245)ナチュラルキラー(NK)細胞活性を高める方法

図:キラーT細胞(細胞傷害性T細胞)はがん抗原を認識してがん細胞を攻撃する(がん抗原特異的免疫)が、MHC(主要組織適合遺伝子複合体)クラスI分子の発現が低下したがん細胞はキラーT細胞からの攻撃から逃れることができる。一方、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、MHCクラスI分子が喪失した細胞を認識して攻撃する(非特異的免疫)。NK細胞とキラーT細胞は相補的に働いてがん細胞を破壊するので、免疫力を高めてがん細胞を攻撃するときには、特異的免疫と非特異的免疫の両方をバランス良く高めることが重要。漢方薬やメラトニンやIP-6など複数の方法を組み合わせると抗腫瘍免疫を効果的に高めることができる。

245)ナチュラルキラー(NK)細胞活性を高める方法


【ナチュラルキラー細胞とは】
がん細胞を攻撃する免疫(腫瘍免疫)には特異的免疫非特異的免疫が区別されます。マクロファージや樹状細胞と呼ばれる細胞が、がん細胞からがん抗原ペプチドと呼ばれる小さな蛋白質を捕足し、その情報がヘルパーT細胞に伝えられ、その情報に従って特定のがん細胞に対する免疫応答が引き起こされるのが特異的免疫です。
一方、ナチュラルキラー(NK)細胞やマクロファージなどががんの種類に関係なく攻撃を仕掛けるようなものを非特異的免疫といいます。(がん特異的免疫と非特異的免疫については第150話参照)
ナチュラルキラー(natural killer)細胞(略してNK細胞)は、ターゲットの細胞を殺すのにT細胞と異なり事前に感作させておく必要が無いことから、生まれつき(natural)の細胞傷害性細胞(killer cell)という意味で名付けられました。「感作」というのは、前もって抗原に対する認識能を高めておくことで、感作させておく必要がないというのは、初めて出あった細胞でも、直ちにその異常細胞を認識して攻撃できるということです。NK細胞の細胞質にはパーフォリンやグランザイムといった細胞傷害性のタンパク質をもち、これらを放出してターゲットの細胞を死滅させます。
がん細胞を見つけると直ちに攻撃するため、がんに対する第一次防衛機構として、特に発がん過程の初期段階でのがん細胞の排除において重要な役割を果たしています。

【異なる機序を組み合わせると相乗効果が期待できる】
病気の治療においては、同じ方向に作用する治療法を複数組み合わせると治療効果を高めることができます。特に、作用機序が異なると相乗効果が期待できます。例えば、高血圧や糖尿病の治療でも、作用機序の異なる複数の薬剤を併用すると治療効果を高めることができます。
抗がん剤治療でも、単一の抗がん剤よりも多剤併用療法の方が一般的に抗腫瘍効果を高めることができます。このような多剤併用の場合、作用機序が異なる抗がん剤が組み合わされます。
がんに対する免疫力を高めるときは、マクロファージやリンパ球を刺激し、サイトカインの産生を高め、キラーT細胞やナチュラルキラー細胞を活性化することが基本になりますが、栄養状態や血液循環など体全体の状態を良くして免疫力が高まりやすい状態にすることも大切です。その目的では漢方治療が最も効果が高いと言えます。
免疫細胞を刺激する方法としてキノコなどに多く含まれる
ベータグルカンがサプリメントとして利用されています。その他にも、NK細胞活性を高めるサプリメントや医薬品として、メラトニンIP-6 & Inositol低用量ナルトレキソン療法などがあります。これらを組み合わせて、体内のNK細胞の活性を著明に増強することができれば、がん細胞を消滅させることも可能になります。
NK細胞を活性化するサプリメントや医薬品として以下のようなものが有効です。
1)メラトニン
メラトニンは脳の松果体から産生されるホルモンの一種で、その分泌は光によって調節され、生体の概日リズム((サーカディアン・リズム))を調節する作用があり、米国では不眠や時差ぼけのサプリメントとして販売されています。メラトニンは睡眠を誘導する作用の他、抗酸作用や免疫増強作用やがん細胞の増殖抑制効果など、様々な抗腫瘍効果があることが明らかになっています。
Tリンパ球や単球の表面にメラトニン受容体があり、メラトニンはこの受容体を介してリンパ球や単球を刺激して、インターフェロン-ガンマ(IFN-ガンマ)やインターロイキン(IL)1,2,6,12などの免疫反応を増強するサイトカイの分泌を促進する作用があります。IL-2の産生によってナチュラルキラー細胞が活性化されます。
メラトニンはリンパ球内のグルタチオンの産生を増やしてリンパ球の働きを高める効果が報告されています。メラトニンは免疫細胞を活性化するだけでなく、抗がん剤によるダメージからリンパ球や単球を保護する作用もあります。ストレスによる免疫力の低下を抑え、感染症に対する抵抗力を高める効果が、動物実験で示されています。メラトニンを服用するとNK細胞の活性が高まることが人間を使った研究でも確かめられています。
メラトニンは抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減し、さらに抗がん剤や放射線による抗腫瘍効果を増強して生存率を高める効果が多くの臨床試験で報告されています。
手術前後に服用すると、創傷治癒を早める効果や、免疫力を高めて感染症を予防する効果があります。乳がんのホルモン療法の効き目を高める効果や、
末期がん患者に投与して生存期間を延ばす効果が報告されています。
(メラトニンの詳細はこちらへ

2)IP-6 & Inositol
IP-6&Inositolは米ぬか由来の天然成分IP-6(フィチン酸)とイノシトール(Inositol)を米国メリーランド大学医学部病理学シャムスディン教授がもつ配合特許を元に作られたサプリメントです。
IP-6 (inositol hexaphosphate) はイノシトールという糖(炭水化物)に、リン(P)が6個結合した物質です。イノシトールは、糖アルコールの一種であり、細胞成長促進に不可欠なビタミンB群の一種として知られています。これらは穀物やマメ類に豊富に含まれています。
IP-6(フェチン酸)は天然抗酸化剤として利用されており体内においてもDNAを守るなど重要な役割を担っている成分です。活性酸素の害を抑え、ナチュラルキラー(NK)細胞を活性化させて免疫力を高めるなどの働きがあることで注目されています。
IP-6の発がん抑制作用はイノシトールと一緒に取ることにより増強されることがシャムスディン教授のグループにより明らかになっています。
ナチュラルキラー細胞活性を高める効果の他、がん細胞の増殖を抑える効果や、がんの発生を予防する効果も報告されています。(IP-6&Inositolの詳細はこちらへ

3)漢方薬
生薬に含まれるβグルカンやサポニンや精油成分の組み合わせによって、漢方薬の免疫増強効果を相乗的に高めることができます。ベータグルカンの豊富な鹿角霊芝(ろっかくれいし)・梅寄生(ばいきせい)・茯苓(ぶくりょう)・猪苓(ちょれい)、チャーガ(カバノアナタケ)、サポニンの豊富な高麗人参(こうらいにんじん)・田七人参(でんしちにんじん)・黄耆(おうぎ)、精油成分の豊富な当帰(とうき)・川きゅう(せんきゅう)・鬱金(うこん)・莪朮(がじゅつ)などを組み合わせると、免疫増強効果を相乗的に高めることができます。
これらを組み合わせることは、免疫細胞の活性化だけでなく、胃腸の状態を良くし、組織の血液循環を良くすることによって、免疫力が高まりやすい体の状態に整えます。
(免疫力を高める漢方薬についてはこちらへ

4)
低用量ナルトレソン療法:
ナルトレソンはモルヒネに似た構造の化合物で、モルヒネなどのオピオイドイドとオピオイド受容体の結合を阻害する薬です。麻薬中毒やアルコール中毒など薬物依存症の治療に使用されています。依存症の治療に使う量の10分の1くらいの低用量のナルトレキソンを投与すると免疫力やがんに対する抵抗力を高める効果が報告されています。
薬物依存症の治療に使用する量(1日50mg)では、脳内におけるオピオイドとオピオイド受容体の結合を完全に1日中阻害し、薬物依存を治す効果があります。しかし、この量の10分の1(3~5mg)の低用量を投与すると、その阻害作用は数時間しか続きません。このように、内因性オピオイド(ベータ・エンドルフィンなど)とオピオイド受容体が1日数時間阻害される状況が続くと、体はその阻害されている状況を代償するためにフィードバック機序によって、より多くのベータ・エンドルフィンやエンケファリンなどの内因性オピオイドを産生するようになります。たとえば、睡眠前に低用量(3~4.5mg)のナルトレキソンを服用すると、朝には体内でベータ・エンドルフィンやエンケファリンの産生が著明に高まると報告されてます。
ナチュラルキラー細胞やリンパ球にはベータ・-エンドルフィンに対するレセプター(受容体)が存在に、このレセプターにベータ・エンドルフィンが結合することによりこれらの免疫細胞が活性化します。低用量ナルトレキソン療法は、内在性のベータ・エンドルフィンやエンケファリンの産生を高めて、体に備わった免疫力や抗がん作用を高める方法として有効な治療法です。
(低用量ナルトレキソン療法の詳細についてはこちらへ

5)エキナセア
エキナセア(Echinacea purpurea))は北米原産のキク科ムラダキバレンギク属の多年草で、その根が民間薬やサプリメントとして利用されています。北米のネイティブインディアンが風邪などの予防に使ってきたハーブとして知られ、ナチュラルキラー(NK)細胞活性の増強など免疫力を高める効果が報告されています。

【特異的免疫と非特異的免疫の両方をバランス良く高めることが大切】
近年、分子免疫学の進歩によりがん細胞に特異的な抗原が発見され、がん抗原をターゲットにしたがんワクチンや樹状細胞療法などがん抗原特異的な免疫療法も可能になりつつあります。しかし、がん細胞はもともと正常な細胞が変異した細胞であるため、特異的ながん抗原を発現していないことも多く、細菌やウイルスに対する免疫学的な治療法と比べると、その効果は限界があるのが現実です。
ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、MHC(主要組織適合遺伝子複合体)クラスI分子が喪失した細胞を認識して攻撃すると考えられています。MHCクラスI分子は、自己と他者を識別するマーカーのような細胞表面の分子で、がん細胞やウイルス感染細胞では、このMHCクラスI分子の発現が低下していることがあり、その変化(自己性の喪失)を認識しています。したがって、がん細胞やウイルス感染細胞でもMHCクラスI分子が発現しているとNK細胞は認識できないためNK細胞からの攻撃を受けません。
一方、特異的免疫の細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)ががん細胞を認識するためには、がん細胞がMHCクラスI分子を発現しておく必要があります。MHCクラスI分子の発現が低下したがん細胞はキラーT細胞の攻撃から逃れることになりますが、キラーT細胞からの攻撃を逃れたがん細胞(MHCクラスI分子の発現が低下したがん細胞)はNK細胞が攻撃することになり、NK細胞とキラーT細胞は相補的に働くことになります。
したがって、免疫力を高めてがん細胞を攻撃するときには、特異的免疫と非特異的免疫の両方をバランス良く高めることが必要です。
上記で解説した方法は、NK細胞活性だけでなく、ヘルパーT細胞やキラーT細胞や抗体を産生するB細胞の活性化にも効果が期待できます。これらを複数組み合わせて抗腫瘍免疫を十分に高めることは、がんの再発予防や治療効果を高める上で極めて有用な方法です。


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