンナビノイド受容体CB1のアンタゴニスト/逆アゴニスト(inverse agonist)であるSR141716Aの作用を検討した。
結果:予期性悪心を誘発する前に、CBD (1 and 5, but not 10 mg/kg) あるいは URB (0.3, but not 0.1 mg/kg)を投与すると条件付けギャッピングを抑制した。URBによる抑制効果はCB1のアンタゴニスト/逆アゴニストであるSR141716Aで前投与すると消失した。条件付けを行うとき、URBはその条件付けの成立を阻害した。
結論:内因性カンナビノイド系を制御することは予期性悪心の治療に効果が期待できる。

この論文では、内因性カンナビノイドのアナンダミドを分解する脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤(URB597)が予期性悪心を予防するということは、カンナビノイド受容体CB1の活性化が予期性悪心を予防する効果があることを意味しています。
URBによる抑制効果はCB1のアンタゴニスト/逆アゴニストを前投与すると消失したこともCB1の活性化が予期性悪心の予防の作用機序であることを意味しています
前述のようにカンナビジオールはCB1のアンタゴニスト/逆アゴニストとして作用するので、カンナビジオールの予期性悪心の予防の作用機序はCB1を介するものとは異なると考えられます。
カンナビジオールにはセロトニン受容体5-HT1A受容体を活性化する作用があり、この作用は抗不安作用や吐き気止め作用があります。したがって、カンナビジオールは5-HT1A受容体を介する機序で吐き気を止める可能性が高いかもしれません。
ただし、カンナビジオールの作用機序は不明な点も多くあります。論文の中にはカンナビジオールがCB1受容体のアゴニストに分類しているものもあります。また、アナンダミドの分解に関与するfatty amide hydrolase (FAAH)の活性を刺激する場合と阻害する場合があります。
したがって、作用機序に関してはまだ不明な点が多いのですが、カンナビジオールには予期性悪心や予期性嘔吐の予防効果はあるということです。(カンナビジオールの抗不安作用や抗うつ作用や抗精神病作用は多くの論文で示されています。)

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